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『ハラリトチル 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&凛道aa0068hero002

 昔々あるところに――

 とある薬屋の男がおりました。
 彼は誰も知り得ぬ解毒の知識をたくさん有しており、不治の病を治す薬すら作ることが出来ました。
 次々と、治る筈がないと言われていた病を治す薬を作る薬屋の所業を、人々は奇跡と崇めました。そして、薬屋を英雄と称えました。

 誰も彼もが、その英雄の奇跡に喜んだのです。
 誰も彼もが、その英雄の奇跡に救われたのです。

 けれど、誰も彼も、知らなかったのです。

 英雄の真実を。
 奇跡の代償を。

 奇跡のような薬を作るためには――
 途方もない数の実験が必要でした。
 実際に人間に薬を投与して、薬を調節していく必要があったのです。
 つまり――人体実験が、英雄の奇跡には必要不可欠だったのです。

 薬屋は、薬屋ですので、薬を作らなければなりません。
 だから薬屋は、人間の命を代償に、奇跡を紡ぎ続けました。

 そうやって、長い長い年月、数多の死を築き上げてきました。
 その末に――薬屋の奇跡の真実を、人々は遂に知ってしまいました。

『悪い魔女』。

 薬屋は最早、英雄ではなくなったのです。
 いいえ。最初から、薬屋は英雄などではなかったのです。
 薬屋は、悪い魔女だったのです。

 彼は多くの人を殺めた罪で捕まり、死刑が決まったのでした。







 昔々あるところに――

 とある執行人の男がおりました。
 彼が何を執行するのかというと、それは正義です。
 彼が正義のために何を執行するのかというと、それは死刑です。
 彼が死刑で何を執行するのかというと、咎人の首を刎ね落とすことです。

 それが執行人の、幼い頃よりの使命でした。
 国のため、人のため、何より正義のため。
 それが執行人の、当然の毎日でした。

 仮面をつけて鎌を振るい、首を刎ねる。
 黒い衣服は、罪人の血で汚れないようにするため。
 来る日も、来る日も、執行人は死刑を執行し続けました。
 罪人の命を刈り取り続けました。
 罪人の命を以て、かの者の罪を清め続けました。

 そんな執行人を。
 まるで死神のようだと民衆は忌み嫌いました。
 まるで死神のようだと罪人は最期まで恨み憎み唾を吐きました。

 それでも粛々と、淡々と。躊躇や同情など一切なく。心を揺らがせることもなく。
 執行人は、執行の刃です。曇ることなき刃です。正義のための刃です。
 執行人は、揺るぎなき柱です。錆びて朽ちてぐらつくことの決してない、正義の柱です。

 そうして生き、毎日、毎日、罪人の首を落としていました。

 ――その日も、執行人のなにも変わらぬ一日として始まったのです。







 重い鎖の音が響く。

 ガルー・A・A(aa0076hero001)は重厚な枷をはめられた自らの両手にじっと視線を落としていた。
 今日は自分が死ぬ日だと、ガルーは知っていた。ここは牢獄。檻の中。罪人を閉じ込める場所。だというのに厳重すぎやしないかとガルーは皮肉る。バケモノでもあるまいに。ご丁寧に足枷までつけられている。近付けばとって食われるとでも思われているのだろうか。己はただの薬屋だというのに。
 だが世間の認識としては、ガルーは『ただの薬屋』ではなく『無差別大量殺人鬼』らしい。ガルーはそれを肯定も否定もしない。なぜなら彼はやるべきことをやっていただけだからだ。

 その間も湿った寝台に腰かけ、ただただガルーは無言だった。薬屋としてこの牢獄の不衛生さに脳内で文句を繰り返すのにも飽きていた。時刻はもう朝だろうか。窓のないそこは仕打ちのように暗い。まもなく看守の足音が聞こえてくるはずだ。朝食を運んでくるのではない。自分を処刑場へ連れて行くために。

 ほうら――足音。格子の前に現れる看守。檻が開けられる。鎖が引かれる。ガルーは立ち上がる。連行されていく。抵抗はしなかった。無言のままだった。

 幾重にも施錠された扉が重い音を立てて開く。

 外の明るさにガルーは思わず顔を顰めた。眉根を寄せて瞬きを数度。光に慣らした目に、飛び込んできたのは――花弁だった。

(桜……、そうか。もうそんな季節か……)

 薄紅色の柔らかな飛沫。だだっ広い処刑場に植えられた大きな古い桜の木。満開だった。その枝の先々に咲き誇る花が、幾つもの花弁を舞い散らせている。
 思わずそれに目線を奪われ――鎖を引かれた感覚でガルーは我に返った。
 戻される視線、処刑場の真ん中、そこには断頭台。罪人が死ぬ場所。

 一陣の風が吹く。桜花がひときわ舞い散る――薄紅に隠される視界が晴れれば、視線が合った。断頭台に佇む死神。執行人、凛道(aa0068hero002)。
 凛道は仮面の奥からガルーを、罪人をじっと見つめていた。
 彼はずっと待っていた。断頭台の上で、罪人がやって来るのを。急かすことも罵ることもせず、掲げられた刃のようにそこにいた。

 広い処刑場を取り囲む柵の外側には、たくさんの民衆。
 今日は愚かな悪い魔女の処刑の日。
 誰も彼もが、魔女の最期を待ち望んでいた。

 桜がとても綺麗な、春のとある一日だった。
 太陽がキラキラ輝く、よく晴れた日だった。

「……」

 誰も喋ることはない。
 ガルーは堂々と、それこそ挑発的とすら映るほど悠々と、断頭台への階段を上り始めた。看守の手は煩わせない。ゆっくり。また一段。階段に積もった桜の花をぐしゃりと無残に踏みつけて。その後ろ姿、背中には刺青があった。

 その最中、凛道は澄んだ声でガルーの罪状を読み上げていた。紙に記録された文字を朗読しているのではない。脳に刻んだ記憶として、その口で読み上げていた。決して感情的ではない、けれど事務的でもない。例えるならば楽器のごとく。
 執行人はガルーの罪についてを、そしてその被害者――殺された人間の名前も性別も家族も経歴も、全て全て把握していた。それが罪を雪ぐ者の役目だからだ。少なくとも凛道の主義はそうだった。

「――以上です」

 読み終える。凛道は仮面の奥からガルーを見据える。罪人は顔を顰めるでもなく、泣くでも許しを請うでも怯えるでもなく、春の眩い太陽に少し目を細めながら執行人を見返していた。真っ直ぐ立っていた。
(珍しい……)
 ふと凛道はそう思う。大抵、死の裁きを受ける者は、怯えるか茫然自失としているか焦燥しているか恐慌しているか。とかく、冷静とは対極の位置にあった。
 だがどうか。目の前の罪人は至って平静であった。自分の存在に自信を持っているような。自分の罪を悔いていないような。
(妙な罪人――)
 しかし。その命も、まもなく潰えるさだめなのだ。

「ガルー・A・A」

 凛道は彼の名前を呼ぶ。返事はなかった。構わず続けた。
「最期に、神に伝えたいことはありますか」
「神?」
 その言葉を聞いて、ガルーがクッと口角を吊った。嘲笑めいた表情だった。

「この国に栄えあれ」

 全く神など信じていない。そう言わんばかりだった。
 すると、柵の向こうから様子を見ていた民衆が口々にガルーを罵倒を始める。人殺し――人殺し――。
「人殺し、ねえ……能の無い人間がただ生きてるだけ。だから俺様がよ、命に価値を付けてやったんだ」
 溜息。振り向きもせず、ガルーは独り言のように漏らした。
「だから俺様はちゃぁんと覚えてる。俺様は気のふれた快楽殺人鬼なんかじゃないからな。ひとりひとり――お前さんが読み上げた罪状の通り、数も死に様も全て……」
 だって。ガルーはくつくつと喉を鳴らした。何がおかしいのか、誰にも理解されなくても構わず笑った。

「大事な臨床データだからな。それが俺の正義だ。薬屋としての正義だ。良薬口に苦しって言うだろ?」

 犠牲なくして結果なし。戦争の果てに平和が訪れるのと同じだ。注射だって、針を刺して痛みを与えないと薬を投与できないじゃないか。
 どこまでも不敵なガルーの言動に痺れを切らした看守が、二人ががりで彼を断頭台の首枷に力尽くで押さえ込む。ガシャンと荒っぽい音。跪かされ、首を差し出す姿で拘束されるガルー。
 その間にも、民衆の罵詈雑言は止まらなかった。石すら投げ込まれている始末だ。殺せ、殺せ、早くその魔女を殺せ。殺せ!

「――それでは」

 ゆるり、民衆の声には態度を変えることなく。凛道は一歩、前に出た。
 その手には、使い込まれ研ぎ澄まされた大きな鎌。ぬらり。いくつもの首を狩ってきた、正義の鎌。
 掲げられたその刃が、音もなく三日月の弧を描いてガルーの首筋にあてがわれた。冷ややかな温度。
 ガルーは静かに目を閉じる。最期に見えたのは桜の木。あの花の綺麗さというものが、いつからか分からなくなっていた。
 死は怖くない。この国の未来は明るいはずだから。全てはただ大義のため――娘と妻にもう会えないのは、心苦しいけれど。そんなことを思いながら、ガルーは最期の言葉を口にした。
「見届けてくれ、俺様の代わりにこの世界を……なんてな」
「……」
 その言葉に、執行人は仮面の奥で目を細めた。鎌がはね返す春の日差しが眩しかった。
(この男が正義を叫ぶのであれば、僕のしていることはなんなのだろう)
 ふと湧いた疑問。だがそれを断つように、凛道は直後に言い放った。

「ガルー・A・A。あなたの死刑を、執行します」

 呼吸を一つ。

 粛々。
 しゅるり。
 再び鎌が三日月を描いた。
 民衆の歓声。
 桜。血。
 紅の色。

 舞い散る。
 飛び散る。

 はらりはらりと。



『了』




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/31歳/バトルメディック
凛道(aa0068hero002)/男/23歳/カオティックブレイド
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2016年09月26日

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