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『縁というものは不思議なもので 』
佐倉 樹aa0340)&真壁 久朗aa0032

『くろー、すべりだいはわたしがさきにすべるんだからじゃましないでよ』
『おれはくろーじゃなくて、くろう! それにおれがさきにすべるってきめたんだ』
『くろーのくせになまいき!』
『いっちゃんだって!』

●若かったと語るような年齢でもないが
(結構思い切り引っ張られたよな)
 真壁 久朗(aa0032)は、何となく頬を触った。
 頬に感じるのは、肌の質感ではなく手袋の触感。
 まだ両親も健在だったあの時、初めて行った児童公園には多くの子供が遊んでいた。
 優しい両親に愛されていた久朗は家も裕福だったし、1人っ子ということもあり、今にして思えば少しワガママな子供だったと思う。
 初めて来る児童公園は目新しく、特に滑り台が目に留まった。
 家のお部屋にあるのよりもずっとずっと大きくて、滑ってみたいと走った時、何かがぶつかった。

『なによ』

 どこかふてぶてしさを感じる、年も近そうな女の子がいた。
 赤いワンピースを着ていたが、大人しそうにはとても見えない。

『このすべりだいはおれがすべるんだ』
『わたしがすべる。じゃましないでよ』

 そうして喧嘩になって、知り合ったのが『いっちゃん』だった。

(名前は、確か、いつき、だったか)
 いつも『いっちゃん』と呼んでいたから、本当の名前に自信がない。
 『いっちゃん』と呼んだのは、いつきって名前が男の子みたいで変なの、とかそういう理由だったような気はするが、やはり時間が経ち過ぎている。
 ただ、自分と違い、児童公園にはいつも1人で来ていたのは覚えている。
 家が近いのかどうかとかそういうのは聞いたことがなかったし、子供だったので別に気にしなかった。……そんなことを気にしている場合じゃなかったというか。
 だって、顔を合わせれば、何かしら喧嘩してたと思うし。
(とは言え、何だかんだで『いっちゃん』と1番遊んだ気がする)
 遠い記憶には、反発して喧嘩していたことが残っている。
 同時に、1番遊んだ記憶があり、それは『いっちゃん』のことが何だかんだで嫌いじゃないから、結局遊んで1番楽しいと思ったのだろう。
(……あの児童公園には、行けなくなったからな)
 両親を喪い、親戚に引き取られることになった久朗は、『いっちゃん』にお別れを言うことが出来なかった。
 本当は、最後なんだって言いに行きたかったけど、許してもらえなかったから。
 そして、引き取られたその先は───
 久朗は思い返し、緩く首を振った。
(……約束を守ると、そう決めたんだ)
 何かを守りたいと強く願った記憶と共に蘇るのは幼馴染との別れ。
 自身も片腕と片目を機械化する程だった地下鉄爆破……
(事件というか事故というか)
 久朗は巻き込まれた後、ふとしたきっかけでそれを知った。
 シンプルに言うと違法行為であるか過失であるかによって事件と事故が区別されるらしいが、爆破したのは愚神なのでそもそも彼らに法律的なもので考えていいか判断つきかねたからだ。
 それに、どちらであっても、幼馴染との日々は終わったことには何も変わらない。
(人と関わり合い、自分を作る……)
 そう、約束したから、俺は。
 リハビリ生活も終わり、日常生活にも慣れた。
 だから、この道を選ぶ。

 誰かに、やるべき何かを与えてほしかったから。

 久朗は登録後の説明会会場の場所を確認してきてくれた英雄の呼ぶ声に気づき、今まで読んでいた事前の書類をバックに入れて立ち上がった。

●若かりし頃というような年齢でもないけど
 佐倉 樹(aa0340)は頬に髪が掛かっていたのを払った後、何となく自分の頬を触った。
(そういえば、昔……)
 ある日突然いなくなった遊び相手の『くろー』に引っ張られたのを思い出す。
 結構身なりが良くて、母親と一緒に児童公園に来ていた同じ年位の男の子。
 最初の出会いは、自分よりも先にお気に入りの滑り台で滑ろうとしたことがきっかけだったか。
 あの頃には、『普通』を望む両親の愛情はないと理解していたし、それで心を痛めない時点で、振り返れば自分の『異常』はこの時には決まっていたのだろう。
(今と違って、まだ解ってなかったけど)
 表に出すのは良策ではないと知る今と違い、あの頃は他人への自己主張がやや強かった。
 今も弱いと聞かれると弱くないだろうと分析しているが、自身の内を表に出す失策はしていない。
 そうでなければ、大学に行くことなどなく、施設に送られてしまっているだろう。
(その意味では、水落の家は理解があったのかもしれない)
 如何に誓約を交わして能力者になったとは言え、愚神に両親は殺され、自身も殺されかけた一件や当時自分が9歳にしか過ぎなかったことを踏まえれば、あの生活はなかったかもしれない。
 ……もっとも、その愚神の一件で、『普通』を望む両親は自分を盾にしようとしたのだが。
 そして、それ自体に思うことがあったかと聞かれると、助かりたいならそんなものじゃないかという感想しか出てこない。その件がなければ半身と巡り合うこともなかったので、樹としてはそちらの方が重要である。
(そういえば、確認してくるって言ったけど、どこまで行ったんだろ)
 樹の半身は、樹にエージェントに登録しろとかそういうことは今まで言わなかった。
 生活費を稼ぐ為にエージェントになる者も少なくないし、能力者になった後は能力者自身の立場を守る意味合いもあって多くがH.O.P.E.に名を連ねるという話は聞いていたが、お金には困ってなかったし、樹自身の立ち回りで能力者と知られていない、または、エージェント登録しているが学業を優先していると周囲が誤認していたことより、迫害もなく、登録の必要を感じていなかったのだ。
 が、大学に入学し、大学生活もようやく落ち着いてきたので、大学の付き合いを断る言い訳になるし、エージェント登録でもしておくかと思い立って、半身と共に先日エージェント登録を行った。
(登録のタイミングはまちまちでも、説明や研修関係は日にち決めて纏めてやらないと職員何人いても足りないだろうしね)
 樹は手元の書類に目を落とし、そう思う。
 先日は登録だけで、今日に登録後の説明会という話を聞いたのだ。
 学業や他に仕事を持つ者も少なくないので、登録、説明会や研修関係は強制などではなく自分の都合がつくタイミングであるようだし、エージェントとして受ける依頼の類も概ねエージェント自身が選ぶ類らしい。
(……あ)
 樹はどこにいても分かる半身を廊下の向こうに見つけ、顔を綻ばせた。
 呼んでるから、行こう。
 そう思い、書類をバックに仕舞い、立ち上がった。

 そして───

 歩を進めて、10歩もしない内に背の高い男とぶつかった。
 男が振り返り、顔が見え───

「あ」

 両方の声が重なった。
 遠い記憶の彼方にいる存在。
 面影が、確かに残っている。

「いっちゃん……?」
「……くろー」

 その言葉で、彼らは自分達の再会を認識した。
 同時に───

「ぶつかっておいて謝罪が先にないとは」
「ぶつかったのはいっちゃんが先だろう」

 あの時と同じように遠慮ない言葉の応酬が始まった。
 この後、互いのパートナーが自分達と出会う前に知己を得ていて、久しぶりの再会となったことを顔を見合わせて察し、説明会が始まるからと2人を止めることとなる。

●本当に腐れ縁というものはあるもので
「いっちゃん、そっちにシャーム共和国の大規模作戦のファイル頼む」
「くろー、これ現場の地図が綴じられてない」
「こっちのファイルにあるから一緒に。あと、香港の大規模作戦のファイルに病室の話し合いの時のメモがない。清書があっても下書きはほしい」
「あ、それはテーブルの上。メモはメモだけで綴じた方がいいかと思ったんだけど」
 そんな言葉が警戒に飛び交う一室。
 所謂、レイヴンの拠点にある資料室だ。
 シャーム共和国の大規模作戦での反省会も終わり、資料室を整理している久朗を樹が手伝ってやっているのである。
 正確に言うと、久朗のパートナーと共謀した半身が樹におねだりしたからで、頼まれた当初、2人してチベスナ顔になったものだ。
 そのパートナー達は今リビングでお茶の支度をしてくれており、彼らは何だかんだと言いながらファイル整理をしている。
「あ、生駒山が終わった時の写真だね」
「それはここにも取っておきたくて」
 生駒山のファイルの中身を見て本棚の位置を決めようとしていた樹がその手を止めた。
 ボロボロになりながら、皆で笑った1枚だ。
 あれからまだ1年だが、もう随分経っているようにも昨日であるようにも思える。
(……軌跡だからな)
 久朗は樹が見ている写真を見、心の中で呟く。
 あれから1年が経過し、次の1年ももう始まっている。
 自分は変わることが出来ているだろうかと聞かれると自信はないが、それでも、1年前と違う。
 少なくとも、去年の今頃の自分では気づかないだろうことに気づけるようにはなっている。自分と共に歩いてくれる星がどんな星かも。
(変わらないとすれば……)
 久朗は、樹を見る。
 他の女性とは違う雰囲気の樹に全く興味がないかと言うと、微妙に興味はあるのだが。
「くろーの、あの最初を見てたら想像も出来ない表情だよ。ねぇ?」
 樹がこちらを見て、にやりと笑う。
 ペアを組んだ実戦研修の一件をとても根に持っているらしく、樹の笑みは彼女の半身に向けるものとは異なるふてぶてしさで可愛げなどというものは存在しない。
「女と思えなかっただけだ」
 久朗がそう返すと、樹は遠慮なく久朗の足を踏み、踵でグリグリした。
(まぁ、そうじゃないと、くろーじゃないけど)
 親愛なる宿敵がしおらしいなどというのは困る。
 例え、幼児特有のくだらない理由のぶつかりあいだったとしても、この自分に初めて感情をぶつけてきただけでなく、この自分に感情をぶつけさせたのだ。
 それは再会してからも同じで、ペアになった実戦研修で久朗は自分の胸倉を掴み、感情を見せた。戦闘の間だけとして髪をかき上げた最初の瞬間を見たのもその時だ。
(空気が吸えるからね)
 だから、箱庭にいていいと思えるのだ。

 と、リビングから自分達を呼ぶ声がする。

「お茶の準備が出来たって。くろー行こう」
「そうだな」
 久朗が樹に同意すると、それぞれその手を一旦止める。
 樹を気遣わず先に出て行くのは、久朗における樹への、あいつなら大丈夫だというちょっとした信頼のようなものだ。
 この女、と思う回数多々であっても、あの強い自信の輝きを瞳に宿した幼馴染以来、他人事と終わらせず自分に踏み込んで言葉を発する知り合いはいなかったから。
 あれがなければ、自分が髪をかき上げて戦うことなどしなかっただろう。
「この香り、クッキーだね」
 案の定、自分が気遣うまでもなくすぐに資料室から出てきた樹が自分の隣へやってくる。
「最近、上達したからな」
 久朗が以前からの成長を思ったのか、口元を僅かに綻ばせた。
 樹は、ぽそりと聞いてみる。
「……もう1人は?」
「…………その前に色々問題があるからな」
 卵が上手く割れないとか、林檎が砕けるとか。
 それよりも、善処しないといけないものがあるのだ。
 樹はその点については困ってなく、自宅で量産されているジャックオーランタンを想像し、口の端を上げる。
「Que sera sera」
 だって、縁がなければこの時間はなかったから。

 リビングには、カボチャのクッキーと紅茶を準備した世界を超えた縁が、互いを腐れ縁と思う彼らを待っている。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【真壁 久朗(aa0032)/男/24/創造と変革と】
【佐倉 樹(aa0340)/女/19/維持と破壊と】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
昔馴染みの2人がエージェント登録直後に再会した話ということでお預かりしました。
再会した後などもお任せいただいたので、こちらよりその後についても描写させていただいています。
簡単な言葉で語られるような間柄ではなく、そうした間柄に名前をつけたり、双方の感情が何であるのか明確にするのも無粋であることより、そうした名前あるものであることより、互いの言葉のない距離感をと心掛けたつもりです。
少しでも彼らの声が聞こえていることを願い、お届けさせていただきます。
今回の紹介欄の言葉は、彼らの世界を表す言葉となっています。
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真名木風由 クリエイターズルームへ
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2016年10月27日

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