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『―― まよいの人形 ―― 』
夢路 まよいka1328

「あ……」
 街を歩いている時に、ふと目に留まったもの。
(人形……)
 そこは人形を扱う店で、飾られている人形はどれも可愛いと思ったが、一番目立つところに置いてあった人形は何故か夢路 まよい(ka1328)の心を掴んで離さなかった。
「……パパ」
 飾られた人形を見ていると、まよいは転移前に暮らしていた『地下部屋』のことを思い出した。
 自分のことを『パパ』と呼ばせていた男性。
 本物の『パパ』だったのか、今となっては知るすべもないけど、あの頃の記憶は確かにまよいの心の中に生きている。
(そういえば、今の私は人形なんて持ってないなぁ……)
 地下部屋で暮らしていた時は、部屋を埋め尽くさんばかりの人形に囲まれて生活していたことを考えると、1つの人形も持っていない今が少しだけ寂しく感じた。
「お姉さん、人形に興味があるの?」
 ぼんやりショーケースを見ていると、店主らしき女性が声を掛けてくる。
「興味があるっていうか、昔は沢山の人形を持ってたから、その時のことを思い出してただけ」
「へえ、じゃあ君は人形が好きなんだね」
「嫌いじゃないけど、すぐに壊れるから退屈になったことはあるかな」
 にこにこと人当たりの良い笑顔を浮かべた女性は、まよいに問いかけるのだけれど、彼女が答えた言葉にピシリと表情を凍り付かせた。
「……壊れる?」
 眉をひそめながら、女性は伺うようにまよいを見つめる。
「私、ちょっと乱暴なところがあるみたいで人形の方が壊れちゃうの。でも壊れる姿を見るのも嫌いじゃなかったかなー」
「……」
「そういえば、この前人形型の歪虚を壊したこともあったんだけど、昔を思い出して、他の歪虚を『壊す』時よりも楽しかったかな」
 まよいが言葉を発するたびに女性の表情が険しくなっていくことに、彼女は気づいていない。
 それもそうだろう。
 まよいはそうやって過去を過ごしてきたのだから。
 人形を壊してしまったことを反省するよりも、なぜこの程度で壊れるのか、という疑問の方が先に来るような少女だったのだから。
「久しぶりに人形を買うのも――」
「……私は迷っているわ、あなたのような子に大切な人形を売ってしまっていいのか、と」
「え?」
 それまでショーケースに向いていたまよいが、女性の方を見る。
 すると怒りや悲しみに満ちた表情で自分を見る女性と視線が絡み合った。
「どうして、そんなに怒ってるの? 私、何か悪いことした?」
「……きっと、あなたの過去は私には想像もつかないものだったんでしょうね。人形で遊ぶ上で壊れるのは仕方ないと思う。けど、壊すことを目的として遊ぶのは話が違う」
「……?」
 女性が必死に訴えてくるけど、まよいには理解することが出来なかった。
「その子に人形を売るか売らないか、それは奥で作業を見てからにしたらどうかな」
 奥から人形職人らしき男性が出てきて、女性は驚いたような表情を見せる。
「この子に制作過程を見せるって言うの? この子、人形を壊すことを何とも思ってないのに」
「どんな風に人形が作られるか知った上で壊せるか、壊せないかを判断すればいい。お嬢さん、どうかな? 君に時間があれば……の話になるんだが」
 男性の言葉に、まよいは少しだけ考え込み、小さく頷きながら「見ていく」とだけ答えた。

 ※※※

 地下室に案内され、まよいは過去のことを思い出し、自然と手を握りしめる力が強くなる。
「……これ、一つ一つ手作業なの?」
 小さな部屋には人形のパーツがずらりと並んでいて、機械は一つも置かれていない。
「そうだよ。手作業だからこそ、作り手の心が人形に宿る――というのが持論でね」
「……作り手の心が、人形に宿る?」
「丹精込めて作った人形だ。買ってくれる人に大事に使ってもらいたいじゃないか」
「大切に使う……」
 それは人形を乱暴に扱い、よく壊していたまよいには聞き慣れない言葉だった。
「お嬢さん、どうする? 人形を買っていくかい?」
 男性から問いかけられ、まよいはしばらく考え込んだ後に「買うわ」と短く答えた。
「大丈夫だよ」
 心配そうな女性に男性が優しく言葉を投げかける。
「この子はもう人形を大切にするということを知ったのだからね、もう大丈夫さ」
 この日、まよいは黒のゴシックドレスを着た女の子の人形を買って帰ることにした。
 部屋に閉じ込めたままではいけない、とよく外に連れ出しているが、丁寧に扱っているせいか、今のところ人形は壊れていないし、壊れる気配もなかった――。



―― 登場人物 ――

ka1328/夢路 まよい/12歳/女性/人間(リアルブルー)魔術師(マギステル)

――――――――――

夢路 まよい様

こんにちは。
今回もご発注頂き、ありがとうございます!
今回は「人形を大切に」という内容でしたが、いかがだったでしょうか?
気に行って頂けるものに仕上がっていましたら幸いです。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2016/10/7
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水貴透子 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年10月07日

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