▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『闇に潜む者たち 』
芳乃・綺花8870

 まだ昼間だというのに、ここにはほとんど太陽の光が差し込まない。
 ホテルになる予定だった巨大なコンクリートの塊は、建設途中で計画が中止され、そのまま放置されているという。
 朽ちかけた建物は治安上よろしくない。よくない者たちのたまり場になってしまうことがあるからだ。
 それは人間に限らず。
 よくないことをする時は、人目に付かない場所で行うものだから。
 内部は壁も床もコンクリートがむき出しで、歩くと足元からは、ざり、と砂がこすれる音がした。
 芳乃・綺花 (よしの・あやか)はプリーツスカートのすそを揺らしながら、すたすたと建物の奥へと進んでいく。
 綺花が身につけているのはセーラー服だ。綺花は民間の退魔会社「弥代」に所属する退魔士である。それと同時に現役の女子高生でもある。
 綺花は退魔士としての実力もさることながら、とても魅力的な外見をしている。
 さらさらの黒髪のロングヘアーに、整った顔立ち。張りのある胸やお尻がセーラー服の布地を押し上げている。セーラー服というのは厚手の素材でできているものだが、それを身にまとっても彼女の魅力的なボディラインははっきりと目に見えてしまう。

 一体の悪魔が、通路を歩いている。角を曲がった時、目の前にロングヘアーの女性が立っているのが見えた。いや、見えたと認識する前に、悪魔の首は胴体から離れていた。
 その首が地面に落ちる前に、綺花はすでに刀を鞘に納めていた。
 事前に受けた説明によると、この建物内にはかなりの数の悪魔がいるという事だった。失敗は許されない。綺花は濡れたように光る唇をきゅっと結んだ。それから、ふっと口元をほころばせる。彼女の心は、心地よい緊張感と高揚感で満たされていた。何体の悪魔がいようと、失敗はしない。
 綺花はよどんだ気配のする部屋へと足を踏み入れた。奥にさらに部屋があるようで、そこから複数の話し声がする。綺花はためらい無く進んで行く。


 迷い込んだ哀れな人間だと思ったのだろう。悪魔たちは綺花を見ると色めきたった。
「俺は右腕をもらおうか」
「俺が頭をもらってもいいか」
「じゃあ俺ははらわたを」
 口々に物騒な事を言いながら、悪魔たちは綺花へと近づいてくる。恐怖心をあおるためか、わざとゆっくりとした歩調で。ニヤニヤと笑い、自分より弱いものをわざとじりじり追いつめて楽しもうとする。
 すでに何人かの人間がこの者たちの手にかかっている。薄暗い部屋の中、床のコンクリートにところどころ黒いシミが見える。綺花は美しい顔をほんの少し歪めた。それからすっと背筋を伸ばす。
「腕でも足でもご自由にどうぞ」
 すらりと刀を抜いた。彼女愛用の、退魔の力を持った刀だ。
「奪えるのなら、の話ですが」
 武器を持っているぞ。
 生意気な。
 抵抗する気か。
 気分を害した悪魔たちは笑うのをやめ、一斉に綺花へ襲い掛かる。
 ざっ、と綺花がひと払いすると、一体の悪魔が半分になって床に崩れ落ちた。
 悪魔たちは一瞬動きを止めた、が、頭に血が上らせ、さらに攻撃的に綺花に襲い掛かる。綺花は体をひるがえし、悪魔の攻撃をすべてかわした。悪魔の爪が彼女に届く事はない。ロングヘアーの髪にも、スカートの裾にすら、彼らは傷一つ付ける事が出来なかった。
 突進してきた悪魔を、綺花はひらりとかわす。その悪魔は他の悪魔にぶつかり、二体一緒に床に倒れこんだ。
「馬鹿、どけ!」
「何だと、お前が」
 下になった悪魔の視界に、高く跳びあがる綺花の姿が見えた。スカートが盛大にまくれ上がり、健康的な太腿があらわになっている。綺花はまっすぐに降下し、そして刀を突き刺した。
 ざん、と。ためらい無く突き立てられた刃は、悪魔を串刺しにした。

 すべての悪魔を殲滅し、綺花はふう、と息をついた。
 誰一人として彼女に、指一本、爪の先すらも触れることはできなかった。驚くべき事に、綺花は一滴の返り血も浴びていない。
 これが彼女の実力なのだ。

 綺花はこの仕事を誇りに思っている。
 悪を倒し、人々を救うために戦う、この仕事を。
 今日も綺花は任務を完璧にこなし、満ち足りた気持ちで帰路につくのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
四谷たにし クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年11月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.