▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『†めでたしふぇありーている† 』
御子神 藍jb8679)&祭乃守 夏折ja0559)&ユリア・スズノミヤja9826


*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゜*。 ☆○o。 。o○☆ 。*° ゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*

 むかーしむかしのそのまたむかし。
 かなり大昔のことだ。

 ――いや、そうでもないかもしれない。

 ふふ、どちらだろうね。

 さて、此れからの場所。
 此れからの物語。
 楽しい“悲鳴”が何処から来たか――君は知っているだろうか。

 其処は、此処ではない何処か。
 此れは“あの子達”のお伽話。

 さあ、思う存分付き合ってあげるとしよう。
 カボチャが退屈して馬車に変わる前に、ね――。

*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゜*。 ☆○o。 。o○☆ 。*° ゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*




 はら、はら、はらり。
 はらはらり。

 薄紅散らすその様、なんと美しいことだろう。
 この国の名花と謳われる桜は永久に咲き誇ることを約束されているんだ。それは、桜の木の下に埋められている“モノ”のおかげ――……なんてね? まあ、世の中には知らなくていい真実もある。
 そうそう。この桜の木々達はね、時折、桜の五枚弁に交じって桜餅を実らせることもあるんだよ。なんて素晴らしいのだろう。君もそう思わないかい?

 ――ああ、失礼。
 説明がまだだったね。

 この国は「桜ノ国」。
 放浪癖のある国王と女王の代わりに国を治めているのは、剣と戦略の才覚があり、カエル嫌いで有名な……というほど有名でもないと思うが、まあ、その所為だろうか。別名“カエルの王子様”と呼ばれているよ。……不快極まりない。

 ――いや、何でもないよ。

 さて。
 と、
 ……ああ、今日も聞こえるな。あの唄が。

 やや? 聞こえない?
 そんなはずない。ほら、君も呼吸を殺して耳を澄ませてごらん?





 ケロケロケロケロくわっくわっくわわわ〜〜〜〜〜。





 ……ほらね。
 通称――カエルの合唱通り。
 土に伸びる路の端には獄門台。その台に晒されているのはカエルの首だ。カエルの王子様がカエル嫌いよろしく「首をお切り」ということでね。移動を封じられたカエルは其処で余生を過ごすそうだよ。

 だが、今日のカエルの首達は随分と元気がいいようだ。
 それにやけに生々しく……いや、瑞々しく? カエルの首達はご機嫌な様子だね。一体何故……ああ、なるほど。全く、余計なことを。

「ふむ、まるで水を得た兎の……混ざったかな? まぁ、いいか。うん、取り敢えずは元気になったようだね。吾輩のマイ如雨露“霧雨クン”が君達の役に立って、吾輩も鼻高々だ。まあ、知人の親戚の子みたいに鼻は伸びないけど。……それに、霧雨クンの中身は先日の雨水だけど」

 猫耳フードを被った――猫、……の、ような………………猫、だ。多分。
 フードの縁から覗いた髪束は黒檀のように黒く、目深な暗から色差す瞳は紅葉の朽葉色。
 ふむ、この猫は……。なるほど、噂は本当だったのか。
 いやね、聞いたことがあったんだ。この世界の何処かで百万回生きる予定の猫がいるとね。そう、予定の。今のところは数万回生きているらしいよ。

 そして、手には使い古された如雨露。
 カエルの首に恵みをやっていたのだろう。花に水をやるような感覚でね。

「ケロケロ」
「ん? うん」
「ケロケロケロ」
「うんうん」
「ケロー」
「うん、なるほど。全然わからないけどわかったよ。じゃあ、吾輩はこの辺で。――ああ、そうだ。カエル声溢れるハーモニーだったと思うけど、合唱も程々にね。暫くは晴天が続くみたいだから喉を大切にした方がいいよ。……いや。もしかしたら、嗄れた声の方が本来のカエル声なのかな? 少し聞いてみたい気もするね。ああ、だけど……霧雨クンが黙っちゃいないかな」

 ん、どうやら話が脱線する子――ではなく、猫のようだね。
 収集がつかなくなる前に通り過ぎるとしようか。

 ――と。おや?
 あそこの森から一羽の鷹が飛び立ったのが見えたね。遠目からでもわかる色合い、朱殷を浴びたような翼が蒼空を切っていった。

 あの場所は確か、首吊りの森だ。
 首吊りといっても、枝に吊られているのは人形だけれどね。自分に厄災が訪れないようにする為の一種の呪い(まじない)らしいのだが……時折、人形ではないものもぶら下がっているようだから、見上げる時はご用心。

 やや?
 森の奥から聞こえるのは雲雀の美しい囀り――……だけではないようだ。鳥と共に奏でるこの声音は、きっと“彼女”だろう。

「ふんふんふーん♪ アップルパーイを焼きましょーぅ♪ お次はベリーにパンプキン♪ ミートも忘れちゃいけないよーぅ♪」

 小屋から漂うのは、パイ、パイ、パイの香り。
 うむ、血のように赤い唇と雪のように白い肌を持った姫――白ユリ姫(ja9826)は今日も元気にパイを焼いているようだ。この女性は隣国のお姫様なのだが、意地悪な継母をハイヒールの踵――しかも三三七拍子の如く勢いで踏みつけてしまったようで……今は継母の復讐の手から逃れる為にこんな森奥に住んでいるそうだ。

「だってー、あの人が私の目の前でバナナの皮踏んで滑って転んだのが悪いんじゃーん☆」

 君の心は白いのかな?
 それとも、闇のようにまっ黒なのだろうか。

 まあ、そんなことは些細なことだ。
 鏡よ鏡。
 この世で一番美しいのは――、

「林檎!! ――うみゅ!? あれ、籠に摘んでおいた林檎がもうない! あ、そっか……朝ご飯に、焼き林檎とかコンポートとかサラダとかホットケーキで使っちゃったんだ。しょーがない、も一度ゲットしに森にいきまっしょぃ!」

 ……生まれ持った美貌を針先程も鼻にかけない彼女の心は快い。白いか黒いかは置いておいて、だが。

 腕には手提げ籠。星屑で紡いだかのような銀色の緩い三つ編みを可憐な動作に踊らせて、白ユリ姫の足は軽やかに森へ。エレガントなリリィ装飾のカチューシャに、レースのケープ。ふんわりと広がるネイビーのワンピースが森の中をステップするその様は、緑と光に咲くエリカのように華やかだ。

「あ、そだ。赤鷹さんが帰ってきた時ようにお魚のパイも焼いておこうかにゃ。お魚苦手だから克服させてあげにゃいと☆」

 ……それは、また。
 赤鷹、というのは先程の鷹のようだね。白ユリ姫の友達だったのか。

 と、そう言っている内に白ユリ姫。森を抜けて丘の上に来てしまったようだが……何処へ?

「お魚はお水の中! お水は海! というわけで、ごーとぅーおーしゃん☆」

 は?
 追手に見つかったらどうす――、

「そん時はそん時さ私のヒールが唸るぜ\ひゃっほーーーぃ☆/」

 !!?

 ちょっ、白ユリ姫……大きな木の皮をベリッと剥がすと、それをソリ代わりにして丘の絨毯を滑り降り始めてしまった。

「うひょーーー!! はやいはやーーーぃ!!」

 白ユリ姫の乗ったソリは滑らかな草の波に流されてどんどん加速していく。
 わ、ペチコートと共にワンピースの裾が遠慮なく翻る――あ、いやいや、別に何処も見ていないよ、うん。

 ……しかし、凄い勢いで風を切っているな。アリやキリギリスが潰されていないといいのだが。
 と、おや。小さくて可愛らしい花が咲いているね。ふむ、スミレか。――あ、触った。うん、触った。誰が触った?





「私 が 触 っ た ー ー ー ー ー ☆」





 ひゅうぅぅぅ〜〜〜〜〜ん。

 白ユリ姫は真昼に浮かぶ海月をバックに空へダイブした。なんとノリのいい……。
 彼女なら自転車の籠に乗る宇宙人とも友達になれるだろう。

 さて。
 此処で、時計仕掛けの物語を少し巻き戻してみよう。
 処は海。
 一人は人間。一人は――……一匹? の、

 さかな?





 桟橋。
 ……ふむ。一人の男が佇んでいるね。その傍らには、打ち上げられたジュゴン――ではなく、彼が手にする釣り竿に捕らわれてしまった哀れな“娘”が……おやまあ。何とも怯えた表情で男を見上げているではないか。

「――わっ、わた、わたた、しっ、わたっ」
「あ? 腸?」
「Σひぃ! わたしさかなじゃないです!」
「そんなもん見ればわかる」

 青に沈んだ宝石を掬い上げたかのような瑠璃色の髪に、同色の瞳。同色の――、尾。
 人魚のシェルピンクな唇が小さく開いた。

「……え? あ、でも、さっき……刺身にするにはなんとかかんとかって……言いませんでしたっけ?」
「言った」
「Σい、言ってるじゃん……!」

 厚手のフードから垣間見えるのは、絹糸を黒曜石の粉末で染めたかのような黒髪に、濃い緑を帯びた翠玉の瞳。
 烏羽色の狩装束で身を纏った男の唇が淡と開いた。

「とにかく、俺に釣られたのは事実だろう。……しかし、よくこんな長靴(餌)に食いついたな。よほど腹が減っていたのか、もしくは……好奇心旺盛な海の王の娘、か」
「えっ!? な、なんでそれを……。……あ、そうだ。よし。――に、人魚違いです、僕、ジュゴン界のヒーロー見習いであいたたたたたっ!!?」
「全部丸聞こえなんだよ。捌かれたいのか? あ?」
「ひゃー!? ひゃへかひゃふへてー!」

 ああ……彼女の両頬が餅のように伸びて……。
 お転婆で常識知らず、だからといって箱入り娘というわけでもないようなのだが……生まれ持っての性格なのだろうね、この人魚姫も。

「お前、名前は?」
「……アイエル、です」
「アイ?」

 男は、沈んだ記憶を牽引するかのような眼差しで地面の一点を見つめ始めた。……さあ、どうしてだろうね? 当然、彼の脳裏など露知らずな彼女――アイエル(jb8679)は「んー?」と、きょとん顔で男の顔を覗き込んでいる。

 自分の故郷の海が大好きで、だが、同じくらい人間のことも愛おしいという“変わり者”な彼女。長靴に興味を示したのも、きっと人間の物だからという理由なのだろうね。

 ふっと男が睫毛を上げた。男の視線とかち合い、アイエルはどきりとしたようだ。
 男の口が何かを言いかけたその時――、





「呼ばれてないけどジャジャジャジャーーーーーン☆」





 そのノリと声は、紛うことなき白ユリ姫。どうやら天空の旅から帰ってきたようだ。
 空を鰻上りに上昇していた白ユリ姫が勢いよく下降――というか落下してき、――あ。

 ぐしゃあぁっ!!!

 ……。
 何かを……誰かを潰したような気はするが、白ユリ姫ちゃくりく。大丈夫、彼女は無事だ。彼女“が”無事だ。
 だが、男の意識は暗転した。……背骨、無事だろうか。





 ――。
 ――……。
 ――…………。
 耳鳴りの代わりに聞こえたのは、妖精のような無邪気な笑い声。
 靄の代わりに映したのは、鱗粉のような光の輝き。

 ふむ。
 女性のお喋りというのはどうしてこう、パレードのように賑やかなのだろうか。

「――あ、イケメンさん目ぇ覚ました? てゆーか、だいじょぶ?」
「お前が……お前が俺をソリ(尻)で敷いたんだろう……!!」
「みゅ、ごっめーん☆」

 敷いたというレベルではなかったがね。

「あ! ねぇねぇ知ってる?」
「知らん」
「アイちゃんね、人間みたいな足が欲しいんだって」

 アイちゃん?

「ユリもんの足、白くてすらっとしてて綺麗だよね。いいな……私も白い砂浜を歩いてみたい、走ってみたい!」

 ユリもん?

 男が気絶をしている間に芽生えた友情、だろうか。
 何時の間にか物語は進んでいたようだね。……いや、さ。その間、彼のこと放っておかないでおくれよ。

「――あ? 足?」

 男は腰をさすりつつアイエルに視線を投げると、彼女は胸元でもじもじと両指を絡ませていた。そして、自分の尾っぽを見つめながら、ぽつり。

「その、海にも魔女はいるんですけど……契約はちょっとな、って。クーリングオフの手続きもすごい面倒みたいで」
「ク……、なに?」
「何かいい方法というか、作戦ないかなーって話してたんだよねん」
「作戦?」
「あ、そだ! “気合いだ”を十回言ってみれば気合いでなんとかなるかも!」
「なるか。適当なこと言ってんじゃ――」
「気合いだ気合いだ気合いだ……」
「お前も真に受けるじゃない! ……それに、そんな薬を飲んだところで払う代償は苦痛でしかないんだぞ?」
「――え? “そんな薬”って……?」
「気合いだー☆」
「お前はうるさいッ!」

 なんだこれ。

 と、其処へ、

「――おや、随分と賑やかな海だね」

 ふらり。

 再びだね。
 素足ぺたぺた、マイペースな猫耳フードがやってきた。ふむ、猫は水が苦手だと聞いていたのだが……そのにゃんこ君がわざわざ海まで、何用だい?

「うん。いや、なに。最近、少々思う事があってね。吾輩は何故、裸足なのだろう……と」

 それは君が猫だからだろうね。

「そうだ。吾輩は猫。猫生を謳歌する為に百万回生きる予定の猫――、だ。うん。ん? えーと、何だっけ? ああ、そうだ。海にまで来た理由は長靴でも釣れるかな、と思ったんだ。というわけで、こんにちはだ。一方的に喋り始めて悪かったね。差し支えなければ君達の名前を教えてくれるかい?」

 話の脱線は相変わらず安定しているようだね。

「私は白ユリ姫!」
「アイエルだよ」
「……」
「みゅ? そいえば、イケメンさんて何処のどなた? お名前聞いてなかったねん」
「……只の狩人だ」
「ふむ。それにしては随分と甘い香りを漂わせているね、狩人君。この猫の嗅覚は誤魔化せないよ。くんくん」
「Σわ」

 フードから覗いた猫の顔が、ひょい、と、男へ近づいた。と、おや。その顔立ちが予想以上に端麗で、男は身じろぐ。あ、その拍子に――ぽとぽとぽと。……ああ。うん、彼の懐から逃げ出したのは“アレ”だ。

「……桜餅? 随分とまあ隠し持っていたもんだ」

 男の足許一面、薄紅と葉色。
 ……なんだろうね。なんともいえないこの空気。べっ……別にいいじゃないか、男だって桜餅ぐらい食べるさ。十個や二十個ぐらい食べるさ。

「おっけおっけ、じゃあイケメンさんは桜餅ちゃんということでヨロ☆」
「は?」
「ふむ、桜餅君だね。よろしくだ」
「お前ら……」

 白ユリ姫と猫の悪意のない適当さがよく伝わってくるね。見事だ。
 というわけで、男が名乗る前に決定された名は――桜餅(jz0111)

「ふふ。でも、桜餅好きなんですよね? まるで“桜餅の王子”みたい」
「さく、……なに?」
「あ! もしかしてカエル嫌いの王子様のこと? そいえば桜餅好きでも有名だよねん」
「うん。世間ではカエルの王子様って呼ばれているみたいだけど……私は、その、桜餅の王子、って呼んでるんだ」
「ほう、そうなのかい。確かにこの国は桜餅生産世界一と聞くからね。その国の王子が桜餅を好物としても不思議はないね。しかし、アイエル君。桜餅の王子の事を話している君は口許をだいぶ綻ばせるんだね。まるで夢見心地のような……いや、恋見心地?」
「Σえっ、ええっ!?」

 ん?

「そいえばアイちゃん。足が欲しいちゃんとした理由ってあるの?」
「ほう、アイエル君は二本の足を所望かい。これも縁だ。数万回の生で得た経験と知恵で良かったらアドバイスを贈るよ」

 その恵みの知も所詮は猫知恵だろうが。
 そしてその自信満々な助言も色々と脱線していくだろうが、ね。

「え、ええとね、その……じ、実は、一目惚れで……」
「わお☆ カエルの――じゃなくて、桜餅の王子様に?」
「う、うん。うぅ……恥ずかしい……」
「おや、アイエル君の恋物語か。きっかけは何だったんだい?」

 ……ふむ。
 アイエルの語りはこうだ。彼女の親友――といってもカニだが、そのカニが村人に釣られて茹でられそうになっていたところをカエ……桜餅の王子に助けてもらったとか。薄紅と金で装飾された小さな王冠を頭へ斜めに飾り、柔和な微笑みと品のある佇まい……だったと、アイエルは言う。

「にゃるほどー、自分の足で彼に会いに行きたいんだねん。よっしゃ! 私、応援するよ! 一緒にその方法を探しに行こーぅ☆ あ、お礼は海の絶品海産物でヨロ☆」

 ちゃっかりしているね。流石、白ユリ姫。

「吾輩も微力ながらお手伝いしよう。――して、何か手がかりはあるのかい?」
「手がかり、というか……あの、桜餅さん」
「何だ」
「さっき、“そんな薬”って言っていましたよね」
「……言って、ない」
「もー! 言ってました! 私、ハッキリ聞いたんですから! お願いします、何か知っているのなら教えて下さい。私……もう一度あの人に会いたいんです」
「……」
「ダメ、ですか……?」
「……。……俺が知っているのは錬金術師だ。それに、そいつの居場所は半日やそこらで着く距離じゃないぞ」
「……! あ、ありがとうございます! いい人だー」
「あの、ごめん。話の腰を折って申し訳ないんだけど……アイエル君」
「うん?」
「どうやって移動するんだい?」
「「「……」」」

 出発する前からなんだいこの難関。
 もう、尾でホッピングするなり俵担ぎされるなりでいいんじゃないだろうか。

「い、いやー! せめてもう少し見栄えのいい感じのを……」
「ふむ。安心していいよ、アイエル君。ついに“コレ”の出番が来たようだね……!」

 猫が四次元猫耳フードからぶわっと取り出したるは――……ほう、魔法の絨毯だ。

「むかーしむかし、砂漠の黄金宮に住むターバンおじさんから借りたんだ。そう、借り物だから扱いには注意してね」
「わ……! ありがとう! よかった、本当によかった……」
「おー、さすが旅する猫ちゃん! てゆーか、猫ちゃん名前ないの?」
「おや、この猫に名前とな? そうだね……敢えてこの猫、名を名乗るとするのならこう呼んで欲しい。長靴を履く予定の夏お――」
「へっくしょーん!」
「――と」

 ……今のくしゃみ、誰?

「えーと……おっけ、夏えもんだね! よろしくーぅ☆」
「え」
「楽しい旅になるといいね! なっちゃん!」
「え、あ」
「仮の長靴でよければあるぞ。釣りで使ったやつだが」
「えー……」

 決定――猫=長靴(仮)を履いた夏(ja0559)





 さて。此処に来て漸く……漸く、だ。旅が始まる。
 三人と一匹の奇想天外な旅が、今――……!!




 めでたし、めでたし――。
 と言う前に、その一幕一幕をご覧いただこう。

†影喰いの沼

「とっとと走れ馬鹿ッ! 沼地の手に捕まれば影を失うぞ!」
「わー! ユリもん早く逃げてー!」
「にゃっふっふっふ。継母さんを踏んづけて鍛えた私の脚力舐めたらあかーーーん!!」
「ふむ、これが俗に言う“黒い悪魔の如きエスケープ”か。よし、それでは吾輩はポイズンビーの如く刺そう……!」
「あ、じゃあ私は、蝶のように?」
「真面目に走れお前らァ!!」

†星渦の川

「へー、星砂が一緒に流れている川なんだね。光の反射で水が虹色に見えるよ」
「これね、お水と一緒に飲んでもだいじょぶなんだよん。パンに練り込んで焼いても美味しいんだー☆」
「おい……おい、あいつ流されてるぞ」
「みゅ? って、わー! アイちゃんが川の流れに乗ってどんぶらこしてるー!」
「おや。水に浸かっていたら気持ち良くなってしまったんだろうね。やはり水に住む生き物なんだね……アイエル君は」
「ほんとだねーん」
「連れ戻して来い今すぐに!!」

†ジャックナイト

「わ、この街の住人ってカボチャなの!? わー! 囲まれちゃったよ!」
「ほう、目はオレンジ色に輝き、大きく裂けた口は真っ黒だね。吾輩達を食べようとしているのかな?」
「お前ら、下手に動くなよ。送り火の蝋燭を灯せば――」
「あぐあぐあぐあぐっ!」
「此処の住人食うな胃袋黒渦馬鹿姫が!!」

 やれやれだ。
 道中、色々と苦労があったようだよ。主に桜餅とか桜餅とか、桜餅の……だがね。

 さて、そして。
 ――終幕の前の幕間だ。

†ルフトシュピーゲルング山

「この山道を登った先に錬金術師さんの塔があるんですね」
「ああ。だが、今夜は麓で夜を明かすぞ」
「もうすぐだねアイちゃん!」
「うん、吾輩も楽しみだ。アイエル君の瑠璃色の尾が肌色の足になる瞬間を早く目にしたいよ」
「ありがとう、二人とも。桜餅さんも」
「……」
「桜餅さん?」
「痛みに耐えてまで彼に会いたいのか?」
「え?」
「薬の効果は確かにお前が望むものだろう。だが、その代償は大きいぞ。足は歩くたび、ナイフを踏むかのような激痛に襲われる。それでもお前は人間になりたいのか?」
「アイちゃん……」
「……ふむ」

「――なりたいです」

「一度しか目にしたことがない相手の為にか? 相手はお前のことを知りもしないんだぞ? そいつがカニを助けたのも善意だったとは限らないだろう。お前は只、自分にとって都合のいい捉え方をしているだけなんじゃないのか?」
「……」
「桜餅ちゃん、アイちゃんを苛めないで」
「俺は事実を言っているだけだ」
「ふむ。確かに一理ある」
「夏えもん!」
「だが、吾輩が決めることじゃない。この決断はアイエル君が行うべき事だ。吾輩に出来る事は只、空模様に似た友を信じる事ぐらいだね」
「なっちゃん……」
「――なら、勝手にやってろ。俺は寝る」
「あ、桜餅さん!」
「……」
「私、尾はなくしたくないんです。でも……やっぱり足も欲しい。我儘なんです、とっても」
「みたいだな」
「それでも、気付いてしまったから。想いが重なることがどれほど難しいか知ってるけど……ちゃんと伝えたいの。私の言葉」
「……好きにすればいい」
「うん。ありがとう、桜餅さん。心配してくれて嬉しかったよ」

 彼の返事も表情も、夜の闇が味方をしてくれた。
 上手に隠したつもり――……であればいいのだが、はてさてどうなることやら。




 北風に勝利した太陽が今日も明るく微笑んでいる。

 三人と一匹はついに辿り着いた。
 エスポワールの塔に。
 三人と一匹はついに目にした。
 アイエルの“希望”に。

「ほんとはめっちゃ高価なんよ、この薬。だがまあ、“お得意様”が連れて来た客なんじゃあしょーがねぇ。アイエルっつったか。お前さんにくれてやるよ。……この貸しは高くつくぜ? “桜餅”さんよ」
「うるさい、わかってる」
「あ、あの……?」
「だが、飲むからには注意しろよ? 確かにお前さんの望むもんは手に入るが――」
「はい、わかってます」
「それに、継続して飲み続けなきゃなんねぇ。苦痛は一生続くからな。覚悟しとけよ。――ほれ」

 軽薄な調子であった錬金術師のプラム色の双眸が、瞬として厳かに色移った。
 アイエルはアンティーク調の丸い小瓶をヤツ――ではなく、錬金術師から受け取ると、中身の液体に目を瞠る。揺蕩うのは色の洪水だ。……飲み干せば、彼女の願いは叶う。そう、それで……いいんだ。

「アイエル君、平気かい?」
「アイちゃん……あのさ、今すぐに決めないでも、一度海に帰ってからで――」
「私、飲む!!」
「「あ」」

 きゅぽん。

 外されたコルクが空気を鳴らした。
 そして、小瓶の縁がアイエルの唇に口づけを――、





 ガシャーーーーーンッッッ!!!!!





「わーーーーー!!!」

 ……。
 ……やはり、そうするか。

 アイエルの手から叩き落とされたのは小瓶。
 床に撒き散らされたのは虹色。

 まん丸おめめなアイエルに、白ユリ姫と長靴(仮)を履いた夏は何処か微笑んでいるように見えたよ。錬金術師はニヤリと口角を上げ、彼は、

 彼は――……。




 錬金術師のはからいでひゅぅんと一瞬。
 三人と一匹は桜ノ国へ帰ってきた。

「……桜餅さん」
「何だ」
「私が薬飲むの……どうして邪魔したんですか?」
「手が滑ったんだ」
「桜餅ちゃんの嘘つきー」
「狙いを定めた見事なチョップだったね。言い訳は通じないと思うよ」
「……」
「桜餅さん?」

 きっと。
 彼は、彼なりに考えていたんだと……思う。

 各々の幸せ。
 それは他人から与えられる幸せ。
 それは誰かから奪った幸せ。
 それは自分で掴みとる幸せ。

「人間にならなくても、人間の世界には触れられる」
「え?」

 なら、そのままの君で――ということだよね?

「たった一度きりの人生が苦痛に苛まれてはつまらんだろう。只、それだけだ。――何処かの猫と違ってな」
「HAHAHA」
「桜餅ちゃんたら、やーさーしーぃー☆」
「あー、うるさいお前らうるさい。俺は帰るぞ二度と会いたくない顔も見たくないまたな」

 ――またな?

 二人の姫と猫は顔を見合わせて笑った。
 早馬のように姿を消した狩人は果たして“誰”であったのだろうね。ふふ。





 さて。
 そろそろお伽話は眠りにつく時間のようだ――。





*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゜*。 ☆○o。 。o○☆ 。*° ゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*

 むかしむかし
 あるところのあるくにに 桜餅が大好きな王子がいました

 その王子は 人魚姫やら白雪姫やら猫やらにであい
 あんなことやこんなことにまきこまれたうえ これからもつきあうことになりますが

 なんだかんだで
 みんななかよくいつまでも いつまでも 幸せにくらしましたとさ

 めでたし めでたし

*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゜*。 ☆○o。 。o○☆ 。*° ゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb8679 / 木嶋 藍 / 女 / 18 / アイエル】
【ja0559 / 夏雄 / 女 / 20 / 長靴(仮)を履いた夏】
【ja9826 / ユリア・スズノミヤ / 女 / 23 / 白ユリ姫】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 桜餅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
愁水です。
当方の趣味が詰まったお伽風ハロウィンノベルをお届致します。

文字数ぱんぱんで何度もセイゲーンさんにボコボコにされました。お任せは危険ですよ!(
ちょっぴりブラックに、前面にコメディに、こそっと隠れてシリアス……のつもりです。物語を纏める為に少々アレンジさせて頂いた部分もありますが、お気に召して頂けましたら幸いです。
素敵なご縁とご依頼、誠にありがとうございました!
VIG・パーティノベル -
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年11月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.