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『がおぅ堂の、おしごと体験記 』
虎噛 千颯aa0123


 ●REC

 ビデオカメラのフレームの中に、幼い姉弟が仲良く並んでいる。
 お姉ちゃんは紫 征四郎(aa0076)、弟は虎噛 千代(jb0742)――その名を見てもわかる通り、血の繋がりも戸籍上での繋がりもないが、二人は実の姉弟のように仲が良かった。

 今、お姉ちゃんの征四郎は女の子らしくカメラの前で髪型や服の乱れを気にしている。
「だいじょうぶですか、おかしくないでしょうか……え、もうカメラまわってるのですか!?」
 それならそうと早く言ってと、カメラを構える虎噛 千颯(aa0123)に鋭い一瞥をくれた征四郎は、最後に前髪を軽く整えて、改めてカメラに向かった。
「きょう征四郎は、トラガミさんちにおとまりに来たのです」
「でしゅー!」
 千代ちゃん(三歳)は何でもお姉ちゃんの真似をしたいお年頃。
 整える必要もなさそうな髪を同じように撫でつけて、元気に繰り返した――ただし語尾だけ。
「そしてきょうの征四郎は、いつもとちがうのです!」
「でしゅー!」
 いつもはお客さんとしてこの駄菓子屋「がおぅ堂」を利用する立場だが、今日はその逆。
「なんと、征四郎はがおぅ堂の一日てんちょうをまかされたのです!」
 ふんすっ!
「もちろんチヨもいっしょなのですよ!」
「でしゅよー!」
 一日店長・一号と二号、二人あわせて「てんちょーず」!

 というわけで、日頃店番をしている白い虎のひとは本日お出かけ中。
 そこにたまたま遊びに来ていた征四郎が、代わりに店番を務めることとなった次第である。
「あ、俺ちゃん別に店番やりたくないとかサボって楽したいとか、そういうのじゃないからね!」
「とうぜんです」
 訊かれてもいないのに言い訳を始めた本来の店主に、征四郎は容赦なく釘を刺した。
 本日、征四郎の任務は店番だけではない。
 この店主がサボらないように、厳重に見張るのも仕事のうちなのだ。
「サボったらめっ、ですからね!」
「くぅっ、俺ちゃんそんなに信用ないの……っ」
 膝を抱えて床にのの字を書く店主。
 だが仕方ない、日頃は英雄に任せきりで、征四郎は彼が働いている姿など見たことがないのだから。
「ちよちゃんは知ってるよね、パパちゃんと働いてたよね!」
「んー……ちよ、しやなーい」
 それはまだ、英雄がこの家に来る前のこと。
 千代は見ているはずだが、まだ幼い彼に当時の記憶がないのは無理もない。
「商売のイロハを教えたのは俺ちゃんなのに……っ」
 しかし嘆いていても始まらないと、気を取り直した千颯はすっくと立ち上がった。
「よろしい、ならば見せてやろう……この俺ちゃんの本当の姿を!」
 はい征四郎ちゃん、カメラ交代してねー。
 ちゃんと撮るんだよー。

 まずは台所でお茶を用意します。
 次に店から適当なお菓子を持って来ます。
 最後に定位置である畳部屋の縁に座布団を敷いて座ります。

「……それで、どうするのです?」
「お茶とお菓子を楽しみながらテレビを見つつ、お客さんを待ちます」
 以上!
「……だがしやさんって、とってもラクなおしごとなのですね……」
「あ、いや、今のは冗談だからね征四郎ちゃん!」
 本気にしないでね、今からちゃんとお仕事するからね!
 それと店から持って来たお菓子の代金はちゃんと後で払うから!
「とうぜん、なのですね」
「でしゅね」
「……はい……」
 それでは気を取り直して、今度こそちゃんとお仕事するよ!
「お客さんがいない時は……ちよちゃんとお店やさんごっこで遊びます!」
「パパおしごとちゃんとしてくらしゃい!」
 あ、怒られちゃった。
 もちろん今のも冗談ですよー。
「……えーと、まずは帳簿で昨日の売り上げを確認しまーす。在庫が減ってるものは問屋さんに電話で注文しましょうーってことで征四郎ちゃん、やってみようか」
「えっ、征四郎がやるのですか?」
「これも店長の仕事なんだぜー、ほら何事も経験って言うし?」
 注文する品物はこれとこれ、数はこれだけで、電話番号と店の名前はこれね、担当の名前はこれ……と、チラシの裏にメモを書いて征四郎に渡す。
「き、きんちょうするのです……」
 征四郎は再びカメラを千颯と交代、傍らに置かれた黒電話に手を伸ばす。
 店がレトロなら電話もレトロ、初めて見た時にはダイヤルの回し方もわからず、ディスプレイがないことにも驚いたものだが、今はもうその扱いにも慣れてきた。
「せーしろねーたん、がんばえー」
 千代の声援を受けて、征四郎はゆっくりとダイヤルを回す。

 じー……こ、じー……こ……
 ぷるるるる……がちゃっ

「……あ、もしもし、えと、あの……が、がおぅ堂ともうします、い、いつもおせわになっているのです……え、あ、きょうは、一日てんちょうをまかされているのです……はい、え、えと、ちゅうもんは……」
 慣れない会話にしどろもどろになりつつも、何とか無事に発注完了。
「きょうのごごには、とどけてくれるということなのです」
「うん、ありがとう、よく出来たぞー」
 千颯は頑張った征四郎の頭をなでなで、応援を頑張った千代の頭もなでなで。
「それにしても、いがいだったのです」
「ん、何が?」
「征四郎は、おみせが買うおかしはもっと安いとおもっていたのですよ」
「ああ、仕入れの値段か。けっこう良い値だろ」
 こくりと頷き、征四郎は少し心配そうな顔になる。
「これだと、ひとつ売れてもぜんぜんもうからないのですね……」
「うん、だから薄利多売って言って、たくさん売るんだ。一個1Gの儲けでも百個売れれば100Gになるだろ?」
「なるほど……でも、ひとりのお客さんが買ってくれるかずは、そんなにおおくないのです……ということは、うりあげをのばすには、お客さんのかずをふやさないといけないのですね」
 征四郎は考えた。
 日頃お世話になっているがおぅ堂の為に、何か出来ることはないだろうかと。
 売り上げを増やすには、どうすれば良いのか。
 普通は新聞にチラシを入れたり、ネットに広告を出したりするものなのだろう。
 しかし、がおぅ堂のお得意様は近所の子供達だ。
「がっこうにせんでんのポスターをはらせてもらうことは、できないでしょうか」
「んー、学校は難しそうだけど、でもポスターは良いな!」
「じゃあ征四郎とチヨでポスターつくるのです」
「ぽしゅたー!」
 これなら千代も手伝えるし、子煩悩パパの千颯も喜ぶし、店先に貼れば売り上げアップ(多分)で一石三鳥!
 さっそく画用紙とクレヨンを持って来た千代は、店に続く畳の部屋に陣取って前衛アート作品を作り始める。

「ほう、可愛いポスターが出来たねぇ」
 出来上がったものを店先に貼ると、さっそく本日のお客さん第一号がやって来た。
「あれは千代ちゃんの絵かな? 白い虎さんが上手に描けてるねぇ」
「こんにちは、いらっしゃいませー!」
「ましぇー!」
 千代と同じくらいの男の子を連れたおじいちゃん、孫ともどもがおぅ堂の常連さんで千代の友達、征四郎とも時々顔を合わせたことがある。
「はい、チヨが絵をかいて征四郎が字をかいたのです」
「そうかいそうかい、きっとお店も大繁盛だよ。今日はお嬢ちゃんがお店番かい?」
「はい、チヨといっしょに一日てんちょうをまかされました!」
 その千代は、いつもなら真っ先に店を飛び出してお出迎え、暫く店先で一緒に遊ぶのだが、今日はじっと動かなかった。
「チヨ、どうしたのです? おみせばんは征四郎にまかせて、チヨはあそんできていいのですよ?」
 しかし千代は真剣な表情でふるふると首を振る。
「ちよはおしごとちゅうなの、だかやきょうはあそべないの」
 ベッタベタに甘やかされて育ったワガママ怪獣の千代ちゃんだが、いつも店主の仕事のぶりを間近に見ているせいか、こと仕事に対する責任感と使命感はしっかり持っているようだ。
「んー……じゃあ、お客さまのおもてなしをおねがいしたいのですよ」
「おもて、なし?」
 かくりと首を傾げた千代は、暫く考える。
「うらがわは、りんご?」
 そのオモテじゃない。
 奥で千颯が悶絶キュン死状態になっているのは置いといて、征四郎は可愛い弟分の前にしゃがみ込んだ。
「お客さまに、おみせでたのしくすごしていただくのも、おみせばんのおしごとなのですよ? だからチヨのおしごとは、おともだちといっしょにあそぶことなのです」
「わかりましたー!」
 にっこり笑って、千代は友達のところへてててっと駆けて行く。
「ふむ、なかなか良いお姉さんぶりだ。それに店主としても筋が良い」
 その様子を見て、おじいさんが目を細めた。
「あ、ありがとうございます、なのです」
「じゃあ、これをひとつ貰おうか」
 差し出された少し高めのお菓子を袋に入れて、仕切りの付いた箱の中からお釣りを数えて。
 なおレジスターなどという近代的(?)な設備はない。
「まいどありがとうございます!」
 そこに差し出される、二つの小さな手。
「「これくだしゃいなー!」」
 小さなお客様の手にはそれぞれ、駄菓子がひとつと紙切れが握られていた。
「……え、こどもぎんこうけん……?」
 征四郎がこれはお店では使えないと言おうとした時、奥から千颯が声をかけてくる。
「小さい子はそれでいいんだよ、征四郎ちゃん」
 未就学児の利用も多いがおぅ堂では、こども銀行券が商品券の代わりになっているらしい。
 よく見れば、裏にはがおぅ堂のスタンプが押してある。
「店のサービスの一環でね、お代は保護者の人に先に貰ってあるから大丈夫」
 青い券は一番安いお菓子、黄色の券はちょっと高いお菓子、赤い券は特別な時だけに買う豪華なお菓子……豪華と言っても子供の小遣いで買える程度のものだけれど。
 よく見れば、店に並ぶ駄菓子が入った籠も三色に色分けされている。
「なるほど、この中からすきなものをえらべるのですね」
 これなら計算が出来ない子供でも、自分が持っている「お金」で何が買えるかわかるだろう。
 そういった工夫も、お客様へのサービスの一環。
 征四郎、覚えた(こくり

 その後はひっきりなしにお客が来て、一日店長さんは大はりきりで店を切り盛りする。
 ゆっくりお昼を食べる暇もないけれど、そこはちょっと千颯に代わってもらって――

 午後は一番で、問屋さんから注文した商品が届いた。
「お嬢ちゃんが電話をかけてくれた子かい?」
「はい、征四郎ともうします!」
 その名前と女の子らしい見た目のギャップに、おじさんの頭上に暫し「?」が浮かぶ。
 が、何やらひとりで納得した様子で頷いた。
「なるほど、最近の子はみんなキレイだからねぇ」
 何が「なるほど」なのか。
 もしかして男の娘だと思われたのだろうか……とは、征四郎は考えない。
 キレイと言われて素直に喜び、荷下ろしの手伝いを申し出た。
「征四郎はおもたいケースもはこべるのですよ!」
「それは頼もしいな。でも駄菓子屋の商品で重いものなんてラムネの瓶くらいなものだからね」
 そう言って、おじさんは征四郎の手にガムの入った箱と、酢イカの円い筒を置く。
「ちよも! ちよも!」
 そばでぴょんぴょん跳ねている千代には、麩菓子の入った軽い箱を。
「軽いけど大きいから、足元に気を付けるんだよ」
「はぁーい!」
 答えたそばから転びそうになったけれど、そこは間一髪でお姉さんが支えました!
 もちろん、代わりに持っていた荷物をぶちまけるなんていうドジは踏まないのです。

「こんにちはー」
 次にやって来たのは、駄菓子屋などにはあまり縁がなさそうな大学生くらいのお兄さん。
「いらっしゃいませ!」
「ましぇ!」
 お兄さんは店に来るのは初めてなのか、物珍しげにきょろきょろしながら、この二人に声をかけていいものかどうか迷っている様子。
 こんな時には、お店の人が先に声をかけてあげるもの、なのです。
「え、えと、何かおさがしでしょうか……っ」
「ああ、えーと……キミでわかるかな……ここの店主に食玩の取り置きを頼んでおいたんだけど」
「あっ! はい、うけたままっております!」
 思わず噛んだことにも気付かずに、征四郎は店主から預かったメモをパラパラとめくる。
「えっと、キラキラ☆スター戦士とぅいんくる……の、フィギュア付きチョコのお客様ですね!」
「……あの、ごめん、そんな大きな声で言わないでくれるかな……」
 他にお客さんいないから、まあいいけど。
「あっ、もうしわけございません! ……えと、では……これで、よろしいでしょうか?」
 征四郎は小さな箱がぎっしり並んだ外箱を丁寧に開けて見せる。
「うん、間違いないよ。これ、大きな店ではどこも品切れでさ……ほんと助かったよ、ありがとう!」
 お兄さんは征四郎が滅多に見たこともないような大きなお金をぽんと出して、箱の入った包みを大事そうに抱え、ほくほく笑顔で店を後にした。
「……これが、おとながい……!」
 噂には聞いていたけれど、現場に遭遇したのは初めてだ。
 しかも自分がそれを売るなんて。
「……お兄さん、とてもうれしそうだったのですね……」
 思い出すと、自分までほっこり温かい気持ちになる。
 お客さんが欲しいものを手に入れて嬉しくなるのはわかるけれど、お店の人も嬉しくなるものだとは思わなかった。

 お兄さんが帰った後は、小学生の集団がドヤドヤとやって来る。
「あれ、今日はトラさんいないの?」
「はい、お出かけしてますので、征四郎とチヨが一日てんちょうなのですよ」
 子供達の買い物は小さな菓子が一個か二個程度、店の儲けに対する貢献度は低いけれど、やっぱり大事なお客様だ。
 それでも中には10個単位で買って行く猛者もいるけれど――
「あれ、オマケはないの? トラさんはいつも、10個買うと一個オマケしてくれるよ?」
「え、そんなことを言われても……」
 薄利多売の原則を学んだ征四郎としては、おいそれと頷くわけにはいかない。
 たくさん売っても、そのたびにオマケしていたら利益がなくなってしまうではないか。
 しかし、奥から千颯の声がかかる。
「いいよ征四郎ちゃん、気前よくあげちゃって!」
「え、いいのですか?」
「いいのいいの、気前よくサービスするのも、がおぅ堂のセールスポイントだからね!」
 一個の駄菓子を惜しんで客を逃がすより、少々自腹を切ってでもリピーターを確保すべし。
 これ商売の鉄則。
 なにより、オマケを喜んでくれるお客さんの顔が見たいじゃない?

「……だがしやさんも、たいへんなのですね……!」
 やがて一日の仕事が無事に終わり、がおぅ堂閉店のお時間。
 上がり框にぺたりと座り込んだ征四郎は、今日の売り上げを計算してノートに記入する。
「おっ、いつもより多いな!」
 可愛い看板娘と看板息子のペアは、ゆるキャラよりもお客さんの心と財布を掴む効果が高かったのだろうか。
「征四郎ちゃんは頼りになるし、ちよちゃんはカワイイし、これからも時々店番頼んじゃおうかな!」
 ほら、ゆるキャラさんにも休みが必要だし?
 それはともかく――
「今日は二人ともよく頑張りました。ご褒美に……俺ちゃんのハグあんどキッスをさしあげま……え、いらない? 征四郎ちゃんはともかく、ちよちゃんまで!?」
 そんな、今日は一日お姉ちゃんにべったりでパパ寂しかったのに!
 いや、仕方ない……普段はずっと独り占めできるのだから、ここは大人として我慢しなければ!
「では改めて、お菓子の詰め合わせセットをあげちゃうよ!」
 がおぅ堂で一番大きな袋に、店の商品から選りすぐったお菓子の数々をぎっしり詰めてみました!
「わぁ、ありがとうございます……!」
「あいがと、パパだいしゅきー!」
「でも、征四郎はこんなにいただいていいのでしょうか……」
 お店の経営の厳しさを垣間見た身としては、素直に喜んでいいものかどうか。
「いいのいいの、これでもバイト代にしたら少なすぎるくらいだからね!」
 それに大人の事情を気にしないのは子供の特権。
「さあ二人とも、ごはんの前にお風呂に入っておいで!」

「「はぁーーーい!」」

 本当はお風呂も一緒に入りたいけれど、今日は我慢の千颯パパでありました。
 後でビデオの鑑賞会しようね!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0123/虎噛 千颯/男性/外見年齢23歳/名誉店主】
【jb0742/彪姫 千代/男性/外見年齢3歳/てんちょーず二号(虎噛千代)】
【aa0076/紫 征四郎/女性/外見年齢8歳/てんちょーず一号】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
ご依頼ありがとうございました。

駄菓子屋さんの一日体験、お楽しみいただければ幸いです。

口調等の齟齬やイメージの違いなどありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
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2016年12月09日

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