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『君達はいつまでも変わらず 』
矢野 古代jb1679)&青空・アルベールja0732)&亀山 淳紅ja2261)&ミハイル・エッカートjb0544)&華桜りりかjb6883

 リビングでパラリと、アルバムをめくる音。

 その日はまた久しぶりに1人の夜を迎える事となり、グラスを傾けながら『ちょっと前』の事を、しきりに眼鏡のズレを直す男は振り返っていた。画像はメモリーに残してはあるがやはり、わざわざプリントアウトして作った昔ながらのこういったアルバムの方が好きで、娘の思い出だけですでに何冊あるかわからない。

 もちろん、娘以外の写真もある。友人と呼べる連中を眺め、今とあまり変わらないなぁと、昔よりも切れ長になった目を細め、頬が緩んでいた。

 そしてあまり写るのが好きではなく、かなり数の少ない『ちょっと前』の自分が写った写真を発見し、思わず苦笑してしまう。そして左手のグラスを覗き込むと、そこには黒い髪の中に白いものを発見してしまった。

「見た目だけならもう、40だな……」

 矢野 古代、さんじゅうはっさい。溜め息と一緒に呟いていた。

 アルバムの中の自分はちょっと前の自分だと思っていたが、その中に写る自分の髪は黒々としていて、どこにも白が紛れ込んでいる様子がない。

 そして今もなお交友のある友人たちを見るが、自分と同じ年月を過ごしているはずなのに、老けた様子が全く見られない――いや、彼ら、彼女らの場合、自分と違って『老けた』のではなく『成長した』のだ。

 目を閉じるとアルバムも閉じ、天を仰ぐ。

 成長しても友人達は皆、まだ若い。自分1人だけが老け込んでいく一方だ。そこに慈悲はなく、決して縮まる事のない歳の差の壁を必死に上る自分の姿を想像する。だが想像した自分はずいぶんあっさりと、その壁を乗り越えた。

 その途端、ぱちりと目を開ける。

「よし、本格的に老け込む前にハロウィン限定仮装居酒屋とやらに行ってみるか」

 つい先ほど、なにかのメールマガジンで届いたクーポンを思い浮かべ、そんな事を呟いていた。

 それこそクーポンを使うような歳ではないものの、その『ハロウィン限定仮装居酒屋』にはかなり心惹かれるものがあり、こうして行く事を決めただけで古代は胸が高鳴り、高揚する。

 世間的に言えばそれは、心が若いという事に他ならないのだろうが、当の本人は眼鏡を外し、ウキウキと今夜のメンバーへお誘いメールを流しているのであった。




「あ、古代からだ」

 青空・アルベールが亀山 淳紅へとスマホのメール画面を見せるのと同時に、「自分にも来たわ」と淳紅のスマホにも同じ文面のものが流れてくる。

 雑踏の中で立ち止まり、2人して目を通していると、後ろから誰かに肩を組まれた。

「よう青空、それと淳紅。こんな所で何しているんだ?」

 肩を組んできたミハイル・エッカートが2人のスマホを覗き込むと、口を尖らせ「何だ、俺には誘いがなかったぞ」とぼやいたところで懐の振動に気づき、淳紅の肩から腕をおろして懐からスマホを手に取った。

「来たんです?」

 知らない顔ではないし話した事もある仲ではあるが、青空や古代と違って依頼でしか関わった事がないだけに、丁寧語というほどではないが砕けきれていない言葉で、淳紅はミハイルに問いかける。

 すると「ああ」とミハイルの方はさして変わらない口調で呟き、自分と青空のスマホを見比べて眉間にシワを寄せた。

「言ってるうちに誘いが来たには来たが、俺にはずいぶんと誘い方が雑だ」

 そう言ってスマホを自分から遠ざけ、青空と淳紅が2人そろって覗き込んだ。そして2人は「確かに」「ほんとだー」と笑うのだった。

 青空や淳紅の方では『今日、飲みに行かないか? ハロウィン期間限定で、仮装しないと入れないという店があるんだ。つまりは仮装してくれと言うことでもあるんだが、どうだろうか。若い君達ならこういうノリは好きだったりするんじゃないか――』と、そんな風に色々と、細かく書かれている。

 だがミハイルの方はというと『コスプレして、飲みに行くぞ』という一文とともに、あとは場所しか書かれていない。

「どんなふうに書かれているのです?」

 3人の後ろから遠慮がちに小さな声がかけられ、それまで存在に気づかなかった青空と淳紅がこの声はと振り返ると、華桜りりかがそこにいた。ただミハイルは知っていたようで、「こんな風だ」と振り返ってりりかに向かってスマホを向ける。

 覗き込むりりかが「納得なの、です」と微笑み、自分のスマホと見比べていた。

「その様子だと、りりかにも古代からの誘いが来ているようだな。まったく、ずいぶんざっくり過ぎる……お前らと一緒の時でよかったぜ、そうでなければ古代に聞き返していたところだ」

 スマホをジャケットの内ポケットへとしまい、腕を組んで首を振りながら嘆息を吐くミハイルだが、口角は楽しげにつり上がっていた。

「あの皆さん行くの、です?」

「もちろん行くのだ! りりかも行くよねっ」

 もちろんですと返すりりかは青空の眩しい笑顔に、その笑みもつられて強く輝く。だがりりか『様』も来ると聞いて、ほんわかとした2人を眺めながらも淳紅は戦慄し、身震いしてしまうのであった。

 淳紅の様子に首を傾げながらも、ミハイルが「それにしても」と口を開く。

「ハロウィンのコスプレ――いや、仮装か。みんなはどんなものを着ていくんだ」

「あかんで、ミハイルさん。それは集合の時のお楽しみに、取っておきましょうや」

 手を突きだして頭を横に振る淳紅に、それもそうだなと頷いてから、りりかへ「帰るか。送ってく」と声をかけた。

「着替える必要があるだろ?」

「んぅ……帰ってもハロウィン用の衣装がないの、です」

「あー……自分もないわ」

「私もだ」

 3人が口々に衣装が自宅にない事を告げると、ミハイルは目を見開いて3人の顔を凝視する

「ないのか!? 日本に住んで入る人間なら自宅にコスプレ衣装の1つや2つ必ずあると、聞いた事があるぞ!? だからわざわざカッコイイやつを新調したというのに」

「……誰から聞いたかわからんけど、騙されてるで。ミハイルさん」

「それじゃりりか、淳紅。一緒に行こうよ、買いに!」

 青空が2人の手を取り引っ張ると、「せやんな」「はい、です」とそれぞれが返事をして引かれるがままに歩き出す。

「なら、りりかを任せてもいいんだな?」

「ええですよ――ところで、もしかして2人ご一緒に出掛けてたんですかね?」

「ああ。正しくは何かを買うための下見に1人できたが、人ごみに物怖じしているりりかを俺が発見してな、その下見とやらに付き合っただけだ」

 りりかに向けてそうなのかと目で問いかけると、りりかは小さくだが頷いた。その途端、何かを思い出すかのように口を半開きにした淳紅は首を傾げ、足を止めた。

「風の噂ではご婚約したとかなんとか」

「ああ、そうだ。何を言いたいのかわかるが、それなら大丈夫だと言っておこう」

 昔と変わらずフッとニヒルに笑うのだが、昔と比べてそれは柔らかく、とても幸せそうで優しい笑みになっていた。

「彼女は――婚約者は、俺を信用してくれていると信じているからな。
 さ、俺ももう行くから、早く行ってこい。若い奴らの感性ってのを見せてくれよ」




(なにやらあそこに人だかりがあるな……嫌な予感しかしないが)

 シルクハットのつばを使いもしないステッキの柄でもちあげた古代が、人だかりに向かって歩いていた。別に気になるからではなく、ミハイルとの待ち合わせ場所がそこだからである。

 さらに先ほどから、しきりにスマホが助けてと言う悲鳴のように、メール通知を繰り返していた。だがこれから飲みに行くのだから面倒事を頼まれても嫌だと、ずっと無視していたりする。

 だがいよいよもってその間隔が短くなってきたあたりで、あの人だかりである。

「本当に、嫌な予感しかしないぞ……」

 シルクハットとステッキ、それに皮の手袋がなければ普段のスーツ姿とほとんど変わらず、仮装というにはやや弱いイギリス紳士風の古代は、人だかりに近づくにつれ、どんどんその予感が膨れ上がってくる。何よりも聞こえてくる声に、もはやげんなりとしていた。

 人だかりを覗き込んで、話題の中心にいる人物を探すと、やはりそこにミハイルの姿があった。

 スーツ仲間でもあるミハイルは、それこそ1年のほとんどをダークスーツで過ごしているものだが、今日は違う。同じ黒だがレザー素材っぽい軍服姿である。ちゃんと帽章付の軍帽までかぶっていた。
 軍服はところどころを銀細工が施されていてかなり本格的で、腰にはサーベルまでぶら下げている。

 そんなミハイルの目の前には似たような服装、そう、警察官のような服装の2人組み――そっちはコスプレではなく、れっきとした警察官であった。

「これはパーティーの格好なんだ。怪しい集まりじゃない。猫マーク見れば分かるだろう!」

 必死に訴えるミハイルは自分の胸ポケットにある十字の肉球マークやベルトのバックルを指さして、腕章の猫マークも見せるように突きだしている。よく見るとネクタイにも猫のマークがあった。

 そんなミハイルがジャケットの中に手を入れて何かを操作する仕草を見せると、古代のスマホが振動する。

 ここにきてやっとスマホを見てみると、メールの通知数が10件以上あり、それもすべてミハイルから『助けてくれ』という一文だけであった。

(さっきからのメールはミハイルだったのか)

 見た所、あの警官はやんわりとした職務質問から始めたが、ほぼ最初から署までご同行願うつもりで声をかけたような節がある。それほどにミハイルは雰囲気や金髪と相まって、軍服が似合いすぎていた。

 そんなミハイルとバッチリ視線が合ってしまった。

「やばッ」

 全然ヤバくはないのだが、思わず口から出てしまった古代。そんな古代を手招きしながらもミハイルが声をかけてきた。

「な、古代、友達だろ、この警官に何とか言ってくれ」

 一同の視線が古代に降り注がれ――古代はそれに紛れて誰もいない後ろを振り返って、『お友達の古代さん』を探していた。

「古代ー!」

 ミハイルの悲痛な叫びに「やれやれ、仕方ないか……」と、古代は観念してシルクハットを脱いで胸に当てる。

「すまない、おまわりさん。そいつは一応、怪しい奴じゃなくて、ちょっと騙されやすい外人さんなだけだから、勘弁してもらえないだろうか? これからちょっと、飲みに行く約束をしているので」

 低く、渋い声でする古代の説得に警官はあっさり納得してくれて、去っていく。警官が去れば、自然と人だかりも消えていくのであった。そして解放されてめでたしめでたしのはずだがミハイルの表情は曇ったままで、釈然としない様子であるが助けてもらった手前、文句を飲み込んだ。

「あ、古代とミハイル、どちらもかっこいいのだ!」

 少し遠くから聞こえる声に2人が目を向けると、ぼろぼろのマントを羽織ったミハイルと似たような軍服の青空、くりぬいたカボチャ風の被り物に白い外套とあざとさ満点なジャック・オー・ランタンの(おそらく)淳紅。

 そしてフリルとリボンでゴスロリちっくな装いにマントと、一見すると何の衣装かわからないが、小さく開いた口から覗く小さな牙のおかげでヴァンパイアのようなものを目指したのだろうなと、かろうじてわかる。

「えと……こんな感じで大丈夫、です?」

「ああ、似合う似合う。かわいいよな、古代」

「うん、似合っているし可愛いな」

「りりかは本当にかわいいよ! 私はダークヒーローなのだよ!」

「青空も似合うぜ」

 口々に褒められ赤くなってうつむくりりかの横に、淳紅が並んで「自分は?」などと自ら感想を求めてくる。

「あざといぜ」

「あざといな」

「淳紅らしいのだ」

「褒めてくれてもええやんか!」

 反応の違いにカボチャが叫び、地団駄を踏んでいる様に自然と笑みが溢れる。

 唯一、「かわいいです……」と褒めてくれたりりかの声は小さく、憤る淳紅には届かず、ふて腐れ気味のカボチャは「はよう行こ!」と先頭を歩き出すのであった。

 




「それではだ、改めて乾杯!」

 言い出しっぺの義務というか、今回も幹事となった古代が音頭を取りジョッキを掲げると、4人はまず正面の相手とそれから隣、そして最後に斜め向かいの相手と静かにグラスを合わせた。

(うむ、昔みたいに力任せの乾杯はしなくなったな)

 皆がグラスに口を付けるまで口を付けずに待っていた古代が、だいぶ飲み慣れてきた淳紅や青空の成長にうんうん頷いていると、4人は中央でグラスを合わせたまま、古代の顔を覗き込んで笑う。笑みに笑みで返す古代は、大小さまざまなグラスの輪へ自分のジョッキも混ぜてもらった。

 チンとぶつかり合う音が合図となって、5人は一斉に口をつける。

 静かな出だしに本日は波乱もなく済むかもしれないなという淡い期待が、黄金色の液体と共に胸の奥へと流されていく。5人が静かにグラスの液体をどんどん減らしていくが、まだ誰1人とてグラスから口を離さす者はいない。

 誰から言い出したわけでもないのに、今ここでグラスから口を離した者が順に負けていく――そんな空気が漂っていた。

「んぅ、甘くておいしいです」

 そんな空気に気づいていないと言うか、そんなノリとは無縁のりりかが真っ先に脱落して、パンプキン&チョコソースのパンケーキを口にしながらいまだに勝負が続いている4人を観戦していた。

「寒くても、冷たくて甘いお酒は美味しいね。りりかー、それおいしい?」

 次に脱落したのはやはり、こんな勝負に気づいていない青空。すぐ隣のりりかが「おいしいです」とパンケーキの皿を寄せてくれたので、箸で切り分けて口に運び「本当だー!」とニコリとするのだった。

(やはりこの3人が残ったか……!)

(日本伝統の一騎飲み、受けて立ってやるぜ!)

(若さを見せたるで……!)

 この中では歳が上の3人がこぞって馬鹿をやっているが、まあいつもの風景だろう。それと余談だが、ミハイルは一騎と一気を間違えているようである。

 だがこの中で明らかに有利な者がいた。

 それは中ジョッキと比べて圧倒的にグラスが小さい、カルピスハイを頼んでいた淳紅であった。

 その差は歴然としていて、おっさん2人が頑張ってもまだ半分くらい残っているのに、淳紅のグラスには残りわずかである。もはや勝負は見えた――というのはおっさん2人にも当然、見えているわけである。

 あとは以心伝心、古代がミハイルに目配せをすると、ミハイルはジョッキを持っている腕の肘をさりげなく淳紅の顎の下に持ってくると、そのままグイッと顎ごと持ち上げた。

 不意をつかれた淳紅が驚き、反射的に押し返して、勢い余ってグラスからも口が離れてしまう。

 気管に入り少しむせた淳紅がミハイルを睨み付けるが、ミハイルはよくやったという目をした古代と目で会話しているのに気付き、ミハイルだけでなく古代も絡んでいるのだと察して幼稚なおっさん2人を指さして憤慨する。

「汚い! いい大人が汚いで!」

 淳紅の訴えも虚しく、汚くて幼稚なおっさん2人が一気の一騎飲みに全精力を注いでいた。勝利目前で邪魔された挙句、すでに眼中にないとなると、とても面白くない淳紅は「そっちがその気ならや」と、カボチャの被り物を手に取って席を立ち、2人が自然と見えてしまう位置に移動する。

 淳紅の移動は見えているが、それよりもお互いの尊厳をかけたおっさん達が互いに大事な者を思い浮かべて、それを力としていた。

(我が天使よ、俺に力を……!)

(俺はお前のために、今日、ここで勝つ……!)

 明らかに勝負するところがおかしいが、それでもおっさん達は己の勝利のために戦い続ける――と、ここで淳紅の姿が目に入った。

 カボチャの被り物と箸を手に、ノリノリで替え歌を歌い始める。

「あいはぶあ、はし。あいはぶあ、かぼちゃ〜」

 そして掛け声とともにカボチャの目の穴に箸を突き入れ、「目が、目がぁ……!」と何かのマネをすると、古代もミハイルもビールを盛大に吹き出していた。

「うっしゃあ!」

 咳き込むおっさん2人に、してやったりとガッツポーズを向ける淳紅であった。

「あ、グラスが空になっているの。お酌をするの……ですよ」

「おおきにな、りりかちゃん。ついでに青空君のも少ないから、作ったってや」

「どうもありがとうなんだよ。えへへー淳紅、そのお酒美味しかった? 美味しそうだったから、同じのー!」

 こくりと頷くりりかは2人のグラスに氷を入れて、テーブルの上に並んでいるチューハイセットのソフトドリンクからカルピスとピーチ選び、半分以上注いでから焼酎を注いで、マドラーで混ぜて2人渡す。

 この頃にやっとおっさん2人の咳が止まって、淳紅を恨めしそうな目で睨むのたが、当の淳紅はりりかからピーチハイを受け取って礼を言いながらも席に座って、しれっとしていた。

「くそ、やるな淳紅……せっかく頼んだ本場ドイツのビールを吹いてしまったぜ」

「……ん? ミハイル、そのブランドはドイツじゃなくてオランダだぞ」

「オランダだったのか!? 知らなかったぜ!」

 ミハイルの頭にはドイツ=ビールの本場という認識があった――が、そもそもドイツには修学旅行で行っただけなので、本当にただのイメージでしかなかったようである。

 ピーマンとソーセージのソテーからピーマンを避けながらつまみ、残ったビールを飲み干すミハイル。

 2人のビールももうほとんどないので、何かを注文しようとメニューを見ていた古代の横からりりかが覗き込み、興味があるのか何かを指さす。

 すると古代が「さすがだな、華桜さん」と楽しげに頬を歪ませ、店員にそれを2つ頼む。ほどなくして運ばれてきたそれは無色で、わずかに焼酎の香りがするばかりの物だった。

「ハロウィンのびっくりカクテルだそうだ。俺も呑むからミハイル、お前もちゃんと呑んでくれな」

「ほう、そういう挑戦なら受けて立つぜ」

 その言葉に「ちゃんと呑めよ」と底意地の悪い笑みを浮かべる古代が見守る中、ミハイルがその透明なカクテルを口に含み――吹き出した。

 そしてなぜかガタガタと震えている。

「お……お……お――に、にが、苦い……」

「ピーマンから抽出したピーマン水を使ったカクテルだそうだ。無臭無色なのに、しっかりとピーマンの味がする凄い代物さ」

 呼吸音がヤバいミハイルが「口直しを」と呟きながらコールを連打し、店員にメニューを見せて指をさす。そしてすぐに運ばれてきたのは、とてもよく見慣れた巨大なプリン。

「ここにも出荷されとったんやな、それ……」

「あ、私もプリン食べたいプリン! このバケツプリンパフェ頼んでもいい? ねぇ」

「いいぜ、どんどん頼むがいいさ」

 プリンのおかげで少し持ち直したミハイルが余裕の笑みを青空へと向けるのだが、この間にミハイルが減らしてしまったカクテルにピーマン水をたっぷりと注ぐりりかの姿を目撃した古代は、きっと焼酎と間違えているのだろうと思いながらも震えているのであった。




「久しぶりに飲んだ―!」

 青空に肩を借りて歩く淳紅のテンションは非常に高いが、昔のように吐きそうになるほど飲まなかったのはかなりの進歩といえた。
とはいえ内心、今日も青空をつぶせなかったと黒い淳紅が舌打ちしていたりする。

「淳紅、久しぶりなの?」

「んー最近は親のコネとかも総動員で仕事増やして、飲む機会は多いねんけど――やっぱこっちの方が楽しいやなぁ」

「そっかー……最近、学園にあんまいないもんねー」

「仕事をする社会人ってのはみんな、そんなもんだぜ。
 そのかわり、こうやって集まるたまの飲み会がとても楽しくなるってものさ。あと〆のラーメンが美味いしな」

 社会人としての経験が長かったミハイルが笑い、淳紅から借りて被っていたカボチャを脱いで淳紅へと被せると、「今日は楽しかったぜ、また誘ってくれな」と、ピーマン水でヒドイ目にあった事など忘れて会釈し、帰路につくのであった。

 淳紅と青空は〆のラーメンが美味いという言葉を貰い受け、これからラーメン屋に向かうという言葉を言い残し、去っていった。古代も誘われはしたのだが、おっさんの胃はすでにラーメンを受け入れる余裕がないと断ったのである。

 去っていく2人の背中を見ながら、「若いなぁ……」と洩らしていたのであった。

「大丈夫、矢野さんはまだ十分に若いの……」

「ありがとう、華桜さん」

 少しご機嫌なりりかに感謝するが、りりかが今もチョコを一粒口に入れる様子にまた、若いなぁと思うのであった。

 考えても仕方がないかと古代はりりかを家まで送ると言い、りりかの家までの道のりを2人して歩いていると、ふと、飲み会の最中に聞いた話を思い出して「そういえば」と口を開く。

「何かを買うための下見とか言ってたね?」

「んう……そう、です」

「もしかしてミハイルが婚約したから、そのお祝いとかそんなやつを買いたかったんじゃないか? ミハイルの奴に出会ってしまったから、買えはしなかったというだけで」

 古代の勘が当たっていたらしく、「んう……」とりりかは素直に頷くのだった。さすがはさんじゅうはっさい、こういう目の付け所は見事であった。

 だから次の言葉も、まるで他意や下心などなく、自然と出てくるのだった。

「なら今度、俺が付き合ってあげようか。センスはなくとも、人ごみの盾くらいにはなれるからな」

 優しい笑みを浮かべ娘へするように頭を撫でると、りりかはうつむきながら「ありがとうございます、です」と古代のコートの端をキュッと握りしめる。

 こういう反応も若いなと思いながら、ふと、自分が本当に歳をとってきたんだなと自覚し、空を見上げた。

 淳紅が滝のようなゲロを吐いたあの日を思い出しながら、あの日からこうして飲み歩く機会が増えたなと懐かしむ。ポケットのスマホが振動しているが、懐かしむ古代は気づかず、夢想を続けていた。

 果たしてあと何回、こうして集まれるのかわからない。ずっとみんなが無事でいられるかもわからない――それでも、これからもずっとこうして飲みに行けたらいいなと思う古代は再度、生きぬく事を誓い、皆を生き残らせる事を誓うのであった―……



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代        / 男 / さんじゅうはっさい / 若いと書いて汚くて幼稚なおっさんと読む 】
【ja0732 / 青空・アルベール    / 男 / 21 / とことんマイペース 】
【ja2261 / 亀山 淳紅        / 男 / 21 / かなり成長したのではないだろうか 】
【jb0544 / ミハイル・エッカート / 男 / 31 / 帰りにも職質されて結局連行された 】
【jb6883 / 華桜りりか        / 女 / 20 / カルピスハイは最後ほとんど焼酎だった 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
今回もお待たせして申し訳ありません、楠原です。
ハロウィンになかなかピンとこない部分はありましたが、どうにかこうにかうまく絡めてみました。ただ居酒屋での風景がちょっと少ないかなというのはありますが、お楽しみいただけたら嬉しい限りです。
それではまたのご依頼をお待ちしております
VIG・パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年11月18日

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