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『 そして、はじまる 』
シャトンka3198)&冬樹 文太ka0124


 そろそろ秋も深まりつつある日のこと。
 仕事を終えた帰り道で、冬樹 文太はふと空を見る。
「随分と冷えるようになったなあ……」
 暑さにぼやいていたのは、ついこの最近のことなのに。
 この世界でも季節は急ぎ足で巡り、気がつけば冬がすぐ近くに迫っていた。
 しばらくぼんやり佇む文太だったが、それもほんの少しの間。
 突然の衝撃に、思わず唸り声をあげる。
「うおっ!? なんや!!」

 崩れる膝をどうにか立て直し、振り向くと、見慣れたショートカットの黒髪と黒い眼帯、悪戯っぽく笑う金の瞳があった。
「油断大敵だぜ、文太!」
「……シャトン……てめぇ……」
 普通にしていてもかなり鋭い文太の目がますます険しくなり、がっちりした腕がシャトンの細い首に巻きつく。
「ちょ、ストップ! ストップ!! 文太が帰ってくるの、ここで待ってたんだ!!」
「あァ?」
 少し腕を緩めると、シャトンはするりと抜け出した。
「あのさ、ハロウィンって知ってる?」
「ハロウィン?」
 単語は知ってるが、それがどうした。
 言外にそんな威圧を滲ませ、意味がわからないというようにシャトンを見つめる文太。
「トリック・オア・トリート! で、お化けのカッコした子供がお菓子をもらいに歩くんだよな」
 クリムゾンウェストにもリアルブルーのお祭りであるハロウィンは伝わっている。
 この世界には、なんでも受け入れて楽しむ懐の深さがあるようだ。
「でもオレ、ハロウィンとかしたことないからさ〜なんか面白そうだなって」

 シャトンの言葉に、真面目くさって考え込む表情になる文太。
「そういや俺もちゃんとしたのは無いなあ」
「だったらさ、してみようぜ。ハロウィンってやつ」
「え?」
 一瞬、近所に菓子をもらいに歩く自分とシャトンを想像し、文太が身を引く。
 シャトンは首を傾げたが、すぐに文太の反応の意味に気付いた。
「ちがうちがう、ハロウィンパーティーをやろうって話! だから買い出しに行こうぜ〜」
 さりげなく。本当にさりげなく、シャトンは細い指をするりと文太の手に滑らせる。
「……何やるんか、ほんまにわかってるんか?」
 文太は諦めたようにそう言いながら、壊れやすい物にそっと触れるかのように、手の中にある指を包み込んだ。
 文太の顔は相変わらず、知らない人が見たら少し怖がりそうな表情だったけれど。


 文太の部屋に、大きさも形も色もさまざまなカボチャが並ぶ。
「これは〜食べるカボチャ! 甘いといいんだけどな」
 シャトンはいくつかを抱えて、まるで自分の家のように自然にキッチンへ。
 文太は残りのカボチャと共に取り残される。
「……お化けカボチャのランタンか」
 ナイフを器用に使って皮を切り、中身をくりぬき始める。
 それが済むとしばらく眺め、ペンで下書きした線に沿って固い皮を切りぬいていく。
 目は大きかったり小さかったり、三角だったり丸だったり。
 みそっ歯の覗く大きな口は、なるべく大きく。
 作業に没頭し始めると、文太は職人の顔になる。
 もともと集中して何かを作ることが好きなのだから、ランタン作りには向いているといえるだろう。
 ……とはいえ、シャトンがいるキッチンも気になる。
 お菓子を作る誰かを見るのは楽しいのだ。
 ときどき手を休めては、キッチンで奮闘するシャトンの様子を覗き見る。

 そのシャトンはといえば。
「カボチャのお菓子な〜あんま凝ったのは時間ないよな」
 そう言いつつ、慣れた手つきでカボチャを切って、蒸して、裏ごしして。
 作るのは、文太の好きなお菓子がメインと決めていた。
 その合間にこっそり、カボチャのランタンを作る文太の様子を覗いてみたり。
(ノリが悪かった割には、ああいうことさせるとハマるんだよな〜)
 そう思ったとき、顔を上げた文太と目があった。
「……なんや?」
「なんでもない。あ、ちがう!」
 キッチンを出て、焼き上がっていたクッキーを一枚、文太の口に押し込んだ。
「なんやいきなり……ん、あ、うまいなこれ」
「結構いいカボチャだったぜ。甘味はこんな感じで大丈夫か?」
「……もうちょっと甘いほうがええかな」
「あっそ」
 シャトンは笑いだしそうになりながら、キッチンに戻って行く。
「パンプキンサラダのサンドイッチと、それから……あ、プディングなら、鍋で作れるか」
 シャトンは次第に作業に没頭していった。


 パンプディングは冷蔵庫に入れて。
 クッキーは広げて、荒熱とりも完了している。
 アツアツのマフィンが焼き上がるタイミングを見て、シャトンがまたキッチンから顔を出した。
「文太、そっちどう? ……わあ、すげえ!」
 文太が「どうだ!」と言わんばかりの表情で、不敵に微笑む。
 照明を消した部屋に大小さまざまな十個近くのお化けランタンが散らばり、ろうそくの火をちろちろ覗かせて笑っていたのだ。
 壁に「Happy Hallowe'en!」なんて映し出しているランタンもある。後ろ側を逆さ文字にくりぬいて、色セロファンを貼ってあるのだ。
 オレンジや緑、紫のリボンが壁から壁へ渡してあって、ろうそくの弱い灯りに怪しい光と影を作りだす。
 ついさっきまでの文太の部屋から、別の世界へ繋がったようだ。
「ま、こんなもんやな」
「ほんとすごいな! でもこっちもできたぜ〜見て驚け!」
 今度はシャトンが得意げに、焼きあげたお菓子を運んでくる。
「へえ。こんな短い時間で結構やるもんやな」
 文太が目を丸くした。

 暖かいお茶も用意して、一緒にテーブルにつく。
「ハッピーハロウィン!」
 シャトンの声が弾んでいる。
「ほら、マフィンはあったかいうちに食べろって!」
「へえ、緑の葉っぱついてるんや……皮で作ったんやな」
「いいから食えって! 冷めるだろ!」
「あーもう、わかったわかった、……あちぃ!?」
 慌てる文太と、笑い転げるシャトン。
「ほんまにもう……びっくりするやんか。あ、これうまいわ」
「だろ〜?」
 頬張れば、ほっくりしたカボチャの甘味が口の中いっぱいに広がる。
 クッキーはサクサクほろりと溶けるように崩れて。
 暖かいお茶と一緒なら、いくらでも食べられそうだった。


 ひと通り食べたところで、シャトンがなにかを思いついて首を傾げる。
「でもさ。ハロウィンっていえば、やっぱりトリック・オア・トリートだろ? なんか足りないよな」
 サンドイッチをかじりながら文太が答えた。
「そや。トリックのほうがないんやな?」
「……あ、あれか。仮装」
 ――でもお菓子のほうを先に選んでるから、今更のような気もする。
 そう文太が口に出す前に、部屋を見回していたシャトンがいきなり立ち上がり、文太のベッドへ。
「ちょ、待て、なにするんや……!」
 シャトンはお構いなしに、ベッドのシーツを力いっぱい引っ張った。
 それを広げると、いきなりバサッと文太にかぶせる。
「文太はシーツでもかぶっとく?」
「……ぶはっ。布被ってオバケとかありきたりやな」
 文太は笑いながら、白いシーツの中でもぞもぞと動いていた。
 シャトンは少し遅れて、シーツの端を持ち上げると、中に潜り込む。
「オレは、これで十分だろ?」
 カボチャのランタンの明かりが、シーツ越しに揺れる。
 文太は潜り込んで来たシャトンをまじまじと見た。
 初めて見る覚醒状態だった。飛び出た猫耳、尾のように揺れる濃い青色のオーラ。
「……なんや可愛らしい猫やなあ」
 そう言うなり笑いだすと、ぐしゃぐしゃと猫耳ごと頭を乱暴に撫でまわす。
「ちょ、なにするんだよ!? やめろって……!!」
 やめろといいながら、シャトンも笑う。
「今日はバケネコだぞ? ひっかかれても噛みつかれても知らないからな!!」
 そう言いながら、首のあたりに顔を近づける。

 思いのほか近い距離だった。
 文太の腕がシャトンの身体を支えている。
 すぐ目の前にある文太の目が、シャトンの目を見つめている。
 まっすぐ、シャトンを見つめている。

「キス……してもえぇか?」
 突然の言葉に、シャトンの息が止まる。何も答えられない。なんと答えていいのか分からない。
 戸惑いの中、柔らかく暖かいものがそっと唇に触れる。
 シャトンは目を見開いたまま、身動き一つできなかった。

 女性として見られることを嫌い、言葉づかいも服装も、男とも女とも知れないようにしてきた。
 けれど今、むずむずとした訳の分からない感覚が身体中を駆け巡ってはいるが、そこに嫌悪感はなかった。
 そのことがシャトンを余計に混乱させる。

 軽く触れただけで、文太は離れる。
 その代わりのように、両手でシャトンの頬にできるだけ優しく触れる。
 切ない想いに、指先は僅かに震えていた。
「……好きや、シャトン」
 吐息のような声を漏らした。
 それでなにかが吹っ切れたように、穏やかな笑みを浮かべて。
 ――ついに言ってしまった。
 もうずいぶん前に自分の気持ちに気付いていた。
 それから、伝えられない、伝わらない想いがもどかしかった。
 手を繋いではしゃぎ、文太の部屋に転がり込むのは、なぜ?
 シャトンにとって、文太はただの友達? それとも?
 ――わからない。
 友達ですらいられなくなるのは辛すぎる。
 けれど今日ついに、文太が一線を越える条件が整ってしまったのだ。
「……文、太……?」
 怯えのような色がシャトンの目に浮かんでいる。
 この怯えでシャトンが文太から離れてしまうなら、無理強いしたくない。
 だがシャトンは、シーツをはねのけて逃げたりしなかった。
 ふざけるなと怒って殴りかかっても来なかった。
 文太はそれを確かめるように、再び顔を近づける。
 シャトンが静かに、そっと目を閉じる。睫毛がわずかに震えていた。
 その睫毛すらいとしい。
 言葉を紡ぐ代わりに、想いを籠めて唇を重ねる。

 冷たい風が窓を揺らして行った。
 ランタンの光を受けて、シーツのお化けは身じろぎもしない。

 ハロウィンの夜が明ければ冬のはじまり。
 新しい冬に、なにかが始まる。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3198 / シャトン / 女性 / 16 / 人間(RB)/ 霊闘士】
【ka0124 / 冬樹 文太 / 男性 / 29 / 人間(RB)/ 猟撃士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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Happy Hallowe'en!
ハロウィンの起源は、日本でいうところの大みそかという説もあるようですね。
新しい冬になにが始まるのか……
それがなんであれ、おふたりにとって良い方向でありますように。
またのご依頼、誠に有難うございました!
VIG・パーティノベル -
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ファナティックブラッド
2016年11月01日

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