▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『HAPPY Birthday ―My Teacher― 』
パトリシア=K=ポラリスka5996


 年に1度の誰にでも訪れる特別な日。
 この世に生まれてくれてありがとう。
 この世に生んでくれてありがとう。
 そう囁きながら、次の年まで幸せであるように願う。
 大人も子供も平等に祝って祝われる日。それが誕生日――

   ***

 10月1日。それは・J・(ka3142)の誕生日だ。
 秋晴れの気持ちのいい午後、この誕生日を祝うべく彼女の部屋へと足を運ぶ者があった。
「ししょー、おたんじょう日、おめでとーダヨ♪」
 大きく部屋の扉をノックして叫ぶ。
 通算何回目の誕生日なのかは知らされていないが、Jの誕生日であることは確認済みなので間違いない。
 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は今か今かと部屋の扉が開かれるのを待った。
「……パティ、来訪するときは扉が開いてから声をかけるように何度も言っているかと」
 ため息交じりに開かれた扉から顔を覗かせるJ。
 彼女は少し呆れた表情でパトリシアを見ると、やれやれと言った様子で苦笑を浮かべた。その顔に陽のような顔に陰りが差す。
「ふへへ、ごめんダヨー。でも、早く言いたカッタんダヨ……ししょー、たんじょう日であってるカナ?」
 まるで野良猫か野良犬のようだと思う。
 きっと尻尾や耳があったら項垂れているに違いない。
 そんなことを考えて苦笑を深めたJは、大きく扉を開けると中へ促した。
「祝辞ありがとうございます。今日であっていますよ。さあ、中へどうぞ」
「ふあっ! ししょーのお部屋ダ!」
 一瞬にして元気を取り戻したパトリシアが部屋に飛び込む。
 彼女は快活で可愛らしい少女だ。
 しかも目標は『友達100人』。
 大袈裟のようにも思える目標だが、これはリアルブルーにいた頃から掲げているもので、実際着実に友達を増やしている。きっと転移している状況すらも味方につけて、彼女ならば近い内にこの目標を達成してしまうだろう。
 そんなことを思いながら扉を閉めると、そわそわとした様子でパトリシアが言った。
「パティは、ししょーの喜ぶことがしたいんダヨ。ししょーハ、ナニして欲しイカナ?」
「何か案があったのではないのですか?」
「んー、イロイロ考えたケド、一番はししょーが欲しイものカナ、って」
 なるほど。確かに欲しくないものをもらうよりは、欲しいものをもらった方が良い。
 勿論、気持ちのこもったプレゼントならどんなものでも嬉しい。
 そもそもだが、こうしてお祝いを言いに来てくれただけでも嬉しい。なのでJの欲しいものはもうもらっているという事になる。
「私は特に――」
「なにもナイ、はナシダヨ」
「……」
 まさか先の言葉を読まれているとは意外だった。
 今まで見た事のない技術に感心すると同時にある事が思い浮かぶ。
「……それでは一緒に料理をしましょう」
「にゃにゃ?」
 予想外の提案だったのだろう。
 不思議そうに首を傾げる姿に畳みかける。
「一緒に料理をしてお祝いしましょう」
「い、いいのダヨ! ししょーと一緒に料理できるの嬉しイ!」
 笑顔で無邪気にJへ抱き着くパトリシア。
 こうしてJを祝うための、ちょっぴりかわったお誕生日が始まった。

   ***

「ではまずは料理の方向性を決めましょう」
「方向性?」
 そうです。そう人差し指を上げたJはいくつかのプランを提示していく。
 1つ目はチキンやサンドウィッチなどの洋風料理。
 もう1つは点心や麻婆豆腐などの中華料理。
 そして残る1つは巻き寿司やから揚げなどを添えた和風料理。
「洋風であればケーキが栄えるでしょうし、中華であれば饅頭といった菓子が妥当になるでしょう。日本料理に関しては餅がありますね」
 つらつらと語るJにパトリシアは感心しきりだ。
 そもそもここまで綿密に何かを考える必要性を彼女は感じていなかった。
 Jと一緒に居られて、一緒に何かが出来る。それだけでパトリシアは嬉しい。
 だが当のJは違う。
「今回は夕方までに料理を終えるべきだと思いますので、それまでに作れるものを選ぶのが妥当です。パティはどれが良いと思いますか?」
「ぷえー……ししょーハ、ナニが好きカナ?」
「私の好みで言えば食べやすいものですが、作業工程を考えると洋風でしょうか。中華は簡単なように見えて奥深く、手間をかけるだけ美味しく仕上がりますし、和風料理は技術が必要になります。その点、洋風は多少失敗したところで修正も可能ですし、こちらでも入手しやすい食材が多いです」
 言いながら料理本を取り出してはパトリシアの前に置いていく。
 その仕草につられて本へ視線を落としたパトリシアは、ある本に気付いて手を伸ばした。
「どうかしましたか?」
「ふへへ、コレが良い、カナ♪」
 表紙を何度かめくった痕跡のある本はお菓子作りのものだ。
 見た感じ年季が入っており、色々な人に読まれた後でここに来たものと推測される。
「わかりました。ではケーキを主体とした洋風料理にしましょう」
 そうと決まれば次は主体となる料理だ。
「えっと、まずは材料……ダヨネ?」
「確かに材料も大事ですが調理方法の確認をして道具を確保する事も重要です。時間は限られた『資材』。これを上手く活用するためには事前の確認と話し合いが重要です」
「限られた資材……確認と話し合い……むぅ?」
 あれ? とパトリシアの首が傾げられた。
 Jは普段から知性的な話し方をするのだが、今日はいつも以上に頭を使う話し方をしている。しかもそれはパトリシアに言い聞かせるような、そんな印象すらする話し方だ。
 しかもここまでの話し合いの流れは何かに似ているような……。
「パティ、どうかしましたか?」
「あふっ!? う、うん、なんでもナイのダヨ! それよりも、ししょー。ここにある材料でししょーの家にナイものを教えて欲しイカナ」
「わかりました。ではまずは――」
 次々と提示される材料を自前の手帳に手早く書き込む。
 その行程中に疑問に思ったことは勿論質問するし、わからないところは素直にわからないと言った。それが功を制したのだろう、わずかな時間で外出する準備が整った。
「パティは、食材を買いニ!」
「私は調理器具の調達へ行ってきます。くれぐれも目的を忘れないように」
「わかってルー♪」
 では行ってきます! そう元気に飛び出したパトリシアに安堵の息が漏れる。
「きっともう、気付いていますね」
 これは料理を作るという目標を依頼になぞられた修行だ。
 料理の方向性決め、材料と調理器具の確認をした上で作業工程を話し合うのが依頼の相談部分にあたる。
 今は材料を集めて本番に向けて準備をしている段階だ。
「さあ、私も必要なものを買ってきてしまいましょう。教えている私が遅れる訳にはいきませんもの」
 クスリ。そう笑ってJもまた街へと繰り出していった。

   ***

 材料がひと揃いするとあとは料理本番となるのだが、ここで新たな確認が入った。
「パティは何が得意ですか?」
「ふぁー……混ぜル、カナ? あと、切ルのもいけるのダヨ!」
「なるほど。ではパティには下ごしらえをお願いします。まずはケーキの生地を作るためにタネを作らなければいけません」
「タネ?」
「粉や水、卵などを混ぜて作るものをタネと言います。生地はヘラでさっくりと切るように混ぜてください。その間に私は次の行程で必要な材料を計りますね」
 本を見せながら計量をするJに「ふむふむ」と頷く。
 やはり彼女ももう気付いているようだ。
 この料理作りが『依頼を準えている』ことに。
 能力に応じて振り分けられる作業と、それに合わせて割り振られる道具。道具は武具に変換しても同じことが言える。
 武具には質の他に固有の特性があり、特性は使う者の能力や場に合わせて使い分けるべきだ。
 また使い分ける方法は自身が持っている知識が重要視されるのも同じで、能力や武具を使うためのノウハウは、その道具を使って調理するノウハウにも繋がる。
 何をどう使い、どう利用するのか。それは道具の使い方や能力を理解していないとダメだということだ。
「ししょー、おいしそーに焼きあがったのダヨ!」
 部屋に充満する美味しそうな香り。それを胸いっぱいに吸い込んで笑顔を零すパトリシアは、焼きあがったケーキに乗せる果物を切り終わったばかりだ。
「ではクリームを塗りますね」
 手際よく綺麗に塗られるクリームを見詰めていたパトリシアが「あ!」と声を上げた。
 そうしてポケットから何かを取り出すと、クリームの塗り終わったケーキの上に果物と乗せた。
「ふへへー♪ たんじょう日、おめでとーダヨ♪」
 ケーキの上に乗せられたのはベームプレートだ。
 チョコレートで出来たそれはパトリシアの手書きで「はっぴーばーすでーししょー」と書かれている。
 少し読み辛いのは愛嬌だがいつの間に用意したのか。
「依頼主の気持ちを考えるのも、依頼では重要なんダヨ♪ ししょーが喜んでくれたら、嬉しいナ♪」
 そう言って笑ったパトリシアに「やはり」と思う。
「気付いていたのですね。では話が早いです」
「ぷへ?」
「依頼の最中に報告になかった行動をする事への危険性を説くべきでしょう」
「ふえ、ふえ?! ふぇーー……??!?!?」
 切々と説かれる注意事項に目がぐるぐると回りだす。
 そうして全てを説き終えると、Jは頭を抱えているパトリシアをそっと抱きしめた。
「ふへ?」
「……ありがとうございます。誕生日を祝ってくださったこと。そして出会ってくれたこと」
 そう囁き、Jはそっと微笑んだ。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ka5996 / パトリシア=K=ポラリス / 女 / 16 / 人間・符術師 】
【 ka3142 / ・J・ / 女 / 30 / 人間・機導師 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
■イベントシチュエーションノベル■ -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年11月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.