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『蝙蝠娘の付き纏いを上手く諦めさせられなかった後の話。 』
黒・冥月2778)&速水・凛(NPC5487)

 出来るもんならやってみな、か。

 聞いた時点で、はぁ、と黒冥月は思わず溜息一つ。…TPOを考えない輩は面倒で困る。私との間合いを計りつつ、獣めいた姿勢で低く構えてこちらを窺っている蝙蝠娘――やる気満々らしい速水凛の姿。…こうなればもう、大人しく帰りそうに無い。
 仕方無く私は影を再び広げ、地面の下も含めて空き地全体を再びドーム状に囲う事をする。今度は凛一点に収束させる事はせず、そのままこの場と外界を完全に隔離した。この隔離領域内外への移動や感知は、次元の移動や空間を超越する、もしくは異能を解除する何かでも無い限りは不可能。…あまり能力の応用を見せたくは無いが――見せたところで対応出来る類の能力でも無い。まぁ、凛の場合がどうかは今のところ未知数だが。
 さて。

「仕方無い、遊んでやるからかかってこい」
「ッハ、そう来なくっちゃ!!」

 打てば響くような――何と言うか、嬉しそうな凛の反応。先程得物を召喚しようとした時のように中空に手を伸ばすと、今度こそそこに――青竜刀らしい幅広の刃が付いた長柄の刀が具現した。今度は即座に潰す事はせず様子を見る――召喚と言うより、先程の光の粒もとい場に来ていた妖精どもが再度集まり、その形を構成していると見て取れた。…特に新たに妖精をこの場に喚び込んだ気配は無い。
 何にしろ、先程まともに具現する前に私が潰した得物はそれと同じものだろう、と思う。思う間にも凛は当たり前のようにその刀の柄を掴んだかと思うと――そのまま得物の重さに振り回されるようにして、また、軽く踏鞴を踏んでいる。…その時点で、おい? と少々訝しく思う。が――次の瞬間には、一気に青竜刀の刃が予想だにしなかった方向から私に肉迫していた。見て確認してと言うより、殆ど皮膚感覚で――反射の領域で回避する。…内心、軽く驚いた。実際に青竜刀を振るっている凛の色々覚束無い――ように見える――姿を見ていた筈なのに、今そう来るとは寸前まで全く思わなかった。何処をどう動いて今の攻撃に至ったのか、その過程がいまいちはっきりしない。
 刃を振り抜いたその攻撃を私が避けた時点で、凛は、お、と軽く感嘆を吐いている。

「姐さんでも初手くらいは簡単に入っかなと思ったんだけどなァ?」

 嘯きつつも、凛はこれ見よがしに青竜刀を大きく振り被っている。そのモーション自体はいちいち緩慢な上に、どんな技を行うにしろ重要である筈の体幹の置き方や足の踏ん張りすらも覚束無いような状態にしか見えないのだが――そこから放たれる実際の攻撃は、覚束無いどころではない。
 ついでに言えば、何の躊躇いも無く急所狙いな辺りも厄介だ。…例えば今撃ち込まれた初撃は、そのまま入っていたならまず首が持って行かれている軌道になる。

「…何だ、次の手は無い訳か?」

 初手くらいは簡単に入るか、と言う事は。…だったら楽に済むのだが、まぁそんな事はあるまい――思う通りに、凛はまた思い切り青竜刀を振るっている――私は今度は「先程の攻撃」を実際に感知した己の感覚の方に重点を置きつつ、改めて凛のその動きを観察する。
 ああ、そういう事か、と思う――動き方が、かなり独特だ。足の踏ん張りすらも覚束無いように見えたのは、恐らく左腕が無い状態で青竜刀などと言う重量級の得物を振り回すからこその、凛ならではのバランスの取り方なのだろう。ついでに言えば、攻撃モーションの途中から一気に重さと勢いが乗るのか、極端に加速される事にもなっている――ただ、その加速するのがどの段階でかが、わかり難い。これも身体バランスの取り方や力の籠め方が独特だからこそ、なのだろう。…少なくとも、刀術自体は異能の類では無さそうだ。
 そこまでわかれば二撃目は初撃よりも容易く避けられもする。影を使うまでも無く、身一つで躱すだけで充分――と。
 思い、実際に避けたところで――直後にまた皮膚感覚で反射的に避けざるを得ないような攻撃が来た。私が身を翻し避けた先を元々狙っていたように、次の一撃が飛んで来ている――青竜刀の、刃が。それも、誰に柄が握られているでも無い、何も無い中空からそれ単体で振り下ろされる形のものが――まるで凛が振り下ろしたかの如き加速度と重さの乗った状態で。
 私がその刃を躱すなり、そちらの刃は解けるようにバラけて光の粒めいた妖精どもの姿となる。中空に散らばったかと思うと、それらから悔しそうな拙い意思が複数ぶつけられた気がした。かと思えば、っらァ、と凛の気合いが聞こえる――肩口に担いだ形から、と思しき次の一撃が来る。呼応するように、凛とまともに相対するなら死角になるだろう方向からも殆ど時差無く別の刃が降って来る――私が躱すと、そちらの刃はまたバラける。そしてまた全然別の場所で青竜刀が新たに具現、再び攻撃を仕掛けて来る。
 それらを最小限の動きで一つ一つ躱しつつ、頭の中で状況を整理。凛が振るう青竜刀と、同じような攻撃を単独で仕掛けて来る青竜刀――と言うか、青竜刀に変じた妖精ども。緩慢な動作が含まれる凛の刀術から考えると、手数を補う為の使役か――いや。むしろ、妖精が勝手にやっているのか?
 となると、さて、どうするか。

「…っかしいなぁ全然当たらね」

 ぼやきながらも、凛は攻撃の手を緩めない。攻撃と言うより青竜刀を闇雲に振り回している――むしろ青竜刀に振り回されているだけのように見えなくもないが。だがそれで実際に来る攻撃自体は真っ当に威力がある。…なら、その独特なバランスで成り立っていると思しき攻撃方法の邪魔をしたならどう対応してくるか。迫る刃をこちらが躱した直後、これまた凛は刀の勢いに振り回されるような覚束無い様子になる――要するに一見、無防備になる。
 そう見えるだけか本当に無防備な状態か――確認の意味も籠めて、まだ青竜刀を振り抜いたフォロースルーの最中、私のすぐ間近に居るままの凛の足を引っ掛けるように――引っ掛かるだろう位置にさりげなく足を出してみた。…もしそれであっさり躓くようなら、そのまま軽く投げ技掛けるくらいしてやろうかと考える。
 が、意図しての行動か偶然か判別付け難い動きで凛の足運びが変わり――よろけるような頼りない様を見せつつもこちらの出した足に躓く事は無かった。ゆらりと態勢を起こして適切な間合いを取り、構え直すと当たり前のように次の攻撃に移っている。…勿論、そうしている間にも妖精どもの変じた刃の方はいちいち死角から私を狙って来る。
 次。今度はもう少し「その気」で崩しに掛かってみる。凛が次に攻撃するモーションに入ったか入らないかと言う段階で、刀を握るその腕を狙って影を鞭のように扱い撃ち出してみる。と、影の鞭が到達する直前の段階で不意にがくんと凛の態勢が落ちるように傾いでいる――そうなった事で、影の鞭からは逃れている。…これまた意図してか偶然かが判別付け難い動き。
 凛は今度はがくんと傾いだそこから、先程とは軌道を変えて青竜刀を振るう攻撃モーションに再び入る。その一拍置いた隙を補うように妖精どもの方の青竜刀が――今度は二方向からそれぞれ降って来た。すぐに続いてくるだろう凛の再度の攻撃と合わせて考えれば、さすがに身ごなしだけで躱し切るのは少々難しい角度と手数。後方に飛んでくる刃の一つを影を使って遮り、もう一つは身ごなしで避け、もう一つ――凛本人の攻撃ははっきり受け流す形でいなした。
 ち、と舌打ちが聞こえる。…但し、本気で悔しがっているようでもない――まだまだ余裕を感じる。私は凛の攻撃をいなしたそこで、取り敢えずのカウンターとしてすかさず掌底を撃ち込んでおく――が、これもまた軽く躱された。…但し、今度は偶然か判別付け難い形ででは無く、はっきり避けるつもりで動いていたのだとわかる形で。同時に、その当たり前とでも言いたげな避け方からして――先程までの動きもまた、偶然では無くそう意図して動いていた可能性の方が高いか、とは思う。
 となれば、まだ底は見えないか。…そもそも今の時点で凛は異能らしい異能を使っていない。これまでのところ私の前で披露したそれらしい能力と言えば、妖精を介しての遠隔での音声伝達と、妖精どもの変身能力だけと思われる。確認した限りでは、先程は凛自身に、今は複数の青竜刀と――凛のレインパーカーに変じている程度。そして変じた青竜刀は、凛の動きを手本にか自立稼働で(と言うか妖精どもの意思で)攻撃を仕掛けて来さえするが、物理的な攻撃以上の事はして来ない。
 再び青竜刀の刃が連続して撃ち込まれる――躱せる分は躱し、躱し切れぬ分はいなして対処。そんな攻防を重ねる中、どうやら青竜刀の本数が凛の持つもの含め三振り以上には増えそうにない事にも気が付いた――もう一振りでも増やして撃ち込んで来れば有利に持ち込めそうな局面になっても、そうしない。…増やせないのかもしれない。この場に居る妖精どもで構成出来る分だけ、が限界と言う事か。…となれば、それが凛の使役する妖精どもの数の限界か、はたまたこの空間の外部から新たに妖精を喚び込む能力は無いと言う事か。…まぁ、どちらだったとしても、今この場で出来る事の限界は同じ、と言う事になる。
 そこまでを見極めた時点で、私は己に撃ち掛かられていた三振りの刃を一気に打ち払いつつ、一足飛びに凛から少々距離を取る。凛から見れば次にその場から踏み込んで青竜刀を振り回してもすぐには届かない間合い――そうわかったか、凛の方でもすぐには次の攻撃に移らない。

「…まさか今更逃げる、ってこたァねぇよなァ?」
「それ程の技じゃない」
「へぇ、言うねぇ」
「まだ奥の手がありそうだが、もう充分だ――次は私が幾つか試させて貰おう」
「あン?」

 訝しげに凛が唸ったところで、呼応するように私の至近に青竜刀の刃が降って来る――凛ではなく、妖精どもが自立稼働させている方の青竜刀。凛の手が届かないと見たか、妖精どもの方で次のちょっかいを掛けに来たようだが――むしろ好都合。私はその青竜刀二振りを、影を使ってあっさりと捕縛した。凛が軽く目を見開く――少々驚いた貌になるが、私は特に反応はして見せない。
 代わりに、捕まえた青竜刀――妖精どもの内一体を、これ見よがしに引っ掴んで手許で観察。きー、とばかりに怒りつつじたばたと暴れる姿はまるっきり蛾の翅を持つ小人。…形容するなら妖精。邪妖精、とでも言ったところか。これが集まって変じる事で武器にも分身にも服にもなる、と。多数が集まると少々面倒だが、一体一体は然程の力は無さそうか。
 …まぁ、だいたいわかった。暫しの観察後、私は妖精を掴んでいた手を離す――と同時に影で掴み直し、そのまま握り潰した。凛からもよく見えるようにして。…ああ。私は「殴る」のが凛だとは言ってない。
 目の当たりにした凛の目が軽く眇められる。…ふむ。少しは気にするか…なら。辺り一帯、中空に何万本もの影の針を形成、ひとまず私で認識出来る分だけの妖精ども全てに突き刺し「殺して」見せる。…実際は殺してはおらず一体ずつ別次元の影に閉じ込めただけでもあるが、まぁ「殺した」ようには見せられるだろう。…先程、影で捕らえた青竜刀――影から逃れる為にそこからバラけ始めた分も敢えてそのまま見逃し、自由になったと思わせてからわざと影の針を突き刺し「殺す」様を見せ付けた。
 これでどうかと凛の様子を窺う――窺う間にも、凛はまた手許の青竜刀を振り被り、すぐさま私に躍りかかって来た。…先程までの緩慢さと比べると、少々質が違うように見える迅速な動き――だが。それでも意味は無い。私に向かって振るわれるその青竜刀自体を、私は一気に影の針で蜂の巣にする。…青竜刀からバラけて逃れようとした妖精も勿論全て刺し貫く――そうして無力化を狙う。

 が。

 手許の得物が消失したそこで、凛の口角が俄かに吊り上がるのが見える。これは怒りに駆られての行動では無い、とその時点で察した。時間にすればコンマ以下。無手になった凛の攻撃を受け流すのでは無く咄嗟に避ける事を選択――受けては駄目だと己の…暗殺者の勘、の領域で判断した。そして事実、無手のまま躍り掛かられたそこで――消失した得物の代わりに撃ち込まれていたのは不意の「熱」。得物を持ったままなら振り下ろして来ていただろう攻撃軌道そのままに、爆発的な炎の多段攻撃が撃ち込まれている。
 避けられたのは殆ど間一髪。己が躱し切れたそこで、私は咄嗟に凛の顔を影で覆う。理屈も何も後回し。今は取り敢えず照準を付けさせない事で対処しておく。…理屈や正体はわからずとも今のは凛の異能による攻撃だろうとだけは判断出来たので。
 正直、軽く背筋が冷えたが、勿論表に出す気など更々無い。
 影で顔を覆われた凛は、んえ? とか何とか要領を得ない声を上げつつ、きょろきょろと辺りを見回すように首を動かしている――まぁ、そうしても見えはしないだろうが。

「んっだよこれ目隠し? つか姐さんの影かよ。…ちぇ。折角面白くなって来たってのに」

 …。

 今ので「面白くなって来た」と来たか。結局、「殺して」見せた妖精については大して気にした様子が無い――本当は殺していない事をわかっているのか、はたまた妖精の生死に興味が無いのか判断付け難い反応でもあるが。…何だか、こいつ本当にただ遊び相手が欲しかっただけじゃなかろうな、と勘繰りたくもなって来た。
 気が付けば最早こっちの事を無視して顔を覆う影を剥がすべくあーだこーだと試行錯誤している凛の姿。…ついつい黙って眺めつつ、何とは無し呑気に思考を巡らせてしまう。…まぁ、確かに凛個人として考えるならば今回の件を然程躍起になって隠す事も無い、のかもしれない。凛の一連の物言いを都合よく解釈するなら、こちらの件を見逃す、もしくは協力してくれる可能性もゼロでは無い、かもしれない。だが虚無として放置してくれる可能性がゼロでは無い以上、事情は話せない。…何より「依頼主」が嫌がるだろう、と言うのもある。
 …そう。それこそ「面白がって」邪魔する方に回る可能性も高かろう。

 となると、やっぱり一発殴っておくのが手っ取り早いか。



 …と、つい殴って昏倒させてしまったものの、よくよく考えれば何も手っ取り早くは無い。何だか諦めさせられた気がしない以上、単に「初めに戻る」になってしまっただけの気がする。…ここに放ったまま立ち去ってもまた後で私を捜して付き纏うだろうし、起きるのを待って諦めさせるべく話をしようにも上手く行く気が全然しない。

 さて、ここはどうするのが正解なのやら。

【蝙蝠娘の付き纏いを上手く諦めさせられなかった後の話。ここでもある意味ブーメランな状況に】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年10月11日

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