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『繋がりゆく日々の中で 』
構築の魔女aa0281hero001)&辺是 落児aa0281

●暦の上では
 夜になったからか、昼とは異なる涼しい風が頬を撫で、髪を一筋攫っていく。
「暦の上では秋になったからでしょうか。だいぶ涼しくなりましたね。こういう風に歩くのに良い季節です」
「ええ。最近は夏が延長したかのような気さえしますけど……」
 構築の魔女(aa0281hero001)が微笑むと、剣崎高音(az0014)が微笑を返してくる。
「つい先日、紫陽花を見に行ったものと思いましたのに……。季節はあっという間に巡るものですね」
 梅雨が明けて、海に泳ぎに行き、そして、晩夏と言うべきか初秋と言うべきか……今宵は、去る夏を惜しみ、初秋を感じようという趣旨のイベントに訪れていた。
 中秋の名月ではないが、今宵は満月で、一足先にお月見イベントともなるだろう。
「中秋の名月の頃、ゆっくり出来るとは限りませんからね。……とは言え、少し先取り過ぎたでしょうか?」
「暦の上では秋なのですから、大丈夫ですよ。ね、十架ちゃん」
 構築の魔女が夜空に尾花と女郎花が揺れているかのような単衣を指し示して苦笑すると、高音は夜神十架(az0014hero001)を見る。
 十架ははにかんで頷いた後、少し不思議そうに見上げてきた。
「このお花……秋の、お花かしら」
「ええ。着物に描かれているのは、皆秋の七草です」
「落児、も?」
 十架の視線の先には、辺是 落児(aa0281)の姿がある。
 一足早くともお月見なのだから。
 構築の魔女の提案で、今日は全員和装である。
 女性陣は季節的に裏地のない単衣というのは示し合わせなくともそうなるというのは、構築の魔女も高音も予想の範囲だった。
 が、示し合わせていないのに、尾花と女郎花が描かれる単衣を選んだ構築の魔女に対し、自身は桔梗と葛の意匠、十架には撫子と藤袴柄の単衣を高音は選んできており、構築の魔女が夜空の色に対し、彼女達は空色と秋空の移り変わりを秋の七草と共に描いていたのだ。
「ええ。秋の七草の最後のひとつ、萩が帯にあるでしょう?」
 落児の長着は、色一言で言うなら黒のみだ。
 が、幅の少ない黒を品良く組み合わせており、新月の夜、雲の狭間から星が覗くような雰囲気があり、それを象徴付けるのが夜空色の帯に控えめに刺繍された萩だ。
「いいですか、十架ちゃん。落児はさり気ないお洒落をすることで、実は今日高音さんと十架ちゃんと会えて嬉しいことをアピールしているんですよ?」
「……ロロロ」
 それまで沈黙を守っていた落児が声を出す。
 今まで落児が沈黙を守っていたのは、まだ周囲に人がいたからで、女性3人に男1人とただでさえ目立つ中、自身の言葉で更に好奇の目を向けられるようなことはあってはならないと彼は黙っていたのだ。……黙っていようが話していようが、『意訳』するのは変わらないし。
 が、周囲の人も少なくなってきたので、「ちょっと待て」と制止の声を上げたのである。
「あら、落児、やっと会話に参加しましたね」
 構築の魔女、凄い楽しそうにこちらを見る。
 人が少なくなるまで『意訳』一切してない辺り、色々確信犯だ。
「言いたいことは解っているんですよ。変わるからこその大切な『日常』……でも、お2人は変わらず見目麗しく素敵だと……」
「ロロ!?」
 落児の表情の変化具合からして、前半は実際に言っただろうが、後半は『意訳』なのだろう。
 入り口で受け取り、十架が転んだりしないようにと彼女の足元を照らしてあげていたランタンが動揺に揺れた。

「……ロロ、ロロロロロ……」
「あら、それはお2人に聞かないと判りませんよ。高音さん、十架ちゃん、落児のことは好きですか?」
 落児から何か抗議を受けたらしい構築の魔女、ド直球。
「? 好きよ?」
 十架はド直球を大変素直に即打ち返した。
 高音が十架を見、構築の魔女を見、最後に落児を見た。
 その顔が微妙に笑っているような気がする。
「ええ。私も落児さん好きですよ。少なくとも好きではない方とは休日の夜を過ごしませんから」
 構築の魔女が、ほらと言いたげな顔をする。
 高音は構築の魔女の思惑を理解していただろう。自分の答えを聞いてどう動くかも。
 が、落児にとっての助け舟は出してくれず、落児は魔女殿は絶対ほぼ確実に自分で遊んでいると言いたかったが、実際に口に出した後、どのような反撃で遊ばれるかは予想がつかない。だって魔女殿だし。
 と、和装は慣れているとは言えない十架が足を縺れさせてバランスを崩す所で落児が支えた。
「……ロー……」
「ありがとう……やっぱり、落児は、優しいと、思うわ」
 お礼を言う十架へ問題ないという意思を示すように落児は首を緩く振る。
 構築の魔女が物凄いイイ笑顔していた。

 暦の上では秋になり、季節は巡れど……巡った分だけ、変化がある。

●静かに、ゆっくりと
 東屋のひとつに移動した4人はゆっくりと腰を下ろした。
 このイベントは夕涼みとして庭園を開放しているもので、賑やかな祭りとは程遠い。
 会場の入り口で配られるランタンの灯りを頼りにゆっくりと巡り、それぞれの時間を過ごすのだ。
「今日は着物の方、結構いらっしゃいましたね」
「ええ。趣旨的にそうだったのかもしれないです」
「ですが、誰も同じような装いはなく……着物の世界の奥深さを知った気がします」
 今日は満月だから、と構築の魔女は着物だけでなく、細部の小物に至るまで気を遣った。
 髪も折角だからと項が見えるように結い上げ、月を思わせる透かし彫りがされた簪で飾り立てている。
 高音、十架も結い上げて、それぞれ桔梗の花簪、撫子のばち簪で飾り、普段と異なる装いであったりするが、この3人の話だけでなく、ここに着ている着物姿の女性には色や柄こそ季節的な共通点がある場合があっても、帯だったり、帯留めや簪だったり、異なるものを組み合わせ、洋装とは異なる部分で奥が深い。
 構築の魔女が得た、実践の知識とも言おうか。
「昔は着物で家が傾く、と言われる程だったそうですよ」
「……? 着物は、そんなに重い、のかしら……」
 高音の言葉に十架が首を傾げると、先に言われた感のある構築の魔女は愛らしい無垢と微笑ましいものを覚える。
(私にはない発想ですよね)
 高音が言っている意味を正確に理解し、家が傾くレベルで値打ち物があるのなら、どのような職人芸が使われているのだろう、それが出来上がるまでどれ程掛かるのだろうという方に興味が向いた自分とは違う。
「落児も、お家が傾いたら……助ける、わ」
「……ロロロロ……」
 十架の勘違いを訂正せずに応じている落児の目はどこか優しい。
 夢での決着も大きかったのだろうが、やはり長く時を重ねても苦に思わないだけの間柄をゆっくりでも築き上げられたのだろう。それが出来たのは、十架が無垢だからだろうが。
(時を重ねるからこそ、人は変化していくのでしょう)
 構築の魔女は落児の姿を見、かつてを思う。
 彼の姿こそが、時の経過を何よりも思わせる。
 だから、今、4人でいることが楽しく、受け止めていくものだろう。
 構築の魔女は、月を見上げた。
(月は、この世界も同じにある)
 あの言葉を言った時は、まだ、春の息吹を感じ始めたばかりだったと言うのに。

「そういえば、落児さん、着物は元々持っていらしたんですか?」
 高音が全員で秋の七草の偶然を思い返したのか、落児に話を振った。
 緩やかに首肯すると、「私達のも自分のは手持ちのものなんですよ」と微笑を向ける。
 彼女の家が家なので着物を持っていても不思議ではなく、十架は高音のお古を着ているといった所なのだろう。
「落児さんは背丈もありますし、スーツだけでなく着物も似合いますよね」
「ロロー……」
 高音に微笑まれ、落児も礼を言うのも妙な気分と思いながらも会釈を返す。
「美しい高音さんに褒められるなんて、大変な栄誉を賜ったなんて……落児ったら」
「ロロ!?」
 構築の魔女がするりと会話に入り込み、落児が慌てふためく。
「でも、本当のこと、だもの。落児……ありがとう」
「ローロー……」
 何故か、十架からガチのお礼を言われ、落児はそういう意味で言っていないという空気を盛大に漂わせて言ったが、高音大好きっこの十架は心の底からそう思っているので、通じてくれなかった。
 哀愁が微妙に漂う落児は、構築の魔女がイイ笑顔をしていることより、微妙に笑いを堪えている高音へ弁明したく、こういう時は言葉が通じ合えないって不便だと思ったのは言うまでもない。
 が、彼だけの秘密である。

●時は、動く
 構築の魔女は、高音と十架へ予め持ってきていたお茶を注ぐ落児を見る。
 反応はまだ活発であるとは言い難いが、去年の今頃とは比べ物にならないと言っていい。
 時折、東屋の向こうに視線を投げる落児は目に映る景色も、緩やかに重ねられていく時間も楽しんでいるように見える。去年の今頃だったら、ただ見るだけだっただろうし、そもそも気を遣い、彼女達へお茶を注ぐなんて真似もしない。
(だから、私もそうしてしまうのでしょうね)
 構築の魔女は心の中で静かに呟き、空を見上げた。
 落児の言葉を『意訳』するのは、気遣えるようになった彼の反応に興味があるからだ。知的好奇心とも言うべきか。
 興味を優先してやってしまう己の性分はつくづく業が深いと思う。
(『普通』だからこその……赤の魔術師、ですか)
 『興味』に身を捧げるのは、業が深くとも変わらないし、変えることもない。
 ただ、友人を悲しませてまでのものかは別次元の話となるし、知的好奇心の充足の為の最短と最善がイコールでないことも理解している。
 何気なく。
 何事もないように。
 そうしたいと──
「魔女さん?」
 構築の魔女はそこで高音の声で我に返った。
 気づかれないよう束の間思いを馳せていたが、自分にもお茶をと落児が注ぎいれていた為、お茶を渡すその瞬間に気づかれたようだ。
「あぁ、何でも……いえ、そうですね。……魔女ですと、ちょっと呼び難いでしょう? 魔女の名を冠する方は私だけではないですし」
 なので、と構築の魔女は言葉を続けた。
「エージェントとしての任務に携わっている場合は、現場の混乱も避けたいですので、そのままでお願いしたいですが、今日のように遊びに来ている時は、緋崎か……良ければ、咎女と」
 あまり呼び易さは変わらないかしら。
 構築の魔女、いや、かつての世界では赤の魔術師と呼ばれた記憶がある緋崎 咎女は軽く苦笑した。
「ヒサキ トガメ……咎女、ね」
 十架が嬉しそうにはにかむと、構築の魔女も明かした名を早速呼んでくれた十架に感謝を込めて微笑を返す。
「落児さん?」
「……ロ……」
 落児は高音に声を掛けられ、我に返った。
 自分は今、驚愕していると落児は思う。
 いや、驚愕だけでなく、どのような意図があってその名を名乗ったのかという疑問も勿論ある。その疑問の答えのひとつとして、彼女自身の何らかの心変わりでもあったのかいう思いがあるといわざるを得ない。
「私にはよく解りませんが……、十架ちゃんもエージェントになって、こうして一緒にお出かけに誘っていただいたりして、とても楽しそうで、少しずつ、人と接する範囲が広がっているような気がします」
 それもまた、十架の変化なのだろう。
 高音の十架を見る目は、とても優しい。
 きっと、高音も彼女が自覚ない所で変化している。
「ロロロ、ローロロロ」
「あら、私、嘘は好きではありませんから、さっき咎女さんへ言ったのは本当のことですよ?」
 恋愛の熱がある訳ではない言葉だが、落児の視界の端できらりと何かが光った気がした。
「落児は、先に言われてしまった。自分も月も恥らって光を消す高音さんと花も恥らう十架ちゃんのことを……と言っています」
 咎女、物凄いイイ笑顔で飛躍した『意訳』を口にした。
 反論は更に墓穴を掘ると判断した落児は、無言でお茶を注ぐ。
 咎女の『意訳』した『好き』とは違う、彼女達と同じ方向の『好き』を彼女達に向け、得難い友人と思っているのは事実だからだ。
 上手く言う方法はないものか。
 だが、その前に言葉が……。
 お茶を飲みえ終えた落児は、月を見上げる。
 夢から覚めた自分は、自身の太陽を生み、そして誰かの月になることなど出来るのだろうか、と。

●繋がりゆく日々の中で
 賑やかではないが、穏やかで落ち着いた時を楽しんだ1日の終わり、咎女は落児に呼び止められた。
 本当は表情から理解していた咎女は、静かに微笑む。
「あんなに驚く必要もなかったと思いますが……、この世界とこの身を研究対象としての興味ではなく……生きて楽しみたいから、ですよ。情が湧いた、ただ、それだけよ」
 それが、咎女の変化なのだろう。
 時の流れも川の流れと同じで流れゆくものでもひとつとして同じものはなく、同じに見えて変化している。
「変化を尊ぶというより、共に在ってくれることが掛け替えないと思え、今日この日を楽しかったと思える……それを情と呼ばずして何と呼ぶのでしょうかね」
 落児は、緩やかにそれを認めた。
 自分にも同じことが言えると彼は知っていたから。
 あの理想の夢には全くなかった変化は、時として振り回されてしまうけれど、あの理想と違い、躍動感と優しさがある。
「ロロ……」
「ええ。変化するから、人は人でいられるのでしょうね。おやすみなさい」
 咎女は、寝室へ入っていく。
 見送った落児は、窓の外を見上げた。

 中秋の名月とは違う、晩夏の満月は、明日はまた異なる姿を描く。
 自分も、そうなれるのだろうか。
 落児にはそれが解らないが、季節が巡る度に自身の世界が変わっていけばいいと思う。

 夏も間もなく過ぎ去り、やがて秋が来る。
 来年の今頃の月は、自分をどのように照らしてくれるだろうか。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【構築の魔女(aa0281hero001)/女/22/紅の追究者緋崎咎女】
【辺是 落児(aa0281)/男/20/いつか、己の言の葉を】
【剣崎高音(az0014)/女/19/静と動と】
【夜神十架(az0014hero001)/女/17/寄り添いの花】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご指名ありがとうございます。
お月見とのことでしたので、夏の余韻を残しつつ、一足早い満月を楽しんでいただきました。
良い夜を感じていただけたら幸いです。
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2016年09月30日

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