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『月と酒と、くまさんと 』
会津 灯影aa0273)&aa0273hero001

 中秋の名月。淡い金色に光る真ん丸い月にはウサギがいる。
「今宵は月も麗しく、たまには酔うのもいいだろう……なぁ?」
 月を見ていた楓が台所の俺を振り返り言う。
「え? 今日は結構飲むってこと? じゃ、つまみ多めに作ろうか」
 楓が酔うほど飲みたいと言ったのだと解釈した俺は冷蔵庫を覗き込みつまみの材料を探る。
「たわけ、貴様も飲めという意味だ」
 そう言われ、俺は「え?」と冷蔵庫から顔を上げた。
「いや、俺はいいよ。弱いもん。好きなわけじゃないし」
 そう断ると楓の機嫌が少し悪くなる。
「ぐだぐだ言わずにたまには付き合え。家で飲むのだから、酔ったところで面倒もあるまい」
 今日はやけにしつこく誘うなと思いながら、「わかったよ」と返事を返した。
「つまみは多めにな」
「はいはい。つまみも作りますよ! 見返りは尻尾もふもふな!」
 見返りもなにも、毎日結構もふもふしているが。しかし、楓も俺の言葉に付き合って返答を返す。
「ああ、それでいい。我より先に寝ぬのなら九尾で相手してやろう」
「あっ、それは無理くせー……意地悪かよ!」
 まぁ、毎日結構勝手にもふもふしているが。
 冷蔵庫から適当に身つくろい、出し巻き卵、枝豆、手羽先の辛味揚げ、胡麻和え、ホタテとキノコの炒め物を手際よく作る。最後に楓の好きな油揚げを焼く。
 油揚げの匂いにつらて台所に入ってきた楓が焼きあがって切ったばかりの油揚げを一切れつまんで口に入れる。
「うむ。やはり美味いな」
「あんまりつまみ食いするなよ」
「わかっておる」と答えながら、楓はもう一切れつまみ食いする。 
 出来上がったつまみを居間へと運ぶ。しかし、ちゃぶ台の上には置かずに月が見える縁側につまみを置く。
 そこでやっと俺は月を見上げる。
「確かに、この月は美味い酒を飲みたくなるものかもな」
「やっとわかったか?」
 ふふんっとなぜか楓が偉そうに笑う。
 楓には日本酒を用意し、俺は酎ハイの缶を開ける。一口飲むと、甘みと同時にお酒独特の苦味が口の中に広がる。
「戦闘には慣れたか?」
 楓がお銚子に入った日本酒をお猪口に注ぎながら聞いた。
「えー分かんない。戦ってるのはお前だろ?」
 せっかく焼いた油揚げが覚めないうちに食べようと箸を伸ばすと、楓が皿ごとさらっていく。俺はすこし眉間に皺を寄せて楓を見たが、楓は美味そうに油揚げを口に入れている。それを見ると怒る気にもなれなくて、確かもう一枚あったはずだと、頭の中で冷蔵庫の中を確認する。どうしても食べたければまた焼けばいい。
「お前はどうなの」
 油揚げを諦めて俺は出し巻き卵を箸で一口大に切って口に入れる。我ながらいい味だ。
「そうさな……まぁ媒介が貴様ではあの程度よ。遊びには十分だが」
 微妙に馬鹿にされたような気もするが、楓の言葉の選択をいちいち気にしていては同居などしていられない。
「へー……そういえば共鳴ん時、前より髪伸びた気がすんだよな」
「そうか?」と楓は自分の毛先を見る。
「そんなに我が好きなら照れずとも良いぞ」
 ふふっと楓が笑う。
 どこをどう取ったらそういう風に聞こえたのかは謎だ。
「馬鹿なの?」
 へらりと俺は笑顔を返す。
 ふいに楓の指が煙管を支える形となり、ゆらゆらと揺れた。
「煙草吸いたいなら吸っていいよ?」
「何だ急に?」
 どうやら無自覚だったようだ。
「煙管持つ手になってた」
 楓は自分の手を見つめ、それを下げた。
「手寂しい気がしただけだ。意味は無い」
「変なとこ気遣うよなー」
 いつも尊大傲慢我儘なのに、妙なところで気遣いを見せる楓に俺は可笑しくなる。
「そういうとこ嫌いじゃないけどさ」
「ふん、知っている」
 楓の尻尾がふわりふわりと横揺れする。
 口は素直じゃなくても、尻尾が素直に嬉しさを表すところも可愛く見える。
「そういえば、今度、ばあちゃんがおまえも一緒に遊びに来いって」
「む? ばあちゃんとは、山奥のボロ寺に住む?」
「人の実家をボロ寺とか言うな……まぁ、ぴかぴかとは言えないけど」
「で、そのばあちゃんが我をもてなしたいと? いい心構えではないか!」
「いやいや。むしろ、おまえにばあちゃんを敬ってほしいよ……」
「お、これ美味いな」と、楓はホタテを口に入れる。
「聞いてるか?」
「うむ。我はいつでもいいぞ。ボロ寺ではあるが、我慢しよう」
「うん。聞いてないな」
 楓の耳は大きいけれど、都合のいい部分しか聞こえない羨ましい耳をしている。
「そういえば、貴様は親の話はしないな。低俗な愚民どもは生みの親というものが好きなものだと思っていたが」
「俺も両親のことは好きだけど……あの人たちは忙しくてあんまり一緒にいた記憶がないんだ。両親よりも……」
「ん? なんだ?」
「いや、小さい頃、ばあちゃん以外にずっと誰かと一緒にいたような気がしたんだけどさ……どんな人だったのか、覚えてないんだよなー」
「貴様は鳥頭ゆえな」
「三歩歩いて忘れたりはしないけど、子供の頃のことは確かにあんまり覚えてないな」
「そやつとの思い出もないのか?」
「んー……殺されそうになったのを守ってもらった気はするんだよな」
「殺されそうになった?」
「そう。首を絞められてな」
 楓が眉間に深い皺を寄せる。
「我のものに手を出すとはなんという不届きものだ」
「怒ってくれんのか。ありがとな。でも、その人も可哀相な人だったんだよ……成り行きとか全然覚えてないんだけどさ、そんな気がするんだよね」
「貴様はとことん阿呆だな……そんなに能天気でよくこれまで生きてこれたものよの」
 美しい月を見上げていると、ふいにくしゃりっとくしゃみが出た。気づけば、夜風がひやりと冷たくなっていた。
「もう夏の暑さも終わりだな」
 腕をさすると、ふわりと楓の尻尾が俺の背中に触れる。
「温めてくれるのか?」
「風邪でもひかれてはかなわんからな」
「やったね! もふもふ〜」
 触り心地の良いふわふわの尻尾を抱きしめる。
「主は本当に我が好きよの」
「おまえの尻尾がね♪ あー、気持ちよくなってきちゃったな……」
 酔いと温もりに意識が遠のく。
「おい。寝るなよ」
「……」
「もう落ちたのか。幼子のようだの」
 楓の言葉はもう俺の意識には届かない。けれど、誰かが頭を優しく撫でてくれた……その温もりは確かに伝わり、俺の口元はふにゃりと緩んだ。

「ん……まぶし……」
 瞼を透かして入ってくる日の光に眉根を寄せ、顔を背けると、ふわりとした馴染みのある感触が頬に当たる。
 そのやわらかさに心地よくなり、また眠りかけたが、俺は慌てて目を開ける。
「な……」
 目前にあったのは、ふわふわの尻尾の持ち主の端正な顔だ。
「なんでおまえが……」
 俺の部屋に? と、跳ね起きようとしたが、それは俺の腰に巻きついた長い腕によって妨害された。
「おい! 離せ!!」
「……ん? 朝からうるさいぞ。もう少し寝ておれ」
 楓は薄目を開けたかと思うと、それをまたすぐに閉じて、俺を抱き枕にしてまた眠り始めた。
「寝んな!」
 楓の胸のあたりをぽかぽかと叩いて暴れていると、突然襖が開いた。
「灯影、呼んでも返事がないから勝手に上がらせてもらったよ」
 それは懐かしい声だった。
「……」
 ふとんの中で恐る恐る振り返ると、ばあちゃんが立っていた。
 怪訝な顔をしているばあちゃんに、俺は慌てる。
「えっと、これは、あの……」
「灯影、いつ嫁さんをもらったんだい?」
「いや、嫁じゃないから。手紙でも電話でも言ってただろ? こいつ、英雄……異世界から来たんだ! 性別はちょっとわかりにくいけど、嫁じゃないから。よく喧嘩するただの同居人だから!」
「そうなのかい……じゃ、遠慮なく起こしてもいいんだね?」
「遠慮など不要です!」
 俺が力を込めてそう言うと、ばあちゃんは楓の耳をつまみ、その耳に顔を近づけた。
「くまさんや、はよ起きんさい!」
 なぜ、ここで「くまさん」ワードが出たのか、全くの謎だが、とりあえず楓が飛び起きてくれたことにより、俺は無事に解放された。
「なななななんだ? この妖は!!?」
 俺は枕を楓に投げつける。楓は造作もないというふうにひょいと避けた。
「人のばあちゃんに失礼なこと言うな!」
「む? なに……これが貴様のばあちゃんなのか? 似ておらぬな。貴様と違って霊力が溢れておる」
「霊力とかそういうのはよくわかんないけど、とにかく礼儀はわきまえてくれよ……おまえもばあちゃんに叱られたくないだろう?」
「確かに、一筋縄や二筋縄ではいかぬ妖力ではあるが、我にかかればそんなもの」
「だから妖じゃないから、妖力じゃないし、倒そうとしないでくれ!」
「随分と面白いくまだね」
 ばあちゃんの表情は無表情のまま変わらない。
「ばあちゃんも、くまじゃないから。狐だから」
 言いながら寝室を出て、台所に移動する。
「灯影、我をそこらの狐と同じかのように言うでないぞ」
 楓もばあちゃんと俺の後についてくる。
「あーはいはい」
「ところで」と、ばあちゃんに俺は聞いた。
「ばあちゃんはなんでうちに?」
「今日は俳句の会の大会があってね」
 俺が家を出てからばあちゃんは暇つぶしのために俳句を始めていた。
「それで珍しくこんな街中まで出てきたのか」
 俺は鍋をコンロの上にあげて、冷蔵庫の中から煮干と昆布のだし汁を取り出して鍋に注ぐ。
「すぐ朝ごはんにするから二人は居間で待ってて」
 ばあちゃんは座布団の上に座ると言った。
「くまさんや、灯影とは仲良くやっておるかね?」
「我はくまではないが、あやつの飯はなかなか美味いから気に入っておるぞ」
「そうかい。その食欲でくれぐれもあの子まで食べないようにの」
「まあ、それは腹が空いたらわからんの」
 楓が楽しそうににっこりと微笑むのを、ばあちゃんは無表情のまま見つめる。
「……ちょっと、なに怖い話してるの?」
 俺の小さな声は二人が発するビミョーな空気にかき消されたようだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0273 / 会津 灯影 / 男性 / 22 / 回避適正】
【aa0273hero001 / 楓 / ? / 23 / ソフィスビショップ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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カウンター発注、とても嬉しいです! ありがとうございます。
こんなに早く灯影と楓に会えるとは!(ついでに、ばあちゃんも)
かなり自由に楽しく書かせていただいた灯影のお話も気に入っていただけたようで、よかったです! 今回も楽しんで書かせていただきました♪
今後も、二人の活躍を楽しみにしています。
私自身の思い入れもあり、このような内容となりましたが、ご期待に添えていましたら幸いです。
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2016年09月26日

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