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『夏の尻尾を捉まえて 』
シグリッド=リンドベリjb5318)&ラカン・シュトラウスjb2603)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501


 おかしい。
 僕は海かプールで普通に遊ぶつもりだったのに。

 気が付けば今、急流に揉まれて川を流れ下っている――!


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


 それは秋の気配が微かに漂い始めた、けれどまだまだ夏がどっかり居座った、ある暑い日。
「さすがに冷房がないと厳しいのです……」
 一階のリビングに降りたシグリッド=リンドベリ(jb5318)は、畳敷きのスペースにごろりと寝転がった。
 ソファに埋もれるより、多分このほうがいくらか涼しいはずだと、手にした団扇でパタパタと風を送る。
 彼が暮らす風雲荘は、贔屓目に言ってもオンボロと表現するしかないような古いアパートだ。
 内装はそれなりにリフォームされているが、居住性に関しては今ひとつと言うか殆ど考慮されていない作りになっている。
 壁にも床にも天井裏にも断熱材なんて入っていないから、冷房を付けても殆ど効果は期待できない――特にまだ陽の高いうちは。
「そろそろもう一度、本格的にリフォームしたほうが良い気がするのですよ……」
 でも、自分の部屋は北向きだからまだマシなほうだろう。
 女の子達の部屋は南向きだから、その暑さは想像に余りある。
 そう言えば、このところ彼女たちの姿を殆ど見かけないのは、やはり暑さに耐えかねて何処かに避難しているからだろうか。
 避難と言えば猫のマシュマロさんも、どこか涼しいところを見付けたのだろう、最近ではごはんの時にしか姿を見せなくなってしまった。
 皆に戻って来てもらうためにも、やはりリフォームは必要だ。
 とは言え、思い立ったらすぐに出来るものでもないし、とりあえずは今現在のこの暑さを何とかしたい。
「それに、今年はあんまり遊びに行ってないのです」
 臨海学校で海には行ったけれど、もう一度くらい皆で遊びたい。
「海じゃなかったらプールでしょうか……」

「ちっちっち、川の存在を忘れとるでシグ坊!」

 突然、上から声が降ってきた。
 見上げるとそこには天井から頭だけ出した屋根裏の住人、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)の姿が。
「ゼロおにーさん……」
 あれ、なんかいつもより色が濃く見えるのは気のせいかな?
 心なしか焦げ臭い匂いも漂って来る、ような。
「屋根裏は遠赤外線でたこ焼きがでける暑さやで!」
 天井の板をするりと抜けて、畳の上に降り立ったその手には神のたこ焼き。
 ソースの香りが香ばしいそれは、本当に屋根裏の熱で焼いたのだろうか。
 だとしたら、その暑さ……いや、熱さは生きているのが不思議なレベルだけれど。
「せやな、俺やなかったら消し炭になっとるとこや!」
 まあ、それは置いといて。
「川遊びです……? それも楽しそうなのです」
「せやろ?」
 そう答えたゼロが、とても悪い顔をしているように見えたのは……多分、気のせいじゃない。

 かくして、連絡の付いた数名――華桜りりか(jb6883)とラカン・シュトラウス(jb2603)、それに……
「章兄も誘って良いでしょうか……」
 なんだかさっきから気配を感じるし、柱の陰からこっちをチラ見しているのが丸見えだったりもするし。
 これで誘わなかったら、陰でこっそり泣かれる気がするし。
「章兄も、行きませんか……?」
「えっ、い、良いのか? 迷惑じゃ、ないか?」
 その返事とは裏腹に、門木章治(jz0029)の背後には嬉しそうにぶんぶん振っている、ふさふさの尻尾が見える……気がした。
「迷惑なんかでは、ないのですよ。章兄が一緒じゃないと、やっぱり寂しいのです……」
「うん、ありがとう」
 ぶんぶんぶん。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


「しぐりっど、さん……?」
 待ち合わせ場所でシグリッドの姿を見たりりかは、不思議そうにかくりと首を傾げた。
 この前、臨海学校の時には気付かなかったけれど、なんだか急激に成長している?
 本人の面影が残る部分と言えば、瞳と髪の色くらいなもので……今だって呼び止められなければ完全にスルーしていただろう。
 もう仲良し姉妹と言われていた頃の片鱗はない――いや、素材的にはより美味しくなったと言うべきか。
 だって素でナチュラルに女の子に見えるよりも、一手間かければ華麗に変身するほうが萌えませんか萌えますよね。
「んむ……やっぱり姉妹で問題ないの、ですね」
 りりかさん、どうやら納得した模様。
 自身も成長したことだし、これからは「仲良し美人姉妹」で売り出していくのも良いかもしれない……?
「シグリッド殿はもう抱っこも肩車も出来ないのであるな……人の子は成長が早いのである」
 もふもふ白猫えんじぇる、ラカンがしみじみと頷いた。
「しろねこさんと一緒に遊ぶの久しぶりです……!」
 そうやって、もふもふぎゅうぎゅうしてくるのは相変わらずだけれど。
「華桜さんは、しろねこさんに会うの初めてだったのです……?」
「いや、これは申し遅れたのである」
 そう言えば初対面だったと、ラカンはりりかに対して丁寧に頭を下げた。
「シグリッド殿にお誘いいただいたラカンと申すのである! 見ての通り人畜無害なもふもふえんじぇるなのである!」
 なお、中の人などいないし背中にチャックもない――あるけど。
「はじめまして、なの……です」
 りりかの引っ込み思案も、相手がもふもふならハードルもすとんと下がる。
「もふもふしてもいいのである!」
 そう言われて素直に手を出してみた。
「ふわふわで、気持ちいいの……です。でも、暑くないの……です?」
「心配無用である、夏毛仕様で通気性抜群なのである!」
 首元にこっそり冷却ファンも付いてるよ、着ぐるみじゃないけどね!(着ぐるみです
「そこの黒いお人も初めましてである!」
「おう白いの、シグ坊のダチやねんてな!」
「そうである! よく遊んでいただくのである! ありがたいのである!」
「なら俺のダチも同然やな!」
 お前の友は俺の友、そうじゃなくても会えばその日からお友達。
「ほな行くで、俺のとっておきの穴場紹介したるわ!」


 というわけで、やって来たのは――

「……おかしい……川遊びと聞いていたのに……」
 こう、あれですよ、透き通った清らかな水が穏やかに流れていて、浅瀬には魚の背鰭がキラリと光ったりして、丸い石を敷き詰めた広い河原があって……そういうのを想像しませんか、普通。
「……ゼロおにーさん……!」
「なんやシグ坊」
「僕は川遊びって聞いたのです」
「せやな」
 だから、ほらこの通り、川に連れて来たわけですよ。
「ふむ、思った以上に激しい川であるな!」
 切り立った崖の上から、ラカンが下を覗き込んでみる。
 まるで大雨の後のように濁流が渦巻き、その中にいくつもの切り立った岩が屹立していた。
 覗いていると、轟音鳴り渡るこの急流に吸い込まれそうになってくる。
「想像していたものと、違いすぎるのです……」
「シグ坊、若いねんから思考はもっと柔軟にせなあかんで?」
「僕、あたま固いのです……?」
 説教されてしまった、あのゼロさんに!
「今日はここで川下りや、川下りといえばラフティングやな」
 なるほど、それならこの急流も納得だ。
 丈夫なゴムボートみたいなラフトもちゃんと用意してあるよ、ほらここ、崖の上に。
「これで、あの流れをすべるの……です?」
 かくり、水着にパーカを羽織ったりりかが首を傾げる。
「ゼロさんがいる急流すべりとか安全ではない気しかしないの……」
 念の為に水着で来たけれど、これはもう全身ずぶ濡れ確定ですね。
「でも、これをどうやって川まで降ろすのです……?」
「ふっふっふ、せやからシグ坊は頭が固い言うんや」
 ゼロはそれはそれは悪い顔で……つまりはいつもの顔で笑った。
「これは学園仕様の川下りや!」
 はいライフジャケット着てー、ラフトに乗り込んでー、行きますよ、せーの!
 どぉぉーーーん!
 四人が乗り込んだラフトはゼロに押されて崖からダイブ、崖より高い飛沫を上げて水面に叩き付けられた。
「さあ立て! 立つんや!」
 自分だけ翼でふわりと舞い降りたゼロは、男三人にオールを手渡す。
「激流だろうとなんだろうとずっと漕げ! 男は立って漕げ!」
 あ、だいまおー様はそこで座っていてくださってけっこうですよ、はい。
 なお自分は先頭で舵取りです。
「きりきり漕がんと岩に叩き付けられるでー!」
「で、でもゼロおにーさん! これ、漕ぐとかそういったレベルではないのです……!」
 って言うか水に入れた途端にオールが流されました!
 オールどころかラフトも流されてます!
「ぬおぉ、目の前に岩が迫っているのであるー!?」
「ゼロおにーさん、舵! 舵を切ってください……!!」
「舵? そんなものはない! 男ならまっすぐ突き進のみ!」
 そんな無茶な! 舵取りするんじゃなかったの!?
「ぶつかるのであるーーー!?」
 だが問題ない、行く手を塞ぐものは打ち砕け!
「行け、全てを滅する闇之如く!」

 どがあぁぁん!!!

 全身を闇に染めたゼロが漆黒の塊を撃ち出すと、目の前の岩は粉々に砕け散った!
「さすが、ゼロさんなの……」
 なんと言うか、むちゃくちゃです。
 でもまあ、一応は無事に川を下ってるし、こういうのもアリじゃないかな……なんて、甘い。
 甘すぎた。
「ゼロおにーさん、今度は滝なのです……!」
 ここはもちろんラフトを持ち上げて、ふわっと軟着水させてくれる……わけがないですよね、知ってました。
「いよいよクライマックスやな!」
 ねえねえ、ボディラフティングって知ってる?
 激流を体一つで下る遊びだよ♪
「ほんじゃま、行くか」
 ライフジャケットはきっちり装備してるね?
 よし、後は気合いと根性で乗り切れ、乗りこなせ!
 そうこうしているうちに、激流に乗ったラフトは滝の上から――あいきゃんとふらーい!

「シグ坊GO!」
 どーん!
「えっ、ちょっ、うわあぁぁぁぁ……!」
 背中を押され、ラフトを飛び出したシグリッドは濁流渦巻く滝壺に真っ逆さま。
 なお落差は華厳の滝くらいあるかな、多分。
「きっつぁんも仲良くそーれ」
 どーん!
 奈落の底に落ちながら、門木が降って来るのを見たシグリッドは慌ててストレイシオンのシロちゃんを喚び出そうとした。
「章兄だけはなんとしても守らなければ……っ!」
 しかし!
「いや……俺、飛べるから」
「あ……! そうでしたあぁぁぁ……!」
 ばしゃーん!
 シグリッドは哀れ水の中、片や門木は上空でふわふわ浮きながらその様子を見守るばかり。
 見てないで落ちる前に捉まえて、とは言わないけれどそこは察してほしかった……!
「あ、そうか」
 慌てて助けに行こうとするが、その姿は既に滝壺に呑まれて見えなくなっていた。
 大丈夫かな、大丈夫だよね、撃退士だもんね!

「あ、白いのも行きたい?」
 ドン!
 続いて押し出されたラカンは自分が飛べることを思い出す前に、水面に向けて顔面パンチを食らわせていた。
 一瞬ふっと意識が遠のく――しかし大丈夫。
「むふふ! こんなこともあろうかと耐水仕様なのであるー!」
 ぷかりと浮き上がったラカンは、そのまま流れに任せてどんぶらこ。
 と思ったら……おや、何かくっついてますね?
「おぉ、シグリッド殿ー! 無事だったのであるー!」
 あんまり無事な様子には見えないけれど、息はしてるからきっと大丈夫。
「ひゃっはー! このまま川を下るであるー!」
 シグリッドを乗せた白い猫船は、流れに任せてどこへ行くのか……

「だいまおー……」
 続けて最後に残ったりりかを振り返ったゼロは、思わずその身を1ミリほど仰け反らせた。
 その身体から発せられる無言の圧力。
「……は、個人の自由とする」
 ええ、身の危険を感じましたので。
「んむ……それならゼロさんにがんばってもらうの」
 無言の圧力、再び。
 まさかこのまま滝壺に落ちろとか言いませんよね?
 この高さだとコメディでもない限り重体ですよ?
 その前に何とかしてくれるんですよね?
「大丈夫やりんりん、これはバラエティやからな、コメディより柔軟やで!」
「ゼロさん……?}
 無言の圧力、三度。
「はい、だいまおー様」
 仰せの通りに。
「んむ、よろしいの……」
 りりかの手をとったゼロは、滝壺に落ちゆくラフトから凶翼を広げて華麗に脱出。
 そう言えば、白い猫船はどこまで流されたんだろうね?


「……ここは、天国なのです……?」
 うっすらと目を開けたシグリッドは、目の前の顔に向けて手を伸ばしてみた。
「章兄が、こんな近くにいるのです……」
 ぺち。
 あれ、触れる。
 ぺちぺち。
 幻じゃない?
 天国でも、ない?
「大丈夫か?」
 その声とリアルな感触に、シグリッドの意識は一気に覚醒した。
「章に……っ!?」

 ごんっ!

 飛び起きて、頭突きをかますお約束。
「い……っ」
「ああっ、ごめんなさい大丈夫なのです……!?」
「……お前、けっこう石頭だな……」
 いや大丈夫、ちょっと涙目になっただけだから。
「おお、シグリッド殿、気が付いたであるか! よかったである!」
「しろねこさんのおかげで、助かったのです……」
 猫船は流れ流され、この河原に辿り着いたらしい。
 そこにはまさに思い描いていた通りの光景が広がっていた。
 透き通った清らかな水、穏やかな流れ、浅瀬には魚の影、そして丸い石を敷き詰めた広い河原。
「おうシグ坊、目ぇ覚めたか!」
 その声と共に漂うソースの香り。
 待って、どうしてここにゼロさんのたこ焼き屋台があるの。
 おまけにBBQのコンロとか色々既にセットされてるのはどういうわけですか。
 日の高さから見るに、気を失っていたのはほんの僅かな時間だろう。
 その間に、上流に置きっぱなしになっていた荷物を運んで……いやいや、あそこにはたこ焼きの屋台なんてなかったし!
 まさか、ここに流されて来ることが前もってわかっていたわけじゃないですよね?
「ふっふっふ、甘いなシグ坊! このゼロさんは出来んこと以外は何でも出来るんや!」
 それってべつに普通のことのように聞こえるけど、まあ細かいことは気にしない、だってゼロさんですもの。
 結局、そこらへんの謎はソースの香りに丸め込まれてウヤムヤになってしまったけれど、相手がゼロさんなら仕方ない。
「たこ焼きで腹拵えしたら、次は魚釣りや。気合い入れて釣らんとBBQで焼くモンがのうなるで?」
 シグリッドは野菜があれば充分だし、肉も買ってあるから食材としてはあまり釣れなくても問題はないのだけれど。
 食材確保為の切実な狩猟活動と、遊びの為の釣りとは似て非なるもの、多分。

「釣った魚をその場で塩焼きにして食べるのは格別なのです。章兄にもごちそうするのですよ……!」
「あたしも、がんばるの……」
 りりかは釣りのエサには虫を使うものだと聞いて、空中を飛び交う羽虫を目で追いかけてみる……が、違うそうじゃない。
「石の下に、いるの……です?」
 言われた通りに手近な石をひっくり返してみると、いました。
 なんだがニュルニュルしたものが、うじゃっと。
「……ゼロさん」
 差し出される釣り竿。
 だいまおーが針に虫をセットしろと仰せです。
 よきにはからえ。
「んむ、これでいいの……」
 傍らに下僕を侍らせ、りりかは竿を振るって仕掛けをポチャンと投げ入れた。
 そして待つ。
 待つ。
 待ってみた、けれど。
「んぅ……そこに見えてるのに、どうして釣れないの です?」
「我も全く釣れないのである! これは一体どうしたことであるか!」
 ラカンもご立腹のようだが、それはまあ……尻尾で魚を釣ろうとしても、ねえ?
「ふぉっ!? 猫とはこうして魚を釣るものではないであるか!?」
「しろねこさん、それはおはなしの中だけなのですよ……」
 かく言うシグリッドも全く釣れなないし、門木には最初から期待してない(ひどい
「あんがい、むずかしいの……」
 魚ってもっと簡単に釣れるものだと思っていた。
 魚がいそうなところに糸を垂らせば、すぐに手応えがあるものとばかり……だってほら、ゲームの釣りってそんな感じじゃない?
 いや、現実とは違うことくらいわかってるけど、なんとなくイメージとして。
「だったら、少し川をせき止めてみるのはどうでしょう?」
 ほら、鮎のつかみ取りとかで見るような、あれ。
 梁漁(やなりょう)って言うんだっけ?
「おお、田舎のおじじどのが作っていたアレであるな!」
 真冬の冷たい川で設置作業を手伝った覚えがある。
「あの時、河原の焚き火で焼いた魚は最高に美味かったのである!」
 防寒仕様の冬毛でも手足が凍るくらいに寒かったけれど、きゅーっと流し込んだ熱燗が全身をほわっと温めてくれて……
「作り方も覚えているのである!」
 大体だけどね!
 要は川の流れを一ヶ所に集めてしまえば良いのだ、多分。
「僕も手伝うのですよ、章兄も石とか運んでくれると嬉しいのです」
「みんなでやれば、きっと早く終わるの……ゼロさんもやるの、ですよ?」
 はい、だいまおー様のご命令とあらば。
 石を積み上げて流れを変えて、その先に作った浅瀬にゴザを敷いて。
 あとは待っているだけで、魚が勝手に飛び込んで来てくれるはずだと、少し下流で息を呑んで見守る。
 見守る。
 見守っている、けれど。
「なかなか、来てくれないの……」
 もしかして、見られていると恥ずかしい?
 それならちょっと、知らんぷりして遊んでいようか。
「……えいっ」
 ばしゃ!
 真剣な面持ちで梁を見つめているシグリッドの背中に水をかけてみる。
「うわっ! ……って、華桜さんなにするのでs……わぷ!」
 振り返ったところに、ばしゃばしゃばしゃ!
 更にめっちゃ笑顔でその場の全員に連続攻撃!
「遊びましょう……です」
「水かけ遊びであるか! それなら我も負けないのである!」
 見よ、このにくきぅぷにぷにの大きな手!
 この両手でがばっと水をすくって、ばっしゃぁ!
「きゃっ」
 容赦なく大人げない反撃に、りりかは思わず声を上げる。
「お返し、なの」
 ばしゃ!
「なんの、お返しのお返しであるー!」
 ばしゃばしゃ、ぺちっ!
「……んぅ……?」
 今なにか、水じゃないものが当たった気がする。
 被っていたパーカのフードが後ろに垂れ下がって、やけに重いけれど……?
「……あっ、華桜さん、魚が入ってるのです……!」
 覗き込んだシグリッドが声を上げる。
「どういうこと、なの……です?」
 解説しよう、ラカンの大きな手が水と一緒に魚を掬い上げたのだ!
「ふむぅ、これは……」
 ラカンは自分の手をじっと見つめる。
 その視界の隅にキラリと光る魚の背鰭が見えた刹那、彼の野生が目覚めた。
 しゅばっ!
 目にもとまらぬ速さで水を切る白いもふもふの手、次の瞬間、鱗を光らせた魚が宙を舞う!
「しろねこさん、すごいのです……!」
 それをキャッチしたシグリッドが目を輝かせる。
 褒められて調子に乗ったラカンは、次から次へと魚を打ち上げていった。
 それはまるで、遡上する鮭を狙う熊のようで……白いから、シロクマだろうか。

 梁を作った意味?
 それはまあ……いいんじゃないかな、楽しかったし!


 魚が焼ける香ばしい匂いが河原に満ちる。
 丸く積まれた石組の真ん中で炎が燃え、その周りで串に刺した魚が並んでジュウジュウと音を立てていた。
 少し斜めに刺された魚の腹から透明な汁が滲み出して、ぽたりぽたりと滴り落ちる。
「もうそろそろ、いいでしょうか……」
 念の為にもう一度、串を回して背側を炙ってから、シグリッドはそれを手に取った。
「章兄、どうぞなのです……熱いから気を付けてください、なのですよ」
「ん、ありがとう」
 受け取ったのはいいけれど、どうやって食べればいいのかと思案する様子の門木に、シグリッドは自分で見本を示して見せる。
「こうやってかぶりつくのですよ」
 ちょっとお行儀が悪いけれど、この場ではこれが正解なのだ。
「うん、美味い」
「でしょう? いっぱい食べてくださいね……これも、これも……!」
 シグリッドは傍らのバーベキューコンロからも、焼きたての肉を取ってくる。
 肉ばっかり取ってくる。
「……シグ、お前は?」
「僕はこれでいいのですよ」
 焼き野菜おいしい、もぐもぐ。
「あたしはやっぱり、これがいいの……」
 りりかは肉も魚も、野菜もそれなりに食べていたけれど、やはりメインは焼きマシュマロ。
 だがそれを見て、あのゼロさんが何も言わないはずがなかった。
「シグ坊、りんりん、好き嫌い言うとると大きくなれへんで?」
「僕はちゃんと大きくなっってるのですよ」
 目標にはまだ足りないけれど、成長が止まる気配はないしと、シグリッドは反論してみる。
 だがしかし。
「縦にばっかり伸びてどないするんや、男なら肉やろ! 横にも伸ばさな枯れ木になってまうで!」
 はい、詰め込み詰め込み。
「りんりんも……あ、いえ、なんでもありません」
 だいまおー様は、どうぞ、お心のままに。
「んむ、くるしゅうない、なの……」
 じゃあ次は炙ったマシュマロとチョコをビスケットで挟んだスモアにしようかな。
 フルーツの串焼きも良いし、バウムクーヘンも焼きたいし。
「なんと、ばうむくーへんが作れるのであるか!?」
 ラカンが驚きの声を上げる。
「作れるの、ですよ?」
 じゃあゼロさんは棒を回す係をお願いしますねー。
「食べ終わったら、みんなで花火するのですよ……!」
「おお、それも良いのである!」


 夏って楽しい。
 暑くてしんどいけれど、一緒に楽しむ仲間がいれば、それを補って余りある楽しさがある。

 それも、もう少しで終わってしまうけれど……

 秋には秋の、また違った楽しみ方がある。
 冬も、春も、それぞれに。

 そうして季節は巡り、来年もまた夏はやって来る。
 来年のことを言うと鬼が笑うと言うけれど、笑われたって構わない。

「来年もまた、みんなで遊ぶのですよ……!」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5318/シグリッド=リンドベリ/男性/外見年齢16歳/大きくなりました】
【jb2603/ラカン・シュトラウス/男性/外見年齢27歳/白猫の皮を被ったシロクマ】
【jb6883/華桜りりか/女性/外見年齢16歳/不動のだいまおー】
【jb7501/ゼロ=シュバイツァー/男性/外見年齢33歳/忠実なる下僕】
【jz0029/門木章治/男性/外見年齢36歳/こっそり若返りました】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、STANZAです。
ご依頼ありがとうございました。

お馴染みのお三方は、すっかり力関係が出来上がっているようで、微笑ましいですね!(
そこに白猫さんが加わることで、これからどういった化学変化が起こるのか……
とりあえず、がんばれ下克上((

では、お楽しみ頂ければ幸いです。
colorパーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年10月20日

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