『幼い蕾は花となる 』

天谷悠里（ja0115）

「どうかしら」

　姿見の前にはあどけなさを若干残した貴婦人。その身に纏うは真紅の薔薇をモチーフにした胸元の開いたドレス。
　初めて袖を通した訳ではないそれだが以前袖を通した時とは印象を違えている。

「前は着られているって感じが抜けなかったけれど、今回は完全に着こなしてるって感じね」

「私もそう思っていたんです。そんなに時間が開いている訳でもないですし、どうしてだろうって気になっていて……」

　自分の違和感をそのまま指摘された天谷悠里（ja0115）は驚きと戸惑いの言葉を口にする。

「そういった変化はお嫌いですか？」

　メイク道具を準備しながら白い少女が尋ねる。何故かその声に疑問は微塵もない。

「メイクの準備も出来たみたいね。さぁ。鏡をちゃんと見て」

　白の少女の言葉に反応したのかくすっと楽しそうに黒の少女が微笑み、悠里の視線を鏡への向ける。

「え？あ……」

　鏡の中の女性、悠里の口元には笑みが浮かんでいた。艶っぽいそれは喜びでも楽しみでもなく悦びのそれ。
　今気がついたが胸も少し高まっている気がする。

「気付いていたくせに」

　くつくつと黒い少女が喉を鳴らすが、白い少女は何も答えない。
　 白の少女へ投げられたものだと感じた悠里が反応するはずもない。

「貴女よ。戸惑うフリなんていけないわ。気付いていたでしょう？変身する喜びも、背徳の悦びも覚えてしまっているんでしょう。貴女の大切な人とこれからする事にドキドキして期待しちゃってるの。そうでしょう？」

　どうやら矢印は悠里に向いていたらしい。

「そんなこと……」

　ない。そう言おうとしたが、結局否定は出来なかった。全て事実であるが故に、否定する為の材料が見つからないのだ。

「ドレスが以前より馴染んでいることは間違いありません。もしその変化がお嫌でないのであれば、よりそのお心がドレスに委ねられます様お手伝いさせて頂きます」

　　＊＊＊

　嫌です。と言う声は出なかった。その代わりに口をついたのは自ら望むかのようにも聞こえる、お願いします。という言葉。

「んっ」

「もう少し口をお開けください」

　先だけを紅く染めた指が下唇をゆっくりとなぞる。優しい指使い、時折上唇に触れる爪に焦れたように口を閉じてしまう悠里に白い少女の無機質な言葉。

「ほら、ちゃんと目も閉じないと」

「あっ……」

　閉じられた瞼には優しくノックするような黒い少女の指が触れる。

　唇に塗られる紅。瞼へはアイシャドウ。
　頭では理解出来ているのだが、先程自覚してしまった悦びのせいか、丁寧なそれはどこか愛撫めいていて悠里の体は勝手に火照ってしまう。

「少しドレスも直すわね」

　腰のラインを確認するように触れる小さめの手に喉が震える。
　いつもと違う生地のドレス、日頃つけることのないコルセット、そして奪われた視界が悠里の感覚を刺激して酷くもどかしい。

　ラインを調整するから胸元や脇に触れる手もどこか艶かしく感じ甘い吐息が漏れてしまう。
　まるで悠里が元々持っている少女の面影を消すように、蕾を刺激するように肌に触れ、なぞる二人の指。
　滅多に他人が触れられることのない場所、愛しい人とも違う触れ方。幾重にも重なる背徳が官能へと誘う。

「さあ、目を開けて」

　そっと瞳くとそこにいたのは妖艶で気品溢れる女性。
　艶めく紅い唇。伏した目は憂いを帯び、少しだけ桃色に染まった肌はしっとりと大人の色香を醸し出す。

「綺麗よ。どんな男もイチコロ……いえ、恐れ多くて声もかけられないでしょうね。いつもの可愛らしいお嬢さんの姿なんかよりこっちの方がずっと貴女らしいわ」

　耳に流れる甘い痺れとチュッと言う音。少しだけうっとりとした黒い少女の声。

「美……しい？可愛い……じゃなくって……ですか？」

「左様で御座います。貴女様はお美しい」

　白い少女が熱い視線で彼女を仰ぎ見ながら胸元へ唇を寄せる。

　悠里の中で一瞬だけ首をもたげた疑問はすぐに消えた。
　鏡に映る女性を見れば彼女達の言葉が本当である事は明らかだった。
　ふっくらとした胸、引き締まった腰。
　その姿からはあどけなさや幼さ、そんなものは微塵も感じられない。

　少女達の言う通り、私は美しい。そしてこのドレスこそが私には相応しい。

「そう……ですね」

　言葉とは裏腹に自信に満ちた声、上向きに歪む唇。
　そのどちらもが彼女の中にその思いが根付いたことを意味していた。

「……身体はドレスアップ完了ね」

　少女達は顔を見合わせくすりと微笑みあった。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【　ja0115　／　天谷　悠里　／　女性　／　18歳　／　妖艶な薔薇へ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　度重なるご依頼ありがとう御座います。いつも光栄に思いながら筆を取らせて頂いております。

　今回は悠里様自身の新しい魅力に気付いて頂く物語にしよう考え、少女達が多めに動いております。黒い少女が普段の悠里様を知っているような口振りの部分がありますが、そちらはおまけノベルでお楽しみ頂けるようになっております。

　お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

　今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
　またお会いできる事を心からお待ちしております。

ＷＴシングルノベル

龍川　那月

エリュシオン

2016年11月25日