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『3人のほっこりぃん 』
センダンka5722)&帳 金哉ka5666)&ka5673

 その日は珍しく、センダンは朝から家にいた――いや、正確に言えば昨日の夜からずっとである。今日が何もないからと、閏が帰った後ずっと1人で飲み続け、気が付けば朝だった。

「……寝るか」

 誰に言うでもなく酒精を帯びた呟きを漏らし、その場でゴロンと横になると酩酊気分のセンダンはすぐに襲いかかってくる心地好い睡魔に抗う事無く、深い眠りにつくのだった。やる事が無ければいつもこうである。

 今日も1日を寝て過ごす――そんな日になるはずであったが、センダンが眠りの海の深海に到達した頃、玄関が開かれる。

 玄関を開けた誰かは「こんばんは、セン」と言いながらまるで自分の家かのようにあがりこんで、脱ぎ散らかされている衣服を拾い集めて明日洗濯するものとしてまとめておき、眠っているセンダンへと新しい羽織をかけてその横に座り込む。

 そしてセンダンの寝顔を見ながら「今日は何にしますかね」と夕食の献立を考えるのは、閏だった。

「カボチャ、人参、芋は先に使いたいですね。その後は……」

 今すぐ起こそうという気は毛頭ないらしく、大人しく座って、今ある食材を思い返しながら今日の予定を立てていく。遊びの予定などではなく、夕飯の支度をしてそれから少し掃除かなという、そんな予定である。

 だがそんな予定は、予想はされていたが予想外の事を持ちこんできた来訪者によって脆くも崩れさるのであった。

「センダン、閏、おるかえ! おるな!」

 勢いよく玄関が開け放たれ、ずけずけと上がりこんできた来訪者に閏は驚く事無く、「いらっしゃい、金哉くん。こんばんは」「うむ、こんばんはじゃな閏」といつも通りの挨拶をかわす。

 だがそんな閏でも金哉の姿には違和感を覚えて、首を傾けていた。

「どうしたのですか、その恰好は」

「はっは、やはり知らんか――これがはろいーんじゃ。若くハイカラな鬼は流行にも鋭いでの」

 そう言って身を翻すと、金哉の黒いマントが閏の鼻をくすぐる。

 金哉はだいたいいつも華やかだったりと、歌舞いた格好をしている物なのだが、今日はいつものそれとは明らかに違う。

 裏地が血のように真っ赤な黒いマントに黒いパンツルックに、プリーツ加工の白いシャツと、色使いで言えばむしろ地味とも言える服装は金髪の金哉には妙に似合っている感じがしていた。

「はろいーん、ですか。なんだか金哉くんっぽくて今時な感じがしますねっ」

 閏の言葉に「そうじゃろそうじゃろ」と得意げに口角を吊り上げる金哉。

「これはの、吸血鬼という西方のお化けを模した姿じゃ」

「へえ、西方のですか。どうしてそのような恰好をするのです?」

「なんでも、悪い霊を追い払うのにお化けの姿をして、怖がらせようとかそういう話みたいじゃ」

 金哉の自分でもよくわかっていないざっくり過ぎる説明に、「お化けですか」と閏は首を傾げ、洗濯する予定の物から大きな風呂敷を1枚取り出して、それを頭から被って垂れ下げた両手を顔の前にまで持ち上げる。

「こういうこと、ですか」

「うむ、きっとそうじゃな」

 満足げに頷く金哉が「そういえば土産じゃ」と閏に紙袋を突きだすのだが、受け取ろうとした閏の手は宙をさまようばかりで一向に触れることがない。どう見ても前が見えていないので、金哉が閏の手を取ってその手に持たせた。

「えっと、これは?」

「くっきーという焼き菓子と、ぱねとーねというパンみたいな菓子じゃな。はろいーんはいたずらする代償に、菓子を提供せねばならんようでな」

「それならうちも用意しないと、ですよね。甘いお菓子がありませんから、これではダメですか?」

 見えていなくともそこにあることを体が覚えているのか、テーブルの上にクッキーとパネトーネを置いて、かわりに置いてあった漆塗りの菓子器を手に取り、金哉のいるであろう方向に差しだしてから、蓋を取った。

 菓子器の中で並んでいたのはその外観にぴったりな、煎餅だった。

 金哉が1枚手に取りカスがこぼれるのも構わず、豪快に歯を突き立てる。煎餅が家の外まで聞こえそうなほど大きな悲鳴をあげ、がりごりと手強い音を立てながらも噛み砕かれていく。センダン並の堅焼きだ。

「これも菓子は菓子じゃ、かまわんのう。投げつければ悪霊も逃げ出しかねんな」

 食べかけを手裏剣のように投げる仕草を見せると、「金哉くん、食べ物は粗末にしちゃだめですよ」と閏にたしなめられ、肩をすくめて残りを頬張った。

 噛み砕く小気味良い音が静かになってきたあたりで、「ところで」と閏は風呂敷お化けのまま金哉に向きあった。

「はろいーんとやらを誰に教えてもらったのです? それにその服装、自分で選んだのですか」

「それは――」

 女の子と楽しく遊べる店で聞き、服屋の女の子に見立ててもらった――それをそのまま伝えれば間違いなく、閏に何か小言を言われるだろう。だから「酒の席で聞いてな、服屋で選んでもろうたのじゃ」と、濁さない程度に無難な言い方をする。センダンの背中を見て育ったわりに、そういう所は要領のいい金哉である。

 閏も金哉の言葉を素直に受け入れ、「そうですか」と頷いてくれた。

「他に何か用意する物はありますか、金哉君」

「他か……おお、そうじゃった。カボチャだ、カボチャが必要らしいぞ」

「カボチャ、ですか?」

「うむ。カボチャを――」

 金哉の言葉がそこで止まる。

 カボチャが必要なのは、思い出した。カボチャを切るという部分も、思い出した。だがその先が思い出せないというか、何か特殊な切り方があって、カボチャで何かよくわからないモノを作るみたいな風に聞いたが、そればかりは口で教えられても、残念ながら今ひとつよくわからなかったので、説明のしようもない。

 だがこうして話を持ちこんできておいてわからないと言うのは、金哉の自尊心が許さなかった。

「悪霊に見立て、そいつを食ろうて無病息災を願うんじゃったな」

 適当な事を言ったが、閏は疑う事無く「わかりました」と言ってくれる。息子のような存在である彼の言葉を疑うはずもなかった。

「カボチャなら、なんでも良いのですか?」

「ん、とにかくカボチャじゃ。カボチャであればなんでも良いぞ」

 実は聞いてるのだが、ここはすっぽりと忘れていた。それに、口から出た嘘であるがすでに金哉の口がカボチャを求めていた。それも閏の作ってくれる煮物をだ。

 そして閏の作ってくれた煮つけを思い出して、金哉の腹が鳴った。

 このタイミングで空腹を訴える己の腹に金哉は腹を叩いて自制させようとすると、クスリと笑う閏が風呂敷を取って立ち上がり、「少し待っていてくださいね」と台所へと向かう。

(もう少しゆっくりしてもらっても、いいんじゃがな)

 最近忙しそうだったのでゆっくりと休んで、気晴らしをさせたかったのだが、これではいつも通りになってしまう――と思ったところで、金哉も腰をあげて台所へと向かう。

「俺も手伝うとするかえ」

「ありがとうございます、金哉くん。君は本当に、良い子に育ってくれましたね――それじゃあ、お米を研いでもらえますか?」

 よしきたと腕をまくり米を研ぎ始めていると閏がカボチャの調理に取り掛かり、その様子を盗み見る金哉。いつも優しげなその顔だが、今はことさら機嫌がいいのがわかる。

 息子のような存在と共に料理を作る――閏にとってはそれもまた、嬉しいことの1つなのだろう。

(ま、これはこれでいいかの)

 鼻歌でも歌いだしそうな閏に替わって、金哉は鼻歌まじりに米を研ぎ続けるのだった。




 母のような存在と肩を並べ作ったおにぎりをテーブルの上に置き、あとはもう手伝う事のない金哉はいまだ眠り続けているセンダンへと焦点を合わせた。

 閏はまだ、戻ってこない――やるなら今だ。おあつらえ向きに服も来ていない。

 金哉はもう1つ持ってきたお土産の袋に手を突っ込み、黒いパンツとくたびれたぼろぼろなジャケットとシャツを取り出すと、眠っているセンダンを起こさないよう、寝返りを上手く誘発しながら器用に着せていく。まるで着せ慣れているかのようである。

 頭には大きな釘が貫いているかのようなカチューシャをつけ、これでおおよそは満足できた。

 だがやはりここまで来たからには、最後までやりきりたい思いが金哉を支配する。

「ま、後の事など知らぬわ」

 筆を持ち、教えてもらった図を参考にセンダンの顔に傷跡を描いていく。

 服を着せられている時は着せられ慣れている部分もあったのか、全く起きる様子を見せなかったセンダンだが、顔の違和感に何度も手で払おうとする仕草を見せていた。

 そしてとうとう、薄く目を開く。

「……殺すぞ」

 目覚めの開口一番がそれだった。

「お目覚めかえ、センダン」

 金哉の愉快そうな顔を見て、ますます不機嫌そうな顔をするセンダンが起き上がると、そこに閏がかぼちゃの煮物を持ってきたのだった。

「おまた――ッ」

 閏が息を飲み、センダンの顔を凝視する。

 その視線がえらく気に入らないのか、「見るんじゃねえ。殺すぞ」と閏にも同じ言葉を投げつけるのだが、閏は顔から逸らしただけでセンダンを凝視し続けていた。

 その好奇の目には物珍しいとありあり書かれていて、センダンですらもそれがわかってしまった。

 そしてニタニタと笑う金哉を一瞥し、それから閏に向かって「んだってんだ、てめえら。殺すか?」と脅し文句にしか聞こえない言葉を投げかけるも、それがセンダンにとって説明を求める言葉であると知っている閏が、センダンを眺めたまま口を開く。

「はろいーんという催しものだそうで、金哉くんが勧めてくれたのですよ。なんでもお化けになりきって、悪霊を追い払おうという話です」

「……ああ?」

 さっぱり要領を得ないと言う顔のセンダンだが、その両肩を金哉が叩く。

「どうせ知らんのだろう? せっかくじゃ、存分に楽しもうではないか」

「……知るかよ」

 不機嫌を顔に書いたようなセンダンはぶっきらぼうに言い放ち、釘のカチューシャをむしり取って金哉に投げつける。受け取った金哉は「まあ飯でも食うんじゃな」と席を促すのだった。

 わけもわからないし、自分の家だと言うのに我が物顔をしている金哉に憮然としながらも、腹が減っているのは事実なだけに大人しく従って席に着く。

 食卓に並ぶのはいつものおにぎりと、いつも通りのかぼちゃの煮物。はろいーんだから増やす、などという事は決してなかった。

「ちゃんと『いただきます』ですよ」

「いちいちうるせえ。殺すぞ」

 言おうと思っていたタイミングで言われ、頭をかきむしりながらも「いただきます」と適当に、だが小声ではなくはっきりと伝えてからカボチャの煮物を口に運ぶ。

 ほろりと崩れ、優しい甘さが口いっぱいに広がる。

 それに意外な顔をするセンダンが、「いつもと変わんねえじゃねえか」と不満を漏らした。閏の顔が曇り、金哉が何を言っているんだこいつというような目をセンダンに向けるが、センダンはお構いなしに続けた。

「いつものうめえカボチャじゃねえか。何か違うのか」

 センダンがそう問うも、閏はパッと顔を輝かせ「いつもと一緒ですよ」と嬉しそうに笑う。そんな閏とセンダンに目を細め、自分もカボチャを口に入れた金哉は確かにいつもと変わらない、金哉の好きな味に口をすぼめた。

 そして改めて、自分の父と母を眺めるのだった。

 何口か運んだあたりで、思い出したようにセンダンが金哉へ顔を向けた。炭で書かれた傷だらけの顔を。

「で、なんなんだ」

 結局、得心を得ていないという顔はいつものセンダンらしい顔をすればするほどおかしく、金哉は「まあなんでもいいじゃろ」と頬を強張らせておにぎりを口に運ぶ。

 昔から変わらない味――この父と母はきっといつまでもこうなのだろうと、金哉は珍しいものを見る閏をめずらしそうに眺めながらも、そう思うのであった。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5722 / センダン / 男 / 34 / ふらんけんしゅたいん】
【ka5666 / 帳 金哉 / 男 / 21 / どらきゅらはくしゃく】
【ka5673 / 閏     / 男 / 34 / ……なんだろう?】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずはご発注ありがとうございました。今回もお待たせして申し訳ありません。題材がなじみの薄いハロウィンに加え、異世界ハロウィンとはどのようなものか――まあ又聞きのために正確な趣旨を誰もわかっていないという事で落ちつけ、始終、ほのぼのとした空気でお送りいたしました。
またのご発注、お待ちしております
VIG・パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年11月21日

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