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『戦いの毒、言葉の薬 』
キヅカ・リクka0038)&結城 藤乃ka1904


 激戦に次ぐ激戦は、身体にも心にも見えない傷を付けていく。キヅカ・リク(ka0038)が入院したのは、しなやかな鋼も圧力を加え続ければ折れるように、無理がたたったからだった。
 療養所や病院というものは、どうして静かな場所に置かれるのだろうか。風のそよぐ音、時折聞こえる小鳥のさえずり、季節によっては虫の声……風情があるといえば聞こえはいい。しかし、病院の静けさは、動けない身体の上から心を蝕んでいく。それは気づかぬ間に染みゆく毒のようなものだ。
 ただでさえ傷ついている心と身体に、毒はよく染み入る……。


「まったく、思いっきりやっちゃったのね」
 ふぅとため息まじりに、結城 藤乃(ka1904)はリクを見下げてそう告げた。リクは身体の大部分を包帯に巻かれていた。その隙間からは痛々しい傷跡が見える。
 リクは表情をかたくして、黙って藤乃の言葉を聞いていた。木の床は藤乃が歩くたびに軋み、部屋の壁は清潔ながらも物寂しさがあった。
「病院って殺風景よね。花瓶と花でも持ってくるべきだったかしら」
 ふんふんと頷きながら、窓の外を見る。開けた草原に風が走っていた。
「身体のついでに、心も癒せそうだね」
「……なにさ」
 藤乃から視線をそらし、リクも窓の外を見る。表情は変わらず険しい。持ってきた茶の紙袋からりんごを取り出す。赤い皮にうっすらと光が反射していた。
「食べる?」
 ざっくりとナイフを用いて皮を剥き、切り分けたりんごを皿に並べる。サイドテーブルに置いてみるが、リクは不遜な顔を見せていた。
 いつもなら受け流すような笑顔の一つでも浮かべてみせる。相当参っているみたいだ、と藤乃は頭を掻いた。ベッドの脇に立って、もう、と息を吐く。
「いつまで、そう不機嫌な顔しているのよ。たまには休むのも大事なんだからね」
 身体は資本だの、健全な精神は健全な肉体に宿るだの……それらしい受け売りを並べていく。リクはいつも以上に余裕がなさそうだった。重体となって休むことにすら、自己嫌悪を抱いている。
 藤乃は、リクはさ……身体の怪我以上に重篤な症状があるみたい、と前置きをした上で、
「まだ自分がやらなきゃ病患ってんのね」
 藤乃は呆れた表情で告げた瞬間、リクの瞳に怒りが宿るのをみた。藤乃が次の言葉を吐くより先に、リクが静かに声を上げる。
「あんたは偉そうに言うけれど……結局なにかしたのかよ」
 睨みつけるように藤乃を見上げ、顔に怒りの感情をにじませていた。声色は感情の高ぶりを押さえきれず、やや上ずっている。
「何かって……なにさ?」
 のらりとかわそうとした言葉と視線から、リクは再び避けるように顔を背ける。包帯が巻かれた自分の手を見ながら、堰き止めていたものが溢れ出してくるのを感じていた。
「大人はいっつもそうだ。子供に結果ばっかり求めてその癖、何もしない」
 リクの手が微かに震えている。
 藤乃は口を挟まず、じっと聞いていた。次第にリクの口調は感情の昂ぶりを乗せて、荒く、大きくなっていった。
「目の前の問題押し付けて、一体どんだけ俺達ガキが泣かされてんだよ!」
 リクは自身の視界が歪んでいるのを感じていた。悲しみでなくとも、涙は出る。
「もうそういうのうんざりなんだよ! でも、あんたらかわんねーじゃん。だから今死ぬ気でやってんだよ……いい加減解れよ!!」
 最後の叫びは、嗚咽に近い響きをにじませていた。涙を落とすことなく、言い切り、リクは乱れた呼吸を落ち着かせようと大きく息を吸った。鼻腔をりんごの香りが微かにくすぐる。
 積み重ねてきた、大人への不信。煮えたぎったマグマのように、地下に潜んでいたそれをリクは噴出させた。落ち着きを取り戻せば、以前より感情は冷えて固まる。
「あんたに言っても……意味ないよな」
 聞こえない程度の小さな声量で、しかりと呟く。残ったのは、藤乃は何もしてくれはしないという諦観だった。冷めた表情で、藤乃を見上げてリクは瞬きをした。
 藤乃は優しくほほ笑みを浮かべ、リクと視線をあわせていた。
「リク」
 名前を呼ばれ、リクは反射的に居住まいを正した。藤乃が伸ばした手が、リクの頭に触れる。ぽん、ぽんっと暖かい手のひら頭を撫でる感触が伝わってきた。
「リク……思考錯誤しながら未来に思いをはせるのが、君たち若者がすべき事だよ」
 藤乃は優しい声色で、リクにいう。説教でもなく、諭すようでもなく……ただ思いを吐露する。
「それを結果に、未来を繋ぐのは本来私達大人の役目だ」
 大人、という言葉の重みがグッとました気がした。過去のトラウマを引きずり、傍観者で居続けようとしてきた。それでいいのかと自問自答を繰り返してきた。一歩を踏み出す勇気というやつが、自分には出せなかった。
「キミの怒りは間違ってない」
 リクの重体を聞いた時、藤乃は悔いた。他の大人が守らないなら、自分が守るべきではなかったか。他ならぬ自分が、リクの側にいるべきではなかったか。
 かつて、子供だった私の手を取った上官の姿が脳裏をよぎる。私もリクの本音を引き受けて、前に進もう。
「間違ってないから……私は大人の役目に戻るよ」
 変わらないのは簡単だ。何もしなければいい。
 けれど、変わらなかったことに後悔するくらいなら……変わらなければならない。
「今更だけどさ、少しは頼ってくれると、おねーさんも嬉しいな?」
 もう一度、リクの頭を撫でるようにわしゃわしゃと髪をかき乱す。ゆっくりと手を離すと、少し気恥ずかしさがこみ上げてきた。
「……それじゃ、お大事に」
 最後は静かに告げて、珍しく真面目に仕事へと向かうべくドアノブに手をかけた。俯いていたリクが、一言、ごめんと見送りの言葉を呟く。
「りんご」
 扉をあけながら、藤乃はサイドテーブルの上を指差す。
「色変わる前に食べてよね?」
 返事を待たずして、藤乃はぱたんと扉を閉めた。静寂が病室内を包み込み、りんごの甘い香りだけが残る。
 リクの心から毒気は抜けていた。つまみ上げたりんごを一欠片、口へと運ぶ。しゃくりと小気味よい食感を歯で感じながら、リクは窓の外を見る。
「……甘い」
 自分でも頬が緩むのを感じながら、リクはしっかりと今を味わうのだった。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【キヅカ・リク(ka0038) / 男性 / 18 / 人間(リアルブルー) /機導師】
【結城 藤乃(ka1904) / 女性 / 23 / 人間(リアルブルー) / 猟撃士】
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2016年12月09日

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