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『クズがいる食卓 』
鵜鬱鷹 武之aa3506

「……ヴェルナーが言ったからだからな」
 そう告げる少年が目の前にいる。
 死んだ魚の目をした男は、口を開いた。
「ヴェルナーくんが言わなくても、養ってくれていいんだよ」
「何でコレに食事ご馳走するって約束したんだ、ヴェルナァァァァ」
 クズの代名詞鵜鬱鷹 武之(aa3506)の言葉を聞き、少年、小泉 晃は膝から崩れ落ちた。

 2人が出会ったのは、今から数ヶ月前に遡る。
 小泉 晃は古龍幇に名を連ね、小泉組を束ねていた小泉 孝蔵の1人息子で、香港で殺された孝蔵の死に燻っていた。
 H.O.P.E.との和議へ向かい、襲撃を受け、最終的に命を落としたという事実も大きかったのだろう。
 祖父と孫程年齢が離れていても、想い合う親子であった為、H.O.P.E.と和議を結ぶことに反対していた彼は、劉士文の勧めを受け、見極めるべく、エージェント達と1泊2日で父親との思い出もある箱根を旅行した。
 その際、晃は武之のクズっぷりに呆れ果てたのだが、晃の英雄であるヴェルナー・デ・ジョルジ が自分では言えなかったことを武之が言ってくれたからと食事1回のご馳走を約束してしまった為、こうなっている。

「シャーム共和国の戦いも落ち着いた。大規模な戦いがまたいつ始まるとも限らないなら、そろそろ約束は果たすべきだろう」
 そのヴェルナーは、とても真面目にそう言った。
 が、強面の外見なので、諭している姿であっても、幼稚園児位までなら外見で泣きそうなレベルだ。
「まさか自宅に招かれるとは思わなかったね。これは養うしかないよ」
「クズ連れて入れる店なんか知るか」
 武之の言葉に、晃がケッと悪態ついた。

 小泉組の跡取り息子がファーストフードやファミレスなんて連れて行かないよね。それなりのものでないと。あぁ、でもドレスコードある店は困る。持ってないし。高いのは食べたいから、その辺の融通が利くお店がいいな
 
 上記が武之からのリクエストで、これを聞いた晃が「ザルっていうかワククズだな」と率直に言ったらしいが、仕方ないだろ、武之はクズなんだから。
 で、晃は約束の日に待ち合わせ場所と時間を指定するメールを寄越し、待ち合わせ場所に物凄い不機嫌そうな顔で立っていたので、約束は守るらしい。
 身なりが、ごく一般的の範囲に括られる高校生の格好をしていることから、ドレスコードは必要ないというのは判ったが、ヴェルナーの待つ車が高級車でなかったのは意外だった。勿論、スモークが掛かっているガラスだったので、外の様子は一切判らないようにはなっていたけど。
 それもその筈、着いた先は、晃の自宅だった。
 晃の自宅は──言うまでもないことである。
「ヴェルナー、変なことしないように見張ってろよ」
 晃がそう言って、黒のシンプルなエプロンを手にキッチンへ消えていく。
「馳走は晃が用意するそうだ」
 ヴェルナーが武之に一言。
 晃が言うには、高級な店なんか連れて行ったら、その店が後々まで迷惑するに違いないから、だそうで。
「晃くん、作れるの」
「母を早くに亡くしたから作れるらしい」
「なら、尚のこと養ってもらわないと」
 武之のこの言葉に───
「それ以外言うことないのかッ!!」
 キッチンから晃の怒声が飛んできた。

 という訳で、武之の前にはご飯にアサリの味噌汁、筑前煮と置かれていく。
「これは俺が造った訳じゃないんで」
 素っ気無く言いながら置かれたのは、旬の魚の刺身。
 こちらはやはり豪華なものだ。
 そうして色々置かれて、最後に果物枠らしく、マスクメロンが置かれた。
「こんなに尽くしてくれるなら、やっぱり誰かを養わずにはいられないと思うんだよね」
「誰かって言うより自分って言いたいだけだろ」
「そんな当然のことを」
 武之の向かいには物凄い不機嫌そうな顔をしながらも晃が座り、食べている。
 彼の隣にはヴェルナーが座り、彼は淡々と食べているが、「いただきます」の後、「美味しい」という感想は伝えているので、割と日常的なやり取りなのだろう。
「ったく、何でこんなクズにご馳走しなきゃいけなくなったんだか……。っていうか、いつからそんなクズなんだよ」
「失礼な。俺だって生まれてすぐクズだった訳じゃないよ」
 武之は味噌汁を啜った後、ゆっくり話し始めた。

 あれは、10年前だったかな。
 俺には、愛する家族がいてね。
 本当に幸せな家庭を育んでいたんだ。
 娘はお腹が大きくなった奥さんのお腹を撫でて、弟かな妹かなって。
 あぁ、男女どっちかなんて無粋なことは聞いてないよ。
 けれど、あの日……俺がワイルドブラッドだった為に迫害していた連中が全てを奪い、俺は虚無に包まれた。
 もうこの世界で生きていくことなんて出来ない。
 生きながら死んでいる。
 寄生して生きるだけの存在。
 きっとロクな死に方はしないね。

「……」
 晃が武之の顔を黙って見ている。
 意外なのか同情したのか、そもそも真に受けたのか判らないような表情だが、即嘘とは言わないらしい。
 ただ、じーっと見ている。
「それは真実か」
「いや」
 晃の代わりにヴェルナーが問いかけると、武之はあっさり否定した。
「その方が同情して貰って、養って貰えるだろ」
「やっぱり創作しやがったか、このドクズ!! 俺の作った料理だけでも吐き出せえええ!!!」
 即晃が身を乗り出して、武之の襟首を揺さぶる。
 やっぱり、という辺りに武之がしていたクズ言動が功を奏しているのが垣間見える。
「晃くん、ご馳走してくれるって言ったのに。嘘言った責任に養」
「──う訳ないだろうがあああッ!! 信じられないクズだな、このクズクズドクズ!!」
 晃、ますますヒートアップ。
 まぁ、高校卒業した後たまたまニートになったら、それが楽で、別に自分が働かなくてもいいじゃん、養って貰えば困らないし、という身も心もクズ街道まっしぐらというのが真相なのだが、最早生まれた時からクズであるかのように一部となった。きっと素質だね。
「晃、食卓から身を乗り出すのは行儀が悪い」
 ヴェルナーがお茶を飲みながら冷静に言うと、晃も一旦離れて腰を下ろす。
「やっぱコレを店に連れて行かなくて良かった。ヤバ過ぎるだろ、コレは」
「他の奴に任せたくない程ヤバイなら、養わなくちゃダメだよね」
「クズに言われたくない」
 武之に素っ気無く言う晃。
 何とかしないとダメ、という使命感を持つにはまだまだ時間が要るね。
 武之は刺身を食べながらそう思う。
 1番の狙いはそこという徹底したクズは、死んだ魚の目で造りの魚の死んだ目を見る。

 大丈夫。
 晃くんは案外イケる。
 だって、約束なんてなかったことにすればいいのに、約束守ってるし。
 何より。

 自宅教えてくれたからね。

 高級な店よりも思わぬ収穫だよね。

 徹頭徹尾クズたる武之、高級な店の数回の飯種で済まさない気満々。
 だって、高級な店は晃の名前出せば何度かタダ飯食わせてくれるかもしれないけど、養ってくれる訳じゃない。
 養ってくれるのは、人だから。

(晃くん、気づいてないだろうけどね)
 武之は口に出さずメロンを食べる。
 うん、美味しい。
「次は肉も食べたいな」
「クズ、てめぇはもう家に敷居跨ぐなッ!!」
 武之のリクエストに、晃が箸置き投げた。

 晃くんはいい子だよね。
 イ ケ ル。

 その言葉通り、養って貰えるかどうかは誰にも解らない。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【鵜鬱鷹 武之(aa3506)/男/36/クズ オブ クズ】
【小泉 晃/男/17/クズに翻弄される少年】
【ヴェルナー・デ・ジョルジ/男/40代前半/クズに翻弄される高校生の英雄】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
「【東嵐】平和的戦争」の後日談で食事をタカる話とのことでしたので、こういう形になりました。
現在、小泉 晃はエージェントになったというのは、東嵐事後連動シナリオ内でも出ておりますが、登録のNPCとなっていない為、今後どのような形で皆様の前に現れるか、現在退いた私では解りかねる部分もあり、現れた際はこのノベルにある晃とは異なる場合もあります。
ノベルはプレイング引用出来ない点もありますが、この点はご了承いただければと思います。
しかし、武之さんなら万有クズ引力でどうにかすると思いますし、デフォルトクズでいてくれると思いますので、頑張ってクズッてください。
おまけは、更に後日談となります。クズ。
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2016年09月26日

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