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『大洗脳アルスマギカ 』
宮ヶ匁 蛍丸aa2951


「…………さん」
 声が聞こえる。
「ほ……さん」
 凛とした声、冷静な声、このあわただしい状況にも我を失わない鉄のような声。
「ほた……るくん」
 声が聞こえた。
「ほたるまるくん」
 甘い砂糖菓子を溶かしたような、女の子らしい声。
 その二人が必死に『黒金 蛍丸(aa2951)』の名前を呼んでいる。
「蛍丸さん、聞こえますか?」
 ガラガラと耳障りな音が響く、ここは高度一メートル程度の場所。蛍丸はそこに寝そべって運ばれていた。
「蛍丸君、意識はありますか?」
 つまりタンカだ、何かの事件があり、その結果蛍丸はタンカに乗せられて運ばれたのだ。
 それが何かはとうの蛍丸は思い出せない。
 ただわかるのは。これから運ばれる先は救急治療室などという、清潔な場所ではなくそこはろくでもないどこかだろうということだけだ。
「こ、ここは……」
 蛍丸はこわばった唇を動かして、やっとこさ言葉を吐いた。
 ただそれはかすれていて二人には全く聞こえないらしい。
 体をゆすろうにもベルトで固定されている。
 もうだめだ、そんな諦めを背負って、アルミの扉に突っ込むように部屋に入ると。
 そこには壁、天井を覆い尽くさんばかりに本が並べられていた。
 そして蛍丸は気が付く。本の装丁、タイトルは皆同じ。しかもそれはAGWだ。
 しかも有名な奴。アルスマギカその原点が。
 壁一面に設置されていた。
 蛍丸の全身から汗が噴き出した。
「蛍丸さん。起きてますか? お気を確かに」
 そう紫髪の女の人『ロクト(az0026hero001)』が告げる。
「安心して、傷は浅いから」
 そうポニーテールを揺らして、ナース服の『三船 春香(az0061)』が告げる。
「どうして、こんなことを、そして僕に何をするつもりですか?」
「理由が、わからない? 本当に?」
 そうロクトが眉をひそめると、白衣を翻して蛍丸の双眸を覗き込んだ。
 長い髪の毛がかかり、くすぐったくも首を振れない。
「ヒント、襲われた時のことを思い出してみて?」
 そう、春香が上半身だけを前にズイッと伸ばしていった。なだらかな胸としなやかな足が強調される。
「僕が襲われた時って。確かH.O.P.E.の食堂で、暁の皆さんを待っている時に……」
 蛍丸は自分の記憶の糸を手繰っていく。
「遙華さんを見つけて、そして……」
 そこで唐突に頭が痛んだ、そして思わず首を左にひねると、信じられないものを見た。
「蛍丸逃げて!」
 そこには十字架に縄でグルグル巻きにされている『西大寺遙華(az0026)』がいた。
「このこたち、もがっ」
 あわてて遙華に猿轡をはめる春香。
「おっと、余計なことは言いっこなしだよ遙華」
 もがもがと必死に暴れる遙華。しかしその猿轡は一向に外れてくれない。
 そして、蛍丸はその遙華の表情に既視感を覚えたのだ。
 そう、同じような表情を見たことがある気がした、つい先ほど、ここに来る前に。
「思い出しました」
 蛍丸は両腕に力をこめて拘束を解こうとした。
「僕は食堂に入ってこようとした遙華さんに手を振って、その直後」
 角材で殴られたのだ。
 ロクトが血がわずかに付着したそれを床に転がす。
「なんてことをしてるのよ! ロクト!」
 再び外れた遙華の猿轡。それを春香はまたまきなおす。
「どうして僕が……」
 こんな目にあわないといけないのか、そう疑問を投げかけようとしたところ。
 ロクトはにやりと笑って告げた。
「実験体が必要だったのよ」
「何のですか?」
 ロクトは天井を仰ぎ見ていった。
「アルスマギカのよ!」
 その瞬間、大量のアルスマギカを繋いだコードが一斉に光を放った。
「こちら、金の脳になります」
 春香がへんてこりんなメットを片手にそう微笑んだ。
「ええ! それって、それって!」
 アルスマギカ、それはグロリア社の技術が結集した最先端のAGW。脳に直接干渉し、魔力、思考速度。反射速度。すべての上昇を見込み開発。
 しかし残念ながら精神が汚染されてしまうという欠点がある、トンデモない代物だったのだが。
 その真の恐ろしさは連結したときの性能にある。
「一度百体のアルスマギカ連結実験に、とある人物が協力してくれたことがあったけど、すごかったわ。そのおかげでリチューンや、ヘブンの開発はどうにかなったのだけど。まだまだデータが足りなくて、今度はオリジン千冊を……」
「だ、だれかたすけてくださーい」
 蛍丸はそのやばさに気が付いて悲鳴を上げた。
 そんな彼の肩を春香が優しく抱き留める。
「大丈夫、痛みは一瞬よ」
「痛いとかの問題じゃ!」
「それに、痛いと感じる蛍丸君もすぐにいなくなるんだよ?」
 蛍丸はさっきとは違う意味で戦慄した。
「あら春香、言わなくてもいいって言ったのに。まぁいいわ。ねぇ蛍丸さん。あなた達がガデンツァの懐から盗み出してくれた資料に、洗脳技術ついても書かれていたでしょう?」
「あ、はいそうですね、詳しく見ているわけではないですけど」
「それを転用してみようと思って」
「なんで僕なんですか!」
「蛍丸逃げて! その人たちあなたを洗脳して」
 遙華が叫んだ。顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら。
「私のことを好きにさせるつもりよ!」
 蛍丸の顔が一瞬にして熱くなった。
「どどどどどどど」
「ああ、もう! ロクトも春香もおかしいわよ! なんでそんな」
「だって……」
 春香が言った。
「遙華を振るなんて正気の沙汰とは思えないんだもん」
 それにロクトが同意する。
「だって将来大富豪確定だものね。しかも見た目を気にしないのはマイナスだけど素材はいいし」
「脱いだら結構すごいんだよ? おっぱいおおきいよ?」
「性格も、今は悪くないわ」
「昔は高飛車で素直じゃなくて大変だったよ」
「金に容姿に、無難な性格。これ以上何を求める必要があるのよ」
 ロクトが蛍丸に尋ねた。その言葉を蛍丸は真っ向から切り捨てた。
「ボクはそんな風に、打算的に遙華さんを見たことはありません」
 春香とロクトは息をのんだ。
「遙華さんが素敵なのは否定しませんが、付き合えばボクに得がとか、体つきがとか、考えたことはありません!」
 その言葉に春香がしらっと反論する。
「嘘よ、おっぱいって言ったら目を泳がせたもん」
 春香が言う。
「いいえ! そんなことは」
 声が裏返る蛍丸。
「もういいわ、話しにならない」
 ロクトがそう告げると。
「洗脳しましょう、そうしましょう」
 春香が歌いながらメットの用意を始めた。
「あーるすまーぎー あーるすまーぎー」
「うわああああ」
「あのね、蛍丸さん」
 その時、ロクトの声音が優しくなったのを蛍丸は聞き逃さなかった。
「遙華はあれで、頑張り屋さんなの。でも努力では何も手に入れられなかった。親友であるルネは死んでしまった。両親もあの子に気を向けてくれない。それでいて男の子にまで振られたら、あの子は、なんのために努力してるの?」
 蛍丸はすべての言葉を飲み込んだ。
「だから、あなたくらい、遙華を好きになってほしくて」
 その言葉に蛍丸は抵抗の意思を消した。
「それは……。そうだったんですね。でも僕は……」
「お願い蛍丸君」
 春香がいった。
「そうですね、だったら僕は……」
 その留め金が、ゆっくりと頬にかけられる。
 その直後だった。
「やめて二人とも! 蛍丸を離して! これ以上ひどいことしたら承知しないから」
 今まで聞いたこともないような鋭い声に蛍丸は気を取られた。
 見れば遙華は両目を潤ませて、二人に食ってかかろうと足に力を入れたりして。でも前進できないものだから、その足は地面を滑り。ずるずると音がしていた。
「なんでそんなことをするの? 蛍丸の心が大切なんじゃない、作ったって意味がないわ。そこに蛍丸はいないじゃない!」
 その言葉にロクトが反応する。
「だって、貴方ふられて傷ついていたでしょう? あんなに落ち込んでいたじゃない。蛍丸さんを避けたりして」
「だって気まずいじゃない。蛍丸はもうこの人と決めた人がいるのでしょう? 私がそのあたりをうろちょろしてたら、その人不快じゃない。蛍丸を好きな人が傷つくわ。そしたら蛍丸も傷つくじゃない」
 そして遙華は力尽きたのか、縄にもたれかかるようにうなだれた。その目から涙がこぼれる。
「遙華さん」
 その遙華の頭を蛍丸の手が触れた。
「え?」
 遙華が顔を上げると蛍丸がそこにたっていた。解放されたのだ。
 春香とロクトが二人に温かい視線を送りつつ佇んでいる。
「そんな風に考えていたんですね。遙華さん」
「…………」
 無言の遙華の縄を切る蛍丸。
「ごめんなさい、僕が無神経でした。ちゃんというべきでしたね。僕は別に遙華さんが嫌いだから振ったわけじゃないんです」
「…………うん」
「そして、勝手なことを言ってしまうと思って、言えなかったのですが。僕は遙華さんとずっとこのままの関係でいたいです。避けたり、避けられたりは嫌です」
「……うん」
「いままで聞けなくてごめんなさい。お付き合いはできませんけど、遙華さんが一番いいと思う関係や距離感を探していきましょう?」
 そう告げると蛍丸は笑って告げた。
「今回は助けられましたね」
「いいのよいつも助けられてるから」
 そこでやっと遙華は言葉らしい言葉を返した。
「いえ。これは恩です、ボクも絶対助けます、遙華さんが助けてほしい時には必ず」
「うん」
 そう最後に遙華は笑った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『黒金 蛍丸(aa2951)』
『西大寺遙華(az0026)』
『ロクト(az0026hero001)』
『三船 春香(az0061)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は恋愛ノベルご注文ありがとうございました。
 鳴海です、いつもお世話になっております。
 今回、何と自らグロリア社の実験体になりたいと志願されたということで、実際になってもらおうかなとも思ったのですが。
 遙華ちゃんが許してくれませんでした。
 この後春香もロクトもめっちゃ怒られてます。
 二人としては遙華がうじうじしているのを見てられなくてやっただけなんですけどね。
 そしてこの件で二人の関係はフラットに戻ったのかなと。
 そんな日常の一こまを演出してみました。
 それでは今日はこのあたりで。
 鳴海でした。ありがとうございました。






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2016年10月12日

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