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『静寂を映す声 』
静寂aa0273hero002

 俺は死神業をしている。
 人間をざっくり殺して魂を回収する死神もいるし、人間が死んでから魂を回収しに行く死神もいるが、俺はどちらのタイプでもない。
 俺のやり方はどんな方法よりも楽しめる代わりに、どんな方法よりも面倒だ。
 まずは、挨拶をして握手を求める。
「こんにちは。君担当の死神です」
 ここで大抵の人間は顔をしかめ、スルー。ただの変人だって思われるんだ。
 だから、次はその人間の部屋でにっこり笑って出迎える。「もうすぐ死ぬのに、お仕事ご苦労様です」って、そんな感じ。ここで、人間は不気味に思う。
 でも、まだ俺が死神だとは信じてくれない。死神の噂は聞いてても、まさか自分のところには来ないだろうとか思ってる。
 でもね、魂の回収リストが書かれた黒い手帳を開いて、君は何月何日何時何分何秒、何処何処でこういう理由で死にます。魂は直ちに回収しますので、君はただ運命に身を任せて、その時をお持ち下さいってにっこり笑うと、やっと俺が死神だって信じるんだ。
 それからがドラマの第2章の始まり。その人間はしばし呆然とし、次に怒り、場合によっては俺に襲いかかる。そして、第3章でどうしょうもないと悟り、嘆き哀しむ。散々泣いて、それから俺が「せっかくだから友達になりましょう」なんて握手を求めると、また怒るんだ。
 でもね、最終章では大抵の場合は割といい友達になれるんだ。
 だって、本当の意味で死の運命を共有できるのは俺だけだからね。だから俺は、恋人や両親や親友よりも、最短時間でその人間の気持ちの最短距離まで近づけるんだ。

 でも、彼女は俺のそれまでの経験とは全然違っていた。
「こんにちは。君担当の死神です」
 そう笑って手を差し出すと、十四歳の少女は躊躇わずに手を握り返した。
「二宮美和です。よろしくお願いします」
「……君、俺のこと信じるの?」
「待っていましたから」と静かな声で少女は答える。
「俺を?」
「正確には、死を」
「なんで?」
「死ぬ目的ができたからです」
 おかしなことを言う。
「それで、私はいつ死ねるのですか?」
「一ヶ月後だよ」
「そんなに先なんですか?」
「そう。だから、最後のひと月、俺と友達になってよ」
 少女の考えを理解することを放棄して、俺は俺の目的のために改めて手を差し出した。
「よろしくね」
 しかし、今度はその手がスムーズに握り返されることはなかった。
「私と友達になってもつまらないですよ?」
「なかなか面白いけど?」
「……そんなこと初めて言わました」と、少女は少し照れた。
 予想外の反応につられて、思わず俺も照れる。
 頬が熱い……そんな風になったのは、初めてだ。
 俺は毎日少女の病室を訪れた。そうして五日、この病室には看護師と医者以外は誰も訪れないことに気がついた。
 母親は半年前に事故で死んでいるが、父親は生きているのに一度も病室を訪れない。
 しかし、人間にも死神並みに非情な者が存在することは知っていたから、そうした人間なのだろうと解釈した。
 気まぐれに病院内を歩き回っていると、その非情な人間を目撃することになった。
「今週のクリーニング代や諸費用です」
 冷たい表情の男がナースステーションに封筒を置いた。
「美和ちゃんに会ってあげてください」
 看護師の言葉に、男は「忙しいので」と答えただけだった。
 少女の病室に戻ると、彼女は本を閉じてこちらへ視線を向けた。
「静寂さん」
 死神には個人名はないから、友達になった人間にいつも適当につけてもらっている。
「今、君の父親を見たよ」
 少女がどんな風に表情を崩すのか興味があり、俺はそう告げた。
 泣くだろうか? それとも、怒るのだろうか? しかし、少女の表情はそれほど変化しなかった。
「元気でしたか?」
「……ああ」
「よかった」
 そう呟き、少女はほんの少しだけ笑った。その純粋なる微笑に、俺は一瞬、目を奪われた。
「……君は、あの父親の所為で死にたいんじゃないのか?」
「所為? ……違います」
 少女はいつもの静かな声で答えた。
「お父さんのために死にたいのです」
 あの冷たい男の『ために』死ぬ? そんな感情、俺は知らない。
「私からお父さんを早く解放してあげたいんです」
「君が何を言っているのか、俺にはわからない」
「静寂さんにはわからないほうがいいんです」
「どうして?」
「きっと、お仕事が辛くなってしまいます」
 少女の言葉が何一つ理解できなかった。そのことに俺は苛立ち、それからしばらく少女に会うのをやめた。
 しかし、離れている間も彼女のあの微笑が頭から離れず、数日後には俺は再び少女の前へ姿を現わす。
「やっぱり、つまらなかったでしょう?」
 そう言った少女に俺は素直に言った。
「腹が立ったんだ」
「ごめんなさい」と、少女はその顔を曇らせた。
 悲しむ顔を見てみたいと思っていたのに、俺は少女の体を引き寄せて、その顔を俺の胸のなかに隠した。
「違う!」
 初めて、叫んだ。
「君を理解できない自分に、腹が立ったんだ……君のことをちゃんと理解したい。その結果、辛くなっても構わないから、教えてほしい」
 少女は驚いたように俺を見上げた。
「友達だろう?」
 本当は友達がどんなものかなんて知らない。友達ごっこは楽しかったけれど、本当の友達がどんなものかなんて興味もなかった。
 でも、この難解な少女のことを知りたいと思った時、俺はいままで誰とも友達になんてなれていなかったということに気づいた。
「……わかりました」
 少女は家族のことを話し始めた。母親に愛され、母親を愛す父親に愛され、そんな両親を愛する自分の話を……
 母親を亡くして、父親は涙を失くした。そして、少女は父親の未来が途切れていることに気がついた。
 自分がいる限り、父親は母親を追って死ぬこともできない。新しい愛を探すこともできない。現在の現状以外の先が彼にはない。
 だから、自分が消える必要ができたのだと、少女は淡々と話した。
「……わかった」
 話を聞いたところで、俺には少女の気持ちは理解できなかった。
 けれど、俺は少女が願う『死』を叶えることにした。
 翌週、お金を置きに来た父親の目の前で俺は少女の命を大鎌で奪った。
 父親は一瞬呆然とし、それから怒り、俺に殴りかかった。頬に痛みを感じ、そして俺も男の頬を殴った。少女に死ぬことを選ばせた男が憎かった。だから、少女のことを永遠に男の心に刻みつける方法を選んだ。
 それは少女が本当に願っていたこととは違う。けれど、少女に恨まれてもいいと思った。
 でも、最後に聞いた少女の声はいつも通り静かなものだった。
「だから、辛くなると言ったのに…… でも、ありがとう。静寂さん」
 その声を聞いた瞬間、右目から透明な雫が零れ落ちた。
 初めての現象に俺は驚いた。思えば、少女に出会ってから、初めてばかりをもらっていた。

 あれからどれほどの時が流れたのか、俺は新しい世界にいる。
「これ、初めて食べたけど、美味いね」
 家政婦役の青年にそう言うと彼は満足げな笑顔を見せる。
「栗だよ。秋の味覚は最高だろう?」
「あの子にも食べさせてあげたかったな」
「誰か友達ができたのか?」
「……いや」と、俺は首を横に振る。
「友達なんていないよ」
 握り潰したら簡単に散ってしまうように儚く、けれども凛と強く咲いた花のような存在なら知っていた気がするけれど……。

 それは愛しくて、なによりも辛い記憶。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0273hero002 / 静寂 / 男性 / 25 / シャドウルーカー】
【NPC / 二宮美和 / 女性 / 14 / 静寂の友達】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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毎度、ありがとうございます!
静寂もとてもいいキャラですね。個人的に、すごく好きです!!
もっと色々盛込みたかったのですが……従魔ジースーセイゲーンに敗れ、泣く泣く、削り削り……凹
これからの静寂の活躍、楽しみにしています♪
楓と静寂の絡みとかも面白そうですね♪(妄想暴走中)
私自身の思い入れもあり、このような内容となりましたが、ご期待に添えていましたら幸いです。
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リンクブレイブ
2016年10月19日

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