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『ちゃんと責任、取ってよね。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 …それは、趣味人たる魔法薬屋に感化されてしまった、元は「それ程の趣味を持つ訳でも無かった」筈な――とある魔法道具研究者の「悪戯めいた企み」が成功してしまった後の事。
 当の感化させた方――である筈――の魔法薬屋こと紫色の翼を持つ別世界の竜族、と言う本性を持つシリューナ・リュクテイアとその弟子ファルス・ティレイラの二人が、「魔法道具の核」を使う事により宝石のように透き通り光り輝く結晶体様の魔法道具と化してしまってから、一晩経った頃の話。

「そうなる」よう企みを仕掛けた当人、である魔法道具研究者の彼女は、企みの成果である「二人」――いや、「二つ」の「試作した魔法道具」を前にして、まずは研究者として本道の目的である研究データの取得に思う存分励んでいた――いや、鑑賞しているのかデータ取得をしているのかわからないような行動を取り続けていた事にもなるのだが、何にしても、思いの外効果が安定している事については非常に満足を得る事が出来ていた。
 一晩の経過を経てもこれ程安定しているとなると、偶然この「魔法道具の核」と二人の相性が良く余程上手く噛み合ったのか、はたまた二人の持っている魔力の質と量がいいからこそこうなっているのか――その辺りの事は現時点ではまだ詳細まで詰められてはいない。けれど、それはこのままデータを取り続けていたならば、その過程ででも後でじっくり検証してででも――とにかくいずれわかる事でもある。

 …だから、研究の方は然程急ぐ事でも無い。
 頭の中でそう整理出来てしまうと、どうしても思考は別の方に行く。

 データ取得の為にと「魔法道具」に直に触れるたび、その感触を純粋に愉しみたくなってしまう。
 これまでは、「こんな風」に本気でのめり込んでしまいそうになる事なんて、それこそ研究についての事だけだったのに。
 …以前の自分ならば、こうやって貴重なデータが得られただけでも、もう、大満足だった筈なのに。

 なのに、今は。

 …そうはいかない。
 それだけで済ます気にはなれない。
 まだ、足りない。

 二人の――特にシリューナの方が、元々の本人の造形だけではなく、魔法道具と化す時に使われた魔力の質にでもよるのか、形容し難い美しさに満ち溢れていて――研究者の彼女としてはぐっと目が奪われてしまう。…それはティレイラの方だって事前に聞いていた通りに可愛いし綺麗。でも、並べて比べてしまったら――より深く引き込まれてしまうのは、どうしてもシリューナの方。…それは確かに、元々この「悪戯めいた企み」をした時点で狙っていた事ではあるのだけれど。それにしても想像以上で。
 研究の為、時間経過と安定状況の比較やらを頭の隅に置きつつも――研究者の彼女はそのシリューナの造形美の方にすっかり惹き付けられてしまう。見た目だけじゃない。つと触れた時にわかる硬質のひんやりした感触も何とも言えず心地好い。…少々の背徳感もまた、素敵なスパイス。

 ――――――自分をこんな風にしたのは、シリューナの責任なんだから。
 ちゃんと責任、取ってよね。

 秘密めかして言い放ち、研究者の彼女は――今度は宝石から削り出した彫像のような状態のシリューナをやんわりと抱き締めた。それまでしていたようにデータ取得のついでに申し訳程度に触れるだけでは間に合わず、抱き締めたそのままじっくりと愛でるようにして鑑賞。見た目だけではなく、感触の方も全身で味わってみる。

 …研究データの為にも自分が愉しむ為にも、シリューナにはなるべく長くこのままで居て欲しいなあ、と思う。



 唐突に意識が戻った。

 それで、ティレイラはぱちくりと目を瞬かせる。「唐突に意識が戻った」気がする、と言う事はそれまで意識が無かったと言う事にもなり、「そうなる」前までの成り行きをじっくり考え直してみると――「データ取得の為の協力」を求めて来たお姉さまの知り合いの研究者さんから、あの「魔法道具の核」を受け取ったその時から意識が途切れている気がする。
 つまりはいつもお姉さまにされるみたいな、魔法か何かを掛けられてオブジェ化して固まってたって事かな…と取り敢えずの成り行きを推測するだけする。…「この手の事」をされる事に慣れてしまうのもどうかと言う気もするが、いつもいつも似たような事をされていれば…さすがに自分の気持ちの方をそれなりに整理する術は一応、心得もする。…まぁそれでも更なる予想外の事が少しでも起きると、もう整理も何も無くなってしまいはするのだが。…実際、幾らいつもの事だとは言え、その度に悔しかったり恥ずかしかったり怖かったりでパニックになりがちだったりする事ではあるのだし――と。

 そこまで考えていたところで、ティレイラはふと自分の視界の中、すぐ傍に当のお姉さまの形をした――それも等身大の――宝石のように透き通って輝く結晶体様のオブジェがある事に気が付いた。…そして自分の経験上、そのオブジェは何も無い宝石の塊から彫り出したりした訳では無く、その造形を本来持つ当人がそのまま素材になって魔法的な何かの理屈でオブジェ化したものである――つまりこれはお姉さま当人であると言う事は、考えるまでも無く頭に浮かぶ事で――。
 え? と思う。
 反射的に思考が真っ白になる。
 見た途端にもう驚いてしまって、ただ、吸い込まれるように見ていてしまう――それしか出来なくなってしまう。

 と。

 あら戻ったのね、って事は魔力的に質も量も上、の場合の方が魔法道具として安定はするって事かな…等々としれっとした声がした。声につられるようにしてティレイラがそちらを見れば、自分に「魔法道具の核」を手渡した当の研究者の女性が、シリューナの形をしたオブジェを愛しそうに撫でながらティレイラを見、ついでに手許のレポートらしき紙の束に何やら書き取っているのが見えた。
 ティレイラは目をぱちぱちと瞬かせる。…これは、えーと。つまり? 頭上に疑問符が幾つか浮かんだ気がするが、笑みを含んだ声でごめんなさいねと研究者の女性に謝られ、自分の研究が行き詰まっていた事、その気晴らしと新たな研究データ取得を兼ねて悪戯を企んだ事――その「悪戯として」の方の目的は、本当はシリューナを「こうする」事だったのだと事の次第を説明された。

 皆まで説明されはしなかったが、要するにティレイラはついで。…と言うより、シリューナを「こうする」為に囮のように扱われていた、と言う事になるらしい。…だからこその「ごめんなさいね」だったのだろう。
 そこまでの状況を呑み込むと、何ですかそれ酷いですっ、とティレイラはぷくーと頬を膨らませて怒りを表現。…但し迫力はあまり無い。元々怒りが長続きするようなタイプでも無いし、そもそも研究者の女性には先に謝られてしまってもいる。それに何より――目の前にある魔法道具状態なシリューナの方に、根こそぎ興味が持って行かれている、と言った方が正しかったかもしれない。
 ティレイラは普段は「この手の事」をされてお仕置きされたり遊ばれたりする側ではあるが、出来る事なら逆をやりたい、機会があればやり返したいとも常々思っている。…そんな趣味が――興味が無い訳では無い。それはある意味ではシリューナに感化されてしまったこの研究者の女性ともお揃いであるかもしれなくて――暗黙の内に同類とでも感じたか、研究者の女性はさりげなくシリューナから離れる。それからお詫びとばかりの悪戯っぽい目配せと共に、ティレイラへと「今のシリューナ」の鑑賞を、譲るようにして来た。
 そうされて、殆ど自動的に――促されるようにしてティレイラはシリューナの頬にそっと触れている。…それでもお姉さまは元に戻る気配が無い。そろそろと指を動かして撫でてみる。生身では無いひんやりした、滑らかな硬質の感触。…きれい。透けた光が屈折してきらきら輝いていて。…いつもお仕置き――もしくは気まぐれでの遊び――を「する」方なお姉さまなのに。触れれば触れる程、見れば見る程、今は私が何をやっても大丈夫なんだと実感が湧いてくる。何か、許されたような気持ちが胸の内に溢れて来ていっぱいになる。初めは恐る恐るだったけれど、時間が経っても、変わらないから。大丈夫なんだ、いいんだ、と。
 そんな風に思えて仕方が無くて。
 魅入られるようにして、少しずつのめり込んでいく。…お姉さまとしては見慣れた、けれど同時に今この瞬間ここに在るオブジェとしては見た事が無い――と言うより、感じた事が無い造形美。刹那の間を切り取られた――恐らくは今のシリューナと同じ「宝石めいた魔法道具」と化したティレイラを愛でようとしたその時、の姿なんだろうとティレイラは思う。…こんなに無防備なお姉さま。多分、その表情や造形の醸す空気感もまた、新鮮に思える理由なのかもしれない。
 撫でて愛でるだけでは飽き足らず、腕を回して抱き付いてみる――これも殆ど自動的。気が付いたら抱き付いて、頬ずりしていた自分が居る。…なんでだろう、とティレイラは思う。
 不思議なくらい、気分が高揚している。



 …気が付いた時には、生身のティレイラがすぐ目の前に居て。

 あら? とシリューナは内心で小首を傾げる。自分の目の前にあったのは、ティレイラで出来た綺麗で可愛い魔法道具だった筈――但し、何だか今現在の状況が腑に落ちないのも確かで。
 ともかく、位置関係としてティレイラと当然のように目が合った。と――ティレイラは、わっ、と驚いたように声を上げつつ文字通りに飛び上がり、慌てたように自分から離れている。そしてそのティレイラの顔は何やら真っ赤に紅潮。「お姉さま」と呼ぶ声も少々吃音気味になっている――そこまでのティレイラの反応を見ている間に、「今現在の状況」の何が腑に落ちなかったのか、要するに今自分が「気が付く」前までどうなっていたかの察しが付いた。

 つまり、今回の一件で――やりこめられたのは、どうやら、自分。
 今のティレイラは、多分、おこぼれ…のような形で、愉しんでいたのだろう。きっと。

 えとあの、お、お姉さま、これはですね、あの…等々、しどろもどろな言い訳を始めるティレイラ。が、ここはさすがに――咎められない。ティレイラのせいじゃない――視界に研究者の女性が入って来る。シリューナに向かって「気付けー」とばかりに小さく手を振りつつ、にっこり御満悦なちゃっかりとした微笑み。…そんな風にされなくても、彼女の方が今回の企みを仕掛けた当人だとはわかっている。
 が。
 ここもまた――咎められない。

 なので仕方無く、溜息吐きつつまずはどのくらい時間が経っているのかを訊く。返答は、一晩と半日――よりもう少し。ティレイラの方が元に戻るのが早かったそうで、戻った後はシリューナの方に興味津々でもう魅入られちゃってるみたいだったから、安定化が解けるまで――元に戻るまで鑑賞してていいよと譲ったのだとか何とか。
 研究者の彼女がそこまであっけらかんと説明した時点で、ティレイラは、すみません〜、とばかりに顔を覆って俯いてしまっている。恥ずかしいのか耳やら首筋まで真っ赤である辺り、むしろ可愛らしくもあるが…シリューナにしてみれば今は他に色々と言いたい事がある。

 …あるが。

 仕掛けた当人ことこの研究者の彼女に全く悪気が無さそうだとなると、どうにも責める言葉は出て来ない――強く出られない。…今回の件、発端はどう考えても自分。シリューナ自身がじっくりと時間を掛けて何だかんだと「めくるめく趣味の世界」について手解きした結果が、「これ」。「それ」をしなければ今回の件は初めから無かっただろう訳で――自業自得と言えばその通り。それで他人様を責めるのはお門違いとわかっているが――だからと言って粛々と受け入れる気にもなれないのは人情である。…この手の「悪戯」をするなら、自分は仕掛ける側に回りたいと言うのがどうしたって本音。結果、シリューナとしては、うーん、と何やら悩ましい気分になって来てしまう。
 そんなシリューナを見、研究者の彼女はまた嬉しそうににっこり。そして――また違う道具を創った時には美しい造形見せてくれるよね? と改めて念押しまで。次の機会も頂戴ね? また今度も宜しくね――研究者の彼女から何度も重ねられるが――シリューナとしては渋々ながらも、どれもこれも曖昧に流すしかない。

 …そう。この研究者の彼女から提供して貰える魔法道具は、面白いものが多いのだ。つまり結局、不興を買ってしまうのは宜しくない。…元々、それ程心が狭い相手では無い筈なのだが…何と言うか、「目覚めさせてしまった」以上、ソチラの欲求に絡む事では言い切れないかも、とか己に照らして思ったりもする訳で――だからこそまた、対応のしように迷ってしまったりもする訳である。

 …取り敢えず、唯一の救いは今のティレイラが恥じらってしまって自分の事で精一杯…である様子な事くらい。
 多分きっと、こちらの様子には気付いていないから。…気付いていないで欲しいと思うのよ。せめて、魔法の師匠の威厳として、ね。

 だから。

 …お願いだから暫くそのままでいて頂戴ね、ティレ?

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年10月31日

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