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『ショッピングモール漂流記 』
齶田 米衛門aa1482)&ゼノビア オルコットaa0626

●迷子です?
「都会おっかないッス……」
 齶田 米衛門(aa1482)は、搾り出すようにそう言った。
 都会は、怖い。
 さっきまでそういう案内だったのに、いつの間にか案内が変わっている!
 都会って何スか、迷宮の名前ッスか。
 齶田 米衛門、山に詳しくとも都会には弱い。

 経緯を少し説明すると。
 本日、彼は1人で買い物にやってきた。
 H.O.P.E.東京海上支部の近くにあるショッピングモールの特設会場において、お中元の解体セールが行われるからだ。
 目的は、タイムセールの対象である調味料系である。
 大所帯で暮らしている訳ではないので、調味料もお徳用など買っても使い切れるものではなく、こういう時に安く、少量しかないもの(米衛門にはよく判らないがいい奴)を買ってはどうかと言うのを小耳に挟んだのだ。
 本日、別の場所で肉の特売があることより、英雄と2人で分担しようという話になり、米衛門がこちらを担当することになったが、都会は米衛門に牙を剥いていた、という訳である。

 誰かに聞いてみるか、と周囲を見ると、まるで救世主であるかのように柔らかい金の髪が目に飛び込んだ。
 そう、ゼノビア オルコット(aa0626)だ。
 ゼノビアはちょうどメモ帳購入したばかりなのか、文房具屋から出てきていた。
「オルコットさん!」
 米衛門が即声を掛けると、ゼノビアは米衛門の表情の必死密度に目を丸くする。
 ダッシュでやってきた米衛門はゼノビアに殆ど縋りつくように頼んだ。
「オイを、オイを特設会場まで連れて行ってくださいッス!!」
 迷子だとはっきり判る告白も兼ねた懇願である。
 ゼノビアは、メモ帳にさらさらと文字を走らせた。
『場所はどこですか?』
 米衛門がメモしてきた情報とショッピングモールのインフォメーションで貰った案内図を手渡す。
 ゼノビアは受け取り、メモと案内図を見比べる。
 少し経って、ゼノビアの顔が何か気づいたように動いた。
『よねえもんさん。通りすぎてます』
 ゼノビアの指先が十字路2つくらい手前にあった小さな広場を指し示した。
 ここが会場ではなく、分岐点。
 米衛門はこの小さな広場を広場と思ってなく、分岐点に案内もなかったので、ごく普通に通り過ぎていた為、いつの間にか案内が消えてしまっていたような事態になった訳だ。
「都会おっかないッス……」
 米衛門、膝から崩れ落ちそうな勢いである。
『私の買い物、急いでないので、おつきあいします』
「ありがとうッス! オイも後で付き合うッスよ!」
 ゼノビアは先程の懇願をそうして快く受け入れてくれた。
 都会はおっかないけど、人の情はどこでも変わらない。
 米衛門、改めて悟った夏。

●必要なものだけ!
 特設会場は大変な賑わいを見せていた。
 米衛門の目的はタイムセールで更にお安くなる調味料系統だが、ゼノビアのお陰で少し早く到着したので、それまで待機しなければならない。
「何か見るッスか?」
 お中元文化のないイギリス出身のゼノビアが興味深そうにしているのに気づき、米衛門が声を掛けると、ゼノビアは会場内を見て回りたいという希望を素早く書き記した。
「お安い御用ッスよ」
『ありがとうございます。イギリスにはなかった、ので』
 熱気に圧されるよりも、お中元って何から入るゼノビアには興味が先行するらしい。
 会場はお中元のジャンルごとにブロックに分かれていて、どのブロックにも人が多い。
 米衛門はカートを押して行き、ゼノビアは何かあったらと買い物籠を手に持って、会場内を見て回る。
『家族が沢山いると、ああいうのはいいかもしれないですね』
 ゼノビアが素麺セットを沢山買う主婦を目に留め、文字を走らせる。
 英雄と2人暮らしであるゼノビアには、素麺セットは量が多過ぎた。
「普段、どの位食べてるッスかね」
 ご飯食べてるんだろうか。
 米衛門の基準では、そんな素朴な疑問を抱く外見をしたゼノビアである。
 ゼノビアがサンプルという訳ではないが、昨日1日の食事を書いてくれた。
 朝はシリアル、イギリスでは割と一般的らしい。日本ではイギリスほど種類がないから、最近はパンであることも多いとか。
 昼は昨日研修があった為、英雄と一緒に支部にある食堂でパスタランチを食べたそうだ。午後は戦闘訓練だったそうで、しっかり食べないと力が出ないという英雄の主張が大きかったらしく、この日は多め。日によってはサンドイッチで済ませるとか。
 昨日は戦闘訓練であった為、おやつの時間はなかったそうだが、大体おやつの時間があり、ちょっとした甘いものを食べるらしい。
 夜は戦闘訓練もあった為お腹も空いていたので、少ししっかりめにハンバーグを食べたそうで。
「オイとは違うッスなぁ」
 自分の普段がゼノビアにとってしっかりめになるのを察した米衛門は、驚きも込めた声を上げる。
 この辺りはクラスや性別の差というより、元々のスペックの差とも言おうか。
 食べてない訳ではなさそうなので、ほっとす───
「どうしたッス……あぁ、お中元にはお菓子もあるッスよ」
 ゼノビアが通り過ぎた女性の買い物籠にあるお菓子をじっと見ていたに気づき、米衛門が洋菓子、和菓子それぞれのブロックを指し示す。
 奥が深いお中元、ゼノビアはお土産にとゼリーを4つ購入した。
 凍らせても美味しいゼリーらしいので、2つはシャーベット用だそうだ。
「他に何か買うッスか?」
『十分です。買いすぎもよくないので』
「それもそッスね」
 安いからと言って、沢山買うのはどうか。必要な時に必要なものだけで十分。
 ゼノビアはそう書き記し、同じ意見の米衛門も大いに頷いた。
 やがて、タイムセールの時間がやってきて、米衛門が頑張って調味料セットをゲットし、2人はお会計の列へ並ぶ。
『日本ってすてきな習慣あるんですね』
 ゼノビアはお中元も知れてご満悦の様子。
 お会計も終わると、ゼノビアは割烹着を着たうさちゃんおかあさんが買い物に歩く絵も可愛い、折り畳みの買い物バッグを取り出した。
 買ったゼリーを入れていると、米衛門もお会計を終えてやってくる。
「あ、オルコットさん、これ、オイの家では消費難しそうなんで、良かったらどうぞッス」
 差し出されたのは、ドレッシングだ。
 お目当てのセットにあったらしいが、米衛門はドレッシングを使わないそうで。
 自分の野菜は、生の場合自家製味噌で食べるのが定番だとか。
『おみそ汁のおみそですよね?』
「そッスね。野菜にも合うッスよ。店で売ってるのが合うかどうかは何とも言えねッスけど」
 米衛門はそういう食べ方もあるのだと教え、ゼノビアはただ、ただ感心するばかりだ。
 どの野菜と相性がいいかも付け加えられると、やっぱり物知りな人で凄い!と米衛門の株は上がりまくり。
 ドレッシングを有り難く貰ったゼノビアにとって、米衛門は物知りで凄くてかっこいいお兄さんである。
 間違っても、重体のスペシャリストではない。

 必要な時に必要なものだけ。
 そうした精神で特設会場を後にした2人は、ゼノビアの急がない用事を果たすことにした。

●ショッピングモール、漂流の果て
 ゼノビアの急がない買い物というのは、夏の定番、サンダルである。
 ちょっと前にサンダルが壊れてしまったので、早く買うようにと英雄に放り出される形でここへ来ていたそうだ。
『今ならセールでやすいらしいですから』
「あー、ああいうのって、確か今位から安くなるらしッスね」
 米衛門は流行に敏感ではないが、セールのタイミングは都会に出たばかりという訳でもない(でもまだ迷う)ので、聞いたことはあるらしい。
『おでかけ用なので、かわいいのがあるといいんですが』
「靴は綺麗なものより無理のない合ったものが選ぶのが一番ッスし、オルコットさんが気に入った中にいいのが見つかるといいッスね」
 米衛門の基準も確かな話、とゼノビアは軽く頷いた。
 やってきた靴屋は夏のサンダルのセールになっており、色々なサンダルが並んでおり、ここも結構な賑わいを見せていた。
 デザインも機能性重視から見た目重視のものと様々である。
 ゼノビアが目に留めたのは、可愛い系のデザインでヒールもないサンダル2つだ。
 1つは水色と透明なビーズに蒼い小花が飾られており、涼やかなもの。もう1つはピンクと白の大振りの花が飾りつけられたものだ。
 履く足はひとつ、と両方買うつもりはないゼノビアは試着して感触を確かめるが、どちらも履き心地で優劣がない。
「手持ちの服がどうかによるんじゃないッスかね」
 迷ってる様子のゼノビアに米衛門が声を掛けると、ゼノビアはなるほど、という顔に変わり、手持ちの服を思い浮かべているのか、うんうん考え出した。
 手持ちの服で合うものがある方を選べば間違いない。
 最終的に合わせ易いのは蒼い小花のサンダルの方が合わせる服が多いという結論に達し、ゼノビアはこちらを選んだ。
「いいものがあって良かったッスね。履き心地も合ってたみたいッスしね」
『ありがとうございます』
 会計を済ませた後、そんなやり取りが交わされたのは言うまでもない。

 買い物も一通り終わった2人は近くにカフェがあることに気づいて少し冷たい飲み物を飲んでから帰ることにした。
『今日はありがとうございました』
「それはオイの台詞ッスよ。辿り着けなかったら、やばかったッスし」
 腰を落ち着けた所で、改めてお礼を交わす2人。
 必要最低限のものがあればいいという欲に薄い米衛門と無駄遣いはせず必要なもの以外は見て終えるゼノビアは買い物の相性自体は悪くなかったらしく、やり取りでの対立はない。
『今日は、ちょっとだけぜいたく、です』
 ゼノビアがじーっと見ていたうさちゃんパフェを食べるのを決断する。
 聞けば、文房具屋でもいつものメモ帳以外にも可愛いうさぎのポストカードやシールが気になったらしいが、それは自重したとのこと。
『あと、リスがクルミを食べている写真のポストカードもあって、ついつい目的を忘れそうになってしまって……』
「そういえば、ここのギャラリーで写真展あるらしッスよ」
 ゼノビアがパフェを待つ間、メモにそうしたことを書き記していると、米衛門が案内を開いて教えた。
 日本では有名な動物写真家らしく、世界の街角の動物達の顔展というもののようだ。
 米衛門に頼まれた為、特設会場の行き方しか見ていなかったゼノビアの目が瞬いた後、ぱあっと輝く。
「ちょっとのんびりしたら、行ってみるッスか? 無料みたいッスし、オイも興味あるんで、ご一緒するッスよ」
『おねがいします』
 そこへ米衛門が頼んだお茶とゼノビアが頼んだうさちゃんパフェセットがやってきた。

 食べ終わったら、漂流の再開。
 帰るまで、ショッピングモールを楽しく漂流しよう。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【齶田 米衛門(aa1482)/男/21/simple matagi】
【ゼノビア オルコット(aa0626)/女/16/堅実家の少女】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
夏物、セールの買い物以外はお任せいただいたので、夏らしさを心がけながら、楽しく書かせていただきました。
お気に召していただけたら幸いです。
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2016年09月28日

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