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『弟は姉に敵わない 』
ラスティka1400)&椿姫・T・ノーチェka1225

 リゼリオにガラクタ通りと呼ばれる地区がある。
 正式名称白磁通りと呼ばれる通りを中心としたリアルブルー、クリムゾンウェスト問わず様々な物が集まりカオスとなった地域の事を指す。
 よく言えば古物、ひらたくいえばジャンク品、もう少しわかりやすく言えばガラクタが並んでいる通りだと思ってくれれば分かりやすいだろう。
 狭い通りには細長い店がいくつも並び、道脇には錆びた鎧やら剣の収まっていない鞘、薄い板に幾何学模様が描かれた基盤などといったものが風雨にさらされつつ積み上げられている――掘り出しものもあるだろうがたいていはガラクタばかり。
 さして広くない地区に増築に増築を重ね子供の積んだ積み木のように不規則に上へ伸びていく店舗、道を塞ぐガラクタたち、そのガラクタを越えるための梯子、立体的に入り組み、最近ではこの辺りを「ガラクタダンジョン」と呼ぶ者もいる。
 初心者は迷いやすいのでガイド雇うことを推奨する、とはリゼリオ観光協会の弁。
 ジャンクショップ「鋼鉄の心臓」もそんな迷路の一角にあった。中途半端に開けたシャッターには申し訳ない程度に「OPEN」と書かれたプレート。そのプレートも使えなくなった板金鎧の一部を剥がして作ったものだ。
「あちぃ〜……」
 店の前、ひっくり返した箱に腰かけた「鋼鉄の心臓」店主ラスティは旧式の魔導計算機の修理を止めシャツの首元を引っ張り風を送り込む。
 一応店ではあるが、溜め込んだジャンクパーツたちを置いたり趣味の機械弄りをするためのガレージといった印象のほうが強いかもしれない。
「クリムゾンウェストも温暖化か、よ……」
 うだる暑さは流れ落ちる汗をぬぐうのも面倒になる。
 見上げた空は雲一つない茜色、容赦なく照り付ける西日、空気は停滞し風はぴくりとも吹かない。
「大金降ってこねーかな……」
 左右に並ぶ建物に切り取られた狭い空、西から漏れる黄金色の輝きについ口から漏れる非常に非生産的な呟き。
 ラスティは金が欲しかった。いや正確には金ではなくCAM――「戦闘装甲機(Combative Armour Machine)」を。
 CAMとは宙軍特殊作戦部隊(SOT)が使用する歩兵支援用兵器である。
 宇宙都市とその近隣施設での対テロ、対ゲリラを想定したドミニオンシリーズに始まり、本格的な対歪虚用として造られたCAMデュミナス。
 燃料問題のためほぼ凍結状態だったサルヴァトーレ・ロッソ搭載のCAMが近頃ハンターたちに貸与されることとなったのだ。
 よもや異世界に来てCAMに搭乗できるとは。しかも魔導という新しい技術によって改良の加えられた。
 これは乗りたくないと思う方が無理な話。是が非でも乗りたい。いや乗るだけじゃない手に入れたい。
 だが世の中そう甘くはなく、「乗りたいです」「はい、いいですよ」というわけにはいかないのが現状である。それがたとえハンターであっても。
 金を払って貸与権を得ないといけないのだ。しかも一財産ともいえる金額。それでも「貸与」というところがケチくさいと思わなくもないが。
「でも乗りたいんだよなぁ〜……」
 手が自然とCAMの基本操作を行うスティックを握る形となる。実際に搭乗したことはないが軍学校に通っていたころ何度ともなくシミュレーターで訓練をしていた。
 だから動きは一通り覚えている。ラスティのもう一つの趣味、ゲームの操作に近いということもあり忘れようもなかった。
 目を閉じ、淡く発光するディスプレイを思い浮かべる。実際エンジンをいれたら振動はどう伝わってくるのだろうか。思いを馳せる
「まめにハントこなしていくしかねーかな?」
 ハントとはハンターズソサエティが提供している純粋に歪虚を倒す依頼である。少し前に北方王国リグ・サンガマ領内にあるカム・ラディ遺跡にて一つ大きなものをこなしてきた。だが思ったより実入りが少ない。
「……先、遠いな…………」
 CAM貸与権の金額を頭の中で思い浮かべれば遠い目もしたくなる。
 深々と溜息――と「溜息を吐いた分だけ幸せが逃げていくのよ」と声が降ってきた。
「此処までの道のり、もう少しわかりやすくならないのかしら?」
 椿姫がラスティの目の前に立っている。
「あー……屑鉄屋のおやっさんとこの――って、あそこ今塞がってんだっけ? 煙草屋横の階段――いやあそこは一週間前に……」
 道とは日々変わるもの、昨日まであったはずの道が塞がれていることなどよくある話。
「聞いた私が悪かったわ……」
 髪の毛掻き回しながらあれこれ取り上げては「ダメだ」を繰り返す様子に肩を竦める椿姫。
「で、どうしたんだよ? 何か探し物か。だったら手伝うぜ……」
 箱から立ち上がると「200で」と悪戯めいた笑みを浮かべ手を差し出す。
「あら、パン一個分でいいの? 折角この前のハントで頑張ったご褒美に夕食に誘おうと思っていたのに」
「え、本当か?! 行く、行くから」
 残念ねとにこやかに笑む椿姫に慌てるラスティ。プレートを「CLOSE」にくるっとひっくり返して「準備完了」と手をパンと鳴らす。「戸締りはしなくて平気なの?」椿姫が心配そうに尋ねたが「へーき、へーき」と片手を振る。此処から価値がありそうなものを探して盗んでいくなんて物好きいたらお目にかかりたいものだ。

 古い民家を改装した店は夕食時になると結構な混雑具合になる。
「流石に何でもは難しいけれど……ね」
 椿姫はまずラスティにメニューを差し出す。頑張ったラスティへのご褒美として今日は奢りだ。椿姫自身、久々の外食でちょっと楽しみでもある。
 ただこの店、基本的にお手頃価格なのだが料理好きな主人が半ば趣味で仕入れた高級食材を使用したメニューが存在する。お値段は「時価」。流石に挑戦は躊躇われた。
「やっぱり肉だよな。肉!」
 肉料理ばかり眺めているラスティに「野菜も食べなさい。栄養の偏りは成長に良くないのよ」とかついお小言のようなことを言ってしまうのは彼が椿姫にとって弟のような存在だからだろう。
 多分ラスティも自分を姉のように慕ってくれていると思う。互いに血の繋がらない兄弟姉妹がいる環境で育ったせいか姉と弟という立場に違和感はない。
 本日のおすすめにあった鶏のグリルと白身魚と野菜の蒸し料理、それに香辛料の利いたソーセージなどを頼んで乾杯。アルコール度数低めの微発泡の林檎酒だ。控えめな甘さと炭酸が食欲を刺激する。
「ちょっと酸っぱいゴマダレが美味いな」
 パリっと皮まで焼き上げた鶏を頬張ってラスティが唸る。
「気に入ってくれたのなら嬉しいわ」
 自分が作ったものでなくとも美味しそうに食べるのを見るのは好きだ。それが可愛い弟ならば尚更。「沢山食べなさい」とか多めに皿に取り分けてやる。
「魚もふわふわの蒸加減だし……。此処、良く二人で来るのか?」
 二人とはラスティにとって兄のような存在――椿姫の恋人と一緒に来るのかということだろう。
「誘いたいには誘いたいのだけど……」
 少し困ったような表情を浮かべカウンターの向こうに椿姫は視線を送る。その視線を辿ったラスティが「あー……」と納得したように頷いた。
 カウンターの向こうに並ぶのは各国から取り寄せた酒。料理好きなだけではなく酒も好きな店主が選りすぐった酒はどれも美味らしく、中には滅多に手に入らない貴重な酒も並んでいるらしい。それこそ料理と同じく「時価」で。量り売りもしているとのこと。
 そんなところにお酒が好きな――隙あらば酒とパズルを手に数日間家に閉じこもってしまうような――恋人を誘うのは心配の種が増えそうで少しだけ怖い。
 なので専ら誘うのは気の置けない友人。
「で、最近二人はどうなんだ? あっちに聞いても答えてくれなくてさ」
 気持ちの良い速度で料理を平らげていくラスティにオーダーを追加していた椿姫が視線を向ける。
 今日はラスティに色々聞こうと思っていたのだが先手を取られるとは。
「そうね……」
 グラスの淵を指でなぞる。キュっと乾いた音が鳴った。
 時に悪戯な、時に優しい彼の手の温かさを思い出す。まだキスまでの関係。
 ティーンのような付き合いだと人に言えば笑われるかもしれない。でも彼がいかに自分の事を大切に想ってくれているかわかる。
 互いに間に流れる空気の柔らかさに、相手の事を想いあっていることが伝わる。
 これから先、どうなるかわからない。自分たちはハンターなのだ。歪虚との戦いも次第に激しさを増していき。
 でも自分にとって彼は大切な人で、彼との時間はとても愛しくて、くすぐったくて――
「順調だと……思う」
 自然と口元が和らいだ。
「ふぅん……。ま、俺は二人が幸せならばそれでいいんだけどな」
 鶏の最後の一口を飲み込んだラスティが新たに来た皿に手を伸ばす。
「そういうラスティはどうなのかしら? 喧嘩とかしていない?」
「ぐっ……」
 椿姫の切り返しにラスティは喉を詰まらせて水に手を伸ばす。喉を鳴らしてコップ一杯の水を飲み干すと――
「はぁー……。折角の美味い飯が変なとこに入るかと思った」
「ほら口元、汚れているわよ。拭きなさい」
 椿姫に渡されたナプキンで口元を拭う。
「……俺の方は―― まあ、その……」
 頬だけではなく耳元まで赤くして顔を背けるラスティに彼等も順調なのだろうと思う。
「これから先、喧嘩をすることもあるでしょう。すれ違いも……。でも無茶をして心配かけたり悲しませたりしたらだめよ」
 それだけは約束して頂戴ね、と椿姫が視線を合わせるとラスティは無言で頷いた。

 どうしてもラスティは椿姫に弱い。俺も子供じゃないんだぞ、という反発心もあるのだが結局は折れてしまう。やはり弟は姉に頭のあがらないものなのだろうか、と微発泡の林檎酒を口に運びながらちらりと椿姫をみた。
 さっきの質問は余裕の笑みでかわされた気がするし、何か反撃したいが良い案が浮かばない。
 こうなってはあれこれ料理を頼んでやるとメニューを広げれば「頼んだものは全部食べること」と笑顔で返された。
 ちなみに「時価」を頼む気は端っからない。だって怖い。値段がわからないものは。CAM目指して貯金している身としてはそんな冒険できない。
(敵わないよなー)
 新たに揚げ物などを追加しながらラスティは思う。此処は素直に姉の好意に甘えておこう、とも。
「最近無駄遣いはしていない?」
「うっ……」
 以前武器の強化で破産寸前までいったことを思い出して言葉に詰まる。あの時は姉、兄からお小言を言われたものだ。
 今は目標があるからそう無駄遣いはしていないが、ついそれもあり視線を泳がせてしまう。
「ラスティ?」
 少しだけ低くなった椿姫の声に「してませんっ!」 「サー、イェッサー」とつけそうな勢いで申告する。
「俺さ、今目標があるんだよ。だからそれまでは節約モード」
 念願のCAMを手に入れるため。ちなみにCAMは男の浪漫なので「無駄遣い」のうちには入らない。
「だからこの前のハントも張り切っていたのね。途中であきらめないように一度入れたら取り出せない貯金箱プレゼントしましょうか?」
「え……なんだそれ、怖い?!」
 取り出せないとか意味が解んねぇ、と首を振るラスティに椿姫が笑う。
「日本にね豚さん貯金箱っていう陶器でできた豚の貯金箱があるの。お金を入れる口しかなくて、使う時は壊すしかないのだけど……。そうすると使う前に一回立ち止まって考えることができるでしょう?」
「うっかり情が移ったら困るから遠慮しとく。そういえばさ椿姫は日本にいったことあるんだよな。どんなとこだった?」
 兄貴分の故郷であり、偉大なテレビゲームを作り出した国だ、興味はある。
「四季の移り変わりが美しい国だったわ。季節ごとに代表する花とかあるのよ。あと……とても人が多かったわね」
「リゼリオよりも?」
「リゼリオよりも」
 尋ねるラスティに椿姫が真顔で頷く。
「ラスティの故郷はどんなところだったの?」
「寒いとこだったよ。年中雪と氷があるような。でも自然も沢山あって悪かなかった」
 北欧にある故郷を思い出す。空が広いところだった。その寒さが今は少しばかり恋しい。
「オーロラを見たことある?」
「珍しくもなんともないぜ」
 羨ましがる椿姫に少し得意そうに身振り手振りを使って空に浮かぶオーロラを表現して見せた。
「地球に戻ったら、案内してやるよ」
「楽しみにしてるわね」
 日本にも行ってゲームもあれこれ仕入れないとな、と言えば「無駄遣いは駄目でしょ」と念を押された。
 互いに実際に帰還できるようになって戻るかはわからない。特に自分はこの世界の技術に興味がある。
 ただいつか姉と兄に自分の故郷を案内できたら良いな、という未来の希望のようなもの。
「この前サルヴァトーレ・ロッソの転移実験で地球に行ったんだろ。地球はどうだった?」
 二年ぶりにリアルブルーと呼ばれる地球のある世界と此方側が繋がったのだ。そのニュースは大きな衝撃を伴って瞬く間にハンターたちの間に知れたことは記憶に新しい。
 ラスティは食べる手をひと時止めて椿姫を見やる。

 地球、正確には月面基地崑崙に一時だけ帰還した。
 帰還した途端に戦闘という状況だったが。久しぶりの地球圏だ。
 あそこに自分の大切な家族や友人がいる――そう思うと基地から見上げる地球の青さに懐かしさが募った。
「少しの間でも帰ることができたのは嬉しかった……」
 偽らざる本音だ。だが問題も山積みだった。
 最終防衛ラインと言われていた月まで攻め込まれていること、統一連合議会はクリムゾンウェストを、そしてハンターたちを受け入れていないこと、「呪い」だと表現されたこの地との繋がり……思うところは色々ある。
 だが椿姫はそれを口にすることを良しとはしなかった。代わりに統一連合議会のお偉方は相変わらず頭が固かったわ、など冗談交じりに話す。
 彼の事だ椿姫が不安を口にすれば口ではあれこれ言いながらも親身になって心配してくれるだろう。
 別段頼りにしていないわけではない。仕事となればラスティの腕は信用してるし背中だって任せられる。
 だが弟のような存在にそのようなところは見せれない。
 いや実際のところ恋人にも見せられない。彼らはとても優しいから心配し気を遣わせてしまうのが心苦しい。
 だからそういった素振りすら見せないように務めてきた。
 それでも抱えきれないときは親しい友人に零してしまったりしているのだが。
「さてとデザートにしましょうか? 此処、デザートも美味しいのよ」
 デザートくらい奮発するから好きなの頼んで、とデザートメニューをラスティに渡す。
「……さては自分が食べたいのに俺を理由に使ってるな」
「じゃあ、私だけで頼むわよ」
「前言撤回。勿論俺も食べるぜっ」
 いくつか頼み二人で分け合って楽しんだ。

 とっぷりと日が暮れた空に丸い月が浮かぶ。
 刺すような陽射しがなくなった分、昼間に比べて幾分過ごしやすいと言えなくもないが蒸し暑さはそのままだ。
「食った〜」
 満足そうに腹を摩るラスティに「食べ過ぎじゃない?」と椿姫は眉を顰める。
 金額的なことを言っているのではなく、弟の体を心配しての事だ。暴飲暴食は体に良くない。
「美味かった。ごちそうさん、姉さん」
「こういう時だけ調子の良い」
 椿姫が蟀谷を突くと大袈裟にラスティがよろけてみせた。
「今日の店もすげー美味かったけど、俺は椿姫の料理も好きだぜ」
「……突然どうしたの?」
 瞬きを繰り返す椿姫をラスティが足早に追い越していく。
「偶には胡麻を摺っておこうかと、な」
 早口で告げられる言葉。
「全く……。本当に調子が良いんだから」
 すれ違う時に見えた彼の表情、姉として触れないでおく。ラスティは誰の影響か、最近少しずつ素直になってきている。
「次は三人で食事しましょうか?」
 触れないことにしたのだが自然柔らかくなってしまう声はどうしようもない。
「楽しみだなっ」
 それに気付いたのかラスティがばつが悪そうにフードをぐいっと深くかぶった。
 日常のなんてことのないことを離しながらの帰り道、それぞれの家への岐路について「送っていく」とラスティ。
「ありがとう」
 椿姫は可愛い弟分の言葉に甘え並んだ。
 弟の様に思っていたラスティもこうして大人になっていくのね、なんて少ししんみりと思いながら……。
 でも途中、珍しいジャンクパーツをみつけたとかでそちらに行ってしまう姿はまだまだ子供だと考えを改める。
「あぁ、でもあの人も……」
 珍しいパズル本などみつけるとついふらふら行ってしまう。男の人って本当にしようがない――目を細めてあれこれワゴンを漁るラスティの背を月と一緒に見守った。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名       / 性別 / 外見年齢 / 職業】
【ka1400  / ラスティ      / 男  / 16   / 機導師】
【ka1225  / 椿姫・T・ノーチェ / 女  / 30   / 疾影士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼ありがとうございます。桐崎です。

姉と弟、ご飯に行く――いかがだったでしょうか。
実際の姉と弟のように割と容赦のない関係なのかな、と思っております。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
colorパーティノベル -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年10月20日

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