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『Viscaria 』
ゼノビア オルコットaa0626)&レティシア ブランシェaa0626hero001

   その望みは、叶えてみせる

●時の流れ
 ゼノビア オルコット(aa0626)は、ブラックコーヒーを口に運ぶレティシア ブランシェ(aa0626hero001)が窓の外に目を移したのを見た。
 初めて出会ったのは、まだ11歳の時で、あれから年月は経過したけど、レティシアの容姿に変化はない。
(前の世界で死んだから、かな)
 ゼノビアは英雄の加齢についてはよく解らない。
 正確に言えば、ゼノビアでなくとも誰も解らない。
 何故なら、そもそも召喚のメカニズムすら本当の意味で理解している者が誰もおらず、そこを理解していないのに加齢などというものを解き明かすことなど出来ないからだ。
 ただ、自分はかつての世界で死んだ、という事実を受け入れているレティシアは元の世界に戻ることは出来ないだろうとは思う。
 それはエージェントとしての初休日で足を運んだ遊園地の観覧車の中でゼノビアが聞いた答えにも現れており、レティシアが本心からそう思っているのは事実だろう。
(11歳、ってなると、結構経った感覚)
 ゼノビアは出会った日のこと、出会って間もない頃初めてメモで話しかけた日のことを思い出してみる。
 今振り返ってみると、自分が怯んでいたレティシアの冷たさは、レティシアの余裕のなさから来るものだったのだろう。
 月日が経過した今なら、あの時のレティシアの態度も理解出来るのだ。
「何、人の顔じろじろ見て、笑ってるんだ」
 レティシアが気づき、こちらへ顔を向けてきた。
 居候している部屋の下にあるカフェは本日休日で、しかも主は外出中なので今この空間にいるのは自分達だけとあり、レティシアもいつもより遠慮ない物言いだ。
『じっと見てたから、この前のことを思い出して』
 ゼノビアが指し示した先には、レティシアが見ていた花壇がある。
 シャーム共和国を舞台にした大規模な作戦が始まる前、こうして窓の外を見た時には薄いピンクの花があの花壇には咲いていた。
 ビスカリアという名の花で、望みを達成する情熱という意味があると聞き、望みは何かと話題になったのだ。

『レティシアにぎゃふんと言わせること』
「ぎゃふん」
『そうじゃなくて心の底から』
 
 平穏なやり取りなど嘘であるかのように、シャーム共和国の大規模作戦は行われた。
 その大規模作戦は終わり、状況も落ち着いた時にはビスカリアの季節は終わっており、あっという間に巡るものだと実感する。
 ビスカリアの季節は初夏、けれど、今はもう初秋だ。
 初秋ということは、エージェントになった節目を意識する季節で、あれから1年経ったのかという思いが胸を満たす。
 誓約を交わし、歩み寄り、そして、自らも戦うことを望み、その為にレティシアから手解きを受け、武器を手にするようになった。
 やがてエージェントとしての活動拠点を日本に移す為、孤児院も卒業した日、院長も職員も子供達も無理せず無事に笑っていてほしいと願って送り出してくれたものだ。
 それから、1年だ。

『あと、もう1年だなって思って』
「そうか。もう1年か」
 ゼノビアのメモの字を見て、レティシアはなるほど、と納得した。
 同時に、時の流れを実感し、また窓の外へ目を移す。

●歩いてきた軌跡、歩いていくこれから
 子供であるゼノビアを戦いの場に出すことについて、レティシアが最後まで反対していたのは、戦闘がそんなに甘いものではないと彼は記憶が欠落していて尚も解っており、ゼノビアがまだ子供であること、声を失った事情が事情であること、性格的にも不向きであると知っていたからだ。
 けれど、ゼノビアはレティシアが何度反対しても食い下がってきた。
(自覚しているかどうかは知らないが)
 ゼノビアは控えめであるが、決めたことを譲らない気質がある。
 だからと言って戦いに向いているから許可を出すという話でもないが、ゼノビアは愚神に関する憎悪が深い部類だろう。見え難い分、根が深い。
 それをどうしても譲らないなら、絶対に死なないよう育てる。手心はない。
 レティシアはそれを決断し、ゼノビアに宣言通り手心加えることなく訓練をつけている。
(……あと、割と負けず嫌いだった)
 ゼノビアは自分相手なら、自分のような口の悪さはないが、悪態をつく。
 英語で、屁理屈だとか何だとか漏らしているの、気づいているから安心しろ。
 6月のスポーツフェスティバルでも全力勝負が敬意であると手心はなかったし、負ければ相手への健闘を称えると同時に自分へ改善点の意見も聞いてきた。勤勉な性質もあるが、負けず嫌いの性質も元々あったのだろう。
 何故なら───
『ちょっとは強くなれたかな。仕事は出来るようになったかなって思って。訓練教官レティシアさんから見てどうですか?』
「まだ危なっかしい箇所のが多いけどな」
 読ませる相手が自分とあり、慣れている英語でそう記すゼノビアは軽口に近いことも今では書き記す。
 レティシアは軽口に対して、手心のない評価を下す。
 まだまだか、といった表情をするゼノビアに言葉を続けるのを忘れない。
「ただし、広州の天空塔の戦いで、一般人に被害を出さなかったのは護衛対象の多さを考えれば上出来だった」
 広州の天空塔と呼ばれる戦いにおいて、ゼノビアは一般人が取り残されたエリアに足を運び、救助活動に携わった。
 中国でも有数の大都市広州のシンボルたるこの天空塔、取り残された人々も10人20人の話ではなく、2回に分けて行われ、ゼノビアは第1陣の護衛、殿を務めたのだ。
 途中、姿を擬態させる能力を持つ低位人狼の奇襲を受けた際、ゼノビアは威嚇射撃による援護も含め、他のエージェントと力を合わせ、倒している。
 目立った功績と思わない者もいるだろうが、多数の護衛対象に一切攻撃を到達させていない事実は、先行エージェントの合流なく、第1陣の護衛が2人のみであったことも踏まえれば、彼女達の紛れもない戦功だ。
 レティシアは、リジェネーションを受けて無傷となった範囲で済んだことも考えれば、ゼノビアの大きな成長であると思う。
(あの時、声を発して落ち着かせる道を選んだ。聞こえないと躊躇うのではなく、その意思を示した。絶対に護り切る覚悟がなければ、足を引っ張っていただろう)
 レティシアは、共に戦った彼女も戦いに慣れていないと判ったから、彼女の英雄共々感謝している。
 何故なら、彼女達はゼノビアにその背中を任せてくれた。
 彼女達は奇襲を受けた分少し傷は残ったようだが、重傷と呼ぶ傷がなかったことこそが彼女達の勲章である。
 彼女達は彼女達の戦場で最大の戦果を上げた。
 そして、あの戦いに身を投じた者はそれぞれの戦場で最大の戦果を上げた。
 あの戦いで齎したものは戦功だけではないだろうが、そうした事実があるからこそ、こういう評価を下せるのだろう。
(嬉しくはあるがな)
 だが、表に出したら、ダメだと思うレティシアは嬉しそうなゼノビアへ「他は課題だらけだ」とデコピン1発。
 ゼノビアは自分が嬉しいと表に出しても慢心することはないのは解っているが、自分がダメだ。
 死んで欲しくないと思う自分に出来るのは、手心なく鍛えることだけだから、嬉しいと表に出したら、自分がゼノビアの限界を決めてしまうみたいで、したくない。
「大体、お子様味覚いい加減何とかしろ。今だってアイスココア飲んでるし。どうせ冬になったら温かいココアとか言うんだろうが。見てるだけで甘くなる」
『お子様味覚とココアは関係ないと思いまーす』
「関係あるだろ。それを証拠に、お前が作るカレーは甘口過ぎる」
『レティシアが好きなカレーが辛過ぎるのがいけないと思う』
 レティシアが言うと、ゼノビアはすぐにペンを走らせて反論してくる。
「カレーは辛いものだろうが。だからお子様味覚って言ってんだろ」
『レティシアがあの頃みたいに冷たいこと言うなんて……』
 ゼノビアの文字に、レティシアがぐっと詰まる。
 あの頃のことを持ち出されるのは、気まずいのだ。
 振り返れば、大人げのある態度でなかったのは事実で、ゼノビアが話しかけるのに時間を要したのも理解出来る。11歳の、それも親が殺されて孤児院に身を寄せていた子供に取る態度ではない。
 だが、ゼノビアはあの頃を笑い話に出来る位には強くなった。
 たまに話題に出して、自分の気まずそうな反応を見て笑うこともある。
『私そんなレティシアに育てた覚えはないのに』
「俺がお前を育てているのは解るが、お前は俺を育ててないだろ』
『教官のレティシアさんは冗談が通じません』
 こんな会話も、過ごした月日があるから出来ることだ。
 レティシアもゼノビアとの間合いが分かるから、こう切り返す。
「そういうこと言うと、そのココアに唐辛子のパウダーを入れるぞ。最後まで飲めたら、ぎゃふんと言ってやる」
『何てむごいことを』
「嘘に決まってるだろ」
 ショックを受けるゼノビアにレティシアが引っかかったと笑う。
 ちょっとした嘘も信じるゼノビアをからかうのは、本人に言うと怒るが、実に楽しい。趣味だ。
 すると、ゼノビアが頬を膨らませて拗ねながら、文字を走らせる。
『今日の夕飯は私が頑張って、レティシアが好きじゃないもので私が好きなもの沢山作る』
 最近始めた料理が楽しいゼノビアがしてくる、戦闘以外の攻撃のひとつだ。
「なら、明日、俺は俺が好きで、ゼノビアが好きじゃないものを沢山作ってやる。俺は好きじゃなくても食べられない訳じゃないが、さて、お前はどうかな」
「……You are so mean」
「You’re welcome」
 ゼノビアが掠れた声で英語の悪態をついたので、レティシアはわざわざ英語で言ってやった。

 あれから、月日は経った。
 変わったこと、変わらないこと、沢山ある。
 けれど、これからも歩いていくのは変わらない。
 運命を開く未来の願いの灯は胸から消えていない。
 この望みを叶える情熱は何も失われていない。

 あの時から今日、今日から明日……その先にある答えを知る術はないが、その答えを掴む為、今日も生きていこう。

 全ては、何も終わっていない。
 全ては、2人で切り開いていく。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ゼノビア オルコット(aa0626)/女/16/可能性を掴むビスカリア】
【レティシア ブランシェ(aa0626hero001)/男/27/途絶えぬクリムソン クローバー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
3連作の第3話、最終回は日常の話となります。
楽しい話をということでしたので、その要素を入れながらも、1話、2話、更にゼノビアさんの成長を実感するレティシアさんを踏まえました。
戦いは、敵を倒すことだけではありません。
護るべき者の心身を守り通した者もまた、称えられるべき者です。
天空塔の戦いに身を投じた全ての方が称えられるべき者であると、担当MSとして申し上げさせていただきます。
どの戦場にあろうと、己の出来ることを己の力最大に己らしく戦うことこそ大事なこと。
ゼノビアさんが今後どういった未来を掴むのかは誰にも分かりませんが、レティシアさんと共にそうして戦っていただければと思います。
これからも、自分達の軌跡を笑って語れる時を大切にしてくださいね。
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2016年10月17日

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