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『聖夜のプレゼント 』
楪 アルトaa4349)&フィーaa4205


 シャンゴリラはクリスマスムード一色だった。アルトが入店するとインストのクリスマスソングに出迎えられる。店員たちはサンタ帽をかぶって盛んに購入を進めていた。
「よし……30分前、と」
 アルトは時計を確認して呟く。コートに厚手のズボンという普段着ながら、彼女が今日の日を楽しみにしていたのは明白だった。
「こりゃーお早いお着きで」
「ぅええっ!?」
 ひんやりとした手がアルトの首筋を撫でた。その指には金と銀のクロスリングが光っている。
「あんたさんのことですから、きっと早めに来ると思ってやがりましたがねぇ」
「べ、別に楽しみにしてたとか、そういう訳じゃないんだからな!」
 フィーは慣れた様子で恋人をなだめながら店内を進む。
「お、あのマネキンの服、アルトに似合いそうでやがりますな?」
 フィーが指さしたのは、淡い水色のミニドレス。
「バ、バカじゃねぇの! あ、あんなのあたしに似合う訳ねぇだろ!」
 アルトが顔を真っ赤にして反論すると、フィーはあっさりと引き下がって通り過ぎる。
「残念ですが、まーちょっとファーマル過ぎですな。じゃ、あっちの店にでも」
「フィーがどうしてもっていうなら、一緒に見てやってもいいけど?」
 にこやかに出迎えてくれた店員は、ふたりの様子を見て「ごゆっくりどうぞ」とだけ声をかける。
「このスカートなんていいんじゃねーですか?」
 オシャレより機能性を優先しがちなアルトのために、フィーは暖かそうな素材のものを勧める。
「そうか? うーん、これならもこもこしてあったかそうだし……試着してみようかな?」
 先ほどのドレスは、アルトの服選びのハードルを下げるための呼び水だったらしい。照れ屋の恋人は少し面倒くさくて、最高に可愛い。
「ど……どう?」
 数点目の試着。フィーがカーテンの音に振り返ると、赤いワンピースを着た恋人が現れた。アルトはスカートの裾を気にしながら、ちらちらとこちらを見る。
「個人的にはこれが一番ですかねー。最終決定はアルトに任せやがりますが」
「あ、あたしもこれがいいかなって。べ、別に、意見が一致して嬉しいとか思ってないんだからな!」
 レジへと向かいながら財布を出そうとするアルトをフィーは止める。
「ここは私が」
「こ、これくらい自分で払えるしっ!」
 フィーはそっとアルトの耳元に口を寄せる。
「たまには……恋人らしいこと、させてくれやがりませんか?」
「ばっ、ば、ば」
 赤面したアルトは「バカじゃねぇの」を盛大に言い損ないながら、フィーの腕をばしばしと叩く。
「んじゃー、交換条件ってことで。私のも一着、あんたさんがプレゼントしてくれねーですか?」
「……そ、そういうことなら、付き合ってやってもいいけど。ク、クリスマスだから……特別なんだからなっ!」
 口では文句を言いつつもアルトは率先してフィーの服を選んでいく。まずは暖かそうな薄茶色のファーコートを羽織らせる。大人っぽいデザインがフィーに良く似合っていた。
(カッコいい……なんて、言えるわけねぇけど!)
 アルトはくるりと背を向けて、コートに合いそうな服を探す。その耳は赤い。
「こ、これとこれとこれ! ほら、さっさと試着室いけよな!」
 モノトーンのシンプルなパンツスタイルを一式押し付け、アルトはフィーを急かす。
「し、心臓もたないかも……あ」
 深呼吸して心を落ち着けようとするアルトは、ふと長いマフラーを目にとめた。
(……よし、足りる。せっかく節約して確保した予算だし、使っちゃおう)


 少し背伸びして選んだレストランは、騒がしすぎず良い雰囲気だった。アルトもフィーも先ほど買った服に身を包んで入店する。それぞれの席にはキャンドルが置かれ、間接照明の役割を果たしていた。
「じゃー乾杯っつーことで」
 細身のグラスに注がれたシャンパンはノンアルコールだが、雰囲気を味わうには十分だろう。控えめなBGM。柔らかな光に照らされる恋人の顔。小さな非日常に胸が躍る。
「どうです?」
「美味しいよ」
 最初は緊張気味のアルトだったが、黄金色に澄んだコンソメスープの温かさにほっとしたようだ。
「こ、この肉……すごい柔らかい……!」
 牛フィレ肉のステーキを一口頬張ると、アルトの眼が輝く。
「美味しすぎる……持って帰りたい……!」
 感動に打ち震える彼女にフィーは言う。
「また来たらいいじゃねーですか」
 アルトは眼を瞬いて顔を上げた。
「誕生日でも次のクリスマスでも、いつでも構わねーでしょーよ。その分、任務でたんまり稼がねーといけませんがね?」
「……うん、また一緒に来ような。……べ、別に一人でもいいんだけど、ふたりで食べた方が食事は美味しいからな! 独り占めとか気分悪いし?」
「そーでやがりますね。アルトと食べる食事はいつもより美味しいですからな」
「な……!」
 照れ隠しの言葉の代わりに口をついたのは、切なる願い。
「あたしを置いてどこかへ行ったりするなよな」
 フィーは微笑んで言う。
「もちろん」
「約束だ。守らなかったら承知しないんだからな!」
 急に照れくさくなったアルトはふいと顔を反らした。
「お待たせいたしました。デザートでございます」
 小ぶりなブッシュドノエルを店員が慣れた手つきで切り分けるのを見ながら、アルトが呟く。
「可愛い」
 素朴な丸太のケーキはイチゴや作り物の柊で飾られ、華やかな印象となっていた。フィーは小さく胸が騒ぐのを感じる。
(『そう言うあんたさんが可愛い』……なんて、馬鹿男みたいなセリフしか思いつかねーとか、重症ですな)
 何でも「可愛い」と騒ぎ立てる頭の軽い女が言うと台無しだが、アルトが言えばその言葉さえ尊いものに思える。「自分を良く見せたい」とか「自分を可愛いと言ってほしい」などという打算を感じないからだろうか。
「フィー、どうした?」
 眩しすぎて、手を伸ばすのを躊躇ったこともあったけれど。
「いや、あまりの美味さにちぃと言葉を失ってやがりました」
「だよなだよな。こういうの、家で作ったらちょっとは安く上がるのかな。……うーん、誰か得意そうなやつに聞いてみるか」
 思案するアルトに、先ほどとは違ったざわめきを感じる。HOPEエージェントとして活動している以上、交友関係が広がるのは仕方ないが――。
「レシピ教えてもらったら、一緒に作ろう。べ、別に、フィー好みの味にしたいとかそんなこと思ってないんだからな!」
 フィーはふっと息を吐いた。
「え、笑われた? なんかおかしいこと言った?」
「……いやね、楽しみだと思ったんですよ」
 純粋に、偽りなく。きらきらした気持ちが胸の真ん中に鎮座していて、くすぐったい。


「さて、帰りやがりますか」
 シャンゴリラを出ると、暗闇の中、光の花が咲き誇っていた。来るときは「明るくて便利」くらいにしか思わなかったその風景が、今はまるで違って見えた。
「ちょっと見ていきやがりませんか?」
 駅前の広場で立ち止まる。大きなクリスマスツリーがあるのだ。周りではカップルが数組、何事か囁き合っている。ある者たちは腕を組み、ある者たちは指をしっかりと絡ませて。フィーとアルトは微妙な距離を保ったまま、ツリーを見上げる。
「あ、雪」
「どうりで寒いわけですな」
 呟いたフィーの右腕に、何かがぶつかった。寒くなったせいか、ぴっとりと寄り添ってきたのは他でもない大切な恋人。フィーはその腰にそっと腕を回す。
「知ってるか? クリスマスプレゼントって悪い子はもらえないんだってさ」
「へぇ? 私はもうもらっちまいましたが、良かったんでしょうかねー」
「もう、そうやって卑下するのやめろよな!」
 顔を上げたアルトが近すぎる距離にようやく気づく。
「ちょ、ちょっと、こんなところでなにやってるんだよ!」
「何って、先にくっついてきたのはアルトなんですがねー」
「そ、それは寒かったからで……もういい、行くぞ!」
 フィーは名残惜しく思いながら、アルトの背中を追いかける。けれどまだくっついていたかったのはアルトも同じなのだ。
(でも周りに人いっぱいいるし……見られるのは恥ずかしいし……)
 真っ赤になった顔を見られたくないアルトが先を、フィーがその後ろを、足早に歩く。広場を離れれば離れるほど、人通りは少なくなる。
「アルト」
 フィーはアルトの指輪をはめた方の手を取った。金と銀のクロスリングはフィーと揃いのものだ。
「な、なに?」
 アルトは街灯の頼りない光の下、フィーの顔を見上げる。降り続く粉雪がふたりの間を落ちていく。
「ちっと目を閉じててもらっても?」
 フィーは両手でアルトの頬を包み込んだ。夏に、似たようなセリフを吐いたことがある。アルトはこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にして、からかわれたと気づいた時にはすっかり怒ってしまって。機嫌を直してもらうのに苦労した。
「……しょうがないな」
 アルトは強気な微笑みを浮かべると、素直に瞼を下ろす。
「好きですよ、アルト」
 フィーの唇がアルトの唇を塞ぐ。
「……バカ! ……あたしにも言わせろよ」
 瞼を開いたフィーを、桃色の瞳が睨み上げ――。
「あたしも、フィーのこと大好きだからな!」
 そして、細められた。思わず強く抱きしめる。
「ま、待てって。渡したいものがあるんだってば!」
 フィーが腕の力を緩めると、アルトは鞄からマフラーを取り出した。ふたりで巻いても十分なロングサイズだ。フィーは駅前での会話を思い出す。
「……私を良い子だって言うあまっちょろいサンタは、あんたさんだけでやがりましょーね」
「悪かったな」
 笑い声と共に白い息が立ち昇る。やわらかな毛糸に埋もれて、もう一度どちらからともなくキスをした。
「そうだ、私からもプレゼントがありやがるんでした」
 アルトの手に冷たい感触が伝わる。それはフィーが住む家の鍵だった。
「帰りましょーか」
「……うん。フィーがそんな目するから仕方なく……なんだからな!」
「ん? そんな情けない目をしてやがりますか?」
 フィーが問うと、アルトは「そうだよ」と笑った。
(本当は違うんだ。なんていうのかな……あたしのことが好きだって伝わるような目)
 歩調を合わせて歩き出す。寒いはずなのに温かい、ふたりきりの帰り道を。
 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【楪 アルト(aa4349)/女性/18歳/36時間TV 実行委員会】
【フィー(aa4205)/女性/19歳/Dirty】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご指名ありがとうございました。高庭ぺん銀です。
夏の依頼の時には、フィーさんとアルトさんがこれからどんな関係になっていくんだろうとワクワクしながら執筆していました。恋人になったおふたりのクリスマスデートをお任せして頂けてとても光栄です。
もし違和感のある点などありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
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2016年12月13日

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