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『 Girls Favor Herselves! 』
雨音に微睡む玻璃草ka4538)&Leo=Evergreen ka3902


 少女の朝は早い。

 彼女の体格を思えば、其の寝台はあまりに大きかった。少女が勢い良く身を起こしても、寝台は小揺るぎもしない。心地よい弾みを返すばかり。
 起き上がった彼女の姿は――異様、というに相応しかった。
 あまりに、紅いのだ。
 少女を取り巻くアカイロの隙間から、細枝の如き手足が伸びている。少女は寝起きとは思えぬ程の機敏な動きで寝台の傍らまで移動すると、すぐさまカーペットの敷かれた床に降り立つ。
「ふぅぅ……っ」
 おそらく、背伸びをしたのだろう。細い手足は伸び切って、紅いベールの隙間から四方へ。そして。
「朝なのです!」
 気合、入魂。発奮と同時に、少女が纏う赤色が一斉に巻き上がり、撓る。そうして初めて、少女の顔が覗き見えた。少女の身体を思えば――否、何者であったとしても、それは異様に過ぎる。
 まさか、少女を包み込む程のソレが全て、彼女自身の毛髪であるなど。
 しかし、それらは靭やかにうねり、まるで収まるべきところに収まった。
 そうして少女はベッドに振り返る。視線の先には、こんもりと盛り上がった布団の山。そこから僅かに零れる淡い色の髪の毛をじっと眺めた後、少女――Leo=Evergreen(ka3902)は、ふふり、と鼻を鳴らし、
「レオはご飯を作っておくです。その間に起きとくですよ!」



 さあさあと、熱したフライパンの上で卵が音を立てる。カリッカリのベーコンに、トースト。親友にして類友は偏食極まるため、自分が厨房に立つ時くらいはちゃんとしたものを出したい。
 淡い髪色を、思う。
「良い髪には、栄養が大事なのですよ」
 それは、レオにとっては執着に足る『逸品』だ。だから。
「――いい匂い」
 声に、思わず振り向いた。着崩れした寝間着に、眠たげな双眸。そして、儚げな立ち姿。
 雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリア。レオの一番のお気に入り。
「『眠り草の羽蟲』たちも羨ましそうに泣いてるわ。でも、だめ」
 レオの気持ちを知ってか知らずか、フィリアは無防備に白い首元を晒し、髪を揺らす。
「これは、私のものだから……ありがとう、レオ」
「当然なのですよー!」
 ふわりと微笑むフィリアに、レオは嬉しげに笑い返したのだった。


「フィリアの髪はふっわふわなのです!」
 ご満悦のレオの声を、後ろに背負う。フィリアは、この時間が好きだ。
 微睡み、自らの髪をレオに委ねる時間。レオはいつだって丁寧に、優しく、彼女の髪を整えてくれる。フィリアは髪型には拘りは無いので、その辺りもレオがきっちりと扱ってくれるのも、嬉しい。
 ただ。
「…………ふぁ」
 余りの気持ちよさに、フィリアは再び眠りに落ちてしまう。
 さわさわと、柔らかな――『雨』の気配を、感じながら。
 なによりもそれが心地よくて、少女はこの時間が好きだった。
 少女は目を閉じた。強くなってくる『雨音』へと、耳を澄ますように――。

 レオは、そんな彼女の髪をブラシで梳きながら、淡い髪をじっと見つめていた。
 いつまでもそうしていられるとでもいうような、虫のような、機械のような――感情の無い色だった。
 揺らぐことなく、平坦で。あまりに、真剣で。
 混濁仕切った、緑色の瞳で、レオはいつまでも、その髪を梳いていた。

 フィリアが目を覚ますまで、ずっと。


 フィリアは知らぬが、そういった事情で昼食の仕度はしばしば抜けてしまう。自らの業には逆らえないのだ。仕方ない。だから――というとレオとしては業腹ではあるが、昼食はフィリアが好むものばかりになってしまう。
 すなわち。
「……見事に偏ってしまうのもどうかとおもうのです」
 目の前には、色とりどりのケーキに、焼き菓子、パンケーキ。熱せられた蜂蜜が芳醇な香りを放ち、鼻腔をくすぐる。そこに、少量の塩をまぶした揚げたパンのスティックが並ぶ。
 これらが栄養となってフィリアの見事な髪に注がれると思うと忸怩たる思いだが、レオだって女の子だ。こうも見事に並べられると――。
「ふぅぅ。ズルいのです。甘いのと塩辛いのの組み合わせぇ……」
 せめてもの抵抗として、そ、と目を逸らす。すると、湯気をあげるカップを手にしたフィリアが、小首を傾げて見つめていた。
「『仕組まれネズミ』が教えてくれた、『濁り水』もあるの」
 食べないの? という視線と、『濁り水』――深煎りの珈琲の香りに、レオは陥落した。

「美味しい?」
「美味しいくないわけないのです!」


 少し遅い昼食が終わるとどちらともなく、散歩の仕度をする。
 フィリアはお気に入りのドレスに着替えて傘を携え、レオは気温に合わせて、適当に服を着る事が多い。
「行きましょう、レオ。『暗がりの牝山羊』が起きちゃうわ」
「今いくのです!」
 フィリアの催促に、今日は、茶色の厚手のコートを上から羽織っていくことに決めた。
 なんとなく、今日は、長くなりそうな予感がした。


 ほう、と溢れた吐息が白く染まる。鼻の頭が早くも乾いてきた感じがして、レオはぐじぐじと鼻をこする。少女のとなりで、フィリアは機嫌良さそうに鼻歌混じりで傘をさして、歩く。
 今日はどこに、という問いをレオがしなくなって久しい。彼女の友人は彼女なりの哲学、啓示、はたまた訓戒で行き先を決めるのだが、それを聞いた所でレオにはとんと、理解ができないのだ。
「今日は『螺子のイルカ』に会いに行きましょう」
「……ふぁいなのです」
 気の抜けた返事になってしまうのは、レオにとって行き先は重要ではないからだ。楽しげなフィリアを見る時間が、レオは好きだった。だから、レオはわからないことはわからないなりに流しはするけれど、拒絶はしないし、レオ自身は楽しんでいることを気持ちだけでも示すようにしている。
 そのほうがフィリアも心地良いんじゃないのかな、と思ってもいる。フィリアの言動は不可思議極まるけれど、彼女はそれでも、周りをよく見ているから。
 つと、レオは手を伸ばした。ひょう、と吹いた木枯らしの寒さに、フィリアが凍えないように。
 レオの手はか細いが、フィリアのそれも同じくらいに、小さい。傘を持っていないほうの手を取ると、ひどく、冷たい。レオが包み込むように握ると、フィリアはくすぐったそうに笑った。
「レオの手は、『枯山の火吹き蜥蜴』みたいで好きだわ」
「暖かい、ってことなのですね」
 レオも同じように笑った。
 フィリアは笑みを浮かべたまま、鼻歌を続けた。そうして周囲を漫然と眺める。
 レオも、そうした。屋敷をでて、リゼリオまで出てくると、往来には様々な人々が行き交うようになる。
 ――たくさんの声が、響くようになる。
 雑踏の中では、二人はむしろ、言葉少なになった。
 決して強すぎない程度に握られた手と、その感触だけで互いを感じながら、二人は互いに眼前の光景を眺めている。
 その視線の色はよく似ているが、それぞれに、捜し物は違う。

 フィリアは『雨音』を探し、レオは『美しい髪』を探す。

 紅髪、青髪、黒髪、金髪、茶髪――どのような髪でも、それが持つ美しさは一様ではない。ただ、たまに美しい髪を眺めると、胸の奥がうんと痛くなって、居てもたってもいられなくなるのだ。ふらふらと、灯火に寄ってしまう、蛾のように。
 不意に、横顔に注がれる視線に気づいた。
「……ほ? どうかしたのです?」
 フィリアが、そんなレオを嬉しそうに眺めていた。横を向いているのに、器用に人の波を避けながら、フィリアは、
「私、レオのこと、好きよ」
「ふぇっ!?」
 と、まっすぐに見つめながら、言った。



 結局その日は、リゼリオを一周する勢いで歩き倒して、屋敷へ戻った。
 食事は、リゼリオで外食とした。屋敷に帰り着いた二人は歩き疲れてクタクタだったし、土埃に汚れていたが、一日の中で見たもの、感じたものを話しながらお風呂に入ったらたちまち吹き飛んでしまった。

 二人で手をつなぎ、寝間着に着替えて寝室に入ったところで。
「レオ。今度は私がしてあげる」
「お?」
「そこに座って?」
 怪訝そうな顔をしながらレオが丸いクッションに座ると、そうじゃなくて、とたしなめられ、反対側を向けられた。フィリアに背中を向けると、少しばかり、落ち着かない気持ちになる。
「ど、どうしたのです?」
「レオの髪を、結いたいわ」
「ああ……」
 フィリアはその指でレオの髪を軽く梳くと、その感触に笑みをこぼした。
「きれいな髪。血の色みたい」
「……ふっふー、自慢の髪なのです」
 たとえはともかくとして、褒められて悪い気はしないレオである。フィリアはそのまま、艶あるレオの髪を根本から分けると、大きな束にして編みはじめる。変哲のない三つ編みだが、レオの髪でしようとすると、慮外のスケールになる。そのことも、フィリアにとっては面白いのだろう。笑みを浮かべ、慣れた手つきで三つ編みを紡ぎながら――フィリアは、
「今日はありがとう、レオ」
 と、言った。しばし、返事はなかったのだが、レオは唐突に我に返ったように振り返ると、
「……ふぇ? 何か言ったでありますか?」
「ふふ、何でもないわ」
 どうやら、心地よい髪の刺激にうたた寝していたと知り、フィリアはレオの頭の向きを直す。
 こくりこくりと船を漕ぐレオの髪をちゃんと結いきるまで、楽しげな表情は終ぞ崩れることはなかった。


 大きめのベッドには、やわらかな吐息が、二つ。
 眠りは暖かく、いつしか身体は布団から這い出て、身体ひとつをひんやりとした大気にさらしていた。
 雨を望む少女は身を丸めてすやすやと。長い髪を三つ編みにした少女は、仰向けになってくうくうと。
 その小さな手は、軽く触れ合ったまま。

 その熱に安堵するように――少女二人は、今日も夢を見る。

 美しくも妖しい、楽しくも儚い、夢を。




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka4538 / 雨音に微睡む玻璃草 / 女性 / 12 / レオの親友】
【 ka3902 / Leo=Evergreen  / 女性 / 10 / フィリアの親友】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。
イラストを元にしてのノベルということで、色々と自由に書かせていただきました!
お二人の関係は特殊で、互いの歪なところをそれぞれの理由で愛おしんでいられるから一緒にいられるのかなぁ、と思いながら、描かせて頂きました。
この道を行き過ぎると、フィリアさんの命運はレオさんの我慢が握っているような気が、しなくもないですが……はてさて。
お喜びいただけますと、幸いです。この度は発注ありがとうございました!
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2016年11月24日

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