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『イザード、仕事なき日常 』
雪道 イザードaa1641hero001

 遠くで、子供が泣いている。
 雪道 イザード(aa1641hero001)はそれを認識して、顔を上げた。
 距離はそこそこある……泣き声の種類を考えると、転んで泣いた、だろうか。
 声の方角、距離を割り出す───日常の中であっても、それらを鍛える術はこのように転がっている。
(距離的に近所の公園でしょうから、誰かと遊んでいる最中だとは思いますが)
 子供は、別に好きでも嫌いでもない。
 が、泣かれるから、小さい子には近づけない。
 近づきたくないのではなく、近づけない。
(あぁ、親御さんが近くにいたようですね)
 子供の泣き声には、母親へ泣きつく色が出始めたので、泣き止むのは時間の問題だろうと思う。
 実際、徐々に泣き声は落ち着いていき、やがて止んだ。
(何よりです)
 イザードは心の中で呟き、乾燥させていた茶葉を検分する。
 ……もう少し乾燥に時間が掛かりそうだ。
 この所の天気の影響で乾燥させるのに時間が掛かってしまっているのだろう。
 依頼の品でもなく、特に急いでいる訳では───
「うっかりしてました。これは毒がある方でしたね」
 イザードはそれに気づいて、一部の葉を取り除いていく。
 この世界に来てからも、自分が日常的に飲む茶は自分で採り、乾燥させて作っている。中には、元の世界になかったのか、茶に出来ると教わって初めて知るものもあり、中々興味深い。
 この前も、ミントというハーブについて聞き、茶葉に出来ると聞いて、試しに作ってみているのだが、注意するようにと言われていた、毒性のあるミントが混じっていることに気づいたのだ。
「箪笥に入れようと思っていたのが混同していたようですね」
 うっかりしてしまった。
 この世界の存在ではない自分にはこのミントの毒は何の悪影響も及ぼさないが、この世界の人間はそうではない。
 イザードは和紙に防虫剤、と達筆に書くと、ミントを包んで箪笥の中に入れた。
 残るミントは毒のないミントであり、茶にして好まれるものらしいからこのまま茶葉にしていいだろう。
「自分には馴染みがないものですと、やはり見落としが怖いですね」
 最後まで気づかないと言う愚を犯さないのは、日々の鍛錬の成果によるものか。
 けれど、イザードはそもそも最初からうっかりしないことが大事だと考えている。
 今回はこうして何事もなかったが、たった1つのうっかりが取り返しのつかない事態を呼ぶ場合だってあるのだ。
「そうした意味において、料理とは実に重要ですね」
 命を頂戴する料理にやり直しはない。
 そうした精神を養うのには重要だ。
 料理は家事のひとつであり、日々行うものであるからこそ、養われるものもある。
 考えながら、笊の中のミントを検分し終えたイザードは日課である薬草作りの着手することにした。
「頼まれていたものですしね」
 手にしたのはオトギリソウ。
 (イザード的には興味ないが)怖い花言葉も持つが、薬草としての効能を持っている。
 打ち身や切り傷に使用する場合は、必要な時に必要な数を採取し、葉から汁を絞って傷に塗るのだが、今回はそちらを作るのではない。天日干しで乾燥させ、生薬で言う小連翹を使用する。
 日本では8月から10月頃、オトギリソウは実は成熟する頃合いになり、その頃合いで採取したものをそうして乾燥させている。
 こちらは服用する薬であり、鎮痛剤などの効果がある。
 勿論、今の状態ではそのまま服用出来ない為、イザードはまず小連翹を丁寧に刻んでいく。
「あとは服用の注意も書かなければいけませんしね」
 薬も過ぎれば毒になる。
 イザードはそれを知るからこそ、自身が作る薬を作っただけにはしない。
 渡せるように包んだ後、服用の仕方や注意などを書き留めると、もう夕方だ。
「さて、そろそろ夕餉の支度をしましょうか」
 台所へ歩いていくと、イザードはそれを見る。
 所謂、兵糧丸だ。
 もう少し改良の余地があると思うその兵糧丸は、今自室の布団と融合している能力者作である。
(配合を変えるだけでも違うと思うのですが)
 手出しするつもりはない。けど、ついつい、自分が思い描いた配合の改良版を作ってみてしまう。
(……折角ですし、だご汁にでもしましょうか)
 ふと思いついた料理だ。
 改良版の兵糧丸をだんごとした、だご汁……今日はそれにしよう。
 イザードはひとり頷き、夕餉の支度に取り掛かる。
 尚、イザードの創作料理は、『美味しいが見た目に難がある』為、この後クレームが出たことについては一言添えておきたいと思う。

「見た目も重要ですね」
 イザードは万年筆を走らせ、検証していた。
 持ち歩き可能な小さなメモ帳は、他の料理上手な知人達に見せる為の色合いが強く、その為に毛筆ではなく、万年筆で書くことにしている。シャーペン、ボールペンの類は使い難く感じるが、万年筆は毛筆程ではないが、使い易い。
「そんなに独特とは思ってないのですが」
 それを話した時に言われた評価を思い出し、イザードは万年筆を見る。
 自分にとって、これが使い易いから、独特といったことを意識していなかった。
 そもそも、イザードの睡眠に忠実な能力者の男はパソコン主体で字を書く機会は自分よりは少ない。
「その位自分で書きなさいと言うのに」
 別のことも思い出したのか、イザードは溜め息をひとつ零す。
 イザードは、機械類が得意ではない。
 使用方法が解るのと、自身の好みは別の話だ。
 そういうのに対し、無縁であったのだろうことは予想がつく。

 ふと、顔を上げた。

「忘れる所でした。今日は、『そう』でしたね」
 音を感じさせない動きで立ち上がると、静かに歩いて外へ出る。
 それから、足を止めて振り返った。
「いってきます」
 笑うその顔は、何も語らず語らせず。
 固執していない過去と同じように彼は笑うのみで口にはしない。
 尤も、いってきますを向けた相手は、全ての意識を眠りに落としていないとは言え、寝ているから、イザードの言葉を聞いてはいないのだが、彼を仕事に引っ張っていくのと同じように、好きにさせてもらっている、それだけだ。
「では、行きましょうか」
 ゆったり呟いた彼は夜の闇の中に溶けていった。
 彼が向かう先は───?

「エージェントの仕事がない日、ですか? 一応別の仕事はしていますよ。寝てる時を選んでいますが。ですが、自分は、誇れないような仕事はしていません。では、何をしているか、ですか? ……何をしているように見えますか?」

 何もない日の副業を彼はそう答え、笑うだけ。
 阻むように、拒むように───ただ、笑うだけ。
 彼の真意は、彼だけが知っている。

「実際、ひとつではないから、自分も答えようがないのですけどね」

 それは、誰の耳にも入らぬ呟き。

 現代社会における一通りのことは出来るからか、取り立てて仕事には困らないイザード、仕事のない日、轍が寝てる時は、街のどこかで何かの仕事をしている。
 誰かに留まらぬよう、その存在を薄くして。

 今、彼は、どこで、何をしている?

 ───その答えは、『あなた』の何気ない日常の中にあるのかもしれない。

 本当に、『彼』に見覚えはないか?

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【雪道 イザード(aa1641hero001)/男/26/笑顔で阻む者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
にっこり笑顔のイザードさん、中々の曲者ですよね。
とてもイイ笑顔の方と思います。
笑顔のイザードさん、案外、すぐ近くで働いているかもしれませんね。
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2016年10月03日

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