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『君の温もりを感じさせて 』
カミユaa2548hero001)&柳京香aa0342hero001

●君になら
「あら、雨」
 柳京香(aa0342hero001)が窓の外に気づいて顔を向けたので、カミユ(aa2548hero001)も倣って顔を向けた。
「傘持っていったのかしら」
「折り畳み位は持ち歩いて……なさそうかもねぇ」
 京香の言葉を聞きながら、カミユが見たのは玄関の方。
 腰を上げて確認しに行くと、京香のパートナーたる青年の長傘も折り畳み傘も発見された。
 自分のパートナー? そんな発想があるとは思えない。あの彼と2人きりで散歩という時点でそんな項目は失念しているに違いない。
(気づかれないと思っている辺りが……ねぇ)
 自覚しているのかどうかがそもそも怪しいが、カミユがそう思っていると、不意に京香のスマホが鳴った。
「え? 今から帰る? 解ったわ。気をつけて帰って頂戴」
 京香が話しているのが誰か、かは言うまでもない。
 自分のパートナーが一緒らしく、京香が2人分のタオルを準備し、それからいつでも浴室が使えるように整えている。
(いい機会かもね)
 カミユは、幻想蝶に目を落とした。
 預かったそれは、念じれば戻せるものであること、互いのパートナーと別行動であるなら自分が持っていようがカミユが持っていようが問題ないものである、ということらしい。
(それだけじゃないって知ってるけど、自覚してなさそう)
 『檻』から出た今、彼は『御伽噺』を生きている訳ではない。
 けれど、恐らく、自分の失われた記憶の向こうに立っていた少年が成長した青年であるなら、何者でもない自分でその時を過ごしたいのだろう。
 蓋をしようと思っているなら、尚更。
(自分のことなのに本当によく解ってないよね)
 面白いけど、面白くないと言うか。
 笑みに隠す本質的なものから来るものはどうともしがたい。
(……ま、あっちはあっちでやればいいよ)
 カミユは最終的にそう結論づけ、浴室が十分に暖まっていることなどを確認して戻ってくる京香を見る。
(綺麗で可愛い人だよね)
 自分より背が高くて、男勝り……みたいだけど、本質的にはそうじゃない。
 最初はそう思ってなかったけど、知っていく内に気づいた。
 この人は可愛い人なのだろうと。
 けれど、この人は可愛いだけの人ではなく。
 揺るぎない意思を持って自分のパートナーを守るべく立つ。
 その青年がカミユのパートナーを大切に思うならそれごと護るかのように、時には優しく見守り、時には確固たる意思を持って見据える。
『つまらない、なんてことはないわ』
 自分が話した『それ』に対し、京香はそう言った。
 少しでも知ることが出来て、良かった、と。
「カミユ? どうかしたの?」
 視線に気づいた京香が顔を向けてくる。
「ううん。準備は終わったのかなって思って」
「ええ、終わったわ」
 カミユが口調を飾る必要もなくそう言うと、京香は顔を綻ばせた。
 なら、とカミユが口を開く。
「2人なら大丈夫だと思うし、ボクの幻想蝶で話さない?」
 京香はカミユの申し出に時計を見、それから少し考える仕草をした。
「では、お招きに与ろうかしら」
 カミユは差し出した手に京香が重ねてくれたことに笑みを浮かべる。
 それは、今は京香しか知らない笑み。

●白き空間
 幻想蝶の容量は、ライヴスの量に相当する。
 シャーム共和国を舞台にした大規模作戦の際、救援を求める英雄へ各エージェントの幻想蝶が用いられたが、容量の限界は1人程度であるという見解があった。
 が、これは戦闘に備えてライヴスをそちらに回している場合の話。
 ライヴスに余裕を持たせた状態であれば英雄は2人までなら可能である。
 戦闘時では戦えない状態に等しい状態では危険が伴うだろうが、今はそうではない。
 2人で幻想蝶に入るには余力がある。

(……そうとは知っていても、他の誰かの幻想蝶の中に入る機会ってないわよね)
 京香は、一面の真っ白い空間を見回し、そう思う。
 浮いているのか浮いていないのか、上下感覚もあやふやになりそうだが、カミユが手を握っているから、少しだけ緊張はしていても怖くない。
「あ……」
 京香は、空間唯一の色彩に目を留めた。
 赤い猫のぬいぐるみが鎮座していて、やっとここは宙に浮いていないのだと実感出来る。
「白くて驚いた?」
「正確には、誰かの幻想蝶の中に入ったことがないから、かしら」
 カミユの問いにそう答えると、カミユは「それはあるかもね」と赤い猫の頭を撫でて抱き上げる。
「でも、居心地はいい空間なんだよ」
 赤い猫のぬいぐるみに視線を落とし、同意を求めるカミユ。
「ここにいたのね」
「ボクの1番のプライベートだからね」
 京香が赤い猫のぬいぐるみを撫でると、カミユが事も無げにそう言ってくる。
 その言葉の意味に京香は猫と同じ顔色になるが、カミユはのんびりと寛ぐように寝転がりだした。
「ありがとう」
 京香は促されるような視線に微笑を浮かべ、カミユの隣に腰を下ろした。
 真っ白い空間は何だか不思議だけど……隣にカミユがいるから、それでいいと思えるのが空間より不思議。
「元々居心地いい空間だけれど、隣に誰かいるのは初めて」
「そうなの?」
「だって、ここに入ったの、京香さんが初めてだし」
 京香さんならいいかなって。
 ごろごろ寝転がるカミユは無邪気なのに、その言葉は心臓を跳ね上げさせる。
「さっき、京香さんが他の誰かの幻想蝶の中に入ったのは初めてって言ったでしょ。それで思った」
「私も誰かを入れたことないけど、そう言えばって思ってね」
 京香が白い空間を見上げて呟く。
 『そう』想っているからだろうか。
 初めて入る他の誰かの幻想蝶の内部がカミユで良かったと思うなんて。
 ……カミユが自覚があるのかないのか、そのことを喜んでいるような気がするなんて。
 本音を聞かせてくれた人、私みたいな女を普通に女扱いする人、単純にかっこいいだけではない人。
 メールで告白されてから意識するようになり、今はそうだと自覚もしている。
(ただ、少し我が侭を言うなら……)
 京香は、寝転がるのを止めて自分の傍で赤い猫を抱えて大人しく横になっているカミユを見た。

●我が侭を言うならば
 カミユは、京香の視線を感じた。
 京香でなければ視線を振り払う為の言葉を放つが、京香の視線は心地良く、そんな気にはならない。京香さんなら、いいよ。である。
「この前はプレゼントありがとう」
「京香さんが気に入ってくれたら、それでいいよ」
 プレゼントを贈るのは、自分の為。
 そう口にせず、京香を見上げて笑む。
 だって、この世界に来る時、記憶を落としてしまったから。何度も落としたくない。落とされたくない。
 だから、贈る。
 贈りたいと思った、その瞬間が永遠になるように。2度と落ちたり落とされたりしないように。
 京香の瞳が優しくて、綺麗で、それから何か深い想いが見える。
 その手が伸びてきて、髪を梳くようにゆっくりと頭を撫でてきた。
 彼女でなければ不快である感触も、優しい温もりとして心地良く染み渡っていく。
「ね、京香さん」
 カミユは頭を撫でるその手を掴んだ。
 頭を撫でていたこと自体無意識だったのか、その指を絡めるように握ると、京香の顔が見る見る内に真っ赤になっていく。
「こうしてた方が、ボクは嬉しいかな」
 照れてるからだけではなく感じる温もりに少し安心する。
 低い体温でも、彼女に伝わっていることが───

 この人は、大切な人。
 『檻』を壊す方法を持ちかけようと思ったのはこの人がいたから。
 彼女より背丈が低いかもしれないけど、護りたいと言うこの人こそ護りたい。
 自分に出来る限りで大切にしたいと願える人。

 ボクはね───

「京香さんの傍にいたいし、京香さんが傍にいてほしいなぁって思ってるよ」

 その言葉の直後だった。

「え、京香さん?」
 カミユが、目を瞬かせた。
 京香の目から、ぽろぽろ涙が落ちていたから。
「え、やだ、ちょっと待って。見ないで」
 京香自身も涙を零したことが信じられなくて、隠そうとする。
 でも、それより早くカミユが隠そうとする手を掴んだ。
「……ボクは何か拙いこと言った?」
「違うわ。逆」
 京香はカミユの視線から逃れるように目を伏せた。
 カミユがじっと見ていると、京香は「あんた言わせるつもり?」と小さな声でぽそぽそ言い出す。
「だから、それ、私があんたにしてあげたいと思っていたことよ。本人が言うなんてずるいわよ」

 もし。
 許してくれるなら。
 私は、あんたの傍にいたい。いてあげたい。
 そうしたいと願っている。

 カミユは男勝りで豪快で、けれど実は結構可愛い綺麗な人を見る。
 帰りたいという感情が今はもうないのは、きっと京香さんがいるからだね。
 握った手を重ね、いつかの時と同じように、いつかの時とは違う想いで唇を落とす。
「ありがとう、京香さん」
 その手の向こうの人は、涙を引っ込めて真っ赤になり、けれども、自分の中では最も可愛いと思った可愛らしさで笑った。

 私はね、プレゼントはとても嬉しいわ。
 でも、そこにあんたがいなかったら意味がない。
 あんたが傍にいることが私には重要なの。
 もう好きになった人と死に別れたくない。
 生きて、生きて、生きて共に時を過ごしたい。

 少しだけ我が侭を言うなら、それだけなのよ。

 京香がその想いを込めて自分の意思を込めてカミユの手を握り返す。
 この手に感じる温もりこそ、欲しいものであるとばかりに。
 互いの温もりを感じることこそ、生きているという証だから。

「そういえば、今何時だろうね?」
「さぁ。時計がないから判らないわね」
「なら、呼ばれるまで、少しだけこうしてていい?」
「……仕方ないわね」

 京香の膝の上に頭を預けるカミユは、今呼んだらどうしようかなと頭の片隅で思いながら、静かに目を閉じた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【カミユ(aa2548hero001)/男/17/願い寄せる者】
【柳京香(aa0342hero001)/女/23/想い寄せる者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
今回はリンク形式とのことでしたので、同じ時間軸として描写をしています。
題材的にガッツリという程ではなく、緩やかにという形式です。
……この後どうなったのかはご本人達から話を聞いてください。
その温もりが途絶えませんように。
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2016年10月11日

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