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『 スナイパーの心得 』
不知火 轍aa1641)&ゼノビア オルコットaa0626)&レティシア ブランシェaa0626hero001)&齶田 米衛門aa1482)&ウィンター ニックスaa1482hero002

「……ふー。ま、こんなところかな」
 不知火 轍(aa1641)が気だるげに溜息を吐きながら、ライフルの設置ポイントの小石を軽く足で蹴って取り除く。
「よう、こっちの準備はOKか? あっちは終わったぜ」
 傍らにゼノビア オルコット(aa0626)を連れたレティシア ブランシェ(aa0626hero001)が親指で自分の背後を指す。
 その指の先には遥か後方――おおよそ200mほど先に置かれた巨大な的が置いてあった。同心円状にいくつも色違いの縁が重なっている、いわゆる弓や銃の練習に使われる的である。ただ通常使われるそれと比べると相当な大きさ。円の直径は2mほどはあるだろうか。
「こっちも大体準備は終わったッスよ」
 ライフルの置いてある台座の揺れをチェックしながら齶田 米衛門(aa1482)が返す。
「……今日は悪いな、米衛門」
「こんぐらい、なんともね。そんがわり、来週の収穫手伝ってもらうがんな」
 気の置けない仲だからか、普段よりも若干だけ強い訛り口調で米衛門が笑う。
「……台座の上でやるのか?」
「ま、最初は基本からって奴だな。実戦ではこんなしっかりした足場を確保できることの方が少ないけどな」
 轍の疑問にウィンター ニックス(aa1482hero002)が答える。
「……ふぅん。……ん?」
 相槌を打ったところで上着の裾が微かに引っ張られていることに気付き振り向く。そこにはメモを片手にこちらを見上げるゼノビアの姿があった。
 メモには『どうして、銃……使おうと思った、です?』と手書きで書かれていた。
「……んー」
 どう返そうかと答えあぐねて頭を掻く。
「そういやそうだな。あんた、どちらかというとニンジャって奴だろ? 拳銃ならまだしも狙撃銃なんて滅多に扱わないんじゃないか?」
 ゼノビアの質問に乗っかってレティシアも疑問を口にする。
「……そうだね。まあ、そう難しい話でもないんだけど……」
 しばらく考えてようやく返答の言葉を絞り出して轍が喋り始める。
「……この間、知り合いの狙撃を手伝う機会があって……まあ、それはうまく行ったんだけど。……今後もそういう事があるなら経験しておいた方がいいかなって思って」
 以前高速移動する愚神を狙撃した作戦を思い返しながら言葉を選んでぼそぼそと話していく。
「手伝うって事はスポッターか?」
「……ああ、確かそう言ってたかな」
 スポッター、日本語にすると観測手。狙撃をする横で距離や敵の位置などを観測し、狙撃手へ伝えより正確な狙撃の補助とする役目である。
「一撃必殺! ……とは良く言うが、実際はチーム戦だ。仲間がポイントに引き付けたり、注意を逸らしたりな。信用する事が第一だぜ。観測手は特に重要だ」
 ウィンターがおどけた様子で観測手用のスポッティングスコープで轍の顔を覗き込む。
「観る。報告する。空間把握をする。これが出来りゃ上出来だ! 狙撃手が狙撃だけに集中できるようにするのが観測手の仕事だぜ?」
 スコープから視線を外し、ニッと笑いかける。
「……うん、だから知りたい。狙撃の事も……できるだけ……」
 轍の言葉にゼノビアが握り拳を作ってコクコクと頷く。自分の専門外の事でも積極的に学ぼうとするその姿勢に感銘を受けたらしい。
「いい心がけじゃねぇか。そういう気持ちは大事だと思うぜ」
 言いながらレティシアがゼノビアの頭に手を置いて微かに撫でるように動かす。ゼノビアは少しくすぐったそうにしてから、ライフルの台座の方へ歩いて行った。
「まずはお手本だな。よく見とけ」
 そう言って、台座に上がって自分のライフルを構える。
「まず、ライフルってのは一人一人の体格に合わせてスコープの位置と角度を調整してある。だから他人のライフルをアドリブで使うってのは結構難しい。今置いてあるのはチビの体に合わせてある奴だ。俺が使う時はまた違うライフルになる。俺達は共鳴してもそれぞれの体のままだが、共鳴して体格の変わる奴はそれ用にスコープを調整しないと駄目だ」
「……僕は少し身長が伸びる」
「じゃあ、実戦で使うなら共鳴して調整した方がいいな。今日は体験だからお前に合わせるが」
「一応、事前にゼロインの当たりだけはやっといたっスよ。実践はまだッスが」
 ゼロインはスコープの位置調整の事だ。これがずれているとまるでスコープは役に立たない。ただ、一応撃たずにそれなりに辺りを付ける用の器具があり、轍は米衛門の協力してもらって事前にそこまでは済ませていた。
「まあ、基本中の基本だから今更言うこどでもねぇスけど、ライフルをたなぐ時に絶対やっちゃいげねのは、スゴープどご掴むごと。この角度がずれっとレンズが傾がっちまう」
「……うん、まあそうだな」
 レティシアが一瞬米衛門の言葉の解読に悩むが、実際にライフルを持って説明していたので何とか意味は理解できた。
「射撃体勢もいろいろだ。まずスタンディングポジション」
 直立した姿勢のままライフルを構えるゼノビア。そのゼノビアの要所を指しつつレティシアが説明を加えていく。
「銃床を肩に着けて、利き腕でグリップを支える。肩と一緒に頬を銃床に着けておくとブレも少ない」
「脇も締めて肘を体に当てた方が安定するぞ。あと、地味に忘れがちなのが目だ」
 レティシアに続けてウィンターが自分の目を指して補足する。
「素人はスコープを覗くときに逆側の目を閉じてしまいがちだ」
「……駄目なのか?」
「片目を瞑ると筋肉の緊張から視力がすぐに落ちる。スコープを覗くときは両目を開けるのが基本だ」
「……!」
 ゼノビアが『初耳!』というような表情でレティシアの方を見る。彼女の射撃の師匠は当然レティシア。そして、彼は見ての通り元より隻眼である
「あー、まあそういう事もあったな」
 レティシアがばつが悪そうに頬を掻く。
「勉強になったじゃねぇか。今日は来てよかったな」
「――!」
 誤魔化さないでとばかりに腕を振り回して抗議するゼノビア。
「はいはい。んじゃ、次行くぞ。ニーリングポジションだ」
 無理矢理先を促され、しぶしぶながら射撃体勢に入る。
 片膝を立て、その膝に肘をくっつけて銃を構える。
「スタンディングポジションに比べると肘を固定できるから照準を安定させやすい。動き回りながらも精密射撃をしたいという時には割と使える」
「んだすな。姿勢が低いがら敵さ発見されにぐいって利点もあるッス。勘のいい動物どご撃つとぎとがは良ぐ使うッスよ」
 自身の経験を思い返しつつ米衛門も付け加える。
「次はシッティングポジション。これは色々な構えがあるんだが……いちいち全部教えるのは時間かかるから、今回は一つだけ覚えろ」
 今度は尻を地面に付け足を浮かし、両膝にそれぞれ肘を付けて構える。
「両肘が固定されてる分、安定性はかなり高い。狙いをつけやすい反面、立ち上がりにくく咄嗟の回避行動が取りにくいのが難点だ。自分も敵の攻撃範囲内に入っているようならあまりやらん方がいいと俺は思う」
「……なるほど」
 確かに完全に座り込んでしまっている以上、立ち上がるにはワンアクション余分に必要だ。
「最後にプローンポジション。これも種類がやたらと多いが、今回は一番基本的なうつ伏せで狙う姿勢にするぞ」
 ゼノビアが台座に寝そべり、スコープを覗き込む。いわゆるスナイパーといって一般的に思い浮かべる射撃体勢である。
「言うまでもなく安定性は一番だ。超遠距離から精密な狙撃をする時はこれが一番だな。体勢が変えにくいのはシッティング以上だが、敵に狙われる面積も狭く敵の攻撃は当たりにくいし、そもそも敵の攻撃の範囲内でするような構えでもない。コツとしては……」
 言って、ゼノビアの腰付近から頭までススーっと指を動かし一本の線を引く。そして、それを少し曲げ今度は頭と銃口までを繋ぐ。その二本の線は若干「く」の字に曲がっていた。
「見ての通り体の正面に銃を構えない事だ。体の正面に銃を向けると、それ以上外側へは開かなくなる。若干内側に銃口を向けて、銃の射角を確保する事」
 ゼノビアが銃を左右に動かして、レティシアの言う事を実践して見せる。確かに体の正面が射角の限界で、それ以上は肩が邪魔で動きそうにない。
「今回はこの姿勢で撃ってもらう」
「距離は200mにしどいたッスよ。狙撃銃自体の射程はもっとなげども、リンカー用のAGWの最大射程は200もねぇがら、これ以上の距離を練習するのはあんま意味ねッス」
 AGWには実際に弾丸が届く距離と、それとは別にライヴスを保持し、対愚神・従魔用武器として運用できる距離に違いがある。今現在ライフルとして制作されているAGW兵器の最大射程は160m。ジャックポットであればこれを二倍に伸ばす事も可能だが、轍の相棒の英雄のクラスはシャドウルーカー。現状、それを超える射程を練習する意味は薄い。
「さ、お手本だ。これを外すと恥ずかしいぞ」
「――」
 射撃前にわざわざプレッシャーをかけてくるレティシアに若干カチンと来るが、すぐに平静を取り戻しゆっくり呼吸を整える。
「射撃をする時には深呼吸をして、少しだけ吐いて止める。肺の中が満タンでも空っぽでもいけねぇ。ま、70%ってところか」
 レティシアの言うとおりにゼノビアの呼吸が止まる。そして、数秒の沈黙の後、轟音と共に銃口が火を噴き鉛の弾丸が200m先の的の中心を貫いた。
「ビンゴ。上出来だ」
「――!」
 大人しいゼノビアにしては珍しく、立ち上がって両手でグッと拳を握る。何気に結構プレッシャーだったらしい。
 普段は教わる側が多い。こうして教える側、しかもお手本として扱われるのは不慣れだった。
「呼吸を止めたら十秒以内に撃て。無理ならもう一回呼吸だ。苦しいと集中が乱れるからな。ま、一回やってみな」
 ゼノビアに台座から降りるように手招きし、その後米衛門が轍用にゼロインした狙撃銃を設置する。
「……わかった。やってみる」
 指示に従い、台座に寝そべりスコープを覗き込む轍。無論先ほどアドバイスされた通り、両目を開けてだ。
「覗き込んだらまず視界のチェックだ。縁の方がぼやけてないか?」
「……少し」
「なら、スコープと目の距離が合ってねぇ。顔の位置を調整しろ。見たところ、多分近すぎだな」
「……うん、見えた」
 指示通りに顔をスコープから離すとレンズの中の光景がくっきりと映るようになる。
「……結構揺れるね」
「手元の1mmの誤差が向ごうでは1m、10mの誤差さなる。遠だば遠いだげ揺れはでがぐなる」
「……なるほど」
「ま、呼吸を止めりゃ揺れもある程度収まる。そして、止めたら照準が的を捉えたタイミングでトリガーを引く。引く時はゆっくり、優しくだ。急いで引くとそれだけで銃身が揺れる」
 言われた通り大きく息を吸い、そして少しだけ吐き息を止める。微かに揺れる照準が的の中心を捉えた瞬間に――引き金を引く!
「……!」
 炸裂音と共に反動が銃身を通って肩にぶつかる。
「……ん、どこ?」
 反動を受け止めてから改めてスコープを覗くが、的の中心にはゼノビアの開けた一つだけしか弾痕が見当たらない。
「ちょっと右だ」
 スポッティングスコープを覗いていたウィンターが声を掛ける。
 言われて銃身を少し右にずらすと、確かに弾痕が一個空いていた。大体30cmほどのズレだろうか。
「……」
 思った以上に視界が狭い。それに撃った瞬間の反動でどうしてもスコープがずれてしまい、着弾の確認が難しい。ウィンターに言われなければ、自分の弾がどこに着弾したのかを確認するのも一苦労だっただろう。
「……なるほど、これが観測手か」
 体験して分かる観測手の重要性。それが知識だけではなく実感として理解できた。
「ま、観測手の心得は後でな。今は調整だ。ちゃんと中心を狙えた自信はあるか?」
「……一応」
「なら……ターレットを――ああ、スコープについてるネジな、今は上の方。それを左に、ええと21クリックだ」
「……これか」
 手元の風速計に目を通しながら告げられたウィンターの言葉にスコープから目を離し、言われたとおりにネジを捻る。
「これでゼロイン完了だ。もう一回撃ってみろ」
「……了解」
 再びスコープに目を通し、同じ手順で狙いを定め引き金を引く。
「……! 当たった」
「うむ、なかなか見どころがあるな!」
 今度は狙い通り的の中心を射抜くことに成功する。
「時間に余裕のある時は今のようにターレットを捻ってスコープの角度を調整する。クリック数の計算は非常に面倒くさいので省略するぞ。後で調べておけ」
 スポッティングスコープから目を離してウィンターが説明する。そして、それにレティシアが続いた。
「ただし、実戦でそんな余裕のある事は少ねぇ。実際には『30cm右にずれてるなら、標的の30cm左を狙う』って場合がほとんどだ。どちらにせよ、どの程度標的から外れたのかって情報は最重要だ」
「……それを補うのが観測手、か」
「そういう事だ。狙撃がチームワークだというのが分かっただろ? じゃ、次は観測手の説明だ」
 得意げにウィンターがニッと笑った。

「やってみて分かったと思うけど、狙撃手は非常に視界が狭い。だからといっておいそれと銃を振り回して周りを確認するってわけにもいかねぇ。そこで狙撃手の視界を補い補助するのが観測手の役割ってわけだ」
 ウィンターが轍にスポッティングスコープを渡しながら説明をしていく。
 今、台座には代わりに米衛門が先ほど轍が使った狙撃銃そのまま構えて寝そべっている。
「今は的が動いていないから狙撃手も見失う事はない。だが、動いている標的相手ではそうもいかん。観測手が逐一どのように敵が動いているのかを伝える必要がある」
 轍が受け取ったスコープに目を通す。
 なるほど確かに先ほどの狙撃銃のスコープに比べると大分視界が広い。
「あと、距離や風量を調べるのも観測手の重要な仕事だ。特に風量は逐一変化するからな。細かくチェックしなきゃならん」
「……忙しいね」
 敵を見失わない、着弾点を見つける、距離を測る、風を確認する。その全てを並行して行わなければならない。
「それだけじゃねぇぜ。こっちを見な、轍」
「――!」
 レティシアに促され声のする方に視線を移し、思わず息を飲む。
 そこには米衛門の首筋にナイフを突きつけるレティシアの姿があった。
「狙撃手は視界も狭いが、それ以上に照準を合わせる事に神経を集中してる。だからこういう風に、気づかないうちに接近戦に持ち込まれたら終わりだ。その警戒もお前の役目だぜ」
「……なるほど」
 轍の目を見て、その重大さを感じ取ったのを確認しレティシアがナイフをしまう。
「ま、だから最近は狙撃手と観測手の2人組より3人で組む方が多いな。それだけ観測手はやる事が多いって事だ」
「作戦の是非、つまり前線の仲間の命を狙撃手は背負っている。そして、その狙撃手の命は観測手が背負っている。気を抜く瞬間は一瞬もないぞ」
 何故か若干楽しそうにウィンターが告げる。口調の割りに話している内容は非常に重い。
「ま、何事も習うより慣れろ。この銃は轍用さゼロインしでっから一発目はまず外れるべ。おいも長距離射撃は久々だしな。それで流れどご感じどってみ」
「……ん、わかった」
 スコープを覗いて狙いを付ける米衛門に返事を返す。
「そいだば……行ぐぞ」
 宣言と同時に米衛門の構えた銃が火を噴く。200m先の的に空く穴。
「――左に15cmずれた」
「了解!」
 米衛門はあえて自分が空けた弾痕は探さずに轍の報告を信じ、照準を右に15cmずらしてすぐさま二発目を撃つ。
「――行き過ぎた。右に2cm、上に3cm」
「風量」
「……風量4時方向に3m」
 ウィンターの指摘に手元の風力計に目を落とす。
「あい!」
 ――三発目。
「……お、当だったッスな」
 的の中心を貫いた弾痕を確認して米衛門が顔をあげる。
「……本当に忙しいな」
「しかしまあ、初めてにしては上出来だろ。こういうのは慣れだからな」
「……うん、何となく雰囲気は掴めた、かな。次は上手くできると思う」
「お、言うねぇ。じゃあ、さらに課題を追加してやろう。風に関しては出来ればこの場の風だけじゃなく着弾点の風が分かればなおいい。といっても、そこへ風力計をもった人間を配置できることなんてまず無い。だから風景から大体の風の方向と強さくらいは推察できるといいぞ」
「……木の枝とかそういうのを見るって事ね」
「そうだ。あとゼノビア殿のような艶やかな女性の髪なども参考になる」
 にこやかにゼノビアに笑いかけながらウィンターが言う。なおゼノビアは突然の指摘に若干戸惑った様子で愛想笑いを返すのみである。
「そいで、どうする? もう少し練習しでみっか?」
「……ああ、そうだな。こうやって練習場を借りれる機会もそうあるわけでもないし、今の内にやっておきたい。また別の日に来るのも面倒くさいし……」
 やる気があるのかないのか分からない轍の言葉に満足そうに米衛門は頷き、再びライフルのスコープを覗き込んだ。

「うんうん、いいんじゃないか? 大分様になってきた……というか、かなりいい感じだと思うぞ」
「……そうかな。まあ、確かに慣れてきた」
 あれから30分ほどみっちり練習をしたところでウィンターが声を掛ける。朝から始まった訓練だが、既に正午を過ぎ時刻12時半頃へと移っている。
「したっけ少し休憩にするべ。流石においも少し疲れで来だ」
 長らくスコープを覗いていた反動で凝った肩をほぐしながら米衛門が立ち上がる。
「あ――」
 そのタイミングを見越してゼノビアが両手で抱えるほどもある大きな籠を持ってくる。
『差し入れ、持ってきた、です。簡単、ものですけど』
 そう書いたメモを見せてから籠の蓋を開く。そこには籠いっぱい詰まったサンドイッチが用意されていた。
「おお、素晴らしい! 可憐で優しく、思いやりがあるとはまさしく淑女という言葉に相応しい女性だな、ゼノビア殿は」
「――!」
 いきなりウィンターに両手を握られ驚いて身を震わせるゼノビア。
「どうだろう、今夜一つ食事にでも――」
「おい、おっさん。流石に年齢差が犯罪だぞ」
 ウィンターの工場の途中、その脳天にレティシアの肘鉄が叩き込められる。
 その隙に緩んだ手を解き、ゼノビアが小走りで米衛門の影に隠れる。
「犯罪とは失礼だな。大体、某達英雄には年齢などあって無いようなものだろ? ゼノビア殿と某が同年代だという可能性もある!」
「んなわけあるか、鏡見ておけ」
 たはは、と困った様子で米衛門が苦笑いを浮かべる。
「ま、兄さんの言う事は半分ぐらい流していいッスよ」
「兄弟まで酷いな。大体、某はゼノビア殿の心配もしているんだ。戦場に出るにはまだ筋力が足りない。特に二の腕!」
 グッと力こぶを作りながらウィンターが熱弁する。
「リンカーはライヴスで強化がされるとは言ってもやはり基本は筋力だ。銃の保持に使う筋肉はあればあるほどいい。筋肉の疲れはそのまま命中率に直結するぜ」
「……そりゃあそうだが」
「……!」
 レティシアがウィンターの言に流されつつあるのを感じ、ゼノビアの口があんぐりと開く。
「そして、筋力を生むのは食事だ。どうだ、何の不自然もない完璧な理論だろう」
「確がに。前々からオルゴットさんの食いもんは気にはなってだッス。ちゃんど肉っこも、かねもねッスよ?」
 いつの間にか米衛門までゼノビアの食事談議に加わっている。
 あれ、何か変な流れ? おかしいな、何でこんな事に……。
「んじゃ、これが終わったら肉でも食いに行くか?」
「……僕は奢ってもらえればどこでも」
「なんでだよ、むしろお前が奢る流れだろうがよ」
「レディを連れて焼肉というのも雰囲気がな、ステーキとかハンバーグとかの方がいいんじゃないか?」
「だば、良い店知ってッスよ。知り合いの農家が取引しでんだ。うめぇッスよぉ」
 トントン拍子で話を進めていく男たちをポカーンを見上げるゼノビア。
(でも……)
 ふと視線を轍の方へと移す。
 自分に直接関係ない分野でも学ぼうと今日のこの場を生み出した轍。少しでも誰かの為に前に進もうとする姿勢。それは彼を成長させ続けている一つの大きな要因だろう。
 一つ決意をし、急いでメモに文字を書き、それを全員に見えるように掲げる。
『分かりました! 私、お肉食べる、です!』
 そのゼノビアの行動を4人がキョトンとした顔で見つめ、そしてその妙に真剣な表情に思わず笑みが零れた。
「では、決まりだな。場所は任せるぞ、兄弟」
「任されただッスよ。最高の肉っこ、かしぇるっス」
「だとよ、良かったな。少しは背が伸びるんじゃないか?」
「――!」
 頭を撫でるレティシアに、からかわないで―とばかりに腕を振り回す。
「……ま、こういうのもたまにはいいか」
 ボソリと呟きながら轍が放置されたライフルに視線を移すと、何となく『俺も連れて行けよ』と言っているような気がした。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1641 / 不知火 轍 / 男性 / 21歳 / 生命適正】
【aa0626 / ゼノビア オルコット / 女性 / 16歳 / 命中適正】
【aa0626hero001 / レティシア ブランシェ / 男性 / 27歳 / ジャックポット】
【aa1482 / 齶田 米衛門 / 男性 / 21歳 / 防御適正】
【aa1482hero002 / ウィンター ニックス / 男性 / 27歳 / ジャックポット】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、弐号です。
というわけで、狙撃練習会でしたが、如何でしたでしょうか。
ちょっと説明が多すぎた感もありますが、楽しんでいただけていれば幸いです。
おかげ様で、自分も狙撃についてとても詳しくなれました。
こういう機会があると自分の知識も広がって面白いです。
それでは、また機会があればご利用して頂ければと思います。
ありがとうございました!
VIG・パーティノベル -
弐号 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年11月29日

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