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『 その愛の先 』
小宮 雅春jc2177

 ベッドから体を起こし、サイドテーブルに置いておいたマグカップを手に取る。
 昨晩から降り続く晩秋の雨のせいか、部屋は冷えきって昼間だというのに宵の口の様に薄暗い。
 持ってきた時には熱かったほどの飲み物は完全に冷たくなっていたが、熱に浮かされた小宮 雅春(jc2177)の身体には丁度良かった。

「体調管理はちゃんとやってたつもりだったけれど……何か無理でもしたかな」

 体温を計りながら独りごちる声に返事はない。

「……」

 彼の人形はこういう時に限って何も語らない。
 いや、それが当たり前なのだけれど。
 あれはアウルが宿っているわけでも、何か仕掛けを施しているわけでもない。
『ただの』人形なのだから。

 計測完了の音に体温計へ目を落とせば、普段よりかなり高めの熱。
 インフルエンザや風邪も流行っていると聞くし、天魔との戦いも終わりが近い様だ。

「今日は休まないと……かな」

 熱でおぼつかない今の足で出歩けばそれ自体が芸に見えるかもしれないが、同時に気味が悪いという目で見られたりもするかも。と思うと部屋から出る気は失せた。

 早く治すためには食事しなければ。そう頭ではわかっているのだが食事をする気にはならなかった。
 誰かが見舞いに来るはずもない。
 きっとこのままいなくなっても誰も困らないだろう。いや、誰もその事に気がつかない可能性だって……

「僕は心のない人形と戯れているのがお似合いなのさ」

 自嘲を口にすれば空虚な心が広がった気がした。

「寒い……」

 体は火照り、熱いはずなのに震えていた。
 熱のせいか、冷えきった心のせいかは分からないままに雅春はベッドへ体を戻し体温を逃さない様に丸くなった。

『ラブアンドピース』

 いつも自ら謳っているその言葉が頭の中を駆け巡る。
 愛されなくても人を愛せるように。
 己の信念に似たそれさえ滑稽に見える。

「何かもっと大事なものが抜け落ちている気がするんだ……」

 いつもなら愛しい人形が何か言葉を返してくれる。
 彼にとっての『理想の反応』を。

「あはは、笑い話だ。こんなこと言ったって返事なんてこないのにね」

 乾いた笑いはやがて嗚咽混じりになり頬を伝う涙が枕へ染みを作っていく。

 雅春は知っている。
 彼が愛しているのは人形だという事。
 人形の反応は自分自身の演技だという事。
 人を愛せるように、そんな思いを抱きながら人形を愛している自分に時々矛盾も感じている。

 しかし、知らないものはどうしようもないのだ。
 愛し方を知らない。
 他人への言動に自分の心があるのかもわからない。
 知らないこと、わからないことはどう頑張っても出来ない。

「大事なものが何かなんて知らない。わからないんだ……」

 やはり返事はない。
 涙で滲んだ声は反響すらする事なく消えていくだけ。

  ***

 想定通り、理想の反応をしてくれる人形は、とても雅春にとって都合良く心地いい存在だ。
 そういうところを彼は愛している。
 また一方で本当に辛い時、残酷なまでに冷たく現実を突きつけてくる人形という存在もまた彼は愛している。

 常に一定の距離を保ち、それでもけして離れることはない。人形のその姿はどこか雅春自身に似ている様にも見えるかも知れない。

 もしそうだとするなら、人形への屈折したその愛の先にあるのは……。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jc2177 / 小宮 雅春 / 男性 / 29歳 / 悩める人形使い 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 小宮様初めまして。今回はご依頼頂き有難うございました。

 普段なら気にならない、目を向けない様な葛藤、体調不良だからこそ起こるだろう悪い方への思考の連鎖。そんなものを想像しながら書かせて頂きました。
 あと僅かの学園生活の中で少しでも小宮様の心が穏やかになります事切に願っております。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年11月29日

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