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『ヒトよ、道具よ、道を歩け 』
不知火 轍aa1641)&雪道 イザードaa1641hero001

●出会いに話し合いの余地もなく
 風が髪を僅かに揺らしていく。
 暑くもなく、寒くもない、湿気も高くない……今日は大変素晴らしい昼寝日和。
 不知火 轍(aa1641)は、寝ながらしみじみとそう思った。
 轍は古流忍者に連なる家に生まれ、生きているが、その祖の時代とは違うし、ハッキングを行えばどうとでもなるこの時代、自分達のような忍びが必要であるとは思えない。
 とは言え、食い扶持の問題はあるから、依頼は請けねばならないが。
(……そういや、食い扶持……)
 轍は、もう今までのようにはいかないかとふと思う。
 と言うのも、一族の里は従魔に襲われ、能力者もいない為に早々に里を放棄し、散り散りに逃げたからだ。
 徐々に連絡は取れ始めているが、全てではないし、また活動出来るかどうかについては轍の判断の及ぶ所ではない。
(……そんなこと考えても仕方、ないし。寝よう。寝る前に、考えることでも、ない。寝られる時に、寝る。自由に寝られる……そんな自由、今までなかったんだし……)
 任務であれば、眠らぬ夜もある。
 ある意味、睡眠も自由ではなく、制限されたもの。
 でも、今、初めて、自由に昼寝しようとしている。
 そんな時に、一族が襲われて今後どうしよう? 無粋だ、無粋過ぎる。
 初めて自由な昼寝を取ることが出来る、記念の瞬間だ。

 風向きが、変わったような気がした。

(……?)
 それだけなら、轍は気にしない。
 だが、風の変わり方が尋常じゃない気がしたのだ。
 殆ど本能的に身を起こすと、男が立っていた。
 実体を持たないその男へ風は吸い込み、そして解き放たれているような───

 否。

 轍は、冷静に分析する。
 風はいつも通り吹いているが、この男の気配を自分が肌でそう感じ取っただけだ。

「ここは……自分、は……」

 言葉とは裏腹に、男の表情は何もない。

「自分は……? 自分は、一体……?」

 うるさい。
 独り言がでかい。
 今日は、絶好の昼寝日和。
 しかも、記念すべき、初の自由な昼寝の邪魔。
「安眠妨害、万死に値する」
 轍はボソッと呟き、苦無を鋭く投げた。
 が、苦無は男の身体をすり抜け、木の幹に突き刺さる。
 男が、こちらを見た。

「自分は──」

 男の、空気が変わる。
 色の無い瞳がやけに不気味に感じたが、考えている暇は無い、轍は、その瞬間には身を起こし、地を蹴っていた。
 轍は情報収集に長けた忍者であるが、戦わぬ術をもっていない訳ではない。
 この万死に値する安眠妨害男は、この世界の人間ではない可能性には気づいている。
 情報が重要な世の中だ、全ての可能性を頭に入れなければ、任務遂行など出来ないし、そんな馬鹿は死ぬだけだ。
 が、状況を理解しているようには見えないこの男が、英雄である保障がどこにある?
 っていうか、睡眠妨害する時点で英雄じゃない。
「!?」
 轍は、思わず目を見開いた。
 自身が繰り出した小柄は、男の黒に近い濃緑の篭手に阻まれていたのだ。
 即座に苦無を繰り出したが、今度は隠し持っていたらしい苦無で応戦される。
 一旦間合いを取るように小さく飛び退いてから、再び踏み込むようにして小柄を繰り出し、牽制に足を軽く払った後、本命、苦無を投──
「っ!」
 男がその時には間合いを詰めてきていた。
 静かに凪いでいるような瞳に色は無かったが、それ以上に感情が無く、殺気さえもない。いや、こうしてやり合っていなければ、溶け込む位『何も無い』。
 が、そう思っている場合ではなかった。
 男は轍に牽制するように足を軽く払うと、1歩前へ踏み込んでくる。
 轍の小柄を軽くいなすように払うと、更に前進、轍の喉笛目掛けて苦無を繰り出してきた。
「……っ」
 轍は、僅かに呼吸が乱れた自分を自覚した。
 本当に間一髪、喉笛は守ったが、その苦無は唇の僅か横を捉え──轍は身体から血が抜け落ちる感覚で、自分が流血していることに気づいたのだ。
 と、その時だ。
 色の無い目に感情の色が宿りだす。
「赤……え、あ……負傷? どうされました?」
「……自分でやっといてよく言うよ」
 轍は、イラッとした感情のままそう言った。
 案外腕が立ち、自分に初めて傷を寄越した男は、今まで殆ど夢遊病に近い状態で自分と戦っていた──轍がただでさえ腹を立てていたのに、余計に腹を立てたのは仕方がないだろう。
「え、自分? 自分がやったんです?」
「……まず、座って。正座」
 轍は、下の地面を指し示す。
 男は轍の傷を案じるように見るが、轍が「早く」と促すと、そのまま地面に正座した。

 これが、後に轍のパートナーとなる雪道 イザード(aa1641hero001)との、最悪と言っていい出会いだった。

●ヒトの主張、道具の主張
「ですから、自分も混乱していまして……。混乱するなと言う方が無理な相談だと思うのですよ」
 轍から説教をされ、諸々理解した男は、突然周囲の景色が変わったこと、ここがどこか判らなかったこと、けれど、景色が変わる前どこにいたか判らなかった──記憶が欠如していることで、混乱の極みにあったことをすまなさそうな顔で説明した。
 だから、轍へ殆ど本能的に応戦していたのだろう、と。
(それ、一歩間違えれば愚神)
 口振りからして、愚神ではないと判る。
 轍自身は遭遇したことがある訳ではないが、任務を請ける際、愚神と従魔の影はないか、ヴィランはいないか、ヴィランとまでは行かずともフリーの能力者はいないか(依頼主によってはエージェントである可能性もあるが)といったことは調べている為、必要な知識は有しているのだ。
 だから、目の前の男が愚神ではないのは判る。そして、なりそうになっていたことも。
「自分にもよく解っていない状況ですが、自分、一言言いたいことがあります」
「……何」
「自分とは初対面でしょう。幾ら殺気を殺していようと、目は誤魔化せません。殺意しかない目と行動はどうかと思いますよ」
 男は正座のまま、轍に説教し出した。
「あなたの歳でそこまでの実力があるのは誇って良いと思いますが、才に恵まれている所為で疎かな面が目立ちます」
 轍にとって、凄まじくどうでもいい論理である。
「才が何だってんだ」
 轍は、不機嫌そうに血を拭う。
 恐らく、この傷は残る。
 残る傷をつけられたのは、生まれて初めてのこと。
 しかも、一族のどうでもいい連中と同じように才があると言う。
 次はない───どんなに溶け込みそうでも、こいつは『忘れない』。
 が、男は一族のどうでもいい連中とは違った。
「しっかり鍛錬すれば自分など、幾らでも越えていけるでしょうに」
 轍は、その一言に違和感を憶えた。
 自分に才がない、と思っているような口振りではない。
 寧ろ、自分の枠を知っているかのような口振りだ。
 限界を知っている、極められた、そういうものを感じない。
 これは、まるで───
「……お前は本能で処理し過ぎてるだけだろ。機械か」
「キカイ?」
 轍は、男の反応で機械がない世界から召喚されている可能性に気づいた。
 だが、あくまで可能性の話、男の世界に機械はあっても男が単純に疎い可能性もある。いずれにせよ、男の記憶が欠如しているなら、どちらが真実であるかは判らないだろう。
「僕らは道具じゃねぇ、ヒトだよ」
 轍は男の一言で感じた違和感を否定するようにそう告げた。
 自分の直感に間違いないなら、この男の次の回答は恐らくひとつだ。
「あなたはそうでしょうが、自分は……道具です。ヒトではない」
 ほらな。
 轍は予想通りで、かつ、面白くない回答に舌を打つ。
 厄介なのに手を出した。
 これは恐らく、心の底から自分を道具だと信じて疑っていない類だ。
 自覚があるのかないのか、何か要素があるのか……それらを突き詰めても本人すら解らないレベルのもの、気にする必要もなく一部と化しているレベルで『そう』だ。
「名前は」
「?」
「……名前位あんだろ。名称は、とでも聞かれたいのか?」
 轍の不機嫌そうな声に、男は時を停めたように動かない。
 けれど、轍が次の言葉を紡ぐには短い時間で、男は笑って、自ら時を動かした。
「自分は、雪道 イザードです」
「それ、本名? ……いや、いい」
 轍は問いかけておいて、自ら撤回した。
 本名であるかどうか。
 それは、この男は答えない。
 本名を憶えているかどうかもこの男は答えない。
 だが、確実に偽名であるだろうと思う。
 けれど、この男はそれ以上を読ませない。
 『そう』である自分を疑わない、『そう』であると無自覚に浸透させているかのように。
「あなたの染まらないシンを最後まで見届けるには、自分はどうすればいいでしょうか」
 イザードと名乗った男は、轍をじっと見ていた。
 先程まで混乱し、危うく愚神になったかもしれない男は、それらが全て雪のように消えてしまったかのような色のない眼差しを向けている。
「自分はヒトであるとは思えませんが……、あなたを最後まで見届けたいというのは今の自分の素直な思いであることは間違いないので」
「……好きにしろ、クダラナイもんにならない限り、な」
 轍はそう言いながら、手を出した。
 イザードも応じるように手を出す。

 ───彼らに誓約が結ばれる。

 実体を得たイザードは、「さぁ、行きましょうか」と笑う。
 轍は、溜め息を吐いた。
「……そっち、崖」
 自由に昼寝をする日々は、暫く来ないような気がした。

 そして、轍は知る。
「……だから、僕は『忘れていない』のかもしれないな」
(『轍?』)
 共鳴した轍が、呟く。
 イザードの問いかけに轍は答えない。

 イザードの瞳に色がなかったのではない。
 共鳴して知った世界のその『色』を自分は捉えていなかった。
 だから───全てを捉えられなかった『お嬢さん』を忘れなかったのかもしれない。
 轍のその感情を知るのは、イザードも知らない星を抱く石だけ。

 この日より、轍は赤を知る。
 同時に───尻に敷かれる日々よ、こんにちは。

●日々は過ぎ───
 轍は、衣擦れの音に気づいて目を開けた。
 見ると、イザードが外を見ている。
「吹雪、止んだようですよ。明日には下山出来るでしょう」
 吹雪の音が止んだので目が覚めた、とイザードは笑う。
 イザードは耳聡くそのことに気づいたのだろう、と轍は思う。
 身体の一部を起こしていた自分も気づいていたが、吹雪の音に対して、感慨は特に抱いていなかった。だって、眠りの方が大事だし。
 イザードは拒否しないが、曲は好まない。自然の音を好む。
 轍も歌詞の要素が薄い曲、ケルトアイリッシュだったり、ジャズだったり、オルトナティブ、ポストロック、インストといったものを好む。歌詞が入っているのはごちゃごちゃしてて好きではない。
「……解ったから、寝かせろ」
「遭難してる時でも寝るのが優先なんですね」
 イザードがやれやれと溜め息を吐く。
 0.4秒以下で眠られたと呆れているが、轍としては寝る為には惜しまない。
 あったかお布団との融合が理想でも、それがなかろうが、仕事が終わり、眠る場所があれば寝る。平等な睡眠は誰にでも訪れる。
 イザードも既に眠りに落ちている面々が多い周囲を意識してか、無理に起こすつもりはないらしく、轍は眠りに落ちていく。

 イザードは轍が眠りに落ちたのを見、もう1度外を見た。
 吹雪の収まった外へ空気を吸う名目で外へ出ると、音すらない静寂の空間が広がる。
 音、という単語にイザードは、名乗ったあの瞬間の轍の顔を思い出す。
 恐らく、本当の名前でないことに彼は気づいたのだろう。
「響きは、近いと思うんですが」
 イザードは、それだけ呟いた。
 けれども、その呟きに返す者はなく、音のない空間に静かに響いて消える。
 消えた響きの意味を知る者はイザーク以外なく、イザークはただ、その胸に留める。
「自分も休みましょう。夜明けはまだのようですから」
 呟き、洞窟の中へ戻っていく。

 『赤』を与えた男が歩く道の雪は、その空間で唯一の音を奏でる。
 まるで、その道の最後まで歩き続ける男を最後まで見届けるかのように。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【不知火 轍(aa1641)/男/21/『赤』を知ったヒト】
【雪道 イザード(aa1641hero001)/男/26/自称道具の将来オカン】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
出会い、誓約の話ということですので、既に納品されているピンナップも拝見した上で彼らのその瞬間を執筆させていただきました。
イザードさんに引き摺られながら道を歩く尻に敷かれる轍さん……ノーアルコールノーライフ精神で色々頑張ってください。
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2016年10月03日

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