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『任務なき、休みなき日常風景 』
不知火 轍aa1641)&雪道 イザードaa1641hero001

●休日なんてなかった朝
 ふと、顔を上げると、時計の針は朝の7時を差していた。
「そろそろ起こさなくてはいけませんね」
 雪道 イザード(aa1641hero001)は、書き物の手を止めて呟いた。
 今日は、エージェントとしての任務がない日だ。
 エージェントとしての任務がない日と休日はイコールされない。
 イザードは立ち上がり、寝ている不知火 轍(aa1641)の枕元まで遠慮なく歩いていく。
「轍、朝ですよ」
 物凄い不機嫌そうな、ある種の殺意までありそうな目がイザードを見る。
 轍は身体の一部は寝てないだろうから、自分の足音には気づいていただろう、それでも寝ているというのは何なのかと思うが。
「ほら、起きて、着替えて顔を洗って……」
 イザードの話の途中で「……まだ寝てたかったのに」というクレームが舌打ち付きで来た。
 苦無を出して寝る為の攻防に入らないのはそれをするのが無駄だと知っているからだろう。
(ですが、油断は出来ません)
 目を離したら寝る。
 イザードは、確信していた。
 だって、轍、遭難してるってのに0.4秒以下で寝たし。
 轍は朝食を摂らない、イザードは1日5食(分けているだけで大食漢ではない。寧ろ少食だ)、この時点で食事回数が異なるのだが、そこについては領分的なものより強制はしないが、「朝食を食べた方が健康にはいいですよ」程度の言葉は軽く出る(本人が聞き入れるかは別次元)
「轍の今日の予定は?」
「……一族からの頼まれごと、しとくよ。緊急ってものじゃないらしい、けど、期限なしって訳でもないから」
 イザードが昨日井戸端会議でレシピを仕入れてきたきんぴらのお味噌汁を飲みながら言うと、轍は冷蔵庫からミネラルウォーターを出しながら素っ気無く返す。
 ちなみに、お味噌汁に使われているゴボウとニンジンは常連となった八百屋のおばさん一押しである。
「自分は午前中少し出かけます。近所の安芸さんからサトイモの天ぷらを教わろうと思ってまして。昼には戻るつもりです」
「……安芸さんって、誰」
 イザードは、染み付いているレベルで特徴が薄い。
 さり気なく世間話中の井戸端会議に混ざったりしているが、住人不明の得体の知れないお家はそれはそれで目立つことを知っているからか、置手紙は勿論メールなどのこの世界に来てから知った手段を用い、少々活動し、得体が知れなくない程度には顔を売り、けれど、周囲から情報収集しても何も得られないのが不自然ではないように立ち回っているのは知っていた。
 が、ごく自然に知らない家の名前が出てきたので、流石に突っ込む。
「近くの農家の方ですが。先日、八百屋さんの紹介で知り合いまして、メールを少々やり取りしてまして」
 轍は、思った。
 多分、それが昼食だな。
 自分もそうだがイザードも肉を好まないので、自発的に食卓に乗る機会はほぼなく、今テーブルの上にあるような野菜のみということも少なくない。
「安芸さんは料理上手な方で。そのお宅で見た加圧式の鍋が自分気になっています……」
 何か言い出した。
 興味ないし、イザードは決めたら自分の意見は差し挟まないので、「好きにすれば」と轍は言って、私室へ戻る。
 イザードが出かけるまでは、と思い、轍はパソコンを立ち上げている間にメガネをケースから出した。健康診断の後気にするようになってパソコン作業中はメガネを掛けることにしたのだ。
「……結局パソコンの出番になってるよな」
 とは言え、資金源のひとつ。
 轍は一族から依頼された、収集した情報の解析に乗り出した。
 程なく、音も色も世界から遠ざかっていく。

●集中し過ぎて忘れそうな昼
 轍が微かな物音に気づいて顔を上げると、既に昼だった。
「ただいま帰りました」
 物音の主、イザードが包みを手に玄関から姿を現す。
「これが教わったサトイモの天ぷらです。こってりはしてないですね。あと、轍がうどんより蕎麦を好みますし、蕎麦とさっぱりした漬物をお裾分けにいただきました。お昼は蕎麦でいいですか?」
「……いいけど、天ぷらは別で」
 轍がそう返すと、イザードは分かりましたと返して台所へ消えていく。
 その間に轍は解析終了したデータを暗号化し、決められた手段以外でファイルを開けばデータが消えるよう仕組む。
 一族関連の仕事は、イザードには紙面の記録作成程度しか手伝わせておらず、イザードがその情報を触ることはないが、一族の仕事によっては轍のPCから情報を盗もうと考える輩もいる為、轍は対策を怠っていない。
(そういう意味じゃ、あいつは役立った)
 メガネを外す轍の脳裏に過ぎったのは天空塔の戦いだ。
 幻月配下の愚神に電脳世界への干渉能力を持ったものがいた。
 あの後、轍はそういう連中に一族が狙われるとは思えないが、一族の仕事の妨害者にいたら困ることより、そちらの対策も踏まえ、パソコンを操作しない時は自動的にオフラインになるようにも仕組んでいる。面倒だが、あの手の遊びは門前払いに限る。それでなくとも最後は紙面保存が原則だと轍は思っているし、これについてはイザードも同意見だ。
(道があるなら、来るだろ)
 轍はそう思いながら、パソコンの電源を落とす。
 これでパソコンはオフラインになると同時にこのパソコンを直接立ち上げても決められた手段以外で立ち上がらなくなる。
 この辺りも轍は自作パソコンで、自分にしか扱えないように組んでいる分容易だ。
 パソコンに限らず、扱う道具が人を選ぶ癖はあるが使い込めば恐ろしく馴染むようになっている辺り、轍の極限に挑戦する志向に現れている。
「轍、出来ましたよ」
 イザードの轍を呼ぶ声がし、轍は立ち上がる。
 早く行かないと、それはそれであの『オカン』は言うし、蕎麦なら伸びる。それはよろしくない。
「……一族の仕事も終わり、天気は、いい」
 なら、昼食終わったら、寝よう。寝るしか、ない。
 お気に入りスポットでハンモックに揺られたい。
 気分転換の散歩として外に出ることから始めねば。
 轍は昼からの計画を綿密に立て始め、イザードの動きに備える。
「昼食食べ終わったら、自分は少し出かけてきますね。図書館に本を返却してきます」
「……あ、そう」
 イザードへ応じつつ、轍の頭の中にはどのルートを使って昼寝スポットまで行くか考案し出す。
 昼食を食べ終え、洗い物を終えたイザードに悟られないよう準備をしようと思い、気配を消して立ち上がる轍、プロの手口である。
「ところで、轍」
 イザードが前触れなしに振り返り、にっこり笑った。
「部屋の片づけをお願いしますね?」
 まるで気づいていたかのような笑みに轍は露骨に舌を打った。

●好きにさせてもらう昼下がり
 轍はイザードが外出してすぐにお気に入りの昼寝スポットへ移動開始した。
 当然だが、お気に入りの昼寝スポットは幾つかあり、季節、天候、時刻、気分などによってどこに行くか決定される。
(今日なら、あそこ)
 轍は心の中で呟き、無駄なく、到達。
 手馴れた動作で自分の好みにカスタムされたハンモック(これに慣れると元々好きではない寝袋、更にアウトになる)を設置し、程よい日差しと風の中すやぁ……して、すぐに、轍は目を覚ました。
 イザードの気配だ。
 そして、これは、仕事を持ってきた気配だ。
 轍、即座に撤収準備開始。
「轍? 今日はこちらだろうとは思っています」
 轍がハンモック回収、即逃亡に入っていたが、近くにいることを見越しているイザードはにっこりと告げる。
「仕事が入りましたよ? 行きましょうか」
 その言葉と同時にイザードが地を蹴った。
 軽く跳躍して降り立ったのは、近くの低木だ。
 迷いなく上を見上げると、身を潜めている轍が見える。
「轍、仕事です。エージェントとしての仕事です。急ぎではないようですが」
「……急ぎじゃないなら、呼びに来る必要ないだろ。今日僕はもう昼寝をすると決めたんだ」
「いいえ。自分は夕方には轍を連れてくると伝えていますので」
「……勝手に決めるな」
 隙を見て轍が枝から枝へ飛び移り、逃亡を図る。
 イザードは笑顔のまま、轍が逃亡した先とは異なる方向へ走り出す。
(今日は木を使った逃亡となりますと、逃亡し易いのは北北東……ですが、轍はそれを知っていて選ばないでしょう、自分もそれが判ると思うから。北北東と見せかけ、西南西でしょうね。……あそこはドッグランがありますし、確率が高いと思うでしょう)
 動物に好かれない中、犬に関しては自分も好きではないという逆相思相愛。
 それを踏まえてルートを選ぶだろう。
 イザードは、しれっと呟く。
「ですが、轍……公園の入り口までドッグランが及んでいる訳ではありませんよ?」
 迷いなく、そのエリアを通らず、轍とは別ルートで最短の公園入り口へ走る。
 ここからが、勝負だ。
 イザードはほぼ前触れなく、公園近くの茂み、人通りのない場所で何もない木々に向かって苦無を投擲した。
 即座に回避した轍が体勢整えて地へ降りてくる。
「轍、行きましょうか」
「……断る!」
 イザードの苦無を次々と避けるが、イザードは着地点を計算しているかのように投擲し、間合いを詰めてくる。
 木への跳躍も許さず、一瞬の隙を衝いてドッグランへ転進しようとした轍の進路に弧を描いて苦無が突き刺さった。
 別の方角にも次々と突き刺さっていき、イザードの腕が轍の奥襟に伸びた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……好きにしろよ」
「元よりそのつもりです」
 せめてもの抵抗とスマホから音楽を聴き始めるが、イザードは上機嫌に轍を引き摺っていく。
 ルートは毎度変えているが、イザードはそれを読んでいる。
 次は絶対に逃げて昼寝をする……轍は心の中でそう呟くからか、イザードのずるずるはH.O.P.E.東京海上支部へ到着しても終わらない。
「……いい加減、離せ」
「逃げるでしょう?」
「……逃げねぇ、よ(今日は)」
 轍の言葉の言っていない部分までお見通しであるかのようにイザードは笑う。
「どうですかねぇ。そう思っている轍の行動は割と読みやすいですから」
 直後、轍が盛大に舌打ちし、イザードに怒られたのは言うまでもない。

 これが、任務がない日の彼らの日常のひとつ。
 任務がないからって休みになるとは限らないのだ。

 けれど、それでも、轍は仕事終わったら、自由に昼寝がしたいのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【不知火 轍(aa1641)/男/21/本業寝たい人、兼業忍びエージェント】
【雪道 イザード(aa1641hero001)/男/26/本業薬師、兼業オカン】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
お2人の日常をかなりお任せいただいたので、既に納品されている連結絵・2人スタンプなども踏まえ、描写を行わせていただきました。
イザードさんは笑いながら本心を悟らせないようにしつつ、それでいて確信を持って行動してくるタイプだと思いますので、轍さん追跡の時は轍さんも大変そうですが、遭難の時に見せた執念を持って、昼寝出来るよう精進いただければと思います。
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2016年10月24日

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