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『―エキドナの胎動・4― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 分厚い岩盤を突き破り、眩いばかりの光と共に飛び出して来たもの。
 高エネルギー体か、魔術で作り出した光球か……と、その周囲に居た者は皆、注意深くそれを見守った。
「な、何が起こったんだ?」
「ひでぇ、ダンジョンの出口がメチャクチャだよ」
 クエストをクリアすれば、その時点でプレイヤーは通常稼働に戻る。つまり、ダンジョンの外観を客観視する事が出来るのだ。クエスト参加中のプレイヤーはそれぞれ別プログラムで動いているが、洞穴が崩れる等の外的要因が加わった場合、各々の視界にその様子がフィードバックされるように出来ている。例えば誰かが天井を崩したりすれば、それは参加者全員に影響する事になってしまう、という訳である。
「まだ出て来てない奴、何人か居るだろ?」
「生き埋めになってるんじゃないか? 大丈夫か?」
 既にゴールしたプレイヤーたちが、他の参加者の安否を気遣う。が、そこは流石の公式イベント。運営がしっかり仕事をしたようで、このハプニングによる犠牲者は出ていない旨の通知が即座に発表された。
「無事は無事なんだろうけど……あれじゃ通れないんじゃないか?」
「未だゴールしていないのは、一人だけみたいだぜ」
 と、その呟きを聞いてギクリと冷や汗をかく二人のプレイヤーが居た。黒いローブに身を包んだウィザードの少年と、ガルダに扮した少女――瀬名雫である。
「あの光球も気にはなるけど……」
「あぁ、まだ出て来ていないプレイヤーって云うのは……彼女の事だろう」
 そう、スタートは皆とほぼ同時だったのだが、胃袋の中で肉体を溶かされ、足止めを食うというハプニングに見舞われた為、進行が著しく遅れていたプレイヤーが一人いるのだ。それは……ラミアに扮する少女・海原みなもであった。
「もうクリアした後なんだから、あの洞穴を逆に戻って散策する事は出来るでしょ? 探しに行こうよ!」
「無駄だ。逆戻りは出来るけど、クエスト中のキャラは別プログラムの中に居る。だから見付ける事は出来ないよ」
 そんな……と、雫は思わずウィザードに食って掛かる。何か方法は無いのか、と。しかし、彼も唇を噛んだまま、俯いて首を横に振るだけだった。
 未だゴールはしていない、しかし落盤の犠牲にもなってはいない。つまり、洞穴の中に居るであろうみなもは出口を塞がれたまま、リタイアするしか無いという事になる。
「……とにかく、待とう。中で生きている事は確かなんだ、必ず出て来るから」
 雫の肩をポンと叩きながら、ウィザードが震える声で絞り出すように呟いた、その時。先の光球を観察していたプレイヤーの一人が、異変に気付いて叫び声を上げた。
「ひ、光の中に誰か居るぜ!」
 え? と、ウィザードと雫は思わず顔を見合わせた。彼らは似たようなシチュエーションを、数日前に体験していたからだ。
「まさか……?」
「いや、もしかして!」
 二人はほぼ無意識に、その球体の真下まで走り寄って行った。しかし、激しい光に包まれたその中心は、どうしても覗く事が出来ない。
「くそっ、サングラスでもあれば!」
「魔術で作れないの?」
「無茶を言うなよ、魔術だって万能じゃないんだぞ」
 確かに、光球の中心部に人影のようなものは見えている。しかし、それが何であるかは分からない。やがて痺れを切らした雫は、ほぼ無意識だったのだろう。ウィザードを抱えて飛翔し、球体の中心に向かって行った。
 周囲からは『危ない、戻れ!』と叫ぶ声も聞こえたが、そんなものはお構いなしである。流石は天下無敵の女子中学生、と云うところであろうか。
「真ん中って、こっちで合ってるー!?」
「俺にだって分からないよ! とにかく真っ直ぐ飛べば、真ん中にぶち当たるから!」
 視界が殆ど無い状態で、雫は真っ直ぐに飛んだ。最初に勢いを付けた時、彼女は間違いなく光の中心に針路を取っていたので、角度がズレたりしなければ真ん中に行けるだろう……と云う、要するに『当てずっぽう』で飛んでいるだけだったのだが。
 しかし、その博打は、どうやら雫の勝ちのようであった。彼女は見事に光球の中心へと辿り着いたのだ。そして彼女は、眩い光の中に、一瞬ではあるが見知った顔を見た気がした。
「みなもちゃん!?」
「ほ、本当か!?」
 と、此処で気が抜けてしまったのだろうか。それとも、高エネルギーに抵抗しきれなくなったのか。雫はウィザードを抱えたまま、放物線を描くように地面へと落下していった。ウィザードが咄嗟に機転を利かせて飛翔魔術を使用した為、地表への激突は辛うじて免れたが、流石に二人分の体重を支えるのは無理だったのだろう。着地の際、彼は見事に雫の下敷きとなっていた。

***

「二人とも、大丈夫?」
「大丈夫、大した事は……って、えぇぇ!?」
 軟着陸のショックで一瞬意識を手放していたウィザードが、その声の主を見て仰天した。
 然もありなん、そこには先刻、高エネルギーを放出しながら注目の的となっていた彼女――みなもが居たのだから。
「驚かせちゃって、ゴメンね。でも、あたしも未だ混乱してるんだよ。色々とあってさ」
「……出来れば、何があったのか説明して欲しいかな?」
「その前に、そこからどいてくれると助かるんだけど」
 未だ自分の上に乗っかったままの雫に静かなツッコミを入れながら、ウィザードは苦笑いを浮かべていた。
 そして、二人が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、みなもがゆっくりと説明を始めた。周囲には、洞穴の出口付近で騒ぎに巻き込まれたプレイヤーが数名残っていたが、それでも構わずにみなもは、思い出せる事を全て語った。

*** 

「じゃあ何? 卵の殻を破って、エネミーたちを吹っ飛ばした後の事は、全く覚えていない……と?」
「うん……気が付いたら洞窟の外に居て、一瞬だけ雫さんと……あなたが見えて。それで『ハッ』と我に返ったんだよ」
 何だそりゃ? と、周囲のギャラリーたちも首を傾げている。然もありなん。それはつまり、古い肉体を一度捨てて、新たな身体へと生まれ変わった……つまり、転生体となった事を意味するのだから。
 しかし、みなもの外見には特に変化は見られない。そして、彼女自身にもその自覚は無いのだ。
 だが、それではあの高エネルギーを放ちながら洞穴の出口を吹き飛ばした、あの力についての説明が付かない。あれは一体、何だったのだ? という記者会見さながらの質疑に晒されて、みなもは困惑した。
「ゴメンナサイ……本当に分からないんです。と云うか、何が起こったのか、私の方が訊きたいぐらいなんです」
「ふざけるなよ、アンタ! あれだけの騒ぎを起こしておきながら……」
 ゴーレムの姿をしたプレイヤーが、ズイと詰め寄ってくる。その目線には、明らかな敵意が含まれていた。
「やめて! 本当に私……」
 みなもが無意識の回避行動に入った、次の瞬間……周囲は水を打ったような静けさに包まれた。
 ゴーレムがラミアに攻撃すると、誰もが思っただろう。しかし逆に、彼は白目を剥いて瀕死の状態になっていたのだ。
「な、何が起こったの? あたし、ただ避けようとしただけなのに……」
 彼女はただ、ゴーレムの拳を防御するために左腕で顔をガードしようとしただけだったのだ。しかし、その相手に瀕死の重傷を負わせる事になってしまった。
 その事実に、一番驚いていたのは……他ならぬ、みなも本人であった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年12月05日

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