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『―― 焦った代償は…… ―― 』
松本・太一8504

「……融合スキル、か」
 松本・太一は小さな声で画面に表示されているスキルを見つめ、呟く。
「これは『召喚』や『憑依』に続く、新しい魔物使役系のスキルってことでしょうね」
 召喚は一定時間魔物を召喚して使役するというもの、そして憑依は一定時間魔物を自分に憑依させて能力強化や固有スキルや魔法を得るというものだ。
 そしてこの融合は憑依と同じく能力強化や固有スキル、魔法を得られるのだが、ひとつだけ違う点がある。
(……効果は永続。キャラクターの作り直しをしない限り、転職してもそのまま、ですか)
 そう、融合スキルは使ってしまえば取り返しがつかないことにもなる。
 むしろ融合後のことが分からない以上、後悔する可能性の方が高くなるのだ。
「でも、ユニコーン融合なら……大きな失敗はなさそうですよね」
 そこらの魔物と融合するのはリスクも高そうだが、融合候補にしているのは松本が所持しているユニコーン。スキル的に成功はあっても、失敗はなさそうだから――……ということで、松本は融合候補にユニコーンを選んだ。
(……とはいっても、融合って一体どんな感じになるんでしょうね)
 強くなりたいという気持ちはあるが、その先にある結果に対して怖くないかと問われればそうではない。むしろ恐怖が強いからこそ、強くなろうという気持ちになるのだ。
(……考えている余裕はありませんね。異変を退けられるくらいの強さを手に入れなくては)
 ごくり、と喉を鳴らした後、松本は「融合」のスキルを発動させた。
「……対象者はユニコーン」
 短く呟いた後、画面が真っ白になり、松本自身も目を開けていられないほどの眩しさに見舞われた。

 ※※※

「……う、っ」
 それからどれくらいの時間が経ったのか、松本はふらふらとしながら立ち上がる。
(ん? なんか、身体が変……?)
 パソコンの画面に視線を向けると、融合成功、という文字が表示されているから、ユニコーンとの融合に問題はなかったのだろう。
「スキルは……完全治癒と自己蘇生が使えるようになっていますね――……え?」
 その時、パソコンの画面に映った自分の姿を見て、松本はピタリと動きを止めた。
「こ、これは……!?」
 パソコンの画面に映った姿が真実かどうか、松本は慌てて鏡のある場所に向かう。
「こ、これは……」
 鏡に映った自分の姿を見て、松本は絶句する。
 角と尻尾、そして獣毛が生えた状態であり、明らかに『LOST』内のキャラクターと同じ姿になっているからだ。
「どういうこと、ですか……」
 ここまでの侵食が一気に来たことで、松本は冷静さを失いかけている。
「……私は間違っていた、というのでしょうか」
 ここ最近、重要そうな情報を立て続けに手に入れることが出来て、今回の融合にも至ったのだが、取り返しのつかない状況になって、ようやく松本は頭が冷えたらしい。
「……慌てすぎていたのかもしれないですね、私は」
 鏡に手をつき、変わり果ててしまった自分の姿にため息しか零れてこない。
(女性化に続き、ユニコーンの半人半魔になってしまうなんて……)
 焦りすぎた結果、つまりは松本の自業自得ということになるのだが、決して私利私欲で焦っていたわけではない。だからこそ余計に落ち込んでしまうのだ。
(恐らく、この姿も女性化の時と同じように他人には違和感など与えないのでしょうね)
 この姿を同僚に見られたとて、彼らは普通に接してくるのだろう。
(どんどん『松本太一』という人間が消えていくような、そんな錯覚を起こしてしまいます)
 LOSTの異変によって書き換えられていく自分、それが本来の自分はいらないのだと言われているようで松本の心に影を落とす。
「……何とかして、これ以上の侵食をしないように頭を冷やさなくては」
 大きく深呼吸をした後、松本は鏡のある洗面所から出ていく。
 泣きそうになる自分を必死に堪えながら、次に自分がするべきことを探すために、彼は再びパソコンの前に座るのだった。

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます。
今回は焦った結果、事態の泥沼化――という内容ですが
気に入って頂けましたでしょうか?
楽しいと思って下さったのなら、私も嬉しいです。
それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2016/10/9
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