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『Season2 第五話  エンゲージ 』
御門 鈴音aa0175)&朔夜aa0175hero002




 H.O.P.E.支部内裁判所。この組織にも犯してはならない法はある、しかしそれを即座に破ったからと言って罪人いなるわけでは無い。
 本当に捌かれるべき罪はあるのか、それを大勢の前で確認するというプロセスが必要なのだ。
 それは『朔夜(aa0175hero002) 』も理解していた。そしてそれが形式上だけのものだというのも。
(あの子を殺した人間の法というものが正しいはずがないわ)
 そう朔夜は自分を見つめる千の眼を睨みつける。 
 そんな朔夜を守るように『御門 鈴音(aa0175) 』が一歩前に出る。
「心配ないわ」
 そう微笑む鈴音、罰が悪くなり朔夜はその表情から視線を下ろした。
「この子の力は、きっと役に立ちます」
 鈴音は陪審員にそう告げた。
「ちょっとしたすれ違いなんです。過ちを犯したら償う機会を与えられるのが普通でしょう?」
「だがその娘は何人の人間を殺したと思っている。一人殺せば何十人もの人間が人生を狂わせる。その娘が何百の幸せを奪ったと思っている?」
 そう朔夜の罪を全て暴き出した男が告げた。彼はいわゆる検事側なのだろう。
「でも、ここで終わってしまっては、朔夜が、かわいそうです」
「いいのよ鈴音。私はもう」
 そう朔夜は鈴音の袖を引いた。
「私は消えていいわ」
「だめよ!」
 鈴音が首を振ったが、それに朔夜は満足げな表情で返した。
 朔夜はこの世界にもう未練はない。そう思っていた。朔夜はは失ってしまった意味を見つけたから。

第一章 流れ着いた淵

 それは朔夜と鈴音の戦いに決着がついた日までさかのぼる。
 朔夜は最後の一撃をもらった後、とっさに海へとのがれた。深い傷を抑え、体を引きずってなんとか陸地に上がったはいいが、ここがどこだかわからない。
 しかも、霊力も心もとなく、消える以外に選択肢はないように思えた。
「なんなの? ここ」
 朔夜は寂れた港町を闊歩する、道行く人はなく、それだけはありがたかったが、まるで死者の国にでも来てしまったような閑散さだった。
「少なくとも、私達の世界はもっと賑やかだったけどね」
 そう皮肉りながらも、薄らいでいく体に焦りを覚えずにはいられなかった。
「私。消えるの? こんなところで、こんな風に?」
 そう朔夜はとある大きな施設にたどり着いた。肩で押しのけるように観音開きの扉を開けると、その光景の美しさに息をのんだ。
 その施設は教会だったのだ。色とりどりの意ステンドグラス、そこから降り注ぐ光、そして天使の象。静謐な空間がそこにあった。
「皮肉なものね」
 そう朔夜は自嘲気味に笑い。長椅子に体を預け天井を見あげた。
「あの子は最後まで神の存在を信じていたっけ」
 そう朔夜は思い返す、あの聖女と呼ばれた普通の女の子を。
「私は悪魔だというのにね」
 そして朔夜は深いまどろみの中に、身を沈めて言った。
 
    *   *
 
 朔夜は夢を見ていた。今までの人生を振り返るような夢。
 あるいはこれを走馬灯と呼ぶのかもしれない。
 だから目覚める時はきっと来ない。
 そう思っていたのに。朔夜は目覚めた。
 突きのない冷たい夜に、たった一人……
 ではない。傍らに少女。異常に白い肌と青い瞳のか弱そうな少女。
 この時朔夜は初めて『天城夢子(NPC)』に出会ったのだ。
「お水飲む?」
 そう夢子はコップを差し出すと、朔夜は受け取り飲み干した。
「あなた、だれ?」
「傷はどう天使様」
 会話が成立しないことに朔夜はストレスを感じながら体を見ると包帯が巻かれている。
「あなたが手当てしてくれたの?」
「うん、そう言うの私得意だから」
 そう夢子は救急セットを掲げて微笑んで見せた。
「私、天城夢子。天使様のお名前は?」
「私を天使だとおもっているの?」
 そう言うと夢子は満面の笑みを浮かべた。
「知ってるよ、私を迎えにきてくれたんでしょう? 天使様」
(狂ってるわね)
 そう朔夜は思いつつも、その屈託のない笑みが誰か似ている気がして、違うと言いそびれてしまう。
 そして朔夜はその日から、朔夜を天使と呼び慕う少女のもとで暮らすことになる。
 寝泊まりは夢子の診療所。
 この教会の隣にたてられており、夢子の世界は教会と診療所で全てだった。
 幸いにして診療所の看護師や医者達は夢子にあまり興味がなかったようで朔夜が見つかることはなかった
「ドール病?」
「俗称だけどね。体の細胞が徐々にカルシウムに置き換わっていくの」
 夢子は特に感情も含めずそう言ってのけた。
「どんどん無機物になっていくのよ」
 たんぱく質がカルシウムに置き換わっていく。心臓も、肺も、筋肉も。この愛くるしい表情すら。
「どんどん生き物でなくなっていくの」
 朔夜はその独白を黙って聞くしかなかった。
 それはとある人の夕暮れ、窓から差し込む痛いくらいの茜色が二人を同じ色に染め上げた。
「面白いのはね死んでからも置き換わっていくの、放置してると私は完全なお人形になるのよ」
「それは素敵じゃない、女の子として一番美しい姿のままこの世界にとどまれるなんて一つの理想だわ」
 そう朔夜が告げると、夢子は小さく笑った。
「天使様が私を連れて行ってくれるのよね」
「何度も言うようだけど、私は……」
「最初に見た時思ったの、私をこの世界から連れ出してくれる天使様が、やっと私の物に来てくれたんだって」
「私は魂を食べる悪魔よ。あんたのその弱い魂じゃ一発であの世行きよ」
 そう朔夜ははき捨てるように告げる。
「それにあなたがいきなり消えたら、悲しむ人もいるんじゃないの?」
「私がいなくなっても気がつかないわ」
 夢子はさみしそうに告げた。
「だってお父さんもお母さんも、お見舞いになんて来てくれないもの」
(……わかるわよ、私もその悲しさ)
 誰も、自分を見てくれない、唯一の肉親、姉ですらも。
 その孤独という名の寂しさを朔夜は知っている。
「だからもう、顔も忘れてしまったわ」
 そう告げると朔夜はお人形遊びをしましょう、なんて言って。笑みを作って見せた。


第二章 賛歌

 朔夜は夜に目を覚ます、夜行性なのでいつも遅い時間に目を覚ますが。
 今回は違う、夜も浅い十一時に不吉な気配で目が覚めた。これは。
「霊力の気配」
 しかもよく知っている匂いをしている。
 あれはそう、朔夜が利用し、朔夜を利用してきたあの組織の。
「夢子、起きなさい。逃げるわよ」
 その次の瞬間である。窓を破って硬質な蔦のようなものが何本も朔夜に伸びてきた。
「く……」
 歯噛みしながら朔夜はそれを避けるが、その判断は間違っていた。
「夢子!」
 その蔦は夢子を絡み取り、その体を吊し上げた。
「な、なに、天使様。たすけ」
 次の瞬間夢子は建物内部から引きずり出された。
 見れば教会の上に銀色の花が咲いている。
「ここら一体の人間や土地から霊力を吸っているのね」
 そう判断すると朔夜はその手に槍を作り出そうと掲げて見せる、しかし、無情にも朔夜に戦う力は残っていなかった。
「そんな……、だったらどうすれば」
 その時だった。まるで心の奥の何かがはじかれたように、鈴音の顔が自然と頭に浮かんだ朔夜。
「いるの? この町に」
 朔夜は走り出した、自分の直感を頼りに、自分が打ち上げられた浜辺まで走る。
 夜の闇を汗を浮かべて走る少女。
「ばかみたい……」
 朔夜は自分を笑う。あれだけ沢山の命が消えていくのを黙って見過ごしたのに。
 あれだけ沢山の命を自ら奪ってきたのに。なのに今。一人の少女が消えることは耐えられない。
「私もあなたに当てられたのかもね、鈴音!」
 そう朔夜が叫ぶと、星明りに照らされた海辺、そこに鈴音が佇んでいるのが見えた。
 そのそばに姉はいない、大方疲れて幻想蝶の中で眠っているんだろう。
 それは好都合だった。
「朔夜!」
 鈴音は朔夜に駆け寄ったそして、朔夜を抱きしめる。
「生きてたのね、よかった」
「離して! 暑苦しいわ」
 朔夜はそう鈴音を退かすと、再会に喜ぶ鈴音など無視して告げる。
「鈴音、あなたの力を貸しなさい」
「どうしたの?」
「あの、あの子が」
 そう事のあらましを説明しようとした朔夜。
 しかし、朔夜の中で別の朔夜が口を出してきた。
 今まで苦しめられ続けてきた相手に、一体誰が力を貸すだろうと。
 その言葉のせいで、朔夜は輝夜の顔を見れなくなった。
「鈴音。私は今までのこと謝るつもりはないわ」
 朔夜は告げる拳を握りしめて。
「それに私はもう消える、けどね。その前にどうしてもやらないといけないことがあるのよ」
「やらないといけないこと?」
「とも……あの子が愚神につかまったわ、早く助け出さないと命が危ない」
 けど、と朔夜は思ってしまう、鈴音から大切なものを奪おうとした自分の大切なものを、この人が守ってくれるはずはない。そんな風に。
「取引しましょう鈴音。あなたがあの子を助けてくれたなら、私は素直にこの世界を去るわ。だからあの子を助けて」
「…………」
「それだけで不服なら、他にそうね、不本意だけどお姉さまに頭を下げたっていいわ」
「…………」
「あの子は、私とは関係ないの、私の命を助けたがために狙われてしまった、悲しい子なのよ」
 朔夜は語る。
「あの子もう少しで命が果てるって言ってたわ、けどまだやりたいことがたくさんあるのよ」

「あの子、両親の顔なんて忘れたって言ってたけど、そんなの嘘よ、あの子写真を枕の下に隠しているもの」

「本当は会いに行きたいの、両親に会って助けてって言いたいのよ。うん、本当はあの子は死にたくなんてないの。ただ単に誰かに手を差し伸べてほしかったのよ」

 朔夜はスカートのすそを握る手に力を込める。その手を涙が濡らした、誰の?
 自分の涙だ。
「だからお願い、私がこんなことを言うの変だと思うかもしれない、疑うかもしれない。私はそれだけのことをしてきたって自覚はある。でもお願い信じて」
 だって彼女は、自分に大切なことを思い出させてくれたから。
「私は、まだあの子の隣にいたいのよ」
 そう悲痛に滲んだ朔夜の声、それをかき消すように鈴音は朔夜の手を取った。
「案内して朔夜」
 朔夜は頷きその手を取って走り始めた。
「でもごめんなさい、今あの子はいないの」
「え! じゃあ、どうするのよ」
「朔夜と共鳴するしかない」
 朔夜はその時息をのんだ、確かに鈴音とは何か心のつながりのようなものを感じていたが、共鳴とは思い切ったものだった。
「私の力は魂を消費する……あなたは生命力が強いから寿命にして三日分というところかしら……。でもよく考えることね……人間の短い寿命の中で三日あれば何が出来るかを」
 そう朔夜は問いかけると。
「自分の三日で誰かの一生を救えるなら、私はそれでいい」
 そう即決する鈴音。
「私を信じてくれるの?」
 そう朔夜は告げ

「お姉ちゃん譲りのひねくれ具合だけど、朔夜のことは信じられるわ、だから」
 その言葉を聞いて朔夜は、祈るように目を閉じた。
(聖処女よ……貴女のような清らかさを持つ人間は滅びてはいないわ……)
 そして視界に例の銀色の花が見えた時、二人はその思いを重ねた。

「リンク……」
 
 朔夜の癒しの力、その本流が鈴音の体に宿っていく。その紙は銀糸に代わり、シスター風の衣装をまとう。
 武装は血から作り出した槍であり。その体を力強さが満たした。

エピローグ

 鈴音は、一連の事件全てを話し終えると、陪審員を見渡した。
「この子は心を入れ替えました。誤って償いきれる罪じゃないけど。私は彼女を信じたい」
 そう真っ直ぐに告げる鈴音の言葉。それに静まり返っていた場内に木槌の音が染み渡る。
「では、異例の処置をくだそう」
 そう告げると、入り口を警備していた二人のリンカーが朔夜の手を取った。
「離しなさい!」
 朔夜が叫び、鈴音が掴みかかった。
「頭に爆弾を埋め込むだけです」
「だけって……」
 鈴音は目を見開く。
「もし不穏な動きがあれば即座に爆破、幻想蝶に潜っていれば幻想蝶事、共鳴していれば、能力者ごと」
「ひどい、それが正義の味方のやることなの?」
「正義の味方にヴィランを交えようというのだ、それくらいは当然だ」
 そう別の陪審員から声が上がる。
「鈴音!」
「それがすめば、朔夜を許してくれるんですか?」
「ああ、そうだ」
 陪審員はにやりと笑う、だがその表情は鈴音から見えない。
「そんな、命を握られるなんて、朔夜!」
「わかったわ」
 しかし鈴音の叫びとは裏腹に、朔夜はにたりと笑い告げた。
「その条件飲むわ」
「朔夜、大丈夫。消えるわけじゃないわ」
 鈴音は言葉を飲み込んで、拳を下ろすしかなかった。
「全部終わったら夢子のお見舞いに連れて行って、お願いよ」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『朔夜(aa0175hero002) 』
『御門 鈴音(aa0175) 』
『天城夢子(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、鳴海です。
今回は朔夜さんとの共鳴回ということでかなり気合を入れて書かせていただきました。
今後、本編でどのような活躍をされるのか、楽しみで仕方ありません。
きっとお姉さんとは別に濃い動きをされるんでしょうね。
では、文字数が多くなってしまったので今日はこのくらいで、鳴海でした。
ありがとうございました。


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2016年11月17日

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