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『休日のお料理大会 』
世良 杏奈aa3447



 休日、よく晴れたよき日に『西大寺遙華(az0026)』と『ロクト(az0026hero001)』は住宅地を闊歩していた。
 ロクトは手元の地図とにらめっこしながら家の軒先を一つ一つ見ていき、やがて目的の家を見つけたのだろう。微笑んで遙華に手招きした。
 歩みの遅れていた遙華は小走りでかけより、そしてチャイムをピンポーンと鳴らした。
 表札には世良と書かれており、玄関先でもわかるくらい家の中は賑やかで。
 ソワソワと落ち着かない遙華の頭をかきまわし、ロクトはやんわりと微笑んだ。そして。
「いらっしゃい、よく来てくれたわね」
 そう『世良 杏奈(aa3447)』が扉をあけ、温かく迎えてくれた。
「お招き頂きありがとうございます」
 ロクトが頭を下げると、その後ろから大きなカバンを下げた遙華が入ってくる。
「これ、立場逆じゃない?」
 そんな抗議を無視してロクトはスリッパに履き替える。杏奈は荷物を持とうと手を差し出したが、遙華はそれを断った。
「そう言えば旦那さんは?」
「部活の監督か何かで学校に……」
 杏奈はそう答えた。
「あら、そうなの、残念ね」
「早い時間に戻るとは言ってたから、会えるとは思うけど……」
「そうなの? まぁいいわ」
 自分で聞いたくせにおざなりである。
「とりあえず今日はよろしく、料理指導ありがたいわ」
 そう、今日は料理がからっきしダメな女子二人のために杏奈が料理のコツを教えてくれる日なのだ。
 参考までに三人の料理レベルを比較してみよう

・ロクト
 料理中級者。料理用語などは大体わかる。家庭料理ならそつなくこなせる。

・遙華。
 初心者。
 学校の家庭科で味噌汁を作ったことがあるレベル。ホイップクリームをハンドミキサーでかき混ぜるときに爆発させるなど。
 初心者にありがちなハプニングが多い。

・世杏奈
 料理上級者。おいしい、旦那さんがうらやましいレベル。


「こんにちわ」
 そう世良家の今を通ってキッチンに向かう、その途中賑やかな住人達とあいさつを交わす遙華である。
 猫の従者を追いかける杏奈の英雄、それが画材を広げる青年の上を飛び越えて怒られたりしている。
「いつの間にか大所帯ね」
「ええ、とっても楽しいわ」
 杏奈はうきうきとそう答え、エプロンを巻いて髪を結う、その手つきが手馴れていてドキッとする遙華だった。
(なんで……)
 そして杏奈は全員分のエプロンを配ると、住人達にキッチンには入らないようにといい含めて料理開始した。
「今日は洋風にまとめてみたわ、ロールキャベツ、にんじんと芋のポタージュ、パスタはトマトと貝を使ってビタミンミネラルを補給しましょう、サラダも忘れずに。デザートは何にしようかしら」
 遙華がもってきた食材や、冷蔵庫の中身を見て何を作ろうか頭を悩ませる杏奈。その背後、居間の方からプリンという声が上がる。
「じゃあ、プリンを作りましょう」
「私も好きよ」
 そうロクトが微笑むとまずは道具の確保から始めた。
 世良家のキッチンは広い。広いテーブルの上に解りやすく材料を並べていく。
「旦那さんは手伝ってくれるの?」
「男子厨房に入るべからずよ、別に下手ではないんだけどね」

《杏奈流、美味しいロールキャベツの作り方》
 遙華が取り出したる音楽再生機器から、三分でクッキングできそうな音楽が流れ始める。
「なんだか落ち着かないわね」
 そう杏奈が言うと遙華は機器の電源を落した。
「まずどうするの?」
 遙華が問いかける。
「その前にロールキャベツってどうやって作るか知ってる?」
 杏奈の問いかけに遙華は間髪入れずに答えた。
「キャベツでハンバーグを丸めて煮る」
「まぁ、普通そう言う発想になるわよね」
 そう言うと杏奈はおもむろにキャベツの葉っぱをむしりはじめ、沸騰したお湯の中に投入した。
「え!」
「キャベツは下ゆでするのよ。塩で軽くしんなりするまで」
「そうだったのね」
「ゆでている間に玉ねぎと……、ポタージュ用の人参と玉ねぎも切りましょう」
 そう杏奈が包丁を渡すと、遙華はその柄をがっちり鷲掴みにした。
「そ。それは人をさす時の握り方かなぁ」
 杏奈は困ったように笑う。
 包丁の持ち方からレクチャーする杏奈である。
「なるほど、切りやすいわね」
「玉ねぎはみじん切りと、あとはざく切りで……。ロクトさんには種を作ってもらうわ」
 あいびきのひき肉に、お好みで味をつける。
「そしてキャベツをお湯からあげて、今度は玉ねぎに火を通すわ。通した後は冷まして種に混ぜるの」
「すごいわね、杏奈、どうしたらそんなに詳しくなれるの?」
 遙華が尋ねると、杏奈は罰が悪そうに笑って見せた。
「いえ、全部料理本や、母の受け売りよ、料理ってそんなものだから」
「確かに、結構な量の料理本があるものね」
 ロクトはそう本棚を眺めている。同じ本を買ってみようかと背表紙を見つめていたのだが、その中に一冊見覚えのある本が並んでいた。
「これは……」
 黒い装丁、肌触りは人の皮のよう。そう、つまりそれは……。
「玉ねぎと種を混ぜたらどうするの?」
 遙華が問いかけた。
「いったんこのハンバーグ部分を焼くわ、表面に色がつく程度に焼くと型崩れしなくて食べやすくなるわね」
 そう遙華がフライパンにハンバーグを放り込んで火で加熱していると。杏奈は裏庭から何枚か葉っぱを手にして現れた。
「ローリエをはじめとするハーブと、スパイスで爽やかに仕立てるのが、世良家流よ」
「作ってるの?」
「ええ、買うほど使わないし、植物を育てるのは楽しいから」
 あとで菜園を見せてもらおう、そう決意する遙華である。
 その後、キャベツでハンバーグをマキマキして。ブイヨンベースのだしを投入。
 各種ハーブや、コンソメ、塩、こしょうで味付けして圧力鍋に放り込めば、あとは加熱するだけである。
「杏奈が栽培というと怪しいわね」
 そう遙華が笑った。
「もう、なによそれ、失礼ね。ほら次はポタージュを作るわよ」
 と言ってもポタージュ自体は大半が煮る作業である。玉ねぎ、にんじんをバターでいためて塩コショウを投入。
 その玉ねぎが透明になるまで煮る。
「じゃあ、次はパスタスープを作りましょうか、ロクトさんトマトを取って」
「ええ、どうぞ」
 そうロクトがトマトの入ったボールをさしだそうとしたその時である。遙華は見た、杏奈のエプロンにロクトが黒い本を滑り込ませるのを。
「ロクト、何をいれたの?」
「すぐにわかるわ」
 ロクトの言葉に首をかしげる遙華。
「…………ありがとう、ロクト。では始めるわよ、神々に捧げる、晩餐の支度を」
 え? 遙華の思考はそこでフリーズした。
 そして杏奈は大なべを火にかけると、トマトを取り出して、へたも取らずに鍋の真上に持ち上げた。
「どうしたの杏奈? 何をするの?」
「本当は、人の頭がよかったのだけど」
 次の瞬間である。杏奈はトマトを握りつぶした。
「えーーーーーー!」
 絶句する遙華、そのぐしゃりとひしゃげたトマトは汁を飛び散らせながら熱せられた鍋の中に落下。
 ジューと激しい音と蒸気をあたりに振りまいた。
 それが楽しいのか杏奈は少し笑う。
「生贄が足りないわね」
 そう続々とトマトを握りつぶす杏奈。その頬についたトマトの汁が心なしか血のように見える。
 そして死んだ眼で、杏奈は料理解説を続ける。
「あらかじめその胃よりすべてをはきださせた、口しか無き者を投入するわ」
(意訳 砂を吐き出させておいたあさりをいれます)
「そして生きたまま肉をそぎ落とした、地獄鳥の骨を投入」
(意訳 昨日カレーに使った鶏肉の骨を取っておいて、スープの出しに使うだけで深みがぐっと増します)
 その料理風景を見て縮み上がる住民たち。部屋の角で皆で肩を寄せ合わせている。
「ちょっと! ロクト何でこんなことしたの」
「どうなるんだろうと思って」
「そんな好奇心にまかせた結果が魔女の料理教室じゃない!!」
「薬草を少々」
(意訳 自家製ハーブを細かくして混ぜます)
「そして契約の血を」
(意訳 自分の血を少々)
 おもむろに包丁を人にさす方の持ち方で取り上げた杏奈。それを自分の手首に当てようと閃かせる。
「ちょっと待って! 杏奈! 杏奈ぁぁぁぁぁぁ」
 必死に止める遙華と住民たち。
「これは……」
 今後アルスマギカの改造については気を配らないとまずいなと苦笑いのロクトであった。

   *   *

 実は杏奈は格闘術をマスターしている。
「共鳴しなくてもあんなに強いなんて、卑怯じゃない?」
 あの後五人がかりでやっと本を没収することに成功したが、一人でも足りなければ全員がのされていただろう。
 それくらいに強かった。
「あら、私ったらごめんなさい」
 今はケロッとプリンづくりに勤しんでいる杏奈、ちなみにロクトと遙華は彼女を止めるのに体力を使いすぎたので、デザート作成の間は休んでいることにしたそうな。
「なんだってキッチンにあんな物騒なものがあるのよ」
 遙華は抗議の声を上げる。
「うーん、料理って待つっていう工程が多いじゃない? だからキッチンに読み応えのあるものが必要なのよね」
「料理の合間に魔導書を読まないで頂戴。じゃあいつもあんな感じなの?」
「いえ、いつもは手に持って呼んでるでしょ? 料理に戻るときは両手があいてないといけないからその場におくのよ」
「なるほどね……」
 ソファーに崩れ落ちる遙華とロクトである。
「それにしても遙華さんはともかくとして、ロクトさんがあわててる姿をなかなか見ないから新鮮で面白かったわ」
「そ、それはよかったわ、私も久しぶりに焦ることができて本望よ……」
 力なく笑うロクト。
 そしてあらかた晩御飯の準備が完了したころ、チャイムが鳴った。
「はーい」
 エプロンで手を拭いて杏奈は玄関へと向かう。
 その足取りは軽やかで少女の様だった。
「一番の料理のスパイスってなんだか知ってる? 遙華」
 ロクトが尋ねる。
「しらない、なによそれ」
 そう遙華が尋ねるとロクトは答えた。
「愛情よ」

 そして杏奈は玄関の戸を押し開く。
「お疲れ様、今日は早かったのね」
 そして杏奈は目一杯の笑みで彼を迎え入れるのだろう。
「おかえりなさい! ねぇ聞いて今日はね」   
 幸せな家庭を守る主婦として。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『世良 杏奈(aa3447)』
『西大寺遙華(az0026)』
『ロクト(az0026hero001)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 今回はいつもと違った形のOMCご注文ありがとうございます。
 鳴海です。
 杏奈さんとのクッキング楽しく書かせていただきました!
 自宅の雰囲気など完全にアドリブなので、喜んでいただけるかなぁと若干心配ですが。
 幸せそうな一つの家族を演出できればなぁと思い書きました。
 そして遙華とロクトも料理をご教授いただけてスキルアップできたと思います。
 それでは次はいつものツインノベルでお会いしましょう、それでは鳴海でした。ありがとうございました。

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2016年10月19日

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