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『溶けすぎ注意の大晦日 』
大門寺 杏奈aa4314)&レミ=ウィンズaa4314hero002)&Noahaa4701

●白いアンノウン談義
 ここは小隊【暁】の寮。血気盛んな戦士たちが集う場所だけに、大みそかの今日もあっちでバタバタ、こっちでドタドタと小さな騒ぎが頻発しているらしい。いそいそと大掃除に励む者も多いのだろう。
「平和、だね」
 大門寺 杏奈(aa4314)はしみじみと言った。その声は粉雪のようにふわりと舞い降り、温められた部屋に溶けていった。戦場で、堅牢な『守』の力を行使するときの彼女とは印象が異なるかもしれない。
「平和ですわねぇ」
「うん……」
 遅れて返る言葉たちもイマイチ覇気がない。それもそのはず、彼らはコタツの魔力にすっかり蕩けていたのである。「緊張感? 凛々しさ? 他を当たってください」と言わんばかりに、内容のない会話に終始している。――とはいえ、戦いの世界に身を置く者にとって、こんな時間が代えがたいものであることは今更説明するまでもないだろう。
「お正月の準備、何もしてないね」
「何をすればいいんですの?」
 実際に動くためというよりは好奇心を満たすためにレミ=ウィンズ(aa4314hero002)は尋ねる。
「とりあえず、お餅かな? お雑煮っていうものがあって……」
 杏奈は説明しようとするが、お雑煮の形は地域によって千差万別。味にしても餅の形や調理方法にしても、上手い説明が思いつかない。
「……おしるこか善哉でも良いな」
 ふわふわした思考は大好きな甘味に行きつく。首を傾げる二人に、小豆で作ったスープに餅を浮かべたものだと簡易な説明をする。
「杏奈、お餅って何?」
 Noah(aa4701)が尋ねる。
「あ、お餅っていうのはお米を潰して作る白くて柔らかい食べ物だよ。しょっぱい味付けもあるけど、私は甘いのが好き」
「ボク、食べてみたいな。でも買いに行くのは……」
 『BS炬燵』はなかなか解除されない。クリアレイをかけたところで無駄な気もするが。
「白くて柔らかい、か……何だか杏奈みたい」
 ノアが杏奈の頬を指先で撫でる。
「の、ノア、くすぐったいよ……それに、恥ずかしいし……」
 そもそも餅の柔らかさがうまく伝わっていない。
「確かに、杏奈はお肌が綺麗ですわよね」
「レミだって綺麗だと思うけど……」
 レミは杏奈の手を取って、手の甲に頬ずりする。一瞬だけ唇が触れた気がして、杏奈はドキリとする。その間にもノアの両手が杏奈の両頬を包み込む。ノアの体温が心地良くて、つい目を閉じてしまう。
「杏奈、ほっぺが赤くて可愛い」
「ええ。でもアンナ、いけませんわよ」
 杏奈が緩慢に瞼を持ち上げると、きりりと眉尻を上げたレミが腰に手を当てている。
「相手がノアさんだから良かったですけれど、誰にでもそんな無防備な姿を見せたらいけません! アンナはご自分の可愛らしさをもっともっと自覚するべきです!」
 口では勝てないと思ったか、杏奈は救いを求めるようにノアを見る。しかし。
「ボクもレミに賛成」
 レミはうんうんと頷く。
「善良に見えても心は狼、なんて方もいますからね。いいえ、アンナの可愛さを目の当たりにすれば羊だって狼に変身します!」
「ボクら以外には、決して隙を見せないって約束して」
 いろいろと納得できない点はあるが、ふたりの心配は愛ゆえのものなのだ。それがわかっている杏奈は折れることにした。
「……わかった。気を付けるね」
 ――餅に関しては言葉で説明するよりも食べた方が早いだろう。甘くて柔らかく、良く伸びる不思議な食べ物にふたりはどんな反応を示すだろうか。実は少しだけ予想がつく。レミは眼を輝かせて感嘆の言葉をあげるだろうし、ノアはまじまじと観察してから慎重に一口、という気がする。その後はふたりともこちらをじっと見つめて「おいしい」と伝えてくれるはずだ。
「楽しみだね。あ、でも……」
 ふたりとも独特の食感には慣れていないから、喉を詰まらせないように目を光らせておかなくては。

●戦士たちの甘い午後
「甘いもの、食べたいな」
 時刻はまもなく3時。スイーツ好きの杏奈は呟く。みかんをタワーのように積み上げていたノアは、最上段の材料を無造作に差し出した。
「ありがとう、ノア」
 みかんはどうやら大当りだったようで、酸味をはるかにしのぐ甘味と爽やかな香りが口に広がった。杏奈は幸福感に目を細める。
「何度見ても、甘いものを食べるアンナは可愛らしいですわね! もう一口いかがです?」
 レミはうっとりと言って、自分の剥いたみかんを杏奈の口に運ぶ。
「あーん」
「うふふ、今日はずいぶん素直ですのね?」
「今日くらいはいいかも、って」
 杏奈は少し頬を染めて、頷く。
「ほら、レミもあーんして」
「まあ、アンナからもしてもらえるなんて! あーん」
 すっかりご機嫌なレミに杏奈が尋ねる。
「どう?」
「おいしいに決まってますわ!」
「それならよかった」
 杏奈のセーターの袖が引っ張られる。振り向くと橙色の双眸がこちらを凝視していた。
「ノアも?」
「うん」
 みかんタワーによる天への侵攻は、また一足遅れるらしい。繊細な手つきで塔を組み上げているくせに、容赦なく崩してしまうノアが何だかおかしい。
「このみかん、誰からもらったんだっけ? 寮に住んでるとお土産とかおすそ分けとかすごいよね」
 ノアの言葉に杏奈はとっておきがあったことを思い出す。
「ノア、冷蔵庫を開けてみて?」
「いいけど……?」
 ノアは立ち上がると杏奈の言う通りにする。冷蔵庫の灯りに照らされたノアの表情がぱっと華やいだ。
「もしかして、チョコ?」
「有名なお店の生チョコなんだよ」
 杏奈はノアの嬉しそうな表情を見て、自分も笑顔を浮かべる。
「ボクも食べていいの?」
「もちろん。任務の帰りにたまたまお店を見つけたんだけど、ノアと一緒に食べたいなと思って買ってきたんだよ」
「ありがとう、杏奈」
 ノアが戻って来る。
「はい、あーん」
「そ、それは絶対なの?」
 ノアは神妙に頷き、レミが「だって杏奈が可愛いんですもの」と答えにならない答えを返した。
「そういえば、恋人同士はこうするってきいたような?」
 ノアは生チョコを一粒取ると、唇の間に挟んだ。レミは「あらあら」と笑っているが、杏奈は一気に顔を赤くした。
「んー」
「は、恥ずかしい……」
「んんんー」
 ノアは、ぱしぱしと机を叩く。
「えっと……あ、溶けちゃうってこと?」
 ノアは頷く。
(……ノアの唇がべたべたになったらかわいそうだし、落としちゃったら大変だし……)
 冷静さを欠く頭が結論をはじき出す。杏奈は思い切って、チョコを受け取ることにする。鼻がぶつからないように顔を傾けて、唇が触れないように――。
「おいしい?」
「……うん」
 ミルクたっぷりの生チョコは無意識に頬が緩むほど美味しい。
「ノアさん、ずるいですわ! わたくしも恋人同士の遊戯を楽しんでみたいです」
「レミまで……」
「わたくしにもおひとついただけますか、アンナ?」
 レミは唇を指さして、恋人からのチョコをねだる。
「もう……一回だけだよ?」
 杏奈は唇にチョコを挟んで、目を伏せる。何だか色っぽい表情だ。
「で、では失礼いたします」
 さすがのレミも頬を染めて、ゆっくりと顔を近づける。限りなくキスに近い距離まで近づき、そして離れる。
「ノア……こんな話、誰に聞いたの?」
「お店のお客さんだよ」
 ノアはきょとんとして、またチョコに手を伸ばす。
「……からかわれただけだと思うな」
「そうなの? ボクは楽しかったけど」
 杏奈が言葉を失くしていると、レミが言う。
「アンナ、少しそのままで」
 杏奈がレミの方を向いて停止すると。
「んっ……!?」
 レミの親指が唇をなぞる。
「ココアパウダーがついてましたの。もう綺麗になりましたわ」
 抗議するように潤んだ瞳で見つめる杏奈。レミは優雅な微笑みを返す。
「……おいしかった?」
「ええ、とっても。こんなに甘いチョコレートは生まれて初めてですわ……!」
 それは世界中でここにしかない、甘い甘いチョコレート。

●まだ見ぬ日々へと誓いを捧ぐ
「ノアさん、お砂糖はお入れしますか?」
「今は……なしで大丈夫かな」
 レミが紅茶を運んで来る。ノアにはチョコレートに合うように濃い目のストレートを、杏奈には砂糖たっぷりのミルクティーを差し出す。
「ありがとう。レミの紅茶、いつも美味しいよね」
「お口に合って良かったですわ。とはいっても、アンナの好みはとっくに把握済みですけれど」
 ノアは、今度はトランプをタワーを作っていた。「器用ですわね」とレミは関心する。自分用には好物のレモンティーを淹れたらしい。カップから立ち昇る香りをしばし楽しんでから、レミが話題を提供する。
「今年ももう終わりなんて。早かったですわね」
「レミと出会ってから1年もたってないなんて、何だか不思議だよね」
 杏奈は戦友兼親友、そして恋人の顔を見て微笑んだ。明るくて、素直で、パワフルで、可愛らしいレミ。彼女はいつの間にか杏奈にとって、特別な存在に代わっていた。
「ふふ、運命の出会いってあるものですわね?」
 直接言葉にはしないけれど、レミには伝わったようで、杏奈は左側からぎゅっと抱き締められた。
「あ」
 集中を止めてこちらの様子を見るノア。その拍子にトランプの塔が崩壊する。
「ま、いいか」
 ノアが右側から杏奈に抱き着く。杏奈の隣に移動したレミと違い、ノアは今いる位置から上半身だけ伸ばした形。
「……支えきれない」
 ノアが杏奈を巻き込み、杏奈がレミを巻き込んで。
「え? きゃっ」
 3人はカーペットに倒れこむ。
「……ノア、わざとでしょ?」
 杏奈は咎めるが、その表情は優しい。しょうがないな、と顔に書いてある。レミは倒れてしまったのがツボに入ったようでクスクス笑っている。
「……ちょっと眠くなってきちゃって……」
 ふぁ、と小さくあくびを一つ。ノアの髪を梳いた杏奈も眼がとろんとしている。
「そういえば……眠いかも」
 起き上がりたいと反論する者はいない。レミとノアの足はコタツ布団の中に隠され、定位置となりつつある。温かさの中に漂っていると、ふと素直な思いを伝えたくなった。
「好きだよ、レミ。ノアも、私とずっと一緒にいてほしい」
「アンナ!」
 珍しい愛の言葉にレミは感激したらしい。
「わたくしも愛していますわ、アンナ」
「うん」
「何度でも言わせてくださいね。気持ちが溢れてどうしようもないのです」
 杏奈はこくりと頷いた。
「ボクも大好きだよ、杏奈」
 レミとノアが、杏奈の雪のように白い頬に口づけを落とす。杏奈はくすぐったそうに、幸せそうに、それを受け取る。
 やがて睡魔が3人を攫おうと忍び寄る。起きたときには少しだけ戦いの日々に近付いてしまう残酷ないたずら。それでも――。
 例えば、互いの幸運を願って食べる年越しそば。うかれた人波に飛び込む初詣。楽しいことだって待っている。あるいは何でもない日。握った手や交わす言葉。同じ戦場に立つことでさえも、彼らの心を強く強く結びつけるだろう。
「来年も頑張りましょうね、アンナ」
「ボクたちが杏奈を守るから」
 雪のように清廉で、砦のように強固な誓いを立て、共に年を越そう。その前に――おやすみなさい。
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【大門寺 杏奈(aa4314)/女性/16歳/輝きの砦】
【レミ=ウィンズ(aa4314hero002)/女性/16歳/朝焼けヒーローズ】
【Noah(aa4701)/?/13歳/エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます。高庭ぺん銀です。
まったりゆるゆるな大晦日、少し早いですがお届けいたします。杏奈さん、レミさん、ノアさんが幸せな新年を迎えられますように。そして来年もラブラブっぷりを見せつけてください(笑)

今回はいつも以上にアドリブ満載となっております。もし違和感のある点などありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
八福パーティノベル -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
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2016年12月14日

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