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『とある進路相談 』
蓮城 真緋呂jb6120

 冬――それは進路の為に重要なシーズンとも言えるのではないだろうか。
 久遠ヶ原学園と言えどもそれは同じ。授業の合間、あるいは放課後、空いた教室を使って、生徒が教師と相談を。大切な時間だ。来年のことを言うと鬼が笑うなどと言うが、なにせ未来についての話なのだから。

 そういうわけで……蓮城 真緋呂(jb6120)もまた、未来についての相談を教師とすることになったのである。

「おっさんのことはおっさんに相談するのが一番だと思ったので、先生教えて下さい!」

 ドアがららっ。開口一番にそんなことを力一杯言い放たれて、流石の棄棄(jz0064)も頬杖から顔がズルッと落ちた。
「OK……真緋呂ちゃん、まずは状況整理から始めようか。その前に着席どうぞ」
「あっはいどうも、今回はよろしくお願いします」
 改めて一礼をして、教師棄棄の向かい側の席に腰を下ろす真緋呂。「それで、相談内容とは?」棄棄に問われ、「それなんですけど」と真緋呂は眉尻を下げて溜息を吐いた。
 あの、いつでも元気な真緋呂がこんな憂いの表情を――さっきはあんな意味不明(?)なことを言われたけれど、事態は思ったより深刻なのだろうか。棄棄は居住いを正し、真剣な表情で真緋呂に言葉を促した。
「実は……」
 逡巡の後、真緋呂は口を開く。
「先日のことなんですけど、とある天使に、私……口説かれた? らしくって」
「口説かれた……らしい? そりゃどういうこったい」
「それが、そのとき私、気絶していて……なんでも、将来的に口説く予定というか、なんだかそういう、伝言を貰ったというか」
 膝の上で手持ち無沙汰な指を絡める真緋呂。俯いたかんばせの、長い睫がふるりと揺れる。
「でも私……正直、色恋とかそういうのなんかサッパリ分からないし、口説かれたこともないし……口説きに来るなんて言われても、困るなって、思って……」
 真緋呂は至って真剣な様子であるが、実はその愛らしい表情とナイスバディから結構色んな人から口説かれたりナンパされたりの経験はあったりするのだ。本人がチットモサッパリ気付いていないだけで。
 しかしまぁそれを聴いている棄棄はそんなことを露とも知らず「色恋が分からない、ナンパや口説かれた経験もない」という真緋呂の言葉を信じており、「色恋かぁ青春だねぇ」という気持ち半分、「なるほどそりゃ一大事な話じゃねーか」という気持ち半分、相槌を打っていた。
「そういうわけでして」
 真緋呂が一つ頷いて言う。
「その天使がおっさんなので、同じおっさんの棄棄先生に相談に乗って欲しいなと思った次第です」
「なる……ほどな……?」
 合点できたような、できなかったような……。「どうなんですかね棄棄先生」と真顔の真剣な様子で答えを待つ真緋呂を前に、棄棄は腕組みをしてウーンと考え込む。
「おっさんの俺意見としては、こんな年下の女の子を口説くとかちょっとアレじゃんって感じがすごいあるんだが」
 また来る、みたいなことを言っている以上、冗談ではなさそうで……。いや、おっさんおっさん言ってるけども外見年齢の話であって、天使の年齢を考えたら三ケタあるかもしれないわけで、年齢差がウンヌンという話でもなさそうで……。
「つーか、また口説きに来るって言ってたよな、いつの話なんだ?」
「二五歳になったらって。てことはあと六年ちょい……結構すぐじゃない?」
「六年か〜〜……」
 ウーン。思考再び。天井を仰ぐ棄棄。「で、どうなんですかね棄棄先生」と真緋呂が答えを待っている。
「んんん〜〜〜…… 分からん! 天使の考えることは俺にはよう分からん!」
「先生……」
 顔をしかめてそう言った棄棄に、真緋呂は静かに鞄をゴソゴソ。それからおもむろにスッと差し出したのは――酢昆布だ。
「……。いや、真緋呂ちゃんそれどういう感情表現?」
「賄賂です」
「ああ〜〜そこ言い切っちゃうか〜〜」
「先生を懐柔しようと思って」
「そういうこと思ってても言っちゃ駄目〜〜」
「そうしてまでも気になってる悩みなんですよ! あの人が会いに来られた時にお茶菓子とか出した方がいいのか、とか」
「え、そこ? 会いに来るのは別にいいんだ?」
「はい、そのへんは別に」
「マジかよ……。あ、お茶菓子? あったらいいんじゃないかな……備えあれば憂いなしって言うし」
「! 待って、先生待って……そもそもおっさん甘いもの好きかしら?」
「ん、んーーー、じゃあしょっぱいのと甘いの両方用意しとく?」
「なるほど! 流石先生! ハッ、待って……お茶、紅茶と緑茶どっちがいいのかしら。それともコーヒー? コーヒーの場合はブラックかしらミルク入りかしらそれとも……あと豆の種類とか」
「もう全部用意しとけYO!!! 備えあれば憂いなしだYO!!!」
「あんまり食べ物がたくさんあると食いしん坊って思われちゃうかも……」
「食いしん坊だよね君、それ事実だからね」
「?」
 ニッコリ笑ったまま首を傾げる真緋呂。棄棄はふと思う。なんの相談してたんだっけ俺達。
「あ、先生、まだ相談が」
「おう、次はなんだ……」
 真剣な様子に戻った真緋呂に、「どんな質問が来てももう驚かないゾ」と身構える棄棄。
「口説かれたらどういう技で反撃するばいいのでしょうか」
「……わ 技、デスカ……」
 これには棄棄も思わず敬語。
「技ってどういう……え、コメットとかコレダーとかそういうことの話してる?」
「はい」
「マジかよ」
「やはりコメットでしょうか」
「いやコメット確かに強いけどさ、ちょっと待とうよ真緋呂ちゃん、いきなり隕石はまずいですよ」
「確かにカオスレート差が」
「そういう問題ではないの! カオスレートじゃないの! 俺達の会話のカオスレートがぐちゃぐちゃだよ!」
「コメットが駄目ならどうしたらいいんですか、先生?」
「えーと……まずは、そうだな、口説き文句が失礼な内容だったりセクハラだったらコメットでもOK。そうでない内容なら、『ありがとうございます』の一言だけでいい。『そんなことないです〜』とか謙遜すると逆に失礼にあたるかもしんねーから、とりま感謝しとけ感謝、魔法の言葉だから」
「なるほど……」
 頷く真緋呂。「難しく考える必要なんざねーさ」と、一間の後に棄棄は苦笑を浮かべた。
「向こうが本当に真剣なら、真緋呂ちゃんもその気持ちを審査すりゃいいんじゃないの? 向こうの真剣を向けられて、お前さんの心が動かされるかどうか……だな。動かされないなら『ごめんなさい』って断ればいい、動かされたならその気持ちを受け止めればいい。あっでも、そもそも真剣じゃないならそんな不誠実クソ野郎はボコボコのギタギタにしてやれ、ボコギタ」
「ボコギタ、なるほど。分かりました!」
 真緋呂は元気良く頷いた。その快活さから、もう他に相談事はないようで。実は真緋呂は、明確な答えや解決方法は求めてはいなかった――文字通り、相談できればそれでよかったのだ。そしてその結果、彼女は胸の中が少しだけスッキリしたような、そんな気がする。

「先生、今回はどうもありがとうございました」
「おうよ真緋呂ちゃん、いつでも相談に来いよな」



『了』


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蓮城 真緋呂(jb6120)/女/17歳/アストラルヴァンガード
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エリュシオン
2016年12月14日

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