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『夜陰ノ背 』
斉凛ja6571


 ――Open sesame。

 それはmaidenの扉?
 それともdamselの扉?

 心の鍵は、貴方の広い温もりにしゅるしゅるとほどかれてゆく。

 嗚呼……まるで、




 ――夢のようだ。



 〜〜♪ 〜〜♪
 音色奏でる洗練された音風景。

 ふわり、ふわり。
 香り高い珈琲豆の至福。

 カッコー、カッコー。
 時を告げる北欧風の鳩時計。

 時刻は22時。
 未成年の斉凛(ja6571)はそろそろおうちにかえりましょうだ。だが、今夜はそんな杞憂などいらない。何故なら、隣りに“彼”がいるから。

「――付き合わせて悪かったね。疲れていないかい?」
「ええ。それに、ご主人様からのお誘いですもの。断る理由などありませんわ」

 ほぅ、と、彼から香るフレグランスのグリーンノートに、凛は目許を赤くした。
 凛の唯一の主人――藤宮 流架(jz0111)

 本日は流架の実家の骨董品店「春霞」のアルバイト日和だった。
 何時も通り完璧な労働を終え、主人の賄い料理を心と胃袋に堪能したまでは凛のハートも(ギリギリ)平常であった。だが、今夜はそののち――違った。

 凛の足は帰り道とは逆の方向へ。
 彼と共に向かったのは閉店後の「Cadena」。流架の昔馴染み、漣 悠璃が経営する喫茶店だ。

 どうやら夕刻頃に悠璃から連絡があったようで、店で出す新作スイーツの味見を頼まれていたらしい。ならば、洋菓子に精通している凛は百人力。

「凛君が来てくれて助かったよ。帰りはきちんと送り届けるから安心しておくれ」

 このシンデレラタイムですらご馳走様だというのにオプションで送迎……!? そんなものなくてもついていきますどこまでも――どうぞよろしくおねがいします。





「――はい、お待たせ。
 一品目はこれねん。二人共、食べてみて」

 カウンター席に座る二人の前にお披露目されたスイーツは、焼きティラミスのようだ。

 マスカルポーネチーズと小麦を使用したスポンジ。
 シロップは珈琲シロップではなく自家製の抹茶シロップを丁寧に染み込ませている。

 ふっ、フォークに添えた一口が凛の唇を越え。
 ほろり、口の中で形を崩す。

「……濃い抹茶味とココアパウダーはやはり合いますわね。しっとりふんわり、美味しいですわ」
「でも、もうひと声……もうひとかけ? 欲しいところなのよねぇ」
「でしたら、最後の仕上げに抹茶チョコレートをかけてみては如何でしょう? 和の味が濃密になりますが、ベリーソースで仕上げても美味しいと思いますわよ」
「あ、ソレいいわね!」
「あとは……そうですわね、スポンジにレモンピールを混ぜるアレンジもよいかと。ですがこの場合、味の邪魔をさせない為にソースがけはなしにした方が無難でしょうか」
「ん〜、参考になるわ。メモメモっと」
「……」
「ご主人様?」
「俺、抹茶シロップよりチョコシロップの方がいい」

 子供か。

「なに言ってんのよ、ルカの好きなもの和菓子じゃない。イコール抹茶も好きでしょうよぅ」
「その考え色々と間違ってるから」
「じゃあなによ」
「俺、普通のティラミスが食べたい。ココアパウダーましましの」

 それじゃ新作にならないんですよ、旦那。

「ご主人様。焼いていないティラミスをご所望でしたら、わたくしがすぐにお作り致しますので……五分、いえ、三分お待ち下さいませ」

 ティラミスの調理はついにカップラーメンと並んだようだ。

「悠璃さん、キッチンをお借りしても――」
「はい二品目ぇ! ティラミス忘れてこれ食べてみなさいあんた達!」

 主導権をSMコンビ(主人のSとメイドのMだよ間違えんなよ主人は英語でマスターとかそういうツッコミいらないから)に、握られる前に悠璃が先手を打つ。

 二品目お待ち、ということで。

「まあ、これは……」

 見た目はキュービックなパン――ではなく、シュー生地。
 四角形の表面にはシュガーパウダーが雪の吐息を走らせる。ナイフで切ると、バニラビーンズと鳥骨鶏卵を使った濃厚なカスタードクリームが溢れてきた。

「クリームが蕩けますわね……幸せ……」

 甘さで包まれる優しい食感。
 薔薇色の頬に白い指先を添え、凛の双眸がうっとりと細まる。

「ただ、カスタードだけっていうのは定番過ぎるからクリームのバリエーションを増やそうとは思ってるのよねん」
「そうですわね。季節限定でアレンジをするのも素敵だと思いますわ。これからの時期ですと、クリスマスかしら? ホイップクリームと二層にしてもいいですし、苺やブルーベリー、フランボワーズで飾りつけるのも見た目鮮やかで美味しそうですわよね」
「あ、それ食べたいな。ユウ、作っておくれよ。五分待ってあげるから」
「あんた何様?」
「ご主人様、ご命令下さればわたくしが――」
「はぁい凛さん二月といえばぁ!?」
「二月? ――勿論、夢見る乙女のバレンタインですわ。
 ですと……やはりチョコレートかしら。ココアパウダーでシュー生地をほろ苦くして、中にはたっぷりのビターチョコレート――というのもいいですわね」
「ん、ミルク系のチョコより苦みのあるチョコの方がいいな、俺」
「あんたさっきチョコシロップがどうのって言ってなかった!?」
「他のクリームのバリエーションでは、キャラメルやパンプキン……豆乳というのもありますわよ」
「俺、マロンシュークリームが食べたい」

 栗の旬は過ぎ去ったんだよ、旦那。

「少々お待ち下さいませ。新鮮な栗を調達して来ますわ」

 夜の22時過ぎに新鮮な栗……?

「凛さん……夜中の山は危険だからやめておきなさい」
「俺が彼女を護るから大丈夫だよ」
「ご主人様……!」
「栗ゲットしたらマロンムース作っておくれね、凛君。栗きんとんもいいな」
「ご主人様のお心のままに。モンブランや栗の蒸しカステラ、栗ご飯や栗のうま煮もいいですわね。腕が鳴りますわ」

 きみたちすこしマロンからこころはなれようか。

 悠璃が無言で最後の新作候補をカウンターテーブルへ差し出した。
 それは、ホイップクリームと、ラムレーズンが散りばめられたカスタードクリームの二層クリームパイ。
 見た目は至って普通。
 というか、少なからず二品目のシュークリームとかぶっている気がする。

 解せないという二人の表情に、悠璃がにやり。

「このパイね、見た目は普通だけどカスタードクリームの色が濁らないよう慎重に作ったのよん」
「は? 濁る? ……俺、これいらない」
「ほんと失礼ね。何も変なものなんて入れてないわよぅ」
「凛君も無理して食べないで――」
「ただ、隠し味に私が厳選した珈琲を、」
「は? ちょ、なっ、珈琲!? 凛く――」





 はむはむはむはむはむはむうぅぅぅんっ!!!(効果音)





 流架が隣りの彼女の身(いのち)を案じるが前に凛の身体はびくんと跳ね、椅子からへなへなと崩れ落ちた。
 ああ……。
 真白のメイド服を纏う小柄な凛が背中を丸めると、それはまるで、眠りの白猫。

 そう、彼女はカスタードクリームに潜んでいたヤツ――ある意味、世界で唯一の凛の天敵“coffee”の手(?)によって撃沈してしまったのだ。





 ――合掌。




 ――。

 きせつをふくんだかぜが、ひんやり、わたくしのほほとかみをなでていく。

「――いいの? タクシー呼ぶわよ?」
「平気だよ、彼女は軽いから。ユウと違って」
「デショウネー」
「じゃあ、ご馳走様。新作が出るのを楽しみにしているよ」
「いいえー。遅い時間にありがとねん。凛さんの意見すごく参考になったわ。凛さんの意見“だけ”がすごく参考になったわ」
「うるさい」
「でもあれね。凛さんには悪いことしちゃった。ちゃんと家まで送り届けて看病してあげてよ? 目、覚ましたら謝っておいてね?」
「わかってるよ」
「……変なコトしたら駄目よ?」
「うるさい」
「でも、なんかいいわねぇ。ルカと凛さんの関係」
「……うるさい」





 からだにつたわるのはあなたのやさしいぬくもり。
 といきをおちつかせてくれるのはあなたのこどう。

「……桜の木か。寒そうにしている」

 しんどうがここちいい。

「この坂にはほとほと縁があるな……。だが、君の縁へと繋ぐきっかけでもあったのか」

 あなたのおだやかなこわねがここちいい。

「……ありがとう、凛君。俺のmaidenでいてくれて」

 あなたはいつも、はかないものとほんとうのものをきづかせてくれる。

「偶には、主人の背に寄りかかっていなさい」





 ――。

 うつりかわるきせつ。
 すすむじかん。

 ゆったりと。
 ただ、ゆったりと。

 あなたのこころがわたくしをひきよせてくれる。
 わたくしのしあわせはゆるがない。

 あなたにであい、
 なやみ、
 かんがえ、

 さいごにみつけたこたえがあるとしても、










 ――どうか、しんじて。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6571 / 斉凛 / 女 / 15 / 月白メイド】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 呂色主人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愁水です。
平素よりお世話になっております。
今回のご依頼はお任せということで、お届致します。

流架の身近を感じていただくような内容となりましたが、如何でしたでしょうか?
凛様の家に到着してからの展開はご想像にお任せ致します(

ご縁とご依頼、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2016年11月28日

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