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『●Eternity/Crimson 』
Spica=Virgia=Azlightja8786
 学園内の依頼斡旋所に現れたSpicaは今日入った依頼を探していた。
 目の前にあった依頼に入ることを決めた。


 人数は即座に集まり、皆で事件に関する話し合いを行う。
 出立の時刻が迫り、やるべきことを振り返る。
 天魔の戦いには何が起きるかわからない。
「行きましょう」
 転移装置が作動したところで記憶は途切れ、Spicaの意識は暗転した。


 ブラウは自宅を出て、ハンターオフィスへ向かっていた。
 近年、この界隈は賑やかしい。
 今までバラバラだった国たちが一つに纏まりつつあり、それに比例するように歪虚との戦いは激しさを増すばかり。
 今もそれに関する依頼が多くあるといい、人手が足りないのではと言われている。
 ブラウが通りを歩いていた頃、彼女がこれから通ろうとしている道の一部の空間だけがぼやけた部分ができていた。
 ぼやけたような空間は次第にクリアになっていき、その代わり、見たことがない少女の姿が現れた。
 本能的に目を閉じてしまっていただろう瞼が長い睫毛と共に震えると、紫水晶のような大きな瞳がゆっくりと開かれた。
 まっすぐ視線を定めたSpicaは茫然としていた。
「ここ……は……」
 見上げたSpicaは違和感にかられると同時に先ほどの意識の暗転に気づく。
 自分がいた世界には空を見上げたらあるもの……電線がないのだ。
 転移装置の不調はすぐに察した。
 とりあえずはここがどんな世界なのか、元の世界へ救援できるか調査を始める。
 調査をしていると、信じられないことになにもわからなかった。
「味方も、データもなし……」
 依頼に応じて集まった時は自分含めて八人。
 しかし、Spicaだけが移転装置の不調に嵌り、目的の場所ではないどこかへ飛ばされた。
 まずは周囲を探し、会話できるものを探し出すことにした。
 向かっていく方向の突き当りは大きな通りであることを察したSpicaはきょろきょろと周囲を確認して覚えつつ、小道を歩いていく。
 小道の更に脇道に一歩入って周囲を確認したSpicaは元の道へと戻ると、小柄な少女がこちらへ歩いてきた。
 顎のところで切りそろえられた艶めく黒の髪は歩くたびに毛先が揺れる。
 顔を上げてまっすぐ歩く少女はたおやかなで優しそうな印象を受けた。
「ここは……どこ?」
 Spicaが問うと、小柄な少女は問い尋ねるSpicaの姿を見定めるように、少しだけ黄玉の瞳を眇める。
「貴女、何処から来たの?」
 可憐な高音だが、淑やかな声は少女の声とは思えない。
「私は……天魔の調査に来たの……」
 Spicaの問いに少女……ブラウは柳眉を潜める。
「私は……仲間と共に、久遠が原学園より転移してきたの……でも、私だけ目的の町とは違うところに飛ばされたようで……」
 目の前の少女は意味不明というか、聞いたこともないことを並べ立てブラウに尋ねている。
「そもそも『テンマ』が何か私にはわからないの」
 困惑するブラウにSpicaは天使と悪魔の話を始める。
 天使と悪魔の話を聞いたブラウはリアルブルーの転移者からそんな話を聞いたような気がした。
 特に悪さをする悪魔の話を思い出し、ブラウはそっと、自身の刀に手をかける。
 人間型の歪虚も確認されている昨今、目の前の美少女が歪虚であってもブラウはそのまま斬り倒すだろう。
 じっと、Spicaの様子を見ていたが、自分へ問い尋ねる少女には殺意も害意も感じられなく、頭がおかしいのかと思っても、彼女は真面目な顔で話をしていた。
 少女が『転移』という言葉を口にしていた。
 よく見れば、リアルブルーからの転移者に似たような服装をしている。
「あの……」
 先ほどまでブラウを困惑させていたSpicaがブラウに見つめられて困惑した表情を浮かべる。
「ここで思案しても仕方ない。ハンターオフィスで手がかりを見つけた方がいいわね」
 そう判断したブラウは自分が『ハンターズソサエティ』という組織に属しているドワーフであることを告げた。
「ハンターズ……ソサエティ……」
 記憶のどこかで聞いたような名称。サブカルチャー作品でそんな単語があったようなと思いつつも、Spicaは今思い出せなかった。
「そういえば、お菓子を大量に作ってしまったんだけど、食べない?」
 ブラウが差し出したのはフィナンシェのような形の焼き菓子だ。
「……フィナンシェ……? ありがとう……あ、名乗ってなかった……私はSpica……宜しく……」
 Spicaが呟いた言葉にブラウは心当たりがあった。リアルブルーの転移者もその菓子を見てそう言ったのだ。
「私はブラウよ。宜しくね」
 やはり、リアルブルーからの転移者ではないかとブラウは思案する。
 Spicaが作った菓子を「美味しい」と言ってくれて少し嬉しかった。


 ブラウの案内で、ハンターオフィスに行ったところ、現代人と似たような服装をしたハンターがちらほらいた。
 何かわかるかもしれないとSpicaがハンターと思しき少女に声をかけたところ、「ラノベで似たような話を読んだことあるわ」と返されたり、「知らない」と首を横に振られた。
 何人か声をかけたが、やはり知らないと返される。
 ハンターオフィスの受付嬢にも事情を伝えたところ、そんな事象は聞いていないと言われてしまった。
 ブラウはSpicaを傍観しつつも、自分が受けようと思っていた依頼を受ける旨を伝えて戻ると、Spicaの様子は成果が芳しくない模様。
「ここに、来たのも……何かの縁……」
 そう言ったSpicaはブラウを見つめる。
「この世界の、こととか……観光とか……色々、お願いしたい……」
 Spicaの願いにブラウは少し考えてしまう。
 目の前の少女の唐突な要望にブラウはSpicaを見つめつつ、思案する。
「わたしもそこまで詳しくないけれど、いい機会だし少しだけ案内するわ」
 ブラウも街の探索ができるので、二人はハンターオフィスを後にした。


 街の大通りに入ると、元いた世界でいうところのワゴンの屋台がちらほら見かけられる。
「この辺だと、食べ物が多いわ」
「……甘い、匂い……」
 ブラウが説明すると、Spicaの嗅覚を刺激するのは砂糖が焦げる匂い。
 火が移らないように囲っている鉄板の中で火が揺らめき、チュロスのような揚げ菓子の炙られたところがキャラメリゼ状態となっていた。
 隣の屋台では焼いた肉を削いではナンのようなもので挟んで売っている。
 ちらほらと自分がいた世界と似たような食べ物があって、Spicaは妙な安心感をもつ。
 屋台街を抜けると、ブラウが一度足を止める。
「ここを左に曲がりましょ」
 促したブラウが見た方向もまた大きな通りであり、雑貨屋などが軒を連ねていた。
 Spicaも反対する気はなく、提案にのる。
 ドアを開放している雑貨屋を冷やかしで覗く。
 現代の雑貨というよりは、アンティークという印象を受ける。
 丁寧な作りのものもあれば、粗雑なものもあるのは現代でも変わらない。
「……綺麗……」
 Spicaが見つめたのは青白く煌めく石を加工し、レースリボンを花のように襞畳んだものを添えて髪飾りにしたもの。
「それは、辺境ドワーフの工房で作ったんだよ」
「辺境には鉱山があるから、そういう石もあって不思議はないわ」
 店の主が声をかけると、ブラウが補足説明をする。
 他にもあるから見ていきなさいと主が言うので、厚意に甘えた。
 雑貨屋を出ると、ブラウはこっちとSpicaを促す。
 散歩するようにぐるっと回り戻ってハンターオフィスに近いところにブラウはSpicaを案内する。
「こっちよ」
 ブラウが見せてくれたものにSpicaの目が見開かれる。
「神霊樹よ」
「……すごく、大きい……」
 建物の中庭に聳え立つ神霊樹は神々しく、美しかった。
 新霊樹の周囲に何かが動いているようだ。
「動く、キノコ……」
「あれはパルムよ」
 じっと凝視するSpicaにブラウが説明をする。
 凝視されていたことに気づいたのか、パルムはSpicaとブラウに手を振る。
 なんだか可愛らしいパルムを見ていると、「見つけた」と声をかけられて二人は声の方向を向くと、先ほどハンターオフィスで話をした受付嬢。
「転移計画の話は聞いた?」
「聞いたことあるけど、それは保証が出来ないと聞いたわ」
 受付嬢の話に心当たりがあるブラウが言えば、Spicaはじっと二人の様子を窺う。
 二人が話した転移実験の話を口にする。
 これは他のハンター達にも公言していることであり、Spicaが歪虚でないなら言っても差し支えないと判断して話してくれたようだった。
「先ほど、ブラウさんが言った通り、この移転計画は完全なものとは言えない。危険を覚悟できる?」
 どうなるかわからないが、今はそれに賭けるしかないとSpicaは心を決める。


 そして、Spicaは転移実験に便乗した。
「……ありがとう……ブラウ……」
 Spicaが礼を言うと、ブラウはそっと微笑み、「よかったらどうぞ」と先ほど渡した菓子を袋ごと渡す。
「また、いつか」
 軽く手を振ったブラウは踵を返していつもの日常へと戻る。


 学園側の方でSpicaを探しており、転移の時にこちらの方へ転じるようにした。
 恋人や友人に心配されたSpicaの手には貰い物の焼き菓子が確かにあった。
「……また……どこかで」
 そうSpicaは呟いた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8786/Spica=Virgia=Azlight/女/17/久遠のお嬢さん】
【ka4809/ブラウ/女性/11/赤のお姉さん…?】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。
楽しくて、最後は文字数との戦いでした。
またどこかで。
■イベントシチュエーションノベル■ -
鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年11月17日

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