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『捕獲されし敗者 』
ファルス・ティレイラ3733
「有名な美術館だけあって、珍しいものがたくさんあるなぁ。あの絵画とか、凄い綺麗! ……わっ、あのツボはなに? 面白い形!」
 とある美術館にて、無邪気にはしゃぐ黒髪の少女が一人。ファルス・ティレイラは様々な美術品の数々に好奇心をそそられながらも、美術館の警備に勤しんでいた。
 どうやら近頃、この美術館へと忍び込み美術品を盗み荒らす魔族がいるらしい。困り果てた美術館運営の館長は、なんでも屋であるティレイラにその魔族の捕獲を依頼したのである。
「さっさと依頼を終わらせて、じっくり鑑賞させてもらおうっと」
 楽しげに笑ったティレイラは、隠れながらも魔族の到着を今か今かと待ち始めた。

 ◆

(きたわね……!)
 しばらくして、美術館に忍び込んできたのは一つの影だ。大人の女性の姿をした魔族、彼女こそが美術品を盗み荒らす犯人なのだろう。女は美しい美術品にうっとりと目を細め、まるで物色するかのようにそれに触れようとする。
 ゆっくりと、その後ろから魔族に近づこうとするティレイラ。しかし、魔族はその気配に気付いたのか、逃走しようと駆け出した。
「逃がすもんですかっ!」
 もちろん、みすみす逃すつもりなどティレイラにはない。紫色の翼を展開し、ティレイラは飛翔すればまっすぐに魔族の方へと突っ込んでいった。体当たりという少々強引な方法だが、魔族の女を捕える事に見事成功し、少女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「やった、捕獲捕獲〜! 簡単な依頼で助かったわね」
 今にも歌い始めそうな程ご機嫌な様子で、ティレイラは呟いた。後はこの魔族を美術館の館長に引き渡すだけだ。
 しかし、次の瞬間急にティレイラの周囲は黒い何かに包まれる。
「え……?」
 その黒いものの正体は、黒光りする大きな球体だった。
 魔族の女が隠し持っていた、封印の魔法玉だ。抵抗する間もなく、ティレイラの体はその魔法膜の中に捕らわれてしまう。
「や、やだ! ちょっと、何これ! 出して! ここから出してよ!」
 慌ててティレイラは自身の周囲にある壁を叩くが、膜を破く事は叶わない。それどころか、ふふ、と微笑んだ魔族が膜に魔力を込めると、球体は少しずつ小さくなっていった。まるで萎んでいく風船のように、魔族が魔力を込めれば込める程球体は徐々に縮んでいく。
「やだ! 嘘でしょ!?」
 慌てふためきながらもティレイラはもがく。どれだけ球体が小さくなっても、諦めずに少女はあがき続ける。そんな彼女の様子が面白いのか、魔族の女は笑声と共にますます魔力を込めていった。
 膜がついにティレイラの肌へと触れる。中にいるティレイラの形に寄り添うように、膜は彼女の体を覆い徐々に形を変えていく。球体に、翼や尻尾の形が浮き出てくる。
 その時、まるで這い寄る蛇のように魔族の腕がティレイラの体へと巻き付き、そのままぎゅっと抱きついた。その瞬間、ティレイラの体……正確には彼女の体を覆う膜に、今まで以上の魔力が込められる。
「い、いや――――っ!」
 全身が圧迫される恐怖に、ティレイラは叫んだ。しかし、その悲鳴も最後まで声になる事は叶わない。その瞬間、魔法膜は硬質化してしまったのだ。
 かくして、封印は仕上がった。後に残されたのは、少女の形を象った黒光りする金属質の像。ティレイラそっくりなその像を見て、魔族は笑みを深めた。
「なんて可愛いのかしら。今までの中で、一番の出来ね」
 魔族の女の目には、もう他の美術品の姿など入ってこない。それよりも愛らしく美しいものが、ここにあるのだから。
 魔族の指が、封印されしティレイラのその硬い肌を撫でる。その心地いい滑らかさに、ほうっと思わず女の口からは感嘆の息がこぼれた。
 宝物を抱きしめるかのように魔族は彼女の体を抱きしめ、その黒く光る肌へと頬ずりをする。
「気持ち良い……。どれだけ触っていても飽きそうにないわ」
 魔族は、お気に入りの人形を愛でるようにティレイラの体を慈しみ続けた。硬くなった髪を撫で、瞬き一つ出来ない顔に触れ、冷たく無機質な体を抱きしめる。
「ふふ、本当に可愛いわ。私の最高傑作……。あなた自身にこの傑作を見せられないのが残念なくらいよ、翼のはえたお嬢さん」
 悲痛な表情のまま固まったティレイラは、魔族の言葉に何も返さない。返す事が、出来ない。
 悲鳴一つあげる事すら叶わないティレイラに抵抗する術などなく、魔族が飽きるまで彼女は成すがままにされてしまうのであった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年12月14日

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