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『●大学生ゑ本合戦 』
クィーロ・ヴェリルka4122)&神代 誠一ka2086


 大学生活。それは選択の自由に身を浴する、有難くも儚い日々。限られた時間の中で、たしかにこうやって生きたのだという輝かしい日々。

「…………くぁ」
 日も傾きつつある時刻であった。西日は差し込まない部屋ではあるが、窓から届く確かな熱が、斜陽を示していた。ソファに身を預けていた神代 誠一(ka2086)は読みさしの本をサイドテーブルの上――に更に積み置かれた本の上に置き、身を伸ばした。同じ姿勢で本を読み続けていたためか、随分と身体が凝っている。
「ひとっ風呂浴びてもいいけど……んー……」
 つけっぱなしにしていたテレビで時刻を確かめる。そろそろ来るかな、と思った頃合いで、呑気なインターホンが鳴った。顔を確認するでもなく、解錠。ソファに戻って寛いでいると、すぐにドアが開いた。
「うぃっす」「おっす」
 二人同時の挨拶が飛び交う。遠慮無い仕草で扉が閉まり、来訪者が鍵をかけた。そのまま、なめらかに上がり込む。ビニール袋の奏でる独特な乾いた音と、靴下の弾む音。そのままリビングへの扉が開く。
 上がり込んだ“彼”は開口一番、こう言った。
「誠一、今日晩飯作ってやるよ」
「……はぁ、またかよ」
 ビニールの音で予測できていた誠一は途中で腰を上げ、本棚から一冊のファイルを取り出していた。ノートと過去問を束ねたものである。
「ちったぁ真面目に勉強しろって……クィーロ」
 多分に呆れを孕んだ声は、無理もない。“彼”は、その分野にかけては常習犯であったから。
「やー、しゃーねぇだろ、バイトが忙しいんだよ」
「そんなにバイトばっかりやるのもどうなんだ……」
「バイト以外に大学生の本分なんてねぇだろ! っし、アリガト……よ?」
 彼――クィーロ・ヴェリル(ka4122)は悪びれもせずに差し出されたノートを受け取ろうとすると、誠一はひらり、とその手をかわした。
「あ?」
 怪訝そうなクィーロを眺めて眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく細めた誠一は、
「洗濯もよろしく」
 と、言った。



「誠一、どうやったらこんだけ洗濯物ためられんだよ……床もきたねえし……天才か……」
 食事の仕度をする前に“敵情視察”を行ったクィーロはげんなりと呟いた。「アリガトー」と届く声は、ベッドに転がりながらゲームをしている誠一のものだ。
 とりあえず時間のかかる炊飯を先に始めておいての視察だったが、目算で2、3回は洗濯機を回す必要があると判断。幸い、誠一の家の洗濯機は静音性が高く、浴室乾燥機があるから、今からでも支障はないのだが。
「……少しはやれよ、自分で。や、そのおかげで俺も助かってるんだが……」
 内心でツッコミをいれつつ、ざくざくと手を動かし、洗濯物を叩き込んでいく。同時に、クィーロは誠一には気づかれないように油断なくアチコチへと目を向けた。無防備に過ぎる誠一の様子からは、おそらく此処は『ハズレ』だろうが、念には念を入れたい。
「ついでだし歯磨き変えとくぜー」
「あーい」
 泊まり込んでダラダラ遊ぶ事の多いクィーロは、そんな口実も持ち出して、洗面台周りも確りと確認。やはり、無い。誠一の反応がやはり、決定打だ。間違いない。
 ――ここには無いか。
 残念ではあるが、一箇所潰せたことは大きい。

 まだ、『戦い』は始まったばかりだ。


「……なぁ、まだか?」
「もーちょい」
 届く声に、クィーロはいっそ冷淡に聞こえるように応じた。だらけきっている誠一に香り責め、という意趣返しもあり、内心ではにやけている。
 主菜の献立は煮物にした。誠一は家庭料理が好きだということもあるが、控えめに言ってもズボラな誠一なので、このくらいのものでなくては今後の食事事情は改善しないだろうと見越してのことだ。
 手間を惜しんであご入り出汁パックを使ったが、味はバイト先の保証付きだ。醤油とみりん、酒を合わせた。少しだけ砂糖を加えて味を整え、アルミホイルで落し蓋とする。
 その間に、小松菜の煮浸しなど副菜の用意を進めていく。
「クィーロはいい嫁になるよなぁ」
「……嫁ってなんだよ。バイトしてりゃ身につくぜ」
 クィーロの手際は手慣れたものだ。バイトを掛け持ちする彼ならでは、と言うべきだろう。
 横目に、煮汁の煮詰まり具合を確認して、
「――そろそろできるぜ。机片しといて」
「ほい」



「美味しくいただきました……」
「お粗末さま」
 おかわりまでたんと味わった誠一がそういって手を合わせるやいなや、クィーロはすぐさま洗い物に移った。もちろん、目論見あってのことだ。
「そういや、誠一は彼女とか作らねえのかよ」
「え? いいよ、まだ。そんなの考えてない」
「へー……」
「クィーロは?」
「バイトのほうが楽しい」
「……ホントにバイトばっかりだな」
 などと、言葉を交わしつつ、洗い物が一段落しようというころに、クィーロは思い出したようにこう言った。
「……あ。これ終わったら洗濯物乾かすから、風呂入るんなら先にはいってくんね?」
「ん?」
 置いていた本を読み直そうとしていた誠一が、振り返る。
 すこしばかり逡巡があった。この年下の友人は気さくな人となりだが、中々どうして抜け目がない。時折、不審な行動も取っているような気もする。取り立てて聞くほどではないけれど。
 ――いや、大丈夫なはずだ。
 何をというわけではないが、そう、判断した。
「あー、じゃあ、そうするよ」
 本を置いて、立ち上がる。少しばかり、緊張があった。何故だろう。誠一は別に、そういった心構えがあるわけではないのだが――そう、殺気としか表現できないような何かを、感じていた。
 出処と思しきクィーロの、洗い物をしている背を抜け――脱衣所兼洗面場へと歩を進めた。
 背後ではまだ、洗い物の音が響いていた。



 ――チャンス到来!
 クィーロは自らの手管に舌を巻く思いだった。洗い物を手早く終わらせて、主不在のリビングへと音もなく飛び込んだ。
「……どこだ、どこにある……?」
 誠一の性格を考えた。誠一がクィーロの事を怪しんでいるであろうことも、クィーロは感じ取っている。だからこそ、状況を整えたのだ。
「……普段、俺が近づきそうなトコに置く筈がない……」
 本棚。テレビ台。ゲーム機とソフトが並べ入れられた引き出し。ソファー。ベッド。クローゼット……と視線を巡らせる。男の入浴だ。然程時間はないだろう。候補は六ヶ所。探せるのは一箇所か、二箇所。
「……よし、ベッドだ!!」
 決めるなり、飛び込んだ。布団をめくる。無い。枕には、異常な感触なし。ベッド下、無し。
 その時だ。シャワーの音が、止んだ。
「……疾すぎだろ……?!」



 手早く髪を洗い、身体を洗い、洗顔し、可能な限りシャワーを終えた。入浴するのは危険、と直感していたのだ。
 タオルで手早く水気を落とし、下着を履く。眼鏡を掛けると、髪を拭きながら、すぐに部屋へと向かった。寝間着はそちらに置かれているからだ。
「……ぷはー、いい湯だった。悪い、待たせたか?」
「あ? いや、全然そんなことないぜ」
 可能な限り最速で出てきた誠一がそう言えば、茶を淹れているクィーロは何気ない調子で応じる。クィーロの落ち着いた気配に、誠一は少しばかり安堵しないでもなかった。気心の知れた仲ではあるが、知られたくないこともあるのだ。
 着古したジャージ――これは洗濯にだしていなかった――に着替えて、先程と同じように、ソファに座った。読みかけの本を取り――。

「ぶっ」

 吹き出した。独特の手応えは、読もうと思っていたソレとは明らかに違う。見るよりも先に答えがわかり、瞬時の動きで背中に隠す。
 今更隠しても無駄なことは、わかっていたのに。
「………………」
 恐る恐る、クィーロの方を見た。扉の近くでマグカップを手にしたクィーロは淹れたての茶を口に含むと、
「黒髪ロング」
「ぐっ……」
「美脚で、キレイめ系」
「………………」
「誠一の女の好みがよくわかったぜ!」
「ああー……」
 誠一は眼鏡を外して、天井を仰いだ。“悪夢”のようだ。こんなことになるなんて――。




「……んあっ?」
 そこで、誠一は意識を取り戻した。見慣れた天井――だが、先程とは違う天井が飛び込んできて、慌てて身を起こす。
 頭の芯に刺すような痛みで、思い出した。昨夜、ひょんな話が盛り上がり、酒が弾みすぎてしまったのだ。散在する酒瓶や肴が、昨晩の盛り上がり様を示している。
「……夢、か……?」
 妙にリアルな夢で、二日酔いで乾ききった身体でも冷や汗が背筋を伝う。
「……ねぇ、誠一」
「ク、クィーロ……?」
 隣で寝ていたと思われるクィーロが、眠たげに目をこすったまま呟いた。特に後ろめたいことはないはずなのに、変に構えてしまう。
 だから。

「エロ本って、何?」

 そう聞かれた時は、心底、肝が冷えた。



 古今東西、様々な書きようが在ることと思うが、此処は一つ、古典に倣わせて頂きたい。
 曰く。




 ――“こういう夢を見た”、と。



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka4122 / クィーロ・ヴェリル / 男性 / 25 / 探索成功者】
【 ka2086 / 神代 誠一 / 男性 / 32 / 性癖被暴露者】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております。ムジカ・トラスです。この度は発注いただきありがとうございました。
 クィーロさんは、何度もノベルの発注を頂いておりましたね。この度は、お二人の発注、ありがとうございます。
 今回は『If』、しかも大学生活がテーマということで、発注文を読んだ段階から、取り掛かるのをとても楽しみにしておりました(笑)
 厳正な判定の結果ではあるのですが、その、本の中身がある意味で当たり障りない所に落ち着いて、ムジカとしては安堵しているところです。
 というわけで、今回はおあずけ頂き、ありがとうございました。
 また、機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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ファナティックブラッド
2016年11月04日

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