『ふたりめとふたりめ 』

ユエリャン・李（aa0076hero002）＆凛道（aa0068hero002）

　その日、それぞれの家で、ユエリャン・李（aa0076hero002）と凛道（aa0068hero002）はパートナーである能力者に「行ってらっしゃい」を告げた。
　そして奇しくもその日、ユエリャンも凛道もパートナーの能力者から同じことを言われていた。

「自分達の留守中に、日用品の買い物をしてくるように――」

　というわけで。
　買うものがリストアップされたメモと、財布を手に。ユエリャンと凛道は秋晴れとも冬晴れとも形容できる空の下、玄関のドアを開けて、ドアにちゃんと施錠もして、出かけることになったわけだが。

　ここでおさらい。
　二人のそれぞれの能力者のお家は、いわゆる『ご近所さん』なわけでして。

「「――痛っ」」

　曲がり角でぶつかる、なんてラブコメディが始まりそうな状況から第二英雄達の物語は幕を開けた。
「……なんだ、眼鏡置きか」
「ユエさん？　大丈夫ですか」
　眉根を寄せて服を払うユエリャン、パチクリと瞬きを一つする凛道。彼の言葉にユエリャンはフンと鼻を鳴らすのみだった。
「お出かけですか？　お化粧もしっかりなされて」
　そんなユエリャンのドライな反応にも関わらず、ぶつかった拍子にずれた眼鏡をかけなおしつつ、凛道は言葉を続けた。彼の言う通り、ユエリャンはいつものようにバッチリフルメイクであるし、香水のいい香りがするし、髪もセットしてツヤツヤサラサラだし、艶やかなチャイナドレスを身に着けているし、レースの刺繍が上品な日傘まで差している。パッと見、どこぞ女優の小旅行のようだ。
「……貴様、化粧をした人間に対しては、化粧のことを指摘するものでないぞ」
　デリカシーの無い奴め、とユエリャンは大きく溜息を吐いた。そのまま「我輩、用事があるのでな」とピンヒールの足音を高らかに歩き始める。
「ご用事ですか。ああ、僕はおつかいを頼まれていまして」
　が、同じ方向へ凛道が歩き始める。おつかい内容が書かれたメモを見せながら。
「……。なんの運命の悪戯か知らんが、我輩もだ」
　じっとりした目で振り返りつつ、ユエリャンもまたおつかいメモを凛道へと見せるのであった。

　買い物メモ。
・お皿
・カップ
・洗濯用洗剤、調味料、etc……。

　奇しくもリスト内容まで似通っていた。
　つまりどういうことになるかと言うと、買うものがほぼ同じであるということ。それは買う場所が、目的地が同じであるということ。
　そんな理由で、目的地が同じなので、二人は必然的に一緒に買い物をすることとなった。
　ちなみに、これは二人にとって『初めてのおつかい』である。
　ので、できれば仲間がいる方が安心だな……という心理も無きにしも非ずなのであった。頼りになるかならないかはさておいて。

　というわけで。

「電車の乗り方が分かるだなんて凄いですね、ユエさん」
「道具や技術は我輩のともがらよ。理解を望めば、すぐにでも分かり合える」
　ガタンゴトン。二人は電車に乗って目的地へ向かっていた。距離にして一駅程度だが、「こんな距離を歩くのか馬鹿かありえん信じられん」とユエリャンが電車を提案したのである。凛道は切符の買い方やらなんやらがサッパリだったが、そのあたりはユエリャンが完璧にやってくれた。
　ユエリャンは牡丹のように品良く座っており、凛道は電車の内部を興味深そうに眺めていた。そうしているとまもなく電車が停まる。改札から出れば、大きなショッピングモールが見えた。
　ここならなんでも揃うだろう、英雄達は賑やかな店内へと足を踏み入れる。

「……」
　凛道はキョロキョロと周囲を見渡していた。まだこちらの世界の文化や文明には慣れ切ってはおらず、目新しいばかりの雰囲気に圧倒されてしまう。凛然と生真面目めいたいでたちだが、興味や好奇心は人並みにあるのだ。そしてそれが先行すると……、
「おい、眼鏡置き。あらかじめ言っておくが、迷子になったら捨て置くからな」
　そんなユエリャンの声も耳を通り抜け、ふらふら〜っと関心が惹かれた方向へ歩き出してしまう。
「言ったそばから貴様は幼児か！」
　ピンヒールをカッカッと鳴らして凛道の背を追うユエリャン。見捨てない辺り、なんだかんだで人間ができている。
　さてさてユエリャンが追いついた先、凛道は立ち止まってある方向をジッと見つめている。眉間には深いシワ、ウンウンと思い悩んでいる様子。
「……？　一体なにをそんなに思案して――」
　首を傾げたユエリャンが、凛道の目の先へ視線をやると。

　そこはアイドルショップ。
　の、ジュニアアイドルコーナー。
　の、ブロマイドコーナー。

「我輩、ここに食器類は無いと思うのだが」
　ドブに落ちて腐った豚肉を見るような目で凛道へ振り返るユエリャン。「このロリコンめ」と罵らない辺り人間ができている。すごくできている。
「……分かりました」
　神妙に凛道が頷く。そして彼は歩き出し――結局、ブロマイドを買ったのであった。（相棒のクレジットで）

　さて、気を取り直しておつかい再開。
　で、あるが。

「綺麗ですね……」
「うむ……自然の造形とは思えんな……」

　二人はペットショップの熱帯魚コーナーなうだった。水槽を優雅に泳ぐカラフルな熱帯魚をじーっと並んで見つめている。
　つい、ついウッカリ、「どうせ時間もいっぱいあるし」とマイペースにペットショップへ踏み込んだのが運の尽きだった。
「凄いですね……」
「良いな……」
「綺麗です……」
「分かる……」
　語彙がない。
　この後めちゃくちゃグッピー見た。

　さて、気を取り直して（二回目）おつかい再開。
　の、ハズだが。

　二人はゲームセンターにいた。
　具体的に言うのならばＵＦＯキャッチャーの前にいた。

「ここでリストの物が入手できるのですか？」
「皿と、マグカップであるな？」
　凛道の言葉に、ふふんとユエリャンは口角を吊る。愚問だと言わんばかりだ。
「両方、ここで取れば問題なかろう」
　ガラス越しのそれら、ＵＦＯキャッチャーの景品は思いっきりキャラクターの絵やらが印刷されてるけど皿は皿、マグカップはマグカップ。条件は満たしている。
　ユエリャンはゲームセンター好きだった。彼――彼女――？　の手先の器用さは異世界にて『万死の母』と畏れられた頃より何一つ錆び付いてはいない。不安定でユルユルな筈のＵＦＯキャッチャーアームを自らの指先のように操り、次々と機体の中身を空にしてゆく。
「ふふふ、良い子だ」
　素直に動いてくれるボタンを優しく一撫で。そんなユエリャンを、凛道は後ろからソワソワと覗いていた。ちなみに取った景品は全部凛道が持つことになっていた。
「ユエさん、あれはなんですか」
　また一つ、今度は大きなぬいぐるみ（ユエリャンの相棒への土産にするとのこと）を手渡されつつ。凛道がぬいぐるみを抱えた手で指したのは、矢印がいっぱい降ってくる踊る踊るレボリューションのリズムゲームだった。ユエリャンはをそれを一瞥し、
「恐怖の装置だ、近寄るでないぞ」
「え？　あ、はい……」
　説明しよう、ユエリャンは驚異的な運動音痴なので踊る踊るレボリューションをしようものなら足首が百本ほど余裕で折れる。
　さてそうこうしている内にユエリャンはＵＦＯキャッチャーの中身を乱獲し。
「あとは洗剤と、調味料ですね」
「余裕であるな」
　リストを確認した凛道の言葉に、ユエリャンは悠然と歩き始める。

　売り場に行けば普通においてあるだろう。
　英雄達は高を括っていた――。

「……」
「……」
　英雄達は真顔で立ち尽くしていた。
　目的の商品。洗濯用洗剤も、調味料も、あることはあった。が。問題は、商品棚にズラリと大量に並び過ぎていること。
「どれを選べばいいのでしょうか……」
「むむ……」
　逡巡。それから、決心したようにユエリャンが手に取ったのは一番お高いやつだった。
「高いものはそれだけの品質が保証されているということではなかろうか？」
「！　なるほど、流石ですユエさん。やはり日常的に使うものなら、良いものが一番ですしね」
「そういうことである。さ、会計を済ませてさっさと帰るぞ。そろそろ皆が帰ってくる」
　意気揚々、レジへと向かう。ミッションコンプリートだ。英雄達の横顔はどこか誇らしげですらあった。

　後日、能力者がゴッソリ減ったサイフの中身に真顔になるのはまた別のお話。



●



　ガタンゴトン。

　帰りも同じ電車。町の空は茜色を帯びてきている。夕暮れだ。まだ帰宅ラッシュタイミングではないようで、車内の乗客は疎らである。
　携帯からの連絡によれば、もうじき出かけていった『彼ら』も帰ってくるようである。

「今日は――」
　窓の外、ビルに疎らに遮られては顔を出す夕日を見つつ凛道が。
「楽しかったですね、ユエさん」
「まだまだこの世界は新発見に満ちているな、興味深い」
「またおつかいを頼まれたら、ご同行願いたいのですが」
「……タイミングが合えば、まぁ、荷物持ちとして役立って貰おうではないか。そろそろ到着するぞ、降りる準備をしたまえ」
「分かりました。もう、僕、切符の購入方法は覚えましたよ」
「言っておくが忘れてしまえば意味がないからな。それと、ＩＣカードの方が便利であるぞ」
「切符の購入方法については忘れないように復習しておきます。あいしいかーど？　については……今後の課題ですね」
　そしてドアが開く。英雄二人は電車から降りて、改札から出て、そして――夕紅の長い影を踏みながら、それぞれの帰路へと就くのであった。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ユエリャン・李 （aa0076hero002）／？／28歳／シャドウルーカー
凛道（aa0068hero002）／男／23歳／カオティックブレイド

■ＷＴアナザーストーリーノベル（特別編）■

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2016年11月14日