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『ばーべきゅぅ、とは 』
エルヴァニス・ヤノウルクka0687)&陽炎ka0142)&朱殷ka1359)&碓葉ka3559)&珂々火ka3930


 猛き者。尊き者。強き者。
 空を往き、地を砕き、海を割る幻想の長――龍。
 その祖霊を降ろす一族が居た。

 しかしこの一族、強きものではあるが横文字には滅法弱い。
 そして古きものには造詣が深いが、新しいものにはとんと疎い。
 ただ、それを積極的に取り入れて、今の時流に乗っかろうとする努力だけは惜しまなかった(ノリが良いとも言う(
 そうしてこれまでに様々な「新しきもの」を制してきたのだ。

 そんな彼等の前に立ちはだかる、新たな強敵。
 それは――


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


「ばーべきぅとはなんだ」
 一族の重鎮……のように見えて実は最も好奇心旺盛でフットワークの軽いオジサマ、エルヴァニス・ヤノウルク(ka0687)は重々しく首を傾げた。
 眉間に皺を寄せて考える。
 言葉の響きから察するに、何か邪教の儀式のようなものだろうか。
 いや、かつて制した「くりすます」や「うみびらき」といった言葉を彷彿とさせる。
 それらと何か共通の祖先を持つ文化体系に分類される言葉なのだろうか。
 だとすれば、これも由来は蒼の世界――

「まあ、とりあえず、やればわかるか」

 そしてまず、辿り着いたのが……ここだ。
 冒険都市リゼリオの一角にある酒場。

 『BAR 米久』

「……ばー……べいきゅう……?」
 その看板を見上げ、珂々火(ka3930)は鼻から漏れそうになった笑いの欠片を片手で押し込めた。
 長く諸国を放浪していた彼はもちろん、ばーべきぅ……いや、バーベキューが何であるかを知っている。
 だが、興味があった。
 エルヴァニスが何をするつもりなのか、どこから情報を仕入れてどう解釈すればここに辿り着くのか……そして、これからどこへ行こうとしているのか。
 とりあえずはそっと見守ることにしよう。

「ばあべきゅうとは、店の名であったのじゃのぅ」
 碓葉(ka3559)は納得の様子で深々と頷いた。
 見た目は年端も行かぬ少年だが、こう見えても六十あまりの齢を重ねた長老格である。
 その彼をもってしても、長年過ごした村ではついぞ耳にしたことがなかった謎の言葉、ばあべきゅう。
 なるほど、このように特定の町でのみ営業している店の名であるならば、辺境にその噂が伝わらぬのも道理。
「じゃ、早速入ってみようよ!」
 物怖じしない若き族長、陽炎(ka0142)は、がらりと店の戸を開けて奥へ入って行く。
「ねえねえ、ここでばーべきぅ出来るって聞いたんだけど!」
 その瞬間、店内の客全ての目が彼の上に注がれた。
「え、なに? 僕なんか変なこと言った?」
 好奇の目にさらされて、陽炎はすがるような目でエルヴァニスを振り返った。
 が、頼りの彼も当惑の表情で、ただゆるりと首を振るばかり。
「どうもここには、我らの求めるものは無いようだな」
 朱殷(ka1359)は客達の目を睨み返すように視線を投げると、くるりと踵を返した。
「すまぬ族長どの、どうやらここは見当違いであったようだ」
 エルヴァニスも陽炎の袖を引いてそれに続く。
「えっ、なに、ここじゃないの?」
「ふむ、ここは見当違いであったのかのぅ?」
 店に入るタイミングを失った碓葉が中を覗き込み、首を傾げる。
「おお、そうじゃ。この手の店は確か『ちぇぃん』とかいうもので結ばれておるのじゃ」
 その「ちぇぃん」で繋がれた別の店のことではないのかと、若い者から仕入れたばかりの知識をドヤ顔で披露して見せるおじいちゃん。
 なに、違う?
 そもそも店ではない?
「この店にゃ、兄ちゃん達みたいな客が時々来るんだがな」
 店を出ようとする彼等の背に、カウンターの奥から店主の声が聞こえた。
「バーベキューしたいなら河原かどっかに行くんだな。専用の場所に行きゃ、場所によっちゃ炭なんかも用意してあるぜ?」
「ご主人、どうも迷惑をかけた……我らこの地に寄って間もないゆえ、少々世辞に疎くてな」
「なに、構わねぇよ。今度は酒を飲みに来てくれな!」
 珍客の乱入にも嫌な顔をせずにアドバイスをくれた主人に礼を言い、エルヴァニスは一行を促して通りへ出る。
 だがしかし、ここであと僅かに一歩を踏み込んでいれば、次なる悲劇(喜劇?)は起きなかっただろう。

 そう、「ばーべきぅとは何か」と素直に尋ねていれば。


「そもばあべきゅうというのは何をするものなのかのぅ?」
 ぞろぞろと通りを歩きながら、碓葉はかくりと首を傾げる。
 ヒントは得た。
 炭が必要であることから、恐らく何かを焼くのだろう。
 河原で行うということは、清らかな水の流れが必須であるということだ。
 しかもそれ専用の場所があるという。
 清めを伴う神聖な何かだろうか。
「焼くとなれば肝練り――鍛錬の儀式やもしれぬ」
「肝練りって?」
 陽炎の問いに、エルヴァニスは若き族長を振り返る。
「肝練りとは、天井から吊された時限爆弾の下で食事をし、根性を鍛える鍛錬のことだ」
 発祥の地では少々異なるスタイルだったようだが、死の恐怖と戦いつつも平然と食事を取ることの出来る精神力を養うというコンセプトは変わらない。
「爆弾は車座に座って食事を取る者達の頭上をグルグルと回っている。自分の頭上で爆発すれば即死は免れない」
「なにそれ、僕ちょっとそういう根性論みたいなのは遠慮したいな!」
 というか、正気じゃない。
「心配無用だ族長どの、なにも肝練りをそのまま行うわけではない」
 エルヴァニスは顔の皺を深くして言った。
「ばーべきぅには炭を使うと聞いた。そこで連想されるのが臥薪嘗胆の故事だ」
「いや、炭の字どこにもないよ!?」
「炭も薪も似たようなものだろう」
 そんな抗議には耳を貸さず、龍人は若き長に蕩々と説く。
「昔の武将は薪の上で寝ることによって己の肉体を鍛え上げたそうだ」
(「はて、そんな話であったかのぅ?」)
 碓葉は疑問に思ったが、何やら面白いことになりそうだと口を挟むのはやめておいた。
「しょーたんは?」
「苦い肝を舐めることで精神を鍛えたのだ。つまり燃えさかる炭の上で肝を舐める、これぞばーべきぅ!」
「いや、それ絶対違うと思うよ?」
 だってばーべきぅってなんか楽しそうな響きじゃない?
 噂に聞く声もばーべきぅ楽しみーとか、やったー明日はばーべきぅだーとか、そういうのばっかりだよ?
 それ絶対苦行しに行くノリじゃないよ?
「いや、これぞ天が与えたもうた千載一遇の好機!」
 エルヴァニスはまだまだ未熟な族長の言葉は寝言と聞き流し、固く握った拳を天に衝き上げた。
「族長どのを鍛え、自身の心身を鍛え、さらなる戦へと挑むのだ!」


「ふむ、ここが神域……ばあべきゅう会場というものであるようじゃのぅ」
 ゆるやかな流れを背にした広い河原で、碓葉はちょっと背伸びをしながら周囲を見渡してみた。
 水の流れは清く、近くには小さな滝もあった。
 なるほど、修行には最適の場であるようだ。
 そして石を積んで作られた丸い囲いの中には炭が赤く熾っている。
「おお……これは知っておる、火渡りの儀式であろう!」
 火渡り、それは赤く熱した炭の上を裸足で歩く精神修養の一種だ。
「え、それ火傷するよね絶対」
 上に座らされるよりはマシかもしれないけれど、と思いつつ陽炎が問う。
 その怯えた様子に、碓葉は年輪を感じさせる鷹揚な笑みで答えた。
「正しい準備と手順を踏まえておれば、火傷はせぬものじゃ」
「そうなの?」
「うむ、恐れて走れば却って危険が増すでのぅ。心を鎮めゆるりと歩けば熱さを感じることもないそうじゃ」
「へぇ、碓葉は小さいのに物知りなんだね!」
 相手の中身が父とも慕うエルヴァニスよりも高齢であるとはつゆ知らず、陽炎は碓葉の頭をぐりぐりと撫でる。
 だが流石に年の功と言うべきか、エルヴァニスには何か感じるものがあったようだ。
「なるほど、碓葉殿がそう仰るなら、ばーべきぅとはそのようなものを指すのでしょうな」
 これは敬うべき長老だと判断し、敬語に切り替える。
「え、なんで敬語?」
 陽炎はきょとんとしているが……相手を外見のみで判断するとは、やはりまだまだ未熟者。
「族長どのは肉体的にもさることながら、精神的にも成長が必要であるということだ。ここは碓葉殿の仰る通り、火渡りの儀が最適だな」

 というわけで。
 白装束に身を包んだ陽炎は、真っ赤に燃える炭が一本の道のように川に向かって敷き詰められた、その開始地点に立つ。
 と言うか、立たされていた。
「ねえ、本気でやるの? 火傷するよ? 僕、族長だよ? 普通は怪我とかさせないために守られる存在だよ?」
「そういう台詞は族長として相応しい強靱な肉体と精神を身に着けてから言ってもらおうか」
 エルヴァニスは容赦なくその背を押す――が、こんな時ばかり龍人としての才能を遺憾なく発揮した陽炎は、頑として動かなかった。
「こういうことは年長者がまず手本を示すものでしょ!」
 まあ、それも一理ある。
「まさかエルヴァニス、自分に出来ないことを人にやらせようとしてるわけじゃないよね! ね!」
「そ、それは……当然だ」
 あ、言っちゃった。
 言っちゃったからには、やらねばなるまい。
「そうだ、この際だから全員で修行をしてみてはどうだろう」
 多分、みんなで渡れば怖くない。
「いや、我は遠慮しておくとするかのぅ……なにしろ、ほれこの通り、まだ童子であるでのぅ」
 こんな時だけ子供のふりをするおじいちゃん。
「小僧、ぬしも精神の修養は必要じゃろ」
 ほれ行ってこいと、碓葉は自分を拾った「でかいの」――朱殷の尻をつつく。
 なお尻つつきが趣味なわけではない、ただ身長差ゆえに、それが目の前にあるからつつきやすいというだけで。
 それを見下ろし、朱殷は低く唸った。
「ぬるい」
 ばーべきぅという言葉の意に心当たりはないが、焼けた鉄の上にて耐える鍛錬であろうと考えていた。
 或いは焼いた石を背に乗せ耐える鍛錬ではないかと。
 それが何だ、ただ焼けた炭の上を歩いて渡るだけだと?
 ヌルいにも程がある、そんなもので何の鍛錬になるというのか。

 ぐしゃ!

 朱殷はその大きな足で、敷き詰められた炭を粉々に踏み潰した。
 いや、故意に潰そうとしているわけではない。
 ただ歩いただけで自然にそうなるのだ。
 ぐしゃ、ぐしゃり、足の裏が焼けるのも厭わずに泰然と歩く。
 いや、そもそもこの程度で焼けるような皮膚の構造ではないのかもしれない、なにしろ片方は義足でもあることだし。
「熱くないのかな」
 それを呆然と眺めていた陽炎の中に、めらめらと何かの炎が噴き上がった。
 なんか悔しい。
 いつもいつも、手合わせの度に打ち負かされて――と言うか、まるで相手にもならないという体であしらわれて。
 それは確かに体格差もあるし、経験の差も歴然だ。
 けれど――これなら勝てる、いや、体格や経験がハンデとならないこの勝負で負けるわけにはいかない。
 勝手に闘争心を燃やした陽炎は、意を決して一歩を踏み出し――
「あっちぃ!!」
 思わず飛び退いた。
「だから族長どのは修養が足りぬと言うのだ」
 それを鼻で笑ったエルヴァニスが無造作に足を踏み入れる。
 いくら朱殷が鍛えているとは言え、足裏の感覚はそう変わらないはずだ。
 その彼が平然と歩いているなら大丈夫に違いない。
「心頭滅却すれば火もまた涼しというだr――あつっ!!」
 待ってなにこれ熱いよ!?
 なんで!?

 解説しよう。
 生き物の身体は本来、熱伝導性の低い水分で満たされている。
 つまり燃えにくく出来ているのだ――と言っても紙に比べれば、という程度の差でしかないのだが。
 それでも、火にかざせば一瞬で燃える紙と、火傷で済む人の身体とでは、危険度に大いなる違いが出ることは明白であろう。
 人の身体も火に触れれば熱い、だがそれは一瞬で燃え尽きるようなものではない。
 ある程度の短時間、僅かな面積であれば、人は熱さを感じることも火傷をすることもなく、火に触れることが出来るのだ。
 そしてこの炭というものは、大きなひとつの塊に見えて、実はスカスカの穴だらけという代物である。
 よって、燃えている部分の面積は見た目よりもかなり少ないのだ。
 だから人は火傷をせずに、焼けた炭の上を歩くことが出来る。
 ただし、それには例外があった。
 ひとつは走るなどして必要以上に足の裏に体重をかけること。
 強く押し付ければ、それだけ触れる面積が増えることは自明だろう。
 そしてもうひとつ。
 崩れて潰れた炭を使うことだ。

「なるほど、朱殷殿の歩いた跡は確かに炭が粉々に砕けている」
 エルヴァニスが感心したように頷いた。
「じゃあ僕が熱いって感じても、修練が足りないってことじゃないんだね!」
「いや、族長どのに修練が足りぬのは事実」
 エルヴァニス、容赦ない。
 よって次は――
「滝だ。滝に打たれて来るのだ」
 そう、修行と言えば滝。
 そして巨大な岩がゴロゴロと落ちてくる崖を駆け下り、猛獣と素手で組み合い、空腹に耐えて座禅を組むのが定番だ。
「待ってそれ僕にやれって?」
 慈父のごとき笑みをたたえ、静かに頷くエルヴァニス。
「冗談、だよね?」
「獅子は我が子を千尋の谷より突き落とすものと言う」
「僕は獅子じゃないから! スパルタとかそういうの遠慮したい世代だから!」
 古い人はすぐ修行とか特訓とかしたがるけど、今の時代そういうのスマートじゃないからね?

 そこにかけられる、珂々火の声。
「準備が出来たぞ」
 おかしなアイデアはそろそろ出尽くしたようだし、もういいだろう。
「これが本物のバーベキューだ」


 熱した炭がコンロにセットされ、その上に焼き網が乗せられている。
「鉄ではなく網か、まだ少々ぬるいが……よしとしよう」
 朱殷はまだ何か勘違いしているようだ。
「いや、これは修行の装置ではない」
「では人を焼いて食うところか」
 珂々火に言われ、朱殷は居並ぶ者達をじろりとねめつける。
「主らの肉を焼いたところで食欲の一つもそそらぬわ、喰らえというならばそうするが」
 丸焼きするには少々狭いが、切り分ければよし。
「人を焼いて食うところでもない」
 だが朱殷は人の言うことなど耳も貸さずに碓葉の襟首をつまみ上げた。
「童子を焼くには手頃な寸法よ」
「これ、やめんか! 我は小僧の食い物ではないと何度言うたらわかるのじゃ!」
 ぺちぺちぺち、碓葉は懸命に叩いてみるが、がっつりと掴んだ腕はびくともしない。
 以前この男に食われそうになった時には、どうやって逃げ出したのだったか――
「え、これビービーキューって言うんじゃないの?」
 危機は去った、陽炎の頓狂な声によって。
「これなら知ってるよ、なんだ最初から言ってくれればいいのに!」
 ただし見たことがあるだけで、実際の経験はない。
 にもかかわらず、そしてメシマズにもかかわらず、自分に任せろと焼肉奉行を買って出る。
「大丈夫! ちょっと程よく焼くだけだから!」
 しかし。
「坊はまず鍛錬だな」
「えっ、その話ってもう終わったんじゃ……」
 驚く陽炎に、珂々火は厳かに首を振った。
 この族長には頼りない所があるし、良い機会だから存分に身体を動かしてもらおう。
「まずは滝行、そして岩場くだりに猛獣との一騎打ち、それから……」
「待ってそれさっきエルヴァニスが言ってたのと同じ!」
「その間に、良い具合に肉を焼いておいてやる」
「そしたら食べていい?」
「まずは美味そうなメシを前にして空腹に耐える修行だな」
「鬼!」
「いや、龍だが?」
 というのはまあ半分ほどは冗談として。
 効率の良い鍛錬とは体を鍛えさせ、そして食わせることだ。
 肉体的な強さに体重は不可欠。
「わかったら、行け」
 無慈悲に滝を指さす珂々火。
 反論の余地は一寸たりとも見いだせなかった。


「ふむ、これは兎に角なにかを焼けば良いのじゃな?」
 珂々火のやることをじっと見ていた碓葉は、焼けそうな物をぽいぽいぽいぽい。
 荷物に入っていたレトルトカレーにカップラーメン……
「これは焼くものではない、湯を沸かすからそれで作るといい」
「ふむ……では、これはどうかのぅ?」
 ぽてちぽーい。
「これは元から焼いてある、いや揚げてあるものだ」
 まあ焼いても構わないけど。
「では、これはどうじゃ?」
 どーん!
「先ほど我が仕留めたイノシシじゃ」
 エルヴァニスと朱殷にも手伝ってもらったけど、って言うか殆ど二人で狩ったんだけど、訊かれてないことは答えなくていいよね?
「では解体してそれも使おう」
「解体?」
 いや、そんな、年寄りに力仕事は……
「小僧、ぬしに仕事を与えようぞ」
「いや、俺がやりましょう」
 脇からエルヴァニスの手が出て来る。
「どうも彼にやらせると、過激に過ぎるきらいがありますので」
 解体とはナイフを使って行うもの、決して素手で引きちぎるものではない。

 そして滝行から戻った陽炎は。
「ねえ、もう他の修行とか免除でいいよね!?」
「まあいいだろう……さあ食え、ある部族に教わったソースだ」
 珂々火はジュウジュウと音を立てる肉に秘伝のソースをたっぷり絡め、ハラペコ虫に差し出した。
「んまい!!」
「だろう。何の肉でも食える。例えば……いや、まあいい」
 なお、この肉はちゃんとした肉屋で買ったものだ。
 もっとも、ちゃんとした肉屋だからといって正体不明の謎肉を扱っていないという保証はないが。
「ほんと美味いね、作り方教えてよ!」
「言っただろう、秘伝だと」
「じゃあ僕がオリジナルのソースを作ろうかな」
 陽炎がそう言った途端、その場の空気が凍り付いた。
 やばい、これはやばい。
「……皆、今のうちに少しでもまともな肉を食べておくのだ」
 エルヴァニスがひそひそと囁いた。
 何しろこの族長、メシマズのくせにやたらと仕切りたがるし、言い出したらきかないし。
 対処法はただひとつ、彼の料理と称するシロモノが出来上がる前に、出来るだけ多くの美味いものを食べておくこと。
「出来たよー!」
 早い。
「うん、僕がこれまで失敗を重ねてきたことは知ってる。でも人は失敗を乗り越えて強くなるんだ」
 あ、なんか良い話っぽくまとめようとしてるぞ?
「だから昔よりは今の方がきっと美味しいと思うんだ。というわけで、皆に味見して欲しいっていうか……うん、食べろ! 勿体無いし!」
 そう言って出されたものは……なんですか、これ。
 肉自体は上手く焼けている、だがしかしそれを台無しにして余りあるこの物体は。
「ちょっと隠し味を加えてみたんだ」
 隠れてない。
 それどころか、これは食べ物ですか?
「族長どの、先ほどは自分で言っていたな。自分に出来ないことを人にさせるな、と」
「そんなことも言ってた、かな?」
「ならばまずは、おのれが食して見せるべきではないのか?」
 エルヴァニスに痛いところを衝かれたが、陽炎は怯まない。
「この場合は真っ先にお客様に振る舞うのが礼儀だと思うんだ」
 そして自分は網のすみっこに放置してあった殆ど骨しか残っていない肉に珂々火のソースを付けてかぶりつく。
 ばりばり、ぼりぼり。
「ほら、僕ら龍人だし……? 美味しいよ、骨!」
 美味しく焼けた肉は筋肉を付けるのに良いって聞いたし。
 それに多分、自分の料理(とも言えない何か)よりはずっと美味い。
「ほら、碓葉も遠慮しないで食べて!」
 最近一族に合流した彼には歓迎の意を込めて。
「珂々火も!」
 兄を思わせる居心地の良さを感じている彼には好意の証に。
「朱殷ならきっと何でも美味しく食べられるよね!」
 きっと、だからそんなに立派な身体になったのだろう。
「おかわりもあるよ!」


 なお後日の記録によると、それは「食べられないことは無いが、食感や風味が殆ど肉ではなくなった何か」であったそうな。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0687/エルヴァニス・ヤノウルク/男性/外見年齢56歳/だいたいこのひとのせい】
【ka0142/陽炎/男性/外見年齢25歳/ターミネート奉行】
【ka1359/朱殷/男性/外見年齢38歳/デス料理も美味しく食べられる、かもしれない】
【ka3559/碓葉/男性/外見年齢12歳/若い者には負けないじいちゃん】
【ka3930/珂々火/男性/外見年齢25歳/唯一の常識人、だといいな】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

ばーべきぅとは何か、おわかりいただけましたでしょうか。

お楽しみいただければ幸いです。
何か問題がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
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2016年10月24日

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