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『 悪魔的な魅惑のおはなし 』
オーロラ・オースリーズaa0101hero002)&A・Kaa0008hero002


 街の中心部から少し離れた静かな一角に、『喫茶 Gift』と看板を掲げた店があった。
 能力者たちが集まる店には、彼らと契約した英雄たちもやってくる。
 A・Kもそんなひとりだ。
 時間は朝と昼のちょうど間ほど。朝早く起きて活動していれば、そろそろ小腹がすいてくる時間である。
 というわけで、彼は紙袋に手を突っ込んでごそごそ。
「あー、やっぱ冷めてんな。向こうで食ってくりゃよかったかも……でもコーヒーはこっちのがうまいしな」
 ぼやきながら取り出したのはハンバーガーである。
 有名なチェーン店の名前が印刷された包み紙をはがし、しっとりしてややよれたバンズの表面をしげしげと見つめる。

 おもむろに口を開き、ガブリと噛みついたところで、ドアが開いてオーロラ・オースリーズが入ってきた。
 自称、極南の皇帝。どうみても愛らしい少女だが、確かにどことなく気品を感じる顔立ちだし、胸をそらして歩く姿は威厳を感じさせないこともない。
「おう」
 契約した能力者がたがいに友人同士という少し遠い関係ではあるが、一応は顔見知りだ。A・Kはハンバーガーを頬張りながら、あいさつした。
 もっとも、A・Kにとってのあいさつが、オーロラにとって満足のいくものであったかどうかは別の問題。
 彼女にとってあいさつとは、膝をついて首を垂れ、恭しく捧げ奉られるものなのであるが。こちらの世界に召喚されてまだ日は浅いが、略式のあいさつを受け入れるだけの度量は持っていた。
 しかも、自身はまだ人間の雛にすぎぬと自覚もある。
 皇帝たるもの、礼を強要すべからず。民草どもがいずれ自らの不明を恥じ、膝を折って礼を尽くすような威光を示さねばならぬのだ。
 とまあ、それはさておき。

 オーロラの目は、A・Kがかぶりついたハンバーガーをじっと見つめた。
「それはなんだ、A・K」
「ほへ?」
 A・Kはもぐもぐ口を動かしながら、一口で残り半分ぐらいになってしまったハンバーガーを指差した。
 部屋には、ファーストフード特有の匂いが漂っていた。
 オーロラはその匂いを嗅ぐのは初めてだったが、不思議とそそられたのだ。
「ハンバーガー。知らねえか?」
「初めて見る。それは食べ物なのだな。余もそれを所望す」
「しょもう、って……」
(まさか、俺の食いかけをよこせというわけではないだろうしなあ)
 時計を見た。少し早いが、じきに昼時である。
「おう、じゃあ……食い行くか?」
 こくりとオーロラが頷いた。
 A・Kは残りを口に放り込んでコーヒーで流し込むと、笑いながら席を立つ。


 連れだって大通りに面したファーストフード店にやってきたふたりは、遠目には兄妹のようにも見えるかもしれない。
 店は昼時とあって、かなり混んでいた。店員が明るい声で手際よく客をさばいていく。
 漂ってくるさまざまな匂い。
 オーロラは鼻をひくひくさせる。感覚に訴える何もかもが珍しいのだ。
「並ぶ前に看板で決めちまうか……ほら、コーちゃん。どれにするよ?」
 A・Kがメニューの看板を指差した。ちなみに呼び方は皇帝のコーちゃん。かなり適当である。
 オーロラは失礼な(?)呼び名を咎めることもせず、丹念にメニューを眺めていった。
「この、ハンバーガーというのが汝が先刻食していたものだな。中身は何なのだ」
「あ? ああ、パンにパティっていうハンバーグっぽいもんと、ピクルスがはさんであって、ケチャップみてえな味付けがしてあるんだ」
「……ではチーズバーガーというのは、何だ」
「ハンバーガーにチーズが入ってる」
「ではテリヤキバーガーはハンバーガーに更にテリヤキが入っているのか」
「いやそれは、味付けの話でだな……」

 ――案外めんどくせえな!!
 A・Kは内心で頭を抱えたが、考えてみれば、見たことがなければメニュー表の見方もわからないだろう。
 知らなくても適当に頼んでしまう者がほとんどだろうが、知識の吸収に貪欲なオーロラは、分からないことは分からないと素直に言うし、聞くことを恥とは思っていない。
 というわけで、セットメニューの内容についてやら、サイドメニューについてやら、一通り説明する羽目になるA・Kだった。
「……で、どれにする?」
「あれは何だ」
 オーロラはメニューではないところを指差していた。
 見れば、親子連れが席に着いていた。子供はハンバーガーを食べるより先に、おもちゃの開封に夢中だった。
「ああ。ラッキーセットだな。おまけ付きのメニューで……」
 そこで、オーロラの目がキラキラ輝いているのに気づく。
「……あれにするか?」
 説明の大部分が無駄になったが、それはまあ仕方のないことであった。

 カウンターに並び、ようやく注文。
 おまけの希望を伝えるためにメニューをのぞきこむが、オーロラの身長ではカウンターに生首状態である。
「それでは番号をお呼びしますのであちらでお待ちくださーい!」
 立て板に水の決まり文句と、ニッコリ笑顔に見送られ、順番を待つ。
「実に面白い。あれは何だ」
 ちらりと見える裏方の作業を、首をのばして見入るオーロラ。
「ポテトだ、オーちゃんのセットにも入ってるぜ」
 今度はオーロラのオーちゃんらしい。それも気にせず、オーロラは順番を待つ。
「お待たせしました〜!」
 ようやく待っていたものが出てきた。
「あの者は番号を呼びながら、A・Kの顔を見ていたな。きちんと覚えて居るようだ」
「ああ、そうかもな。ほら、席空いたぞ」
 二人分のトレイを抱えて、A・Kが顎をしゃくった。


 つくねんと座ったオーロラの前に、プラスチックのトレイが置かれた。
 だがさっきの子供と同様、まず手に取ったのはおもちゃの箱だ。
「…………」
 小さなヒリュウのぬいぐるみが出てくる。
 少し見開いた目のほかは、いつも通りのクールな表情なのだが。その目が雄弁に、内心のウキウキを表していた。
「早く食わねえと冷めるぞ。あとそれ、汚れたら困るだろ。しまっとけよ」
 A・Kが笑いながら、自分が頼んだワイルドバーガーの包み紙をはがす。
 ベーコンがはみ出たあたりは確かにワイルドだが。
「日本の店はドリンクもバーガーも小さいよな」
 ハンバーガーを食べた直後にも、追加が軽くいけるぐらいに。
 だが、それも日本らしくてカワイイとも思うのだ。

 オーロラはしっかりとぬいぐるみを片手で胸に抱えたまま、残る手でハンバーガーを器用に掴んだ。
 口元に近づけると、甘酸っぱいケチャップと肉のいい匂い。
 少し口を開いてみる。
 だがすぐに、それではパンか、ハンバーグか、ちょっとずつしかかじれないと気付いた。
 ちらりとA・Kを見る。大きな口を開けて、ガブリと噛みついていた。
 どうやら、さっきは誰もいないから大口を開けていた、というわけでもないらしい。
 周りの客を見ると、男も女も、中には三段重ねの分厚いハンバーガーを食べている者すら、遠慮なく大口を開けてかじりついていた。
 ――郷に入っては郷に従え。
 オーロラも思い切って大きな口を開け、力いっぱい噛みついた。

「美味いか?」
 もっもっもっ。
 頬を膨らませ、オーロラはコクコク頷く。
 急いでドリンクに持ち替え、中身をすする。それでようやく口がきけた。
「おいしい。ジューシーなパティとピクルスの酸味の組み合わせが良い」
 続いて手が空いたついでのようにポテトを口に入れる。そしてまたドリンクをすする。
「うむ。このポテトは細く食べやすく、塩味のせいで喉が渇き炭酸飲料が進む。悪魔的な組み合わせだな」
 グルメレポーターのようなコメントを挟みつつ、合間に一生懸命ポテトをついばむ。
 子供向けの小さなセットは、あっという間に空っぽになった。
「気に入ったんならよかったな。んじゃそろそろ……」
 混雑する店内を気にして、A・Kが席を立ちかけた時だった。
「次は何にするのだ?」
「……え?」
 オーロラの言葉に、思わずA・Kがまじまじと見返した。
「これでは足りぬ。余はおかわりを所望する」
「え……?」
 絶句するA・K。
 だがオーロラは期待を込めて、じいっと見つめてくる。
 それはなんだか、巣で餌を運んでくる親を待つ雛鳥のようで。
 いじらしく、あまりにも真剣なまなざしだった。
「あー、じゃあもう一個だけな?」
 苦笑いのA・Kに、オーロラはぴょいと席から立ち上がる。
 手にはしっかりと、ぬいぐるみを抱いたままで。
 
 結局また並んで、今度は別のセットを抱えて席に戻ってくる。
(さすがに持て余すんじゃねえか……?)
 そんなA・Kの心配は無用のものだった。オーロラはハンバーガーを頬張り、ポテトを口に運び、ドリンクをすする。
 一生懸命食べるオーロラの姿を見ているうちに、A・Kの表情は穏やかになっていく。
「そんなに気に入ったか」
「うむ。この世界に興味深い物は数多あれど、ハンバーガーは殊に気に入ったぞ」
 オーロラは思ったのだ。
(いずれ余の帝国に戻りし時、氷河の宮廷にはハンバーガーショップを併設するとしようぞ)
 だが今は、まだ雛鳥の身。
 A・Kはケチャップをつけたままの口元を、ナフキンで拭ってやる。
「そうか。じゃあまた一緒に来ようか」
「本当か?」
 オーロラの目が、またキラキラ輝いていた。
 A・Kはわざと睨むように、横目で見る。
「疑うってのか? じゃあ約束だ」
 笑いながら、握った右手の小指だけをのばしてオーロラの顔の前へ。
「約束だ」
 オーロラは細い小指を絡め、ぐっと力を込めた。

 さて、こうして悪魔的な食べ物の魅惑に取り込まれた皇帝だが。
 気になることも多少はあるようで。
 帰り道、並んで歩きながら、A・Kの脇腹に手を伸ばした。
「? なんだ?」
「いや……何でもないぞ」
 ふにふに。
 ついたお肉の具合を、ちょっとだけ心配するのであった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0101hero002 / オーロラ・オースリーズ / 女性 / 10 / カオティックブレイド】
【aa0008hero002 / A・K / 男性 / 26 / ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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英雄たちもノックアウト、ファーストフードの魔力おそるべし。
自分で書いていて、無性にハンバーガーを食べたくなるなど。
ご希望のイメージにうまく沿えていましたら幸いです。
この度のご依頼、誠にありがとうございました!
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2016年11月14日

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