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『知り合い、響き合う 』
蛇塚 悠理aa1708)&秋津 隼人aa0034)&水落 葵aa1538

 夏もとうとう終わりを実感する風が頬を撫でる。
 秋と言うにはまだ早い風だが、その足音が間近に迫っていると実感出来る涼やかさだ。

 ギィ───

 赴きある扉を静かに開けると、ピアノの音が聴こえてくる。
 暗過ぎないが明る過ぎもない店内を見渡し、秋津 隼人(aa0034)は目を瞬かせた。
「生演奏、ですか……」
「このバーは週に何回かはそうだぜ」
 今回のスポンサーである水落 葵(aa1538)が事も無げに言うと、隼人は「こういうお店もあるんですね」と感嘆の溜息を吐く。
「俺も普段あまり呑まないから、そこまで馴染みないかな。葵くん、詳しいんだね」
「正確に言えば、大叔母が詳しい」
 もう1人の同行者、蛇塚 悠理(aa1708)が葵を見ると、葵はそう返す。
 葵の大叔母……そう言われて過ぎるのは、たった1人の名だ。
 悠理は隼人と同じタイミングで、「あー……」と納得の声を上げた。
 2人共葵の大叔母と直接の面識がある訳ではない。
 が、龍の算命士の異名も取る葵の大叔母の話を聞くのは、今日が初めてではない。
 というのを、悠理と隼人は顔を見合わせ、確認し合い、思わず笑みを零し合う。
「今日初めましてで言うのも変だけど、20歳のお祝いを兼ねてるんだったよね。おめでとう」
「ありがとうございます。……と言っても、見た目や中身が劇的に変わる訳じゃないと思いますが」
「いやいや、こういうバーに入れるようになるから、そこは大きいんじゃないかな」
「そういう考え方もありますね」
 悠理と隼人の会話を聞きながら、葵は既に予約していた席へと足を運んでいく。
 確かに、自分達全員英雄はどう見ても未成年といった具合で、実際の年齢がどうであれ、連れて入るのには不都合が多過ぎる。
「そういや、留守の間相棒は何してる?」
「H.O.P.E.からレポート依頼が来たとかで、それを作成するって」
「そんなのありました?」
 葵が自身の英雄は店仕舞い業務を兼ねた店番を頼んだと話すと、悠理が意外な答えを返す。
 隼人がそうした依頼や研修を見た記憶がないと首を傾げる。
「最近、第二英雄が可能になったよね」
「あぁ、今までは能力者サイドの負荷がでかいのか意識がかき乱されて最後まで至らなかったらしいが、シャーム共和国の大規模作戦やら何やらでやれるんじゃないかって話で試行錯誤した結果、条件を満たせばってことらしいが」
「俺の家迎えたからかもしれないんだけど、H.O.P.E.も前例がないことだから能力者の負荷が出るかどうかってことを気にしているみたいで、今、第二英雄と誓約した能力者、誓約していない能力者の中から無作為に選んで、レポート作ってるみたいだよ」
「音声ソフトあれば作成自体は出来ますしね」
 本人だからこそ気づかないものもあるだろうということで、最初に誓約した英雄がそれらを作成するらしく、悠理の英雄はちょうどいいとこれに掛かり切りになったそうだ。
 曰く、悠理がいると、とんだ横槍が入るだろうから、だそうで。
 そのことを話す悠理の口振りや表情を見る限り安定した残念イケメンだが、隼人が「本人を前にしたら言い難いのはあると思いますよ」と取り成すと、パァァァと顔を輝かせた。つまり、ポジティブに受け取った。
「そういや、何頼む? 秋津サンは特にウイスキーは初めてだと思うから、判らないと思うが……何か希望あるか?」
「俺は本当に判らないので、お勧めがあればそれを」
「俺も葵くんの説明を聞いてみたい」
 葵の問いに隼人、悠理がそれぞれ答えると、葵は簡単に説明した。
「ウイスキーは判り易く言えば蒸留酒だな。スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本……この辺が有名。特徴はそれぞれの国で違う。で、そっから地方だったり蒸留所で更に分かれるから、初級者向けやある程度味が判ってから呑んだ方がいいヤツってのが色々ある」
「それだと、俺は初心者向けの方が良さそうですよね」
「そうだな、それだと───」
 葵が思案し、初心者向けだと思うウイスキーを幾つか指し示し、味の傾向などを説明すると、隼人は興味を引いたひとつを選んだ。
「蛇塚サンは?」
「俺は、さっき聞いた中で気になったのがあって」
 悠理も説明の中で気になるものがあったらしく、それを選ぶ。
 葵も自分が愛飲しているものを選び、呑み方については葵が独断と偏見で選んだ。
「呑み方だけでこんなにあるとは思いませんでした……」
「奥が深いからな。とは言え、俺も気に入ったの以外に関してはそんなに詳しくない」
「何か解る。葵くん、好きなものは凄く詳しそうだけど、それ以外はそうでもなさそう」
 隼人が奥深い世界と感嘆の息を吐き出すと、悠理はくすりと笑った。
 実際それについては、自覚しているのか、葵は「好きなもの以外にそこまで余力割いたってな」と軽く肩を竦めた。
「ここはカクテルも出してるが、あっちももう凝り出したらキリがない世界だ。同じ材料でも製法が違えば別のもの」
 それなら、好きなものだけ覚えておけばいい。
 言ってしまえばそうなるが、葵が言うと、極振りに聞こえる神秘。……言うまでもなく、好きの極振りは桜なのだが。
「酒好きの中には、自分で買った酒じゃないと学べないってのもいるが……、今、勉強する程景気のいい社会でもないし、良い酒呑まないと勉強出来ないってのもあるから、ま、これは俺からの20歳のお祝いってことで」
「えー、秋津くん、いいなぁ。俺の誕生日の時はよろしくね」
「よろしくって何が」
「俺は文化の日なんだ」
 悠理はとてもいい笑顔で自分の誕生日アピールした。
 そのやり取りを隼人が見ていると、年配のバーテンダーの動きが目に入る。
 熟練さを感じさせるその動きは、ひとつひとつの作業を愛おしんでいるように見えた。
「ここのマスターは本当に愛情込めてるからな」
 気づいた葵が隼人へ声を掛けてくる。
「初めて見る俺にもそれが伝わってきますね」
「ひとつひとつを大切にしているんだろうね」
 悠理もその仕事に見入っていると、やがて、彼らの前にもウイスキーが置かれていく。
「完全初心者の秋津サンはハーフロック、蛇塚サンは俺の独断でオン・ザ・ロック」
「独断と偏見って……確かに余り呑まないけどウイスキーならこの呑み方が好きだよ。葵くんは? 氷が入っていないみたいだけど」
「俺はちょっと香り楽しみたいから、この呑み方」
 トワイスアップ、という呑み方と紹介してくれた葵は、初めて見るお酒に興味津々といった様子の隼人を見る。
「じゃ、改めて」
 おめでとう、という言葉と共に3人で乾杯。
 隼人は高揚感を覚えながら、大人の先輩達の呑み方を見つつ、グラスを傾けていく。

「葵くんとは運命じみてるよね。恋愛方向じゃない意味で」
「依頼の方向性だろ、知ってる」
 一息ついて出てくる話は、接点の話だ。
 葵と悠理は、大変ですね(棒)な依頼で一緒になることが多いそうだが、最近従魔の能力により男女問わずウェディングドレス姿になる依頼で悠理が大変変態だったらしい。
「何でそんなイロモノばっか受けるんだって、怒られちゃった。でも、俺が悪い訳じゃないよね」
「俺もそうなんですよ」
 隼人が悠理へ同調する。
「俺も不幸な事故が今年に入って2回もあって重い傷を負ったり、虫刺されが悪化して死にそうになったり」
「秋津サン、身体大丈夫なの」
「ええ。俺は身体は丈夫なんですよ」
 葵が流石に心配になって尋ねると、訓練され切った隼人は微笑を向ける。
 ご挨拶交わした後生身であかん技の末闘死したり、スイカ割り(物理)で倒されたり、従魔の蚊退治中にサンダーランスに巻き込まれるわ虫刺され悪化したり……今年に入るだけで任務に支障が出る重い傷3回。
「うちの従妹が悪かった」
「え、何で判ったんですか」
 そんなの1人しかいないからだよ。
 隼人の驚きに葵は心の中で呟いた。
 黙っていたのは、隼人と従妹が同じレイヴン所属であり、隼人のレイヴン所属は葵の勧めもあったからだ。流石に勧めてレイヴンに入って共に戦うことになった従妹をそう言うのはどうよ、というヤツだ。大人、責任(ただし、その大人は隼人をよろしく頼むと従妹に頼んで、自分で言えと怒られたことは彼に言わない)
「でも、英雄も心配だろうし、程ほどにね。俺も最初の依頼で随分心配と言うか、怒られたから」
「らしいな」
 悠理が自身のエージェント初依頼の話を出すと、同じく参加していた従妹から依頼の話を聞いて報告書で顛末を知った葵は軽く同意した。
「そうしておきます」
 隼人は軽く苦笑し、肩を竦める。
 自分の命で仲間が助かるなら、特に躊躇することでもなく、優先的に自分がと思うし、その為に自分は生きていると思うのだけど、きっと、この人達は望まないと思うから。
「依頼の流れで何だが、秋津くんは生駒山の大規模作戦の時はありがとう。前から言いたかった。中々言う機会なかったが、感謝してる」
「俺こそ水落さんは恩人ですよ。水落さんがいたから、俺はレイヴンに辿り着けたんだと思います」
 葵は、隼人の言葉に自身の確信は何も間違えていなかったと思う。
 従妹の様子より、信頼出来る場所だと感じたレイヴンは、きっと隼人にとって必要なものがある場所だと感じ、勧めたのだ。その言葉を聞けば、葵は十分確信に至れた。
(やっぱり、何かあったんだね。……何もない人なんていないだろうけど)
 氷とグラスが響き合う音を楽しみながらグラスを傾けていた悠理は、彼らのやり取りを聞いてそう思う。
 何かあるから、この道を選んでいる者は多いだろう。全員ではないだろうが。
 奇縁とも言うべき葵ともそこまで踏み込んだ話をしたことがある訳ではないし、初対面の隼人同様どんな人か判らない。話をして、人となりをしれたらいいと思っていたから、こういうやり取りもひとつひとつ知っていく感覚がしていい。
 待ち合わせ場所で初対面だった隼人も当初のぎこちなさも少しずつ弛緩している。物腰が柔らかいのは変わらないけど。
「こうして味わって呑むのがウイスキーは大事だと思うぜ。次は何か呑んでみたいのは? あぁ、これは蛇塚サンに合いそう」
 酒が入って饒舌だと言いながら葵が次を決めていく。
 皆酒は強いのか、顔色が変わっていないのもあり、悠理と隼人は顔を見合わせて笑い、スポンサーのお勧めに乗ることにした。

「じゃあ、一緒に何度か呑んだことがあるんですね」
「強い部類だとは思うが、余り呑まないって自己申告通り、潰れるまでが長いだけで酔うみたいだな」
 呑んで強かったと気づいた隼人があれから様子が徐々に変化した悠理を見ると、葵も悠理を見る。
 空気で、酔っているというのが判る。
 ふわふわとした笑みに変わってる気がするし。
「それより、秋津サンは気をつけてな」
「俺、ですか?」
「初めて呑んで、強いと判ったが、よく解ってる訳じゃないんだ、加減が判らないだろうが」
「なるほど」
 初めて呑むのだから、上限は知らなくて当然。
 そう話す葵は酒が入ってるから饒舌だと弁明しているが、酔っているようには全く見えない。恐らく、この3人の中で1番強いのだろう。
「そういえば、レポート作成、進んでると思うか?」
「進んでると思うよー。だーって、大丈夫だよー、心配してないからねー」
 悠理がスマホの待ち受けに向かって手を振っているが、本人ではないし、それを目にした本人がどういうコメントをするかについては中々予想出来ない。
 が、悠理の表情を見る限り、本当に想っているのだろう。
 ただ、メーターが振り切れているだけで。
 イケメン(残念)であっても、イケメンは許される。……んじゃないかな。
(だから、『手』は出さない)
 葵は、良い意味でウマが合う運命的な友人だと思っているが、悠理本人も悠理の英雄も『相手』がいる。なら、出さない。
「俺もそろそろラインを意識した方がいいんでしょうか」
 ふと、隼人が呟いた。
 今はレイヴンに身を置く彼はそれなりにやれており、重体癖(?)はあれど、立ち居振る舞いは如才ないと思っていたが───
「待て、まさかラインを超えたら一気にダメになるタイプか。先に言え」
「葵くーん、先に言えたらプリセンサーじゃないかなー」
「プリセンサーはライヴス絡まないと予知の対象外って話じゃって……」
 あ、これ、2人共やばいヤツだ。
 葵が気づいた時には、悠理と隼人同時に寝てた。
「水落様、どうぞ」
 バーテンダーがスッと出したのは、タクシー会社の電話番号表である。
 葵はバーテンダーに礼を言うと、タクシー会社に電話した。
 まぁ、全額出すつもりでいたからいいけど、どっちの英雄にも怒られそうだな。
 ……ま、祝えたし、言いたいこと言えたし、楽しかったからいいけどな。
「じゃ、またな」
「ええ。お待ちしておりますよ」
 2人抱えてバーを出て行く葵へバーテンダーが微笑んで見送る。
 葵は重いと言いながらも2人を何とか起こし、歩けと促す。

 葵の背でバーの扉が静かな音を立てて閉じていき、やがて、空間は夜の静寂に閉ざされた。
 それはまるで、その時間の余韻のように。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【蛇塚 悠理(aa1708)/男/25/空蝉の剣抱いて】
【秋津 隼人(aa0034)/男/19/守護の想いと心血抱いて】
【水落 葵(aa1538)/男/33/選別の瞳は深淵に潜めて】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご指名ありがとうございます。
3人で静かなバーで和やかにお酒を呑む話、隼人さんの20歳の誕生日祝いも兼ねているとのことでしたので、発注文等も踏まえつつ、こうした描写になりました。
それぞれの想いあれど、今後もこうした時間を過ごすことが出来ますよう祈っております。
colorパーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年10月31日

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