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『良き友は今宵美酒と共に 』
ユエリャン・李aa0076hero002)&A・Kaa0008hero002

「暇しておるのでな、まだ起きているなら少し付き合え」
 スマートフォンから聞こえるユエリャンの声に、A・Kは口角を上げた。
「丁度良い。ついさっき、やっとおちびさんが寝たところだ。……酒は飲める?」
「我輩に苦手なものなどない」
「運動以外な」
「……」
 無言になったユエリャンにA・Kは笑う。
 二人は待ち合わせの場所を決めて電話を切った。

「気軽に立ち寄れるハロウィンパーティーしてるっつーから、ここにしてみたけど」
 高層ビルの地下にあるお洒落なバー。落ち着いた雰囲気の中にも華やかさがあり、今夜は店員も仮面をつけ、ほとんどの客も仮装している。
「なかなかいい雰囲気ではないか」
 立食形式で一口、二口程度で食べられる料理が並んでいる。もちろん、どれもお酒に合うものばかりだ。
「さっきまで賑やかなパーティーに行ってたからな。こういうのもいいな」
 A・Kは店員が運んできたシャンパンを手に取り、「それにしても」と、深い夜色のベルベットのタイトなドレスに身を包んだユエリャンの姿をつま先から頭の先までじっくりと眺めて微笑んだ。
「その格好、かなり似合ってるな。美人が映える」
「そうであろう?」
 赤ワインが入っているグラスを机に置き、ユエリャンは羽織っていたマントのフードを頭にかぶった。
「魔女とは美しくなければならぬからな」
「魔女っつったら、三角帽子じゃねーのか?」
「そんなダサいものはかぶらん」
「あれはあれでカワイイと思うけどな」
「金髪もなかなか美しい吸血鬼ぶりだな」
 ユエリャンは燕尾服に裏地が濃いワインレッドのマントを羽織り、髪をオールバックにしたA・Kの姿を眺め、余計な一言もつけそえる。
「もうすこし寡黙ならさらに魅力的であっただろうが」
「でも、今夜はおしゃべりな吸血鬼と過ごしたかったから、俺を呼んだんだろう?」
 ユエリャンの余計な一言も逆手に取り、A・Kはにんまりと口角を上げる。
「……まぁな」
 なんだかんだと言いつつ、気の合う二人である。
 生ハムと桃のカナッペを口にして、ユエリャンは赤ワインを一口飲む。
「うちのおチビちゃんは一人寝を譲らぬし、夜は如何にも退屈でな」
「いい事じゃねぇか。うちはちびもそうだが、犬っころが過保護でだめだ」
「それだけ大事にしているということだろうが、堅苦しいな」
「ああ。かなり窮屈だぜ……でも、あいつはあいつなりに、俺は俺なりにおちびさんを大事にしてやりてぇと思ってるし……」
 A・Kはイカのフライにトマトソースをたっぷりと絡ませて頬張る。
「おちびさんも俺たちを大事にしてくれてるのは感じるな」
「うちのおチビちゃんも、随分と我輩と先住民のことを気にしてくれているようであるし……この世界の能力者というのは、人格者が多いのかもしれんな……」
「まぁ、でも、ヴィランつーの? 悪い奴もいるみたいだからな。俺たちがたまたまいい相棒に巡り会えたってことなんだろうな」
「うむ。先住民のことは気に入らないことも多いが、なんだかんだと言いつつ世話好きだしの……恵まれた縁ではあるな」
「どうしてこの世界に来たのかとか、そういうことははっきりとは覚えてねーけど……あのちびの笑顔を守るためなら、全力で戦ってやろうと思う」
 ユエリャンはワインを一口口に含み、じっくりと味わうように飲む。
「そうだな。我輩もおチビちゃんが泣くのは嫌だ」
 A・Kは サーモンとクリームチーズのカナッペを二つ重ねて口に放り込む。
「にしても、俺たちもすっかり絆されてるな」
「……本当にな」と、ユエリャンが苦笑する。
「おチビちゃんたちのピュアなエネルギーに感化されてしまっているようだの」
 グラスを空にして、A・Kは同じシャンパンを求めて店内を見渡す。
「この酒美味いな。もう一杯もらってくる。ユーイもいるか?」
「ああ。頼む」
 A・Kがその場を離れた途端、そのタイミングを狙っていたように二人の男性がユエリャンに近づいてきた。
「よかったら、俺たちと一緒に飲みませんか?」
 狼男と海賊に仮装している男たちは、不躾にユエリャンのパーソナルスペースに入り込む。
「その仮装、とてもお似合いですね」
「あなたの美しさが引き立っている」
 ユエリャンは華やかな作り笑いを浮かべて、「ドーモ」と小首を傾げた。
「でも、残念だ」
 ユエリャンは優雅な身のこなしで移動し、両手にシャンパンを持って戻って来たA・Kの腕に腕を絡めた。
「吾輩には美しい吸血鬼がいるからの……これ以上美しいものでなければ、そばに置く気にはならん。君らも、自分たちの姿がわかっていたから、この吸血鬼が離れるのを待って声をかけたのだろう?」
 男たちはカッと感情が高まった表情を見せたが、A・Kの鋭い眼差しに何も言えずにそのまま引き下がった。
「……」
 男たちが店を出たのを横目で確認し、ユエリャンはA・Kから腕を離してハイテーブルまで戻る。
「あんまり、煽るなよ」
「む? 今のは吾輩が悪いのか?」
「ツレがいるのにナンパするやつらもあれだけどな、わざわざ煽ってもろくなことないだろ?」
「吾輩は不快なものは不快と明示したまでよ」
「あー……はいはい。俺が番犬代わりに守ってやればいいんだな?」
「そういうことだ」
 ピリ辛に味付けされたタコとチーズのピンチョスを食べ、ユエリャンはシャンパンを飲む。
「うん。美味いな」
「だろ?」と、A・Kもシャンパンを飲む。
「この世界はイベントってやつが多くて、面白いな」
 A・Kは改めてハロウィン仕様の店内の飾りや他の客の仮装を見渡す。
「うむ。おチビちゃんが次はクリスマスとか言っておったな」
「ああ。うちのちびも言ってたな。プレゼントがどーとか、ケーキがどーとか」
「確か、キリストとかいう先人の生まれた日だとか」
「すっげーじいさんの誕生日ってことだろ?」
「それをなぜ世界中で祝うのか……」
「なぞだな」
「なぞである」
「しかし、ちびたちが楽しみにしているなら、盛り上げてやらなきゃな」
「うむ。おチビちゃんたちの笑顔のためにな……なんか話が一周して戻ったような気がするな」
「だな」
 A・Kとユエリャンは顔を見合わせて笑った。
「すこし化粧室に行ってくる」
「ああ」
 ユエリャンが店員に化粧室の場所を訪ね、案内されていく後ろ姿をA・Kが見つめていると店内の入口が開き、賑やかな女性たちが五人入ってきた。そのうちの一人は店内に入るなり、A・Kに気づき、「なにあの人、超カッコいいんだけど!」と黄色い声をあげる。
「スタイルいいね!」
「モデルさんかな?」
「声かけてみようよ!」
 きゃっきゃっきゃっきゃとはしゃぎながら女性たちはA・Kに近づく。その気配にA・Kは彼女たちの方へ視線を向けて、笑顔を見せた。
 その笑顔にまた女性たちは黄色い悲鳴をあげ、店員が「お静かに願います」と注意をするも、その注意は彼女たちの耳には入っていないようだ。
「あ、あの、ご一緒してもいいですか!?」
 緊張から震える声を抑えようと思ったのか、そう聞いた女性の声はやけに大きくなり、店員が慌てる。
 店員の様子に気づき、A・Kは笑顔のまま「とりあえず、声のボリューム落とそうか?」と女性に伝えると、彼女たちは頬を赤らめて従順に返事をした。
 そこに、ユエリャンが戻って来た。
「どうした?」
 A・Kと女性たちを見比べてそう問いかけると、ユエリャンに気づいた女性たちの顔は赤から一気に蒼白に変わる。
「ああ、この人達が一緒にお酒飲みたいって」
 軽い口調で状況を説明したA・Kに女性たちは慌てて首を横に振った。
「いいえ!」
「大丈夫です!」
「あの、すみませんでした!」
 女性たちは慌てて店を出て行った。
「……」
「それで? なんだって?」
「……いや。俺、時々、この世界の人間のことがわからなくなるんだ」
「安心しろ」と、ユエリャンは困惑しているA・Kの肩を叩く。
「吾輩もだ」
 正統派美人の隣になど絶対に並びたくないという乙女心はこの二人には永遠にわからないかもしれない。
 二人はその後も一時間ほど美味しいお酒と料理を堪能した。
 店を出るときに会計をしようとすると、オーナーに「先ほどはありがとうございました」と丁寧に頭を下げられた。
「なんのことだ?」
 ユエリャンとA・Kは顔を見合わせる。
「迷惑なお客様の対処をしていただき、とても助かりました。お礼に、本日のお代は結構です」
「マジで?」
「はい」
「本当の本当に?」
 やけにしつこく確認をするA・Kにオーナーは困ったように「ええ。もちろんです」と答える。
「随分と警戒するな」
 ユエリャンが苦笑する。
「いや、うちの犬っころがうまい話には裏があるって……」
「我輩のところの先住民ならタダ酒が飲めると大喜びするところだが」
 二人のやり取りを見守っていたオーナーが「またぜひお越しください」と深々と頭を下げた。
 店から出て、さらに階段を上って地上へと出る。
「今宵も美しいな」
 ユエリャンの視線を追って空を見上げると、A・Kの目も金色の月を見つけた。
「……今夜のことは二人の内緒でな。お互い、近くに小煩いのがいる身だからよ」
 真っ直ぐに月を見つめる吸血鬼の横顔に、ユエリャンは「あいわかった」と返事を返し、また月へ視線を戻す。
「夢のような出来事は、誰かに伝えると覚めてしまいそうであるしな」



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0076hero002 / ユエリャン・李 / ? / 28 / シャドウルーカー】
【aa0008hero002 / A・K / 男性 / 26 / ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼いただきまして、ありがとうございます。
ユエリャンとA・Kが楽しい夜を過ごせたのならいいのですが……目立つ二人ですから、もしかするとこの後も色々と絡まれたかもしれませんね(苦笑)
ハロウィンの二人の秘密はこのような内容となりましたが、ご期待に添えていましたら幸いです。
今後も二人の活躍を楽しみにしています♪
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2016年11月28日

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