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『―夢と現実と・14― 』
海原・みなも1252

 大海原に行き交う、大小さまざまな船。
 先の『謎の無人島』騒動が落ち着いて、外洋に出る際の障壁が無くなった為、漸く海洋ルートが活性化し始めたのである。
「だいぶ、賑やかになったね」
「うん。噂って、いつの間にか広まってるものなんだね。あたし達は何も喋ってないのに」
 港を出て直ぐの位置にある、小さな無人島。そこに潜んでいた、神獣リヴァイアサンの夫婦。彼らの間に出来た卵が孵化するまでの間、外敵を寄せ付けぬよう妨害されていたと云うのが、先の騒動の真相である。
「あの子、元気にしてるかなぁ?」
「俺たちPCと違って、絶命によるゲームオーバーが無いからね。親である彼がリタイアしない限りは大丈夫だよ」
 やや感傷的に語るラミア――海原みなもに対し、ウィザードが冷静な回答で迎える。それを受けて、みなもは『相変わらず、ロジカルなんだね』と苦笑いを浮かべた。
「あのー、お話の最中に悪いんだけど。早く行かないと先を越されちゃうよ?」
「ん? あぁ、『エキドナの胎動』ね。パスするつもりだよ」
 割って入って来たのは、ガルダに扮する少女――瀬奈雫であった。彼女は、オフィシャル情報として通達されている、新たなクエストについて質問しに来たようだ。が、予想に反した回答が返って来た為、彼女は驚いて暫し絶句し、そして反論した。
「え〜!? 何で何で!?」
「何で、って言われてもなぁ。俺たちには特にメリット無いからね、だから静観しようと思ってるんだけど」
「う〜!!」
 一人、血気盛んな雫が不満を露わにする。が、マイペースでファンタジー世界に浸っていたいと考えるみなもとウィザードは、何故にそこまでアツくなるのかが分からず、逆に困惑してしまった。
「行きたい?」
「トーゼン!」
「何で?」
「何で、って……お手柄よ、お手柄! クリアボーナスも凄いし、歴史に名前が残って、英雄になれるんだよ?」
 興奮気味に語る雫を見て、二人は『あー……』と声を上げながら、顔を見合わせる。
「うん、確かにボーナスとして経験値もらえるし、名鑑に名前も載るよね」
「でも、有名になるって事は、それだけ敵を多く作るって事ですよ?」
 みなもの一言に、雫は一瞬たじろいだ。が、そこで怯む彼女ではない。クエストに挑む事のメリットを並べ立て、二人を説得しようと懸命になっていた。
「リスクの割にメリットが少ないのは分かってるよ! でも、それだけじゃないでしょ? 冒険を通じて、得る物も沢山あるんじゃない?」
 身振り手振りまでを加えて、必死にアピールしてくる雫を見て、ウィザードは『仕方ないなぁ』と云った風に溜息をついた。
 そして、暫し考えた後、雫に『本当に行きたいか?』と念を押した。答えは、彼の思っていた通りのものだった。
「OK、分かった。行くだけ行ってみよう。但し、MVPとか期待しちゃダメだよ?」
 漸く出た答えが、それだった。が、雫はそれでも満足だったようだ。彼女は決して功を焦るタイプでは無いのだが、持ち前のアクティヴな性格が出てしまうのだろう。それは彼女の長所でもあり、同時に短所でもあった。
 参加が決まったら、彼女は満足したのか。その場を離れて船室へと消えた。
「やれやれ、俺は気が進まないんだけどなぁ」
「でも、雫さんの言う事にも一理あるよ。ドラゴンさんの件だって、関わったから得られた事も多くあったんじゃない?」
 それは、まぁ……と、ウィザードは視線を斜め上に逸らしつつ、何か言いたそうな表情を作る。恐らく、彼自身の価値観だけが問題なのではなく、何か懸念があるから参加を見合わせるつもりだったのだろう。それは、みなもにも分かる事だった。
「レベル的には、問題ない筈だよね?」
「うん。だけど、相性が悪いっていうか、ね」
 そう呟くと、ウィザードは再び空を仰ぎ、じっと考え込んでしまった。それを見たみなもは、頭に疑問符を浮かべながらその様子を窺っていた。

***

「……ッ!」
「またか? やっぱりおかしいよ、体調悪いんだろ?」
 口元を押さえ、嘔吐感に耐えるような仕草を見せたみなもに、ウィザードが心配そうな面持ちで問い掛けた。
「ん、何でもないよ。ただ……おかしいなぁ、風邪ひいた訳じゃ無さそうなんだけど」
 頑丈さが売り物のラミアが、体調不良を訴える事は珍しい。が、みなもは明らかに変調を見せていた。しかも、今さっき急にこうなった訳では無い。既に数日、この様子が続いているのだ。みなも本人は『何でもない』を繰り返すが、傍から見ていても彼女の変調は明らかだった。
「大丈夫だから……」
「何言ってんだ、大丈夫だったらそんな顔色になる筈が無いだろ」
 顔色は青白く、額には汗が滲んでいる。ウィザードが額に手をかざすと、異様な程に体温が上昇しているのが分かった。
「酷い熱だ。一旦陸に戻ろう、医者に見せた方が良い」
 ウィザードが、お手本のような指示を下す。然もありなん、これはログインしているプレイヤーの問題ではなく、キャラ自身に何か変調が訪れた為の発熱に他ならなかったからだ。戦闘中に毒を食らったのかも知れないし、種族特有の持病がある可能性もある。とにかく、ステータスに著しい変化が現れている事は確かだったからだ。
 陸に向けて舵を取るため、ウィザードが甲板を離れた刹那。雫が上空を見上げて、思わず悲鳴を上げた。
「何か降ってくる、凄いスピードだよ!」
 それは、群れを成したカーマだった。単体では恐れるに足りぬ、所謂ザコである。だが、その攻撃を無防備状態で受ければ、少なからずダメージは受ける。
「迎撃……ダメ、間に合わない!」
 光の矢で弾幕を張りつつも、攻撃力が足りないと直感した雫が思わず叫ぶ。無論、ウィザードも操舵席から応戦するが、既にカーマはその表情まで見て取れる距離にまで接近している。もう援護は間に合わない、しかもターゲットは甲板上のみなもだ。
「避けろ!」
 悲痛な叫びが木霊する。が、彼女のコンディションは最悪。自力で攻撃を退ける事は不可能――誰もがそう判断した。が……
「キ……!」
 悲鳴を上げる間もなく、カーマの集団は視界から消えていた。
 雫が撃墜した訳では無い。ウィザードが高位呪術を放った訳でも無い。
 此処で、迎撃に当たっていた雫とウィザードは、信じられない光景を目の当たりにしていた。
「嘘、だろ!?」
「みなもちゃん……?」
 そう。カーマが甲板に激突する寸前を捉え、一刀両断にしていたのは、他ならぬ……みなもだったのだ。
 長い髪は逆立ち、鱗には薄い金色の光沢が見える。クローも、今までのようにただ伸びるだけではなく、研ぎ澄まされた刀のような鋭さを帯びていた。明らかに、今までの彼女とは様相が違う。
「レベルアップか? いや、単なるレベルアップで、装いまで変わるなんて聞いた事が無い!」
「良く分からないけど……あれ? ね、みなもちゃん?」
 恐る恐る、その身に近付きながら、雫がみなもに声を掛ける。が、返事は無い。どうやら、意識が無いようだった。
「……気絶してるよ?」
「だろうな。しかし……これはレベルアップなんて生易しいもんじゃない、進化と言っていい」
 緊張が解けたのか、変化したままの姿で脱力したみなもは、その場に倒れ込んだまま動かなくなっていた。
 彼女の身に何が起こったのか、彼らには分からない。とにかく、みなもの意識が戻るのを待つ他に手だてが無いのだった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年10月21日

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