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『引き裂きの町 』
レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001)&榊 守aa0045hero001)&イリス・レイバルドaa0124)&狒村 緋十郎aa3678)&リーゼロッテ・シュヴェルトaa3678hero002


プロローグ

 血で濡れた暖簾で、遺体をくるみ、もう蘇らないことを願った。
 淡く桜色だった髪は今は乱れ、軽やかに喜怒哀楽を紡いでいた、可愛らしい唇はうめき声しか発さなくなった。
 そうなってしまった時点で、吸血鬼はその首に手を沿えたのだ。
 こんな姿、彼には見せられない。ならばせめて自分の手で。
 首を絞めつけながら何度も、何度も頭を叩きつけた。
 非力ではないはずの両腕には力が入らず、わななく喉に、張り裂けんばかりの胸を押さえつけ、必死に、必死に少女の首を絞め続けた。
 やがて、その死体がもがかなくなったことに気が付くと、吸血鬼はその手を解いた。
 軋む指関節。震える両手をその目に押し付けて『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001) 』は天井を見あげた。
 これで何人目だろう、親しい人を手にかけるのは。
 いや、親しい人などではない。
 彼女はもう、別の何かに替わってしまっていた。
『ありがとう』
 そんな声が耳元で聞こえた気がして、レミアは瞼を下ろす。
 数々の思い出を反芻しながら、夜に浮かぶ月を見た。
 空は何も変わらない、あの日、皆で見上げた夜空と何も変わらない。
 ただ、町が、人が、生活が変貌していた。
 滅んでしまった世界、いつの間にこうなっていたかはわからなかったが、ただこの世界に既視感を覚えながらも、自分はもう女王ではないのだということを、レミアは噛みしめた。
 せめて女王であったなら、こんな残酷な物語、一撃で終わらせられるのに。
(わたしと緋十郎の帰る場所。緋十郎がわたしに求婚してくれた場所。二人で一緒に過ごした場所。誰にも壊させない)
 そういくつ目になるか分からない墓穴をレミアは掘る。
 血と土の香りにまみれながらレミアは噛みしめるように言葉を吐く。
「だから、お願い。早く帰ってきて。緋十郎」
 自分が狂ってしまわないうちに早く。そう、願って。

   *   *

「また、この世界ですか」
『イリス・レイバルド(aa0124) 』は尻尾を揺らめかせながらその時を待っていた。カラスの片羽は夜露に湿り片方しかない眼で闇を見つめる。
 もし万が一、奴らが現れた場合、逃げなければいけないだろう、片腕しかない少女では一体ならまだしも、集団で来られれば対処の手段はないからだ。
 だが、そう思うなら安全な場所に逃げればいい、そう誰しも思うだろう、だがそれもできなかった、目の前に横たわる。男性。
 お腹がちょっと破けて内臓が見えてはいるが、彼はこの世界で数少ない話が通じる人間で、その彼の目覚めを待たなければならないからだ。
「お姉ちゃん……」
 そんなイリスのつぶやきは闇に飲まれて消える、そしてその言葉が耳に届いて七日はしらないが『狒村 緋十郎(aa3678) 』が目を覚ました。
「ここは……」
 そう緋十郎は上半身だけを起こす、そして驚愕に目を見開いた。
「腹が裂けているのにそんなに痛くない」
「…………」
「だが、内臓を触ると痛い、不思議な気分だ」
「…………あの」
 イリスが緋十郎に声をかける。
「ああ、イリスさん。どうしたんだこんなところで、というより、なぜ俺はこんなところにいるのかな?」
 そう問いかけるも、よそよそしい雰囲気のイリス、人見知り発動中である。
「……ここは、死人の世界です」
「噂のバッドエンドステイシーズか、どれだけ痛覚を刺激されても死なない世界らしいな!」
 緋十郎は楽しげにそう言った。
「いえ、あの、それは」
 イリスは額を抱えた、一からきちんと説明しなければならない。
 そのことに気を重たくしながら口を開こうとしたその直後である。
 イリスの耳がぴんと動いた。
「くる……」
「む、いったい何がだろうか」
 だがその問いかけに答えてくれたのは無数のうめき声。
「死者か……」
 緋十郎は闇の向こうに蠢く無数の気配を感じて、幻想蝶を取り出した。
「レミア、出番だ。ん? レミア?」
 目覚めた時にそばにいないのでてっきり幻想蝶内部にいると思っていたが違うらしい。
 幻想蝶から彼女の思いが感じられない、いつも寄り添ってくれているような温かさ、それが全く感じられなかった。
「な、なぜ……」
「来ますよ!」
 動揺を隠しきれない緋十郎、だがこの場を切り抜けなければレミアを探すこともでいない。
 それならばと、幻想蝶から彼女の愛剣を召喚する。
 万人の血で鍛えられた呪いの剣。《闇夜の血華》を取り出す、しかし共鳴していなければ、ただの剣。このゾンビたちにダメージを与えられるだろうか。
 そうこうしている間に、その輪郭すらわかる距離に死者が迫る。
 その体は腐敗し、カビが生え、さらにはところどころ溶け堕ちている、人形をしているというだけで生前人間だったとは考えられないほどだ。
「く、イリスさんは下がっているんだ」 
「戦っても無駄ですよ、その人たちは死ぬことはないですから、だから逃げましょう」
 どことなくつかれた様子でイリスは告げる。
「だが、逃げるにしても突破口を開かに事には……」
 その時だった、緋十郎の握る剣、それから赤い霊力があふれ出す。
「いったい、何が……」
 その霊力は漂うと一人の少女の姿を成した、黒曜を思わせる長い黒髪、爛々と輝く赤い瞳、滑らかな肌は冬季のように白く、華奢な体躯なのにもかかわらずある種の凄みを感じさせる。
 そんな少女が振り返り、緋十郎の姿を見あげた。
「君……」
「私はリーゼロッテ・シュヴェルト、始祖さまはどこ? 腐れ猿」
『リーゼロッテ・シュヴェルト(aa3678hero002) 』と名乗る少女は緋十郎を見あげて罵倒を浴びせた。
「お前一人でいたって、ごみのように排斥されるだけなんだから、きっと始祖さまがちゃんと手綱を握っているはず。え? もしかして始祖様とはぐれた? 愚図ね、始祖様の肉盾になることこそ猿の存在理由であり、唯一の生きる楽しみでしょ? なのにそれすら全うできないなんて、腐っててちょうどいいからそこら辺の草木の養分になってきなさい、ううん、むしろリーゼがしてあげるわ」
「……昔のレミアのようだ」
「始祖様呼び捨てにすんな、くさいぞ、猿」
「そんなこと言ってる場合じゃないですって、来ますよ」
 イリスが注意を促すと、ちょうど緋十郎に死者が掴みかかってくるところだった。
 だがそれを緋十郎は難なくよけ、リーゼロッテに視線を落とす。
「なんでもいい、君は英雄だな、共鳴できるか?」
「は? くさい息かけんな、死ね」
「む、すまない」
「あと、腐った猿と共鳴なんて、できるわけがない、生理的に無理」
「たぶん、一般の兵器でもいけますよ」
 イリスが興味なさ気に言った、その視線は夜空の月を捉えている。
「く、ならば」
 緋十郎は脚力にまかせ飛んだ。
 一人の死者を巻き込むように剣で吹き飛ばし、そして全員が逃げられる突破口を作った。
 命からがら逃走する一行。
 走りながら緋十郎はイリスに詳しい状況説明を求めた。
「この世界に紛れ込んだのは俺たちだけなのか?」
「いえ違います、他のリンカーの皆さんも一緒です」
「まずは合流を目指したほうがいいか」
「それはたぶん、難しいでしょう」
「それは、なぜだ」
「それに答える前に聞かせてください、緋村さんはどこまで覚えていて、どこまで知っています?」
「それはいったいっ、どういう意味だろうか」
 緋十郎は視覚から襲いくる死者をバッサリと切り倒し、先へとすすむ。
「それは……」
 言葉に詰まるイリス。
 イリスは今までの緋十郎の態度でとっくに察していたのだ。
 彼は何も知らない、何も覚えていない。
(なんで、僕だけが……)
 イリスの瞳が陰りを帯びる、耳が少したれた。
「なぁ、あそこにいるのは。榊じゃないか?」
 灰色の町に溶け込めていない迷彩服、天を仰ぎ銃を投げ捨て、一人佇む男の姿があった。
 そしてその姿遠目でもわかる。『榊 守(aa0045hero001) 』の後ろ姿だ
「榊!」
 そう手を振りながら近づこうとしたところを、イリスが止める。
「待ってください」
「なぜだ?」
 緋十郎が問いかける。
「たぶん……」
 そしてイリスは告げる、残酷な真実の一端を。
「狂ってます」
 その時銃声が響き、緋十郎の足元、灰色のコンクリートが穿たれた。
 見れば榊が拳銃をろくに照準もつけずに発砲したことがわかる。
 驚愕に緋十郎は目を見開いた。
「緋十郎か、そんな姿になっちまって。今楽にしてやるからな」
「話を聞け、榊、俺は……」
 同時に、銃声を聞きつけてきたのか、周囲から亡者の悲鳴が聞こえた。
 それに素早く対押したのは榊。
 アサルトライフルを腰だめで連射すると、瓦礫に隠れていた死者、壁の背に隠れていた死者、歩き無防備に近づく死者を片っ端から打ち殺していく。
 そして、最後に。
 銃にプラスパーツとして備わっていたグレネードを緋十郎に打ち込む榊。
 彼が銃を乱射している光景に目を奪われ、反応が遅れた緋十郎、それを守ったのはイリスの盾だった。
「榊……」
「無駄ですよ」
 イリスは告げた。
「精神が壊れてるんです、もう正常な判断はできません、それどころか」
 イリスは思い出す。金糸の妖精のその後ろ姿、その瞳の冷ややかな温度。
 いつも自分の名前を優しく呼んでくれたその声は遠く。まるで氷のような機械的なトーンでイリスに告げる。
『君はだれだ』
「もう、記憶も残っているか怪しいです」
「な……」
 緋十郎は驚きに言葉を飲む。
「僕たちは何度も作り直されていますから、精神的には生前と変わらないようにいられます、けれど、幻想蝶から出されて、この世界を彷徨う英雄たちは」
 その時イリスが感じた足元が崩れ去るような絶望感、それを緋十郎に味わわせるのがつらかった。
 それでも言わなければ、彼はこの後もっと絶望するだろう。それを防ぐためには今、言うしかなかった。
「全員殺してやる! さぁ出てこいよ!」
 榊が高々と宣言した、そして緋十郎に銃を向ける。
「俺は許せない、俺の大切な物を奪ったすべてがな。だが俺は同じことをしてる、戦争だからという理由で、沢山の命をうばってる? いや、違うな、戦争だからじゃない、俺は俺がそうしたいから引き金を引いてるんだ。だったら。俺はなんだ。俺はなぜ引き金を引き続けてる?」
 そう告げて榊は緋十郎へとグレネードを放る、それを緋十郎は大剣で弾き。
「おい! 猿。リーゼを盾みたいに使うな。殺すぞ!」
 そして緋十郎は榊に歩み寄る。
「違う、あんたはもう苦しまなくていいんだ。帰るんだ、あの子のところに」
 そう緋十郎は銃弾が体を貫通するのに構わず榊へと歩み寄る。
 だがその行いの無意味さをイリスは説いた。
「もうだめですよ、何千年の時を過ごしたのでしょうか、たった一人で、この罪悪感を刺激し続ける町で」
 イリスの言葉の意味が緋十郎には理解できなかった。その直後、榊は銃を捨て緋十郎めがけて蹴りを放つ。
 その威力はすさまじく、吹き飛ばされ、家屋の中に突っ込んだが。
 そこで緋十郎は信じられないものを見てしまった、それは。
「触るな!!」
 榊の怒号が飛ぶ。
「俺の娘に触るな」 
 そして榊は壁に開いた穴を潜って緋十郎に歩み寄り、拳銃を緋十郎の額に押し付けた。
「この子は」
 信じられない思いだった。
「あんたの娘じゃない!」
 緋十郎も叫ぶ、そこに横たわっている少女が可哀そうだったから。
「ああ、わかってる。だが俺はどちらも、護れなかった」
 榊は銃を取り落した。まるで懺悔するようにうなだれる榊。
「俺は単なる人殺しだ」
「榊、これはゲームの世界の話、だろう?」
 緋十郎は榊に問いかけた、しかし、それを否定したのはイリス。
「違います、これは現実です」
「なに……」
「これは、終わってしまった世界の話なんです」
 その時である。廃墟を取り囲むようにうめき声が聞こえた、それだけではない、壁を破壊して斧を持った大男が緋十郎の前に立ちふさがる。
 その男には見覚えがある気がした。
「榊、手伝ってほしい、ここでうずくまっていても死ぬだけだ」
 緋十郎は波のように押し寄せる死者を押しとどめながら榊に告げる。
「一人では無理だ、手を貸してくれ、死にたいのか」
「それもいいかもしれない」
 榊は銃を投げ捨てた、もとより弾倉に弾はない。
「あの子のもとにいくつもりか?」
「死んでも同じ所には行けないさ、俺は人を殺しすぎた」
「ここで死ねば、楽になれますよ?」
 そうイリスは翼をはためかせて告げた、緋十郎へ甘言を、諦めてしまえば楽になると。
 だが、それでもだ。この世界の残酷さを知ったからといって、諦めるわけにはいかない。
「きいただろうか、リーゼロッテ」
「ええ、猿。全て……」
「レミアが心配だ」
「それには同意する」
「力を貸してもらうにはどうしたらいい?」
「いろいろ言いたいことがありすぎて、生まれ直した方が早いくらいだけど、今は特別に条件一つだけで許してあげる」
 緋十郎はその言葉に黙って頷き、先を促した。
「誓約だ、“おまえの全てを始祖様に捧げろ”」
 そう心底楽しそうな笑みを浮かべながら、リーゼロッテは緋十郎に告げた。
 緋十郎は死者に押され、足を滑らせながらも、その言葉に答えて見せる。
「それは、元よりそのつもりだ。いまさら過ぎるな」
 その瞬間、血が噴出したようにあたりを霊力が満たした、それは一つの結界となり、死人たちを押しのける、それと同時に緋十郎は自分の肉体が変革されていくのを感じた。
 レミアと共鳴した時とは違う、まるで自身が武器となってしまったかのような。
「あははははははははは、殺せ! 血を捧げろ!」
 そうして生まれた幻想蝶を、大剣の柄にはめ込んで、そして緋十郎は咆哮を上げた。
 暴力の旋風で、腐った死体たちを撃ち滅ぼしていく。
 その中に、かつて肩を並べ戦ったもの達がいるとも知らずに。
「これで、ぜんぶか……」
 そう、肩で息をしながら緋十郎はあたりを見渡した。
 ここいら一帯のゾンビたちは全て倒してしまったようだ。
 倒したと言っても、活動不能レベルにバラバラに下だけで、手首や足など散らばった人体パーツは蠢いている。
「皆はどうする?」
 緋十郎が問いかける。
「俺はここにいる、天使が迎えにきた」
 そう榊は告げ。
「僕は、せっかくだからお姉ちゃんのところに行きます」
 そう告げて緋十郎に背を向ける。
「レミアと合流したら、きっと迎えに来る、その時まで、待っていてくれ」
 そう、緋十郎は死に満ちた町を突っ切り、旅館の方角を目指した。

「やっぱりお姉ちゃんのそばにいたいよ」
 イリスは腐蝕進む森へと目を向ける。
「僕一人じゃ他の死者に殺される可能性が高いけど、でもずっとそばにいるよ」
 たとえもうその瞳がイリスを映すことなくとも

   *   *
 
 旅館はの周囲には死体で塀が気付かれていた、その腐った肉の香りが、さらに別の死兵を呼び、それがまた兵を高くする材料になる。
 繰り返し繰り返しレミアは殺していた。
 死んだものを殺し直す、それは今までやったことが無い経験で、出所のわからない嫌悪感が胸にこびりついてた。
「もしかしたら、私もこいつらと同じなのかもね」 
 死んで生き返って、人ならざる者になり、動き回る。
 一体かれらと自分は何が違うのか。
 知性か、罪の数か。それとも。
「もう、何もわからなくなってきたわ。私は一体誰を待っていたのかしら」
 そう血の海に沈むレミア、彼女の食料は血だが、それを飲む気には到底なれなかった。
 それ故に弱り、衰弱し。おそらく、眼前に迫る次の群は抑えられないだろう。
 そんな思いがあった。
「緋十郎……」
 そう、諦めと共に瞼を下ろすレミア。その頬を涙が伝った。
 その時である。 

「化物を斬り刻むのは楽しいの。さあ猿、リーゼを存分に振るえ。敵の血を吸わせろ」

 ゾンビの壁を蹴散らして一人の男がこちらに向かってくるではないか。
 それがレミアには一目でわかった。
 緋十郎だ。
「やっと来た、遅すぎるわ……」
 そうレミアは立ち上がり、緋十郎の元へ歩み寄る。
 緋十郎もすぐにそれに気がついた。
「おお! レミア! よかった無事で」
「ええ、そうね、緋十郎、歯を食いしばりなさい」
 突如抜き手、レミアの爪が薄いお腹の皮を破り内臓にまで達した。
「あら……。そんなに力を入れてないのに、おかしいわね」
「ぐおおおお、熱い、再会の挨拶感謝する」
「そんなことより」
 レミアはいつの間にか周囲を取り囲む死者たちに目を向けた。
「ここをどうにかする方が先ね」
 そう告げると緋十郎は頷いた。
 共鳴。
 レミアは久しぶりのその感覚を味わい幸福に酔いしれる。
 終わってしまった世界でも大切なものはあった。
 そうレミアは微笑み、そして爪を振るう。

エピローグ

「お姉ちゃん」
 そうイリスは、森の中に金色の光を見つけた、その動きを追うために樹の枝から枝に飛び移る。
「お姉ちゃんは長い時を戦っていたって言ってたよね」
 そう言うと妖精は振り返る、しかしすぐに視線を前に戻して歩みを進めた。
「もう、記憶も感覚もなくなって、それでも守るためにずっと戦っていたって」
 イリスはそんな背中から置いて行かれないように懸命に走る。 
「でも、それって寂しかったよね」
 イリスは朽ち果てた世界で輝く者を見た、その眩しいくらいの気高さと頼もしさの中に、少しの寂しさを感じた気がして。
 ずっと彼女と一緒にいようと決めた。
 守護の意思だけはなくさない、そんな妖精の歌と舞をただただ眺めていた。

   *   *

 眠るの榊を膝にのせて、少女は一人空を見上げた。
 自分の相反する感情、それですり減った彼の心をどう癒すべきか考えて。
 夜は深みを増していく、そして朝が来ないことを少女は知っていた。
 また世界の終わりが始まる、終わるところから始まる。
 何一つ守ることはできない。こんな世界を恨みながら。

   *   *

「泣いてなんてないわ!」
 破けかけていたお腹を引き裂いて、デロリと垂れた内臓を踏みつける。
 そのやり取りに安心と激痛を覚え、身悶える緋十郎
「こ、これはなかなか生きていた時には味わえなかった」
 そんな緋十郎のゾウモツを握りしめながら、レミアは視線を伏せた。
「でも、来てくれるって信じていたわ」
 そう告げるレミアを緋十郎は抱きしめる。
 だがレミアはこの幸せがあと数分も続かないことを知っていた。
 イリスは音で聞いた、この世界のループの音を。
 
   *   *

「ああ、また絶望が始まるんですね」


 イリスが月を見あげながら、そうつぶやいた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『狒村 緋十郎(aa3678) 』
『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001) 』
『榊 守(aa0045hero001) 』
『イリス・レイバルド(aa0124) 』
『リーゼロッテ・シュヴェルト(aa3678hero002) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも皆様にはお世話になっております。
 鳴海でございます。
 今回はIFノベル、しかも『終わってしまった世界の話』が題材ということでダークな救いのない感じにしてみました。
 …………前のIFノベルもそんな感じだったかもしれません。
 しかも今回はTTRPG世界というわけでは無く、現実に起こったことという設定です。
 なぜこうなってしまったのか、この真実にたどり着くまでに緋十郎さん以外のPCはどうなってしまったのか、想像余地があるように作ってみましたがいかがでしたでしょう。
 そして、また後味が悪いものが読みたくなりましたら、ぜひ鳴海にお声掛けいただければ幸いです。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年11月17日

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