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『幽霊山荘へようこそ! 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ジュード・エアハートka0410)&ユリアン・クレティエka1664)&エアルドフリスka1856)&フレデリク・リンドバーグka2490)&沢城 葵ka3114


 その日、アルヴィン=オールドリッチは旅行パンフレットをぼんやりと眺めていた。季節はハロウィン、南瓜のイラストとともに様々なツアーが紹介されている。
「…お?」
 ページをめくったアルヴィンの手が止まった。
 そこには、


『驚きの宿泊料、驚きの宿、驚きの光景――この秋、最高の「驚き」を貴方に』


 いかにも何かありそうな山荘の写真とともに、そう書かれていた。まさに驚きの連続、アルヴィンの心を大いに惹きつけるものだった。
「おおお……!」
 目を輝かせたアルヴィンは手早く荷物をまとめ、今日も今日とて不思議不可思議のために、犠牲者――もとい、友人を誘うべく家を飛び出した。



「しかし…なんとも言えないね、こりゃあ…」
 昼間にも関わらず、どんどん暗くなっていく山道――しかもまともに舗装されていない――を歩きながら、一行の良心、エアルドフリスは息を吐いた。
「大体、どうしてこういうシチュエーションを選ぶかね?」
「えー、ナンデ? 楽しいヨ?」
「楽しい楽しくないではなくてだな……」
「あれ? エアさんは俺と一緒じゃ嫌なの?」
「う……」
 ぼやいたエアにジュード・エアハートが拗ねたように言う。それだけでエアが押し黙るのだから、効果は抜群だ。
「パーパ?」
 その様子を見ながら、ジュードの背中にぶら下がるパルムのパムは二人の不思議な関係性を感じずにはいられない。
「でも、アルヴィンさんもよく見つけましたよね。隠れ宿って感じです」
 嬉しそうにフレデリク・リンドバーグが言う。事前にアルヴィンから知らされた情報は『格安の山荘』、『なんか面白そう』の二つだけだが、なんだかその時点で既に楽しい気配しかしない。
「……あら、あれじゃない? ほら、いかにもって感じ」
 汗を拭った沢城 葵が指さす先には、壁に蔦の這った木造の大きく古そうな山荘があった。入り口近くの立て看板には『右へ1km、湖アリマス』とやや崩れた文字が赤いペンキで書かれている。
「……大丈夫かね、ここ?」
 そんな心配がエアの口から出てしまうほど、いかにも何かありそうな場所だ。
 だが、安心して欲しい。
 アルヴィンが嘗て、平穏で何も起こらない、ただ観光するだけの旅行を企画したことがあっただろうか。



「ようこそ……いらっしゃいました……」
 山荘の管理人だと言う少年は、ひどく青白い顔をしていた。なぜ管理人が子供なのか、そしてなぜ顔色が悪いのか、そこをツッコませない程の何とも言えない雰囲気を纏った少年だった。
「オールドリッチ様御一行、ニ泊三日でございますね……先に注意申し上げますが、当館の備品、それと、壁に貼られている札等はどうぞ触れないように――」
「あ、これなんダロ? 変わったものがあるネ!」
 ベリッと壁に貼られた派手な柄の札を引剥したアルヴィンに、すかさずエアが無言でハリセンを叩き込んだ。
「あんたは話を聞くってことをしないのか! あぁ、しないだろうね!」
「ルールー、怒るの早くナイ? カルシウム不足カナ?」
「無駄に消費させてるのはあんただろうが!」
「まぁまぁ。剥がしちゃったものはしょうがないですよ」
「そうねぇ……今のところ、何かある気配もなさそうだし」
 フレデリクと葵に宥められたエアが渋々ハリセンを引っ込める。アルヴィンはというと、剥がした札を振ってみたり、元の場所に貼ったり剥がしたりしている。
「パムムム!」
 面白かったのか、アルヴィンの背中にくっついていたパムが札に飛びついた。ぶらんとぶら下がったり、よじ登ったりと大はしゃぎだ。
 なんだろう、結構罰当たりなことをしている気がする。肩を竦めた葵である。
「ねぇ、管理人さん? この御札って……あら?」
 気がつくと、管理人の姿がどこにもない。代わりに、床には部屋の鍵が置かれていた。
「管理人さん、怒っちゃったんですかね?」
 ぼんやり呟いたフレデリクが身を屈めて鍵を拾った瞬間、何か冷たいものが背中を伝う感触があった。ハッとして辺りを見回したが、仲間の姿しかそこにはない。
「リンリン?」
「あ…な、なんでもないです」
 首を振ったフレデリクは、エルフ特有の長い耳をふるりと揺らした。
 何かが起きる――それを示唆するかのように、薄暗い山荘の電球の一つがパチっと音を立てて光を失った。




 一日目、夜。
「――……で、その襖を開けると、……わっ!!」
「うわっ」
 突然大声を出した葵に驚いたエアが肩を震わせる。けらけらと笑う葵は、手を振って顔を扇ぎ、ベッドの脇にもたれた。
「突然大声を出すんじゃあないっ」
「えー。だって、このくらいしないとつまらないじゃない?」
「そうダヨ、ルールー。ア、もしかして、怖いのカナ?」
「やかましい!」
 まったくこいつはいつもいつも……と今にもハリセンで殴りかかりそうなエアを、隣に座ったジュードが優しく宥める。相変わらず肩がぴったりとくっついて座るあたりでお察しなのだが、それを敢えてツッコむ人間はこの場にはいない。
「葵さんはそんな怖い話、どこで仕入れたの?」
「んふふー。リアルブルーの故郷ではこういうのが夏場に流行るのよ」
「デ? ソレデ? その後はどうなるノ?」
「首がなくなった女の人は首を見つけられるんですかっ?」
 全く恐怖心を感じていないアルヴィンとフレデリクが耳を立てて葵に続きをせがむ。しょうがないわねー、と嘗てリアルブルーにいた頃の記憶を総動員し、葵は持ち前の話法で怪談を続ける。
「パ……パム……」
 唯一怖がっているであろうパムがキノコ状の傘をひっつかんでいる。その態勢でジュードの膝の上で丸くなった。『代理』と下げた札が小刻みに揺れている。
「あはは。パムは怖いみたい」
「冷静に聞いているが、アオイの話は考えると相当エグみがあると思うがね」
「あら、まだ怖い話はあるわよ。そうねぇ……あ、じゃあ、このまま100の怪談を話して何が起こるか試してみる?」
「ちょっと待て。100もネタがあるのか?」
「わぁ、途中で眠くなりそう」
 気にするポイントが違うのは、彼らが怪談系に恐ろしく高い耐性を持っていることを覗わせるが、そうなるとますます怖がるのはパムである。
「ムーム! パム…パムパ、ムムッ」
「どうしたの、パム?」
「眠いんですかねー?」
 眠いんじゃなくて怖いんだよ、と言わんばかりに手をぶんぶん振るパムをフレデリクが指で突く。違う違う、と必死にアピールするパムだが、そもそもの語彙力がないので伝わる気配はない。
 しょんぼりしていジュードにしがみつくパムを、彼は優しく撫でた。
「大丈夫。寝ちゃっても良いよ?」
「そいつ、本当に眠いのかねぇ……」
 唯一の理解者と思われるエアのツッコミも虚しく、パムはこの後、おぞましい怪談話を延々と聞かされる羽目になたのであった。


 深夜。
 流石に一日目から話し込むのは後に響くということで一行は既に寝静まっているが、アルヴィンはトイレに行くために廊下を歩いていた。
 古い山荘だけあって、部屋数は多いが、風呂とトイレは共用である。幸い、他に宿泊客もいないし、綺麗に掃除もされているので特に不便さは感じないのだが。
「んー……」
 思わず剥がしたくなるほど、この山荘の壁には札が多く貼られている。どれも赤文字で何かを書き殴ったようなものである。見る人が見れば怖すぎる代物なのだが、生憎このエルフに興味以外の感情はない。
「……」
 剥がそうカナ、と思っていると、アルヴィンの首元に冷たい空気が走った。熟練のハンターである彼でも気づかないほどの気配だ。
「おお……!」
 怖い――のではなく、面白い、楽しい。俄然元気になってきたアルヴィンだったが、流石に次の光景には目を見張った。
 廊下の先に、白い『何か』が立っていたのだ。顔も、服装も、何も分からないが、本能的にそれは『人型の何か』だと分かる。
「――っ」
 ふるふると震えたアルヴィンは踵を返し、寝静まっている友人たちのいる部屋に飛び込んで叫んだ。
「わーい、何か出たヨ――! 家探ししようヨ――!!」
 一瞬で起きたエアのハリセンが飛んできたのは、言う間でもない。



 二日目。昼。
 アルヴィンの不思議体験の話を聞いた一行は、山荘の中を色々と見て回ることにした。
 いざ出発、と意気込むアルヴィンの背中に、ジュードが声をかける。
「あ。でも、アルヴィンさん。他のお客さんに迷惑かけないようにね」
「お客サン? 大丈夫ダヨ、ハーティ。ちょっとダケ、ちょっとダケ」
「その『ちょっと』でこれまでどれだけ苦労したか…」
「怖かったら部屋にいて良いヨ、ルールー! 大丈夫、お化け怖いナンテ、僕気にしないカラ!」
「あ゛?」
 煽り耐性に難のあるエアは、まんまとアルヴィンの言葉に乗せられる。もとより、お化けの類は全く怖くない彼だが、ジュードとの(色々ある大人の)空気を邪魔されるのはちょっと嫌なのだ。
 むすっとしているエアの背中を撫でたのは、ジュード――ではない。彼は今、前を行くアルヴィンの横を歩いている。
「……」
 嫌な予感しかしないエアは、特大の溜息をついた。


「す、すごい!この御札の柄、ちょっとあのツチノコに似てませんかっ!」
 問答無用で札を引剥したフレデリクがアルヴィンに駆け寄る。「ツチノコみたい」という誰一人理解できないであろう言葉で表現された札だったが、アルヴィンも目を輝かせて裏返したり振ったりしている。
 もう、どうにでもなれ……とエアは項垂れる。
 というか、どうにもさっきから変だ。自分がこうやって疲れた様子を見せると、背中を何かが這う感触がある。その度に、こちらをチラッと見てくるジュードがひどく不満そうな表情をしているのだ。
 全く身に覚えがないエアとしては、現状を何とか打破したいところである。
「ケンカしたの?」
「ムーム?」
 葵とその肩に乗るパムが首を傾げる。そんなことは俺が聞きたいと眉根を寄せるエアは一歩大きく前に踏み出た。
「ジュード。何かあるのか?」
「別に。エアさんはモテるねって思ってるだけ」
「は? なんでいきなりそうなる……」
「だってエアさん、さっきから女の人とずっとくっついてるんだもん。どこで知り合ったか知らないけど、見せつけなくても良いと思うんだよね」
 ちょっと待て。
 一瞬思考が停止したエアである。ジュードの言葉が脳に伝わる手前でぐわんぐわん回っている気がした。
「……は?」
 ようやく絞り出した声に、返答はない。
「……アオイ。俺の隣に、誰かいるかね?」
「あらやだ怪談話? 良いわよ、聞いたげるわ」
「いや、そうではなく……」
「パ……パムッ」
 プルプル震えるパムが葵の背に隠れた。なんだこれは、パムにすら怖がられる何かなのか。
「ルールーとハーティはどうしたのカナ? ルールーが幽霊と浮気したのカナ?」
「嬉しそうに言うんじゃあない!」
「幽霊にもモテるってすごいですね、エアさん!」
 話を聞かないばかりか無自覚に煽ってくるスタイルのエルフ組には、もう何と言って良いか分からないエアである。ただ、彼らと一緒に歩くジュードがどんどんよそよそしくなっていくので胸が痛い。
 完全にエアに背を向けたジュードは、アルヴィン達と「ツチノコみたい」な札を剥がして遊んでいる。止めたいのだが、その背中が可愛いから止められない。
「あ、リッチー。フレデリク。ここにもあるよ」
「わーい、これで53枚目だヨ!」
「わぁ、見て下さい。このツチノコ感ー! それに今までで一番大きいですよ!」
 フレデリクが楽しそうに札を剥がした、その瞬間だった。
 ずっと女々しくジュードの表情を追っていたエアが、誰よりも早く彼の表情の変化に気づいた。
 直後、青ざめたジュードが大きく後退る。
 確実に何かが『いる』。
「ジュードッ!!」
 床を蹴ったエアがジュードを押し倒す勢いで突っ込んでくる。え、何?という顔でアルヴィンとフレデリクが振り返り、唖然とする葵とパムの前で二人はもつれるように壁に激突し――そこをぶち破って壁の奥へ突っ込んだ。
「パム―――!?」
 誰よりも常識的な反応を示したのはパムだった。他は二人の心配というより、二人の倒れ込んだ場所に驚いているようだ。
「なに、え……これ、隠し部屋じゃない?」
「すごいです、エアさん!」
「わぁ、広いネ。ルールーとハーティはお手柄ダネ!」
 わらわらと隠し部屋に入る三人はとうに分かっているので綺麗に流したが、エアとジュードは『そのモード』に突入していた。
「大丈夫か、ジュ――」
 言いかけたエアの頭上に大きな板が振ってくる。直撃したエアだったが、全く意に介していない。組み敷いたままの体勢でジュードの頬をそっと撫でる。
 一方のジュードは、エアの背後から近寄った『女性』が「浮気者!」と口を動かしながら彼に板を投げるのが見えていた。それでもエアが彼女を無視するので、彼女は泣きながらどこかへ消えてしまったのだが。
 エアさんは罪作りだなぁと、この期に及んでもズレたことを考えているジュードである。
「エアさん……俺のこと、助けてくれたんだよね?」
「え? あ、あぁ……」
「それって……俺のことをずっと見てたってこと?」
「……っ」
 真っ直ぐジュードに見つめられてエアの頬が熱を帯びる。いや、確かにずっと見ていたが、改めて言われると何だか恥ずかしい。
 ましてそれが、心から好いた相手であるならばなおさら――。
「あ、のなぁ……ジュード。何か勘違いしてるかもしれないが、俺はその……浮気とか、しないから」
「……本当に?」
「嘘は言わん……言ったことがあるか?」
「……」
 首を振るジュードは、微かに目が潤んでいるような気がする。
 そのままエアの首に腕を回して、ジュードは微笑んだ。
「エアさん、好――」
 言いかけた瞬間――、

「見て見て、これすごいヨ――!!」

「うわぁっ!」
「バ――ッ、変なものを近づけるんじゃあない!!」
 アルヴィンと二人の声が重なった。二人の間の僅かな隙間に、エルフの青年が髪の長い奇妙な顔立ちの人形をねじ込んだのである。
 いい仕事をしたのか悪いことをしたのか微妙なラインだが、ともあれそれがきっかけで、エアとジュードの周りに立ち込めた幽霊の類すらも近寄りがたい熱々の空気は一瞬で冷めたのだった。
「リッチー。これ何?」
「奥にたくさんあったんだダヨ。変な顔してるヨネ?」
「変わったというか……これはもう怨念が籠ってるレベルの顔じゃあないか?」
 アルヴィンが見せてきた人形は、民族衣装だろうか、変わった服装をしていた。黒い髪は長く、手入れされた様子がなく乱れている。目は細長く虚ろで、どこを見ているのか分からないのが余計に怖い。
「それ、多分リアルブルーにある『日本人形』に近いわね」
 冷静な葵の声がする。
 隠し部屋の奥には、壁を埋め尽くすように人形が無造作に積み上げられ、レイの札が大量に貼られていた。そして、床には赤いもので描かれた何かの模様がある。
 明らかに『やばい』ことが行われていた跡だ。
「うぅ……流石に見てると怖くなります」
 フレデリクが耳を震わせる。視覚的に怖いのではなく、この部屋の様子は精神的に迫ってくるものがあるのだ。冷静に見ると特に怖いものがあるわけではないのに、心に不気味さが広がる。
「多分何かの呪術か儀式に使われたんだろうけど……」
「アオちゃん、こういうのってどうすれば良いのカナ?」
「リアルブルーだとお焚上げって言って燃やすんだけど……とりあえず燃やしとく?」
「ソッカ、解った!」
「待て待て!!」
 今にも実行しそうなアルヴィンを止めたのは、常識さを取り戻したエアである。「ナンデ?」という顔のアルヴィンをとりあえずハリセンで叩いておく。
「ひとまず……管理人に報告するのが筋じゃないかね? 成り行きとは言え壁を壊したのも謝罪すべきだろう」
「御札も戻したほうが良いですか?」
「いや、それだけ剥がしたなら戻しても意味がないと思うが……大体場所を覚えてるのか?」
「やだな、ルールー。そんな細かいこと気にしてないヨ☆」
「ああ、だろうね……!」
 どうしてこう、このエルフ二人組は後先なく突っ走るのか。言葉もなく溜息しか出ないエアである。
 アルヴィンとフレデリクが剥がした札は約100枚。それらは一旦この場に置いて、一行は一度部屋に戻って管理人に現状を報告することにした。



 結局、管理人を見つけることはできず、一行は夜を迎えた。
 寝静まった部屋の中で、何故かアルヴィンは目を開けていた。冗談ではなく、さっきから体が全く動かないのだ。
 だが、彼は驚くことも怖がることもせず、「筋肉痛かな?」と呑気に構えているあたり、金縛りをかける相手としては悪すぎる。
 動くことも寝ることもできずにいると、初日に見た白い『何か』が、部屋の中に立っているのが見えた。
 それは音もなく雑魚寝している友人たちを跨ぎ歩き、アルヴィンの足元まで近づいてくる。
 これは何だろう。何か起こるのカナ?
 そんなわくわく顔で見つめてくるアルヴィンに、白いものは、例のあの札を一枚取り出して、頭(と思われる部分)をゆっくりと下げた。
 まるで、「ありがとう」と言わんばかりに――。

「……」
 気がついたアルヴィンは、すっかり眠っていたようだった。夢だったのか、と思ったが布団の脇に札が置かれているのを見ると、どうやら現実だったようだ。
 だが、あの時と違うのは、札の横に周辺散策マップなるものが置かれているということだ。
「これは……」
 マップを見るアルヴィンの顔が、みるみる輝いていく。
 そして、律儀に葵がセットした目覚ましが鳴るのと同時に、アルヴィンは声を上げた。
「わーい、UMA探し隊ダヨ―――!!」
 マップには、泊まっている山荘と、近くの湖の絵が描かれていた。
 そして、湖を大きく囲むようにつけられた赤い丸の脇には、たどたどしい文字で『UMA』と描かれていたのだった。



 三日目。昼。
 アルヴィンの一言で結成された『UMA探し隊』なる一行は、宿から1km先にあるという湖のに来ていた。
 鬱蒼とした林を抜けると、小さな湖が眼前に広がっている。観光スポットらしく、ベンチが置かれていた。
「またツチノコとか出るんでしょうかっ」
「知ってる、リンリン? この前、本で読んだんダケド、湖にはネッシーっていうのがいるんダッテ!」
「ネッシー! なんだか最近流行りのゆるキャラにいそうな名前です!」
 そんな評価をされてネッシーも堪ったものではないが、はしゃぐエルフ二人組を筆頭に、一行は湖を覗き込んだり、近くの林を散策したりとやりたい放題である。
「あ、アルヴィンさん、そっちに変なやつがいきましたよ!」
「よーし、捕獲ダ―――――!」
 昨日の金縛りもどこへやら、全力疾走するアルヴィンは虫取り網を構えて走り回る。
 その姿に若干の既視感を覚えつつ、大いに警戒しているのがエアである。以前、あの虫取り網に捕らえられた人間としては、同じ轍を踏みたくはない。
「ルールー! そっち行ったヨ!」
「来るな!! あんな思いは二度とごめんだね……!」
 来るなと言っても来るのがアルヴィンである。こうなったら避けるしかない、と軽やかな動きでアルヴィンの虫取り網を躱したエアは目が据わっている。
「ルールーは虫取り網が好きなのカナ?」
「どっちかというと呪われてるんじゃあないかと思うがね!」
「あ、エアさん! 動いちゃダメですよ! 今そこにUMAが…!」
 言いながらフレデリクが突っ込んでくる。しかも、虫取り網を構えて。
「UMAゲットです――――!!」
 気合の声とともに虫取り網を振り下ろしたフレデリクである。言わずもがな、捕まったのはエアだけだが。
「わー。ルールー、また捕まったんダネ! 逆にすごいヨ!」
「エアさん……!」
「……」
 頭からすっぽり網を被るエアが見られるのは、この一行で遊んでいる時だけだろう。もうなんだか虫取り網が似合ってすらいる。
 しかもその現場を恋人のジュードに見られたのだから、居た堪れなさでいっぱいである。
「わ。エアさんが捕まってる」
「ハーティ。ルールーは虫取り網を被ると、安心するんダヨ☆」
「そこ! ジュードに余計なことを吹き込むな!」
「あら、良いじゃない。前衛的なファッションだと思えば」
「アオイ……あんた……」
 げんなりとしたエアである。もうどこから突っ込めば良いのか分からない。
 そんな様子をジュードの背中にぶら下がって見ていたパムだったが、ふと、足元を動く奇妙な生き物を見つけて地面に飛び降りた。
「ムム……ッ」
 しばらくそれと対峙していたが、相手が逃げ出したのでパムもあとを追いかけていく。
「パム?」
 背中にジュードの声がかかったが、パムは今それどころではない。
 小さな生き物には似合わない速さで、パムは茂みの中に消えていった。



 おいで、おいで。
 まるでそう言われているようだ。
 謎の生き物は、蛇のような、トカゲのような、奇妙な形をしていた。これがきっとムパ――フレデリクの捕まえようとしていた生き物に違いない。
 パムはできるだけ大股で走りながら、それの後を追いかけていた。どんどん茂みをくぐり、林を抜けて、湖の近くまで来る。
「パム、ムッ」
 追い詰めたぞ、と言わんばかりのパムだったが、誰かの爪先が見えて、ようやく自分の前に誰かが立っていることにようやく気がついた。
 誰だろう、と思って見上げると、山荘の管理人だと言った色白の少年と目が合った。
「パム、パムッ」
「……ここ。待っています」
 パムが声を上げると、少年は地面を指差して、そして、パムの目の前で湖に溶けるようにして消えて行った。
 びっくりしすぎて腰を抜かしたパムである。直後、我に返ったパムは、皆を呼ぶために踵を返したのだった。


 そこからは、ちょっとした騒ぎになった。
 パムを探していたアルヴィン達の元に駆け戻ったパムは、少年と別れた場所まで彼らを誘導した。
 言葉は話せないが必死に何かを訴えかけるパムに、彼らは最初、首を傾げていたが、やがて地面を掘れば良いのだということに気づいた。
 そして、地面を掘ると――白骨化した遺体が大量に出てきたのである。
 すぐに関係機関に知らせて、事情を話して――としているうちに、すっかり日も暮れていた。
「やだ。チェックアウトの時間過ぎてるんじゃない?」
 葵の言葉に慌てて山荘に戻った一行が見たものは、山荘ではなく、ボロボロの廃墟となっている建物と、その前に綺麗に並べられた彼らの荷物だった。あの隠し部屋にあった人形たちがごろごろと地面に転がり、彼らが雑魚寝していた場所は、廃材で埋もれていた。
「あ……」 
 思わずジュードが声を上げる。彼には、荷物の脇に立つ管理人の少年が見えていたのだ。少年は無言でジュード達に静かに頭を下げ、すっと消えて行った。
「見つけて欲しかったんだね、きっと」
 そう呟いたジュードに、葵は片眉を上げる。そして、恐る恐る口を開いた。
「ねぇ、エアハート。私、ずっと気になってたんだけど、何か見えてるの?」
 言われたジュードはきょとんとして葵を見返した。
「え? だって、皆も管理人さんや他のお客さんは見えてたんでしょう?」
「管理人さんは確かに見えてたけど……えっ。お客さん?」
「えっ」
「あ、じゃあ私が感じたひんやり感は?」
 フレデリクが慌てて言う。相変わらず目をぱちくりとさせているジュードは、「他のお客さんのいたずらだよ」とあっけらかんと言った。
「怒らなかったから不思議だなと思ってたんだけど」
「えっ。お客さんって私達だけですよね?」
「えっ。そうなの? 結構混んでたよ?」
 隣で聞いていたエアの顔がどんどん青くなり、遂に掌で顔を覆った。
「ジュード……」
「やだ、ちょっと……エアハートが一番ホラーなんだけどっ」
 やめてー!と耳をふさいだ葵である。こういう『勘の良い』人間が一番怖い。
 だが、ここでもやはり、アルヴィンはアルヴィンだった。がしっとジュードの手を握ると、今までで一番瞳をキラキラと輝かせたのだ。
「ハーティ! その話、もっと詳しく聞きたいナッ!」
「あ、私も聞きたいです!」
 すかさずフレデリクも手を上げる。一連の流れを聞いていたパムは既に丸くなり、迎えが一刻も早く迎えが来ないかと祈っていた。
 旅行が終わってもまだまだ興奮は冷めないようだ。
 どんな怪談話よりも生々しいジュードの体験談を聞きながら、一行は幽霊山荘を後にしたのだった。

END

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度は、ご指名頂き、ありがとうございました。

幽霊山荘はいかがだったでしょうか。
その昔、幽霊山荘では呪術の儀式が盛んに行われ、
多くの人々がその犠牲になった――という曰くつきの場所でした。
誰かに見つけて欲しくて、犠牲者達が山荘を営んでいたのかもしれないですね。

久しぶりのノベルでしたが、楽しく書かせて頂きました。
またご縁ありましたら、書かせて頂けますと幸いです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン=オールドリッチ /男/26歳/嗤ウ観察者】
【ka0410/ジュード・エアハート/男/18歳/炎環の蝶】
【ka1664/ユリアン(パム)/男/18歳/ハンター】
【ka1856/エアルドフリス/男/27歳/ハイディング・スモーク】
【ka2490/フレデリク・リンドバーグ/男/16歳/礼節のふんわりエルフ】
【ka3114/沢城 葵/男/28歳/腐竜の疵痕】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
VIG・パーティノベル -
冬野泉水 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年12月12日

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