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『シキの日常 』
シキaa0890hero001


「こら、おきよ。わたしのあさげのよういをするのだ」
 シキ(aa0890hero001)の朝は相棒の能力者を叩き起こす事から始まる。雪と見紛う程の白い肌、絹糸のように細い銀の髪。少女とも少年とも取れる、中性的な容貌に嵌め込まれた血を思わせる暗く赤い色の瞳は、儚さと魔性を併せ持つ異形の世の者を彷彿させる。
 しかしてその実態は。相棒の横にちょこんと座り、ぺちぺちと頬を叩きながら「おきよおきよ」と朝食を催促する見た目より幼稚なほどのチビッコ。シキの猛攻に負け相棒が目を覚まし「はやくよういするのだ」とシキがせっつき、そして相棒の朝も始まる。


「きょうも、なかなかのびみであったぞ。さあ、きょうはこのひもを、わたしのかみにくくるのだ」
 朝食を食べ終わった後シキは相棒に背中を向け、気に入りの紐で自慢の髪を結わせる事に決めている。この世界に辿り着く以前、元の世界でどんな暮らしをしていたのか具体的な記憶はシキにはなく、この世界に辿り着いたその日も既に遠い思い出である。
 しかし記憶があろうとなかろうとオシャレ心に変わりはない。シキ曰く「いろけをわすれては、おしまい」なのだ。そういった事に無頓着で朴念仁、今日も少し癖のある黒髪をそのままにしている相棒に、毎日髪を結わせる事はシキの大事な日課である。


「それではがっこうまでおくってやろう。こうえいにおもえよ」
 出掛けの支度を整えた後相棒を学校まで送り届ける、これもまた欠かす事の出来ない大事な日課の一つである。本来であれば街に赴き、幻想の花や虫にも劣らぬ魅惑の数々に心を遊ばせたい所だが、なんせシキにとって相棒は、小さなシキよりさらに小さな頃より見守ってきた大事で可愛い唯一なのだ。学校に行くまでの間に悪い虫でもついたら、困る。遊びに行きたいのをぐっと堪え、学校まで届けてやるのはシキにとっての当然だ。
 しかし共に並んで行くのは相棒には不都合であるらしく、相棒が家の鍵につけているキーホルダー、に見せ掛けた幻想蝶の中へと身を移す。青みがかった灰色の宝石に入り学校へ運ばれ行くシキは、「一人で留守番させられないので」学校に連れて行かれる事実を知らない。


「さて、きょうはなにをして、きょうのこのひをすごそうかな」
 シキの午前は幻想蝶のお座敷にて優雅に過ぎ去る。和風の座敷には和風の道具が数々整えられており、筆と半紙を持って書道をしたり、笛や太鼓や琴を弾いたり、お香を焚いて遊んだり、気ままに過ごす事もまたシキの大事な日常である。
「ふむ。きのうのテレビでゆきがふったといっていたな。ゆきへのあこがれとたのしみを、ふえでひょうしてみようかな」
 シキは呟き笛を取り、縁側に腰掛け唄口に唇をそっと押し当てた。小風に庭の木の葉が揺れ、その音に重なるように笛の声が響き行く。


「シキちゃん、今日は何をしていたの?」
 シキの昼食は幻想蝶の外で賑やかさと共に在る。幻想蝶の外に出て相棒と同席するのはもちろんの事、相棒の学友達と言葉を交わす事もある。まるで幼子に説いて聞かせてやるがごとき尊大さと鷹揚さで、七つ程の外見のシキが高校生へと午前を語る。
「きょうは、ふえをかなでていたぞ。ゆきのうつくしさ、はかなさ、たのしさを、ふえのねでかなでてひょうしてみたのだ。それと」
 そこでシキは声を潜め、自分の隣に座る少女の耳へそっと口を近付けた。相棒が食事に夢中なのを確認した後とっておきを教えてやる。
「さいきんは、みずいろのマフラーをあんでいるのだ。みなみのすきとおったうみのいろをいとにしたようなけいとがあって、こっそりかってそれをつかってマフラーをつくっているのだ。いちどもこないサンタさんなどはほうっておいて、わたしがプレゼントをとどけてやろうとおもってな」
 ないしょだぞ、と唇に指を添え、シキは少女に念を押した。食事に勤しむ相棒はシキの内緒に気付かない。


「くきわかめは、あるかね? ゆうげは、しらこぽんずがたべたいよ」
 相棒と共に歩くシキの夕方は少々忙しない。下校の途中に仕事を請けにHOPEへと立ち寄ったり、スーパーに寄って必要品を買い求めたりしながら帰る。小食だが食いしん坊なシキは果物や和菓子、海藻類などお供えのようなものを特に好み、風味付け以上に辛いものだけは苦手としている。ワガママ放題、甘え放題に和菓子を相棒にねだるシキを、スーパーの客が温かい目で見守る事を当人は知らない。


「おてつだいをしてやろう。ありがたくおもうがよいぞ」
 家に辿り着いてからもシキの日課はまだ続く。家事をする相棒を手伝っ(ては余計な仕事を増やし)たり、気に入りのソファーに座ってテレビを見て過ごしたり。入浴は幻想蝶の中に入り、檜風呂に張られた湯を堪能する事に決めている。広々とした檜の浴槽には清々しい香りが立ち込めて、その頭上には降らんばかりの星空が輝いている。その光景を相棒と共に出来ない事を少し寂しく思いながらも、シキは白魚のような手足を伸び伸びと湯に遊ばせる。


「おやすみ。よいゆめをみろよ」
 夜更かしなどは決してせず夜は早めに就寝する。幻想蝶には戻らずに相棒のベッドに潜り込み、深夜に密かに目を覚ましては相棒の寝顔を観察する。
 今ではすっかり自分よりも育ってしまい、保護者と庇護者の関係も逆転してしまった相棒だが、シキが彼と出会った頃はシキが相棒の保護者であり、シキは今でもそのつもりだ。幼少期に天涯孤独の身の上となり、シキと契約を交わした後は能力者の子供が集まる施設へと入れられた相棒。そんな彼に生き抜くための力を与え、ずっと寄り添い、今の今まで見守り続けてきたのはシキだ。シキの背を越し、シキの世話をし、シキを「うちのチビ」などと呼ぶようになろうとも、シキにとっての相棒はずっとかわいい幼子であり、シキの心はいつまでもかわいい相棒の保護者なのだ。
「いつまでもおまえをたすけてやるぞ。むかしにそうかわしたように。よいゆめのなかでおやすみ。わたしのかわいいリンカーよ」
 布団をそっと直してやり、シキは再び瞼を閉じる。明日はマフラーをもっとたくさん編んでおこう。クリスマスにはこの子の首にマフラーを巻いてあげれるように。

 そしてまた、新しい一日が始まる。  

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【シキ(aa0890hero001)/?/7/英雄】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。お待たせいたしまして大変申し訳ありません。
 シキさんを中心に据える形でシキさんの日常を描写させて頂きました。個人的には幼いながらも保護者として相棒を見守るシキさん、を特に意識してみたのですが、お気に召して頂ければ幸いです。
 口調・設定等、齟齬がありました場合は申し訳ありませんがリテイクの連絡をお願いします。
 この度はご指名下さり誠にありがとうございました。
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2016年12月16日

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